怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第6話「呼び戻される過去」

 会議室の空気は、重かった。

 長机を挟んで座る数名の男たち。

 壁には大型モニター。そこに映し出されているのは、燃え続ける街と、黒い巨影。

 

 オゾラ。

 

 その名が、すでにこの場では何度も繰り返されていた。

 

「被害は拡大しています」

 

 淡々とした報告。

 

「防衛隊による攻撃は継続中ですが、有効打は確認されていません」

 

 モニターには、戦車の砲撃やミサイルの着弾が映る。

 だが、オゾラは止まらない。

 煙の中から現れる巨体。

 むしろ苛立ったように暴れ、破壊の規模を広げている。

 

「……無意味だな」

 

 低く呟いたのは、防衛庁長官・武田剛だった。

 腕を組み、険しい顔で画面を睨んでいる。

 

「火力が足りん。いや、それ以前の問題か」

「そう決めつけるのは早計です」

 

 すぐに返したのは、内閣官房長官・鳩ヶ谷栄一。

 表情は硬いが、その目にはまだ何かを信じようとする色があった。

 

「オゾラの行動には、まだ解析の余地がある。無闇に刺激すれば――」

「もう何百人死んでると思ってる」

 

 武田の言葉が、空気を切り裂いた。

 

「“刺激するな”とやらを守った結果がこれだ」

「それは現場の判断ミスであって、理念の問題では――」

「理念で人は守れん」

 

 即座に断じる。

 鳩ヶ谷の眉がわずかに動く。

 

「……落ち着いてください」

 

 その間に入ったのは、総理大臣・村上俊彰だった。

 疲労の色が濃い顔。

 だが、その声にはまだ統制力があった。

 

「今は対立している場合ではない。現実に、我々は打つ手を失っている」

 

 沈黙。

 誰も否定できない事実だった。

 

「……一つ、案があります」

 

 その時、控えめな声が上がった。

 場の端に座っていた若い男。

 辻健介だった。

 まだ27歳。

 この場では明らかに場違いな若さ。

 だが、その目には、他の誰とも違う種類の緊張があった。

 恐れではない。

 決意に近い何か。

 

「言ってみろ」

 

 武田が顎で促す。

 辻は一度だけ息を整えた。

 そして――

 

「マサムネ1号の再稼働を提案します」

 

 空気が、凍った。

 

「……正気か?」

 

 最初に口を開いたのは武田だった。

 その声には驚きよりも、むしろ“試すような響き”があった。

 

「二十年前の遺物だぞ」

「ですが、唯一“怪獣を単独で撃破した実績のある兵器”です」

 

 辻は即座に答える。

 言葉に迷いはなかった。

 

「それに――」

 

 一瞬、言葉を切る。

 視線がモニターへ向かう。

 炎の中で暴れるオゾラ。

 

「現行戦力では、止められない」

 

 沈黙が落ちる。

 誰もが分かっている。

 それが事実だと。

 

「……パイロットはどうする」

 

 村上が静かに問う。

 その問いに、辻はわずかにだけ間を置いた。

 そして、はっきりと答える。

 

「金城聖人を、呼び戻します」

 

 再び、空気が変わる。

 今度は、明確な“拒絶”が混じっていた。

 

「無理だな」

 

 武田が即断する。

 

「世論が許さん」

「今さら、ですか」

 

 辻の声がわずかに強くなる。

 

「この状況で、まだ世論を気にする余裕があるんですか」

「ある」

 

 武田は断言した。

 

「戦争は政治の延長だ。世論を無視した戦力運用は、自滅に繋がる」

「ですが――」

「だが」

 

 言葉を遮る。

 

「それでも、他に手がないのも事実だ」

 

 武田は椅子に深く座り直した。

 目を閉じ、数秒考える。

 そして、ゆっくりと開いた。

 

「条件付きで認める」

 

 鳩ヶ谷が顔を上げる。

 

「武田君――」

「聞け」

 

 短く制す。

 

「これは“最終手段”だ。正式採用ではない。あくまで選択肢の一つとして準備する」

 

 視線が辻に向く。

 

「その男を連れてこい。話はそれからだ」

 

 辻は、深くうなずいた。

 

「了解しました」

 

 その時、鳩ヶ谷が口を開いた。

 これまでよりも、少しだけ低い声で。

 

「……彼を、また使うのか」

 

 その言葉には、わずかな迷いがあった。

 理想を掲げてきた男の、現実への逡巡。

 

「使う?」

 

 武田が鼻で笑う。

 

「違うな」

 

 そして、静かに言った。

 

「頼むんだよ」

 

 その一言に、誰も何も言えなかった。 

 会議は終わった。

 だが、それは何も解決していないことの証明でもあった。

 

 辻健介は、廊下を歩いていた。

 足取りは速い。

 迷いがない。

 

「……札幌か」

 

 小さく呟く。

 手には資料。

 そこに記されている住所。

 金城聖人の、現在の居場所。

 

「会って、どうする」

 

 自問する。

 答えは決まっている。

 だが、それを口にすることの重さを、理解していた。

 

 二十年前。

 社会に捨てられた男。

 守ったはずなのに、責められた男。

 その男に、もう一度――

 

「……戦え、って言うのか」

 

 足が、一瞬だけ止まる。

 だが、すぐに動き出した。

 

「……それでも」

 

 前を見る。

 

「言うしかないだろ」

 

 その先に、何が待っているのか。

 分かっていても。

 辻健介は、歩き続けた。

 過去を、呼び戻すために。

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