怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜 作:アイアイホイホイおさるさん
夜は、長かった。
ストーブの火が、ぱちりと音を立てる。
それ以外に、部屋の中に音はない。
いや――
テレビの音だけが、途切れ途切れに流れている。
『現在もオゾラは市街地を移動中で――』
『避難が間に合っていない地域も――』
『繰り返します、市民の皆さんは――』
聖人は、動かなかった。
椅子に座ったまま。
背を丸め、肘を膝に乗せ、手を組んだまま。
何時間、そうしていただろうか。
思考は、堂々巡りだった。
――関係ない。
――もう終わった。
――関わるな。
同じ言葉が、何度も浮かんでは消える。
だが、その隙間に、別のものが入り込んでくる。
瓦礫。
炎。
泣き声。
記憶なのか、今の映像なのか、分からなくなる。
「……違う」
ぽつりと呟く。
「俺のせいじゃない」
そうだ。
あの時も。
今回も。
自分は悪くない。
守ろうとした。
行こうとした。
止められた。
なのに。
「……なんで俺が」
言葉が、そこで止まる。
答えは、もう知っている。
――関係ないからだ。
あの人たちにとって、自分は関係ない。
都合よく使える時だけ必要で、そうでなければ切り捨てる存在。
だから。
「……行く必要なんかない」
そう結論づける。
その時。
『こちら現場です!!』
テレビの音が、急に大きくなったように感じた。
画面には、女性レポーターが映っている。
ヘルメットをかぶり、マイクを握り、必死に声を張り上げている。
『JPテレビのクリス松田です!!』
背後では、煙が上がっている。
炎が揺れている。
遠くで、何かが崩れる音。
『オゾラは現在、この地区に侵入しており――』
言葉の途中で、振動。
カメラが揺れる。
『きゃっ……!』
バランスを崩しながらも、踏みとどまる。
『……失礼しました! 非常に強い振動です!』
その声は、震えていた。
だが、それでも続ける。
『避難が間に合っていない住民も多数おり――』
カメラがパンする。
映ったのは――
人。
逃げる人。
抱えられる子供。
泣き叫ぶ声。
聖人の呼吸が、わずかに乱れた。
『危険ですので、絶対に近づかないでください!!』
その瞬間。
影が、画面を覆った。
オゾラだった。
巨大な脚が、すぐそこにある。
画面越しでも分かる圧力。
『……っ』
クリスの声が、詰まる。
だが。
逃げない。
『……ここで、伝えなければならないことがあります』
その声は、震えていた。
だが、はっきりしていた。
『過去に、怪獣と戦った人がいます』
聖人の目が、わずかに動く。
『その人は、街を守りました』
心臓が、強く打つ。
『ですが、その後――』
一瞬、言葉を選ぶように間があく。
『その人は、責められました』
聖人の指が、ぎゅっと握られる。
『私は、その時、子供でした』
カメラが、少しだけ揺れる。
『でも、覚えています』
真っ直ぐ、レンズを見る。
『あの時、助けられた人がいたことを』
沈黙。
『だから――』
息を吸う。
『もし、あなたが見ているなら』
聖人の呼吸が、止まる。
『どうか、もう一度――』
その瞬間。
オゾラが、動いた。
『――っ!!』
画面が激しく揺れる。
叫び声。
ノイズ。
そして。
映像が、途切れた。
――無音。
聖人は、動かなかった。
いや。
動けなかった。
今の言葉が、頭の中で反響している。
――助けられた人がいた。
「……」
目を閉じる。
浮かぶのは、過去の光景。
瓦礫の中で泣いていた子供。
助けを求めていた人。
そして。
それに応えた、自分。
「……」
ゆっくりと、立ち上がる。
足が、重い。
だが、一歩。
また一歩。
玄関へ向かう。
「……関係ない、はずだろ」
呟く。
「もう、終わったんだろ」
靴を履く。
「なんで……」
扉に手をかける。
震えている。
「なんで、まだ……」
握りしめる。
そして。
「……見て見ぬふりができねえんだよ」
扉を開けた。
冷たい空気が、流れ込む。
雪は、まだ降っている。
だが。
その足は、止まらなかった。
金城聖人は、歩き出した。
もう一度、“守る”ために。