怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第7話「拒絶」

 雪は、まだ降っていた。

 

 視界を白く閉ざすほどではない。

 だが、確実に世界の輪郭を曖昧にしていくような、静かな雪だった。

 

 辻健介は、車を降りた。

 エンジンを切ると、途端に音が消える。

 風の音すら遠い。

 あるのは、雪を踏みしめる自分の足音だけだった。

 

「……ここか」

 

 手元の資料と、目の前の家を見比べる。

 間違いない。

 

 だが、そこに“かつて英雄だった男”がいるとは、とても思えなかった。

 古びた外壁。

 傾いた屋根。

 人の気配の薄い窓。

 時間が、そのまま取り残されたような場所だった。

 

 玄関の前に立つ。

 インターホンはない。

 ノックするしかない。

 

 一度、息を吸う。

 吐く。

 そして、扉を叩いた。

 コン、コン、と乾いた音。

 

 返事は、ない。

 

 もう一度叩く。

 少し強く。

 

 しばらくして。

 内側から、足音がした。

 ゆっくりとした、重い足取り。

 鍵が外れる音。

 扉が、わずかに開く。

 

 そこに立っていたのは――

 

「……誰だ」

 

 低い声。

 無機質な視線。

 金城聖人だった。

 

 写真で見ていた顔とは、まるで違った。

 年齢以上に老けて見える。

 目に光がない。

 何より――人と関わることを完全にやめた人間の顔だった。

 

「……初めまして。政府から来ました、辻健介と申します」

 

 名刺を差し出す。

 だが、聖人は見ようともしなかった。

 

「帰れ」

 

 即答だった。

 

「お話だけでも――」

「帰れ」

 

 扉が閉まりかける。

 辻は、とっさに手を伸ばした。

 扉を押さえる。

 

「待ってください!」

 

 その瞬間。

 聖人の目が、わずかに変わった。

 苛立ち。

 いや、それよりももっと鋭い何か。

 

「……触るな」

 

 低い声。

 だが、その奥にあるものは明確だった。

 拒絶。

 

 辻は、一瞬だけ手を離しかけた。

 だが、踏みとどまる。

 

「あなたに、頼みがあります」

 

 その言葉に、聖人は止まった。

 扉は半開きのまま。

 沈黙が落ちる。

 

「……頼み?」

 

 ゆっくりと、繰り返す。

 その声には、わずかな歪みがあった。

 

「……誰が」

 

 顔を上げる。

 目が、まっすぐに辻を捉える。

 

「誰が、俺に頼むんだよ」

 

 その視線に、辻は一瞬だけ息を詰まらせた。

 だが、逃げなかった。

 

「政府です」

 

 はっきりと言う。

 

「オゾラを止めるために――」

 

 言い終わる前に。

 笑い声が、響いた。

 

「……はは」

 

 乾いた笑い。

 だが、次第に大きくなる。

 

「はははははは……!」

 

 聖人は、笑っていた。

 腹を抱えるように。

 まるで、何か決定的におかしいものを見たかのように。

 

「……今さら?」

 

 笑いながら言う。

 

「二十年経って、今さら俺に頼むのか?」

 

 その声は、笑っているのに、まったく楽しそうではなかった。

 

「俺を何だと思ってる」

 

 笑いが止まる。

 目が、冷たく細められる。

 

「都合のいい道具か?」

 

 言葉が、突き刺さる。

 

「捨てといて、必要になったら拾うのか?」

 

 一歩、踏み出す。

 辻は動けない。

 

「ふざけるなよ」

 

 声が低くなる。

 圧が、増す。

 

「俺が何されたか、知ってるか?」

 

 答えを待たずに、続ける。

 

「守ったんだよ。人を、何度も」

 

 一つ一つ、区切るように。

 

「それでどうなった?」

 

 目が、揺れる。

 怒りではない。

 もっと深いもの。

 

「殺人者だって言われた。暴力だって言われた。出なかったら、今度は見殺しにしたって言われた」

 

 呼吸が荒くなる。

 

「どっちにしても、俺は悪者だ」

 

 笑う。

 今度は小さく。

 

「……便利だよな」

 

 その言葉には、完全な諦めがあった。

 

「何しても叩けるんだから」

 

 沈黙。

 辻は、何も言えなかった。

 言えるはずがなかった。

 二十年分の言葉だった。

 

「帰れ」

 

 再び、その言葉。

 今度は、さっきよりも静かだった。

 

「もう関係ない」

 

 扉に手をかける。

 

「俺は、もう――」

 

 一瞬、言葉が止まる。

 そして。

 

「……終わった人間なんだよ」

 

 扉が、閉まった。

 音は、小さかった。

 だが、それは決定的な音だった。

 辻は、その場に立ち尽くした。

 何もできなかった。

 何も言えなかった。

 

「……そうですよね」

 

 小さく呟く。

 分かっていた。

 こうなることは。

 それでも、来た。

 

「……それでも」

 

 顔を上げる。

 閉ざされた扉を見る。

 

「それでも、頼むしかないんです」

 

 返事はない。

 雪が、降り続ける。

 時間だけが、静かに流れていく。

 

 だが。

 その扉の向こうで。

 金城聖人は、動けずにいた。

 ストーブの前。

 座り込んだまま。

 拳を握っている。

 震えている。

 

「……なんでだよ」

 

 誰にも聞こえない声。

 

「なんで今さら……」

 

 テレビは、まだついていた。

 そこには、壊れていく街。

 逃げる人々。

 そして――

 泣いている子供。

 

 聖人は、目を逸らした。

 だが。

 逸らしても、消えなかった。

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