怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第4話「沈黙の罪」

 警報は、止まなかった。

 耳障りな電子音が、研究所の空気を震わせ続ける。

 だが、それ以上に重く、息苦しいものがあった。

 ――沈黙。

 誰も動かない。

 動けない。

 マサムネ1号は、目の前にあるというのに。

 それを動かせる人間も、ここにいるというのに。

 すべてが揃っている。

 ただ一つ、“許可”を除いて。

 

「出せ」

 

 聖人は言った。

 低い声だった。

 怒鳴るでもなく、懇願するでもない。

 ただ、押し殺した感情が滲む声。

 

「今すぐ、出せ」

 

 誰に向けた言葉かは明確だった。

 指揮権を持つ者たち。

 上層部。

 その場にいる誰もが視線を逸らす。

 

「……命令が出ていない」

 

 ようやく返ってきたのは、それだけだった。

 

「出てないなら、出せよ!!」

 

 机を蹴る。

 鈍い音が響く。

 

「人が死んでるんだぞ!!」

 

 モニターには、リアルタイムの映像が映し出されていた。

 街が壊れていく。

 建物が崩れる。

 逃げ遅れた人々が、瓦礫の中に消えていく。

 そのすべてが、“今この瞬間”の出来事だった。

 

「出撃許可を……!」

 

 オペレーターの一人が、震える声で言う。

 

「ダメだ」

 

 即座に否定される。

 

「現在、政府は“非攻撃方針”を採っている」

「ですが、このままでは……!」

「繰り返す。ダメだ」

 

 その声には、感情がなかった。

 ただの“決定事項”を伝える機械のようだった。

 

 聖人は、モニターを見つめた。

 逃げる人間。

 泣き叫ぶ子供。

 崩れ落ちる建物。

 そして、その中心で暴れる怪獣。

 

「……助けられるのに」

 

 ぽつりと、呟く。

 誰にも届かない声。

 

「助けられるのに……」

 

 手を伸ばせば届く距離に、マサムネ1号はある。

 自分が乗れば、止められる。

 これまでと同じように。

 拳で。

 力で。

 確実に。

 

「……行かせてください」

 

 今度は、静かな声だった。

 懇願に近い。

 だが、返事は変わらない。

 

「ダメだ」

 

 それだけ。

 それだけで、すべてが終わる。

 

 時間が過ぎていく。

 その一秒一秒が、人の命と引き換えになっていく。

 それが分かっているのに、何もできない。

 ただ見ているだけ。

 それが、これほどまでに苦しいものだとは思わなかった。

 

 やがて。

 映像が、途切れた。

 通信が遮断されたのか、それとも――

 考えたくなかった。

 

 静寂。

 警報も止まる。

 すべてが、終わったことを告げるように。

 その場にいた誰もが、言葉を失っていた。

 何かを言えば、それは言い訳になる。

 何も言わなければ、それは逃げになる。

 どちらにしても、耐えられない。

 だから、誰も何も言わない。

 

  聖人は、ゆっくりとその場に座り込んだ。

 力が抜ける。

 視界がぼやける。

 

「……なんでだよ」

 

 声が出た。

 かすれた声。

 

「なんで、止めなかったんだよ」

 

 誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。

 政府か。

 研究所か。

 それとも――

 自分か。

 

 その日の被害は、過去最大となった。

 死者多数。

 行方不明者、数百人。

 街は壊滅。

 そして、怪獣は逃走。

 だが。

 それでもなお。

 世間の視線は、別の方向を向いていた。

 

『なぜ、マサムネ1号は出撃しなかったのか』

『金城聖人は何をしていたのか』

『守れるはずの命を、見捨てたのではないか』

 

 テレビの中で、キャスターが淡々と語る。

 その口調には、責める色は薄い。

 だが、それが逆に残酷だった。

 あくまで“事実確認”の体裁を取りながら、結論だけを視聴者に委ねる。

 そして、その委ねられた先で何が起きるかなど、分かりきっている。

 

 ネットは、さらに直接的だった。

 

『結局あいつ、自分が叩かれるのが怖くて逃げたんだろ』

『英雄気取りの臆病者』

『あの時殺した怪獣の祟りだな』

 

 言葉が、刺さる。

 容赦なく。

 無責任に。

 際限なく。

 

「違う……」

 

 聖人は呟いた。

 テレビの前で。

 誰もいない部屋で。

 

「違う……!」

 

 声が大きくなる。

 

「俺は……行こうとした……!」

 

 だが、その言葉はどこにも届かない。

 証明する術もない。

 信じてくれる人間も、いない。

 

 数日後。

 正式な発表があった。

 マサムネ1号の永久凍結。

 理由は――

 “社会的混乱を招く恐れ”。

 そして。

 金城聖人に対する、事実上の責任追及。

 

「……俺が、悪いのか」

 

 その書類を見たとき、彼は笑った。

 乾いた笑いだった。

 感情が、どこか遠くに行ってしまったような。

 

「守っても、ダメ。守らなくても、ダメ。じゃあ……どうすればよかったんだよ」

 

 答えはない。

 最初から、用意されていない。

 

 その夜。

 金城聖人は、姿を消した。

 誰にも告げず。

 何も残さず。

 ただ静かに。

 それが、“英雄の終わり”だった。

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