怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜 作:アイアイホイホイおさるさん
会議室の空気は、重かった。
長机を挟んで座る数名の男たち。
壁には大型モニター。そこに映し出されているのは、燃え続ける街と、黒い巨影。
オゾラ。
その名が、すでにこの場では何度も繰り返されていた。
「被害は拡大しています」
淡々とした報告。
「防衛隊による攻撃は継続中ですが、有効打は確認されていません」
モニターには、戦車の砲撃やミサイルの着弾が映る。
だが、オゾラは止まらない。
煙の中から現れる巨体。
むしろ苛立ったように暴れ、破壊の規模を広げている。
「……無意味だな」
低く呟いたのは、防衛庁長官・武田剛だった。
腕を組み、険しい顔で画面を睨んでいる。
「火力が足りん。いや、それ以前の問題か」
「そう決めつけるのは早計です」
すぐに返したのは、内閣官房長官・鳩ヶ谷栄一。
表情は硬いが、その目にはまだ何かを信じようとする色があった。
「オゾラの行動には、まだ解析の余地がある。無闇に刺激すれば――」
「もう何百人死んでると思ってる」
武田の言葉が、空気を切り裂いた。
「“刺激するな”とやらを守った結果がこれだ」
「それは現場の判断ミスであって、理念の問題では――」
「理念で人は守れん」
即座に断じる。
鳩ヶ谷の眉がわずかに動く。
「……落ち着いてください」
その間に入ったのは、総理大臣・村上俊彰だった。
疲労の色が濃い顔。
だが、その声にはまだ統制力があった。
「今は対立している場合ではない。現実に、我々は打つ手を失っている」
沈黙。
誰も否定できない事実だった。
「……一つ、案があります」
その時、控えめな声が上がった。
場の端に座っていた若い男。
辻健介だった。
まだ27歳。
この場では明らかに場違いな若さ。
だが、その目には、他の誰とも違う種類の緊張があった。
恐れではない。
決意に近い何か。
「言ってみろ」
武田が顎で促す。
辻は一度だけ息を整えた。
そして――
「マサムネ1号の再稼働を提案します」
空気が、凍った。
「……正気か?」
最初に口を開いたのは武田だった。
その声には驚きよりも、むしろ“試すような響き”があった。
「二十年前の遺物だぞ」
「ですが、唯一“怪獣を単独で撃破した実績のある兵器”です」
辻は即座に答える。
言葉に迷いはなかった。
「それに――」
一瞬、言葉を切る。
視線がモニターへ向かう。
炎の中で暴れるオゾラ。
「現行戦力では、止められない」
沈黙が落ちる。
誰もが分かっている。
それが事実だと。
「……パイロットはどうする」
村上が静かに問う。
その問いに、辻はわずかにだけ間を置いた。
そして、はっきりと答える。
「金城聖人を、呼び戻します」
再び、空気が変わる。
今度は、明確な“拒絶”が混じっていた。
「無理だな」
武田が即断する。
「世論が許さん」
「今さら、ですか」
辻の声がわずかに強くなる。
「この状況で、まだ世論を気にする余裕があるんですか」
「ある」
武田は断言した。
「戦争は政治の延長だ。世論を無視した戦力運用は、自滅に繋がる」
「ですが――」
「だが」
言葉を遮る。
「それでも、他に手がないのも事実だ」
武田は椅子に深く座り直した。
目を閉じ、数秒考える。
そして、ゆっくりと開いた。
「条件付きで認める」
鳩ヶ谷が顔を上げる。
「武田君――」
「聞け」
短く制す。
「これは“最終手段”だ。正式採用ではない。あくまで選択肢の一つとして準備する」
視線が辻に向く。
「その男を連れてこい。話はそれからだ」
辻は、深くうなずいた。
「了解しました」
その時、鳩ヶ谷が口を開いた。
これまでよりも、少しだけ低い声で。
「……彼を、また使うのか」
その言葉には、わずかな迷いがあった。
理想を掲げてきた男の、現実への逡巡。
「使う?」
武田が鼻で笑う。
「違うな」
そして、静かに言った。
「頼むんだよ」
その一言に、誰も何も言えなかった。
会議は終わった。
だが、それは何も解決していないことの証明でもあった。
辻健介は、廊下を歩いていた。
足取りは速い。
迷いがない。
「……札幌か」
小さく呟く。
手には資料。
そこに記されている住所。
金城聖人の、現在の居場所。
「会って、どうする」
自問する。
答えは決まっている。
だが、それを口にすることの重さを、理解していた。
二十年前。
社会に捨てられた男。
守ったはずなのに、責められた男。
その男に、もう一度――
「……戦え、って言うのか」
足が、一瞬だけ止まる。
だが、すぐに動き出した。
「……それでも」
前を見る。
「言うしかないだろ」
その先に、何が待っているのか。
分かっていても。
辻健介は、歩き続けた。
過去を、呼び戻すために。