怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第8話「それでも」

 夜は、長かった。

 

 ストーブの火が、ぱちりと音を立てる。

 それ以外に、部屋の中に音はない。

 いや――

 テレビの音だけが、途切れ途切れに流れている。

 

『現在もオゾラは市街地を移動中で――』

『避難が間に合っていない地域も――』

『繰り返します、市民の皆さんは――』

 

 聖人は、動かなかった。

 椅子に座ったまま。

 背を丸め、肘を膝に乗せ、手を組んだまま。

 

 何時間、そうしていただろうか。

 思考は、堂々巡りだった。

 

 ――関係ない。

 ――もう終わった。

 ――関わるな。

 

 同じ言葉が、何度も浮かんでは消える。

 だが、その隙間に、別のものが入り込んでくる。

 

 瓦礫。

 炎。

 泣き声。

 

 記憶なのか、今の映像なのか、分からなくなる。

 

「……違う」

 

 ぽつりと呟く。

 

「俺のせいじゃない」

 

 そうだ。

 あの時も。

 今回も。

 自分は悪くない。

 守ろうとした。

 行こうとした。

 止められた。

 なのに。

 

「……なんで俺が」

 

 言葉が、そこで止まる。

 答えは、もう知っている。

 

 ――関係ないからだ。

 

 あの人たちにとって、自分は関係ない。

 都合よく使える時だけ必要で、そうでなければ切り捨てる存在。

 だから。

 

「……行く必要なんかない」

 

 そう結論づける。

 その時。

 

『こちら現場です!!』

 

 テレビの音が、急に大きくなったように感じた。

 画面には、女性レポーターが映っている。

 ヘルメットをかぶり、マイクを握り、必死に声を張り上げている。

 

『JPテレビのクリス松田です!!』

 

 背後では、煙が上がっている。

 炎が揺れている。

 遠くで、何かが崩れる音。

 

『オゾラは現在、この地区に侵入しており――』

 

 言葉の途中で、振動。

 カメラが揺れる。

 

『きゃっ……!』

 

 バランスを崩しながらも、踏みとどまる。

 

『……失礼しました! 非常に強い振動です!』

 

 その声は、震えていた。

 だが、それでも続ける。

 

『避難が間に合っていない住民も多数おり――』

 

 カメラがパンする。

 映ったのは――

 人。

 逃げる人。

 抱えられる子供。

 泣き叫ぶ声。

 聖人の呼吸が、わずかに乱れた。

 

『危険ですので、絶対に近づかないでください!!』

 

 その瞬間。

 影が、画面を覆った。

 オゾラだった。

 巨大な脚が、すぐそこにある。

 画面越しでも分かる圧力。

 

『……っ』

 

 クリスの声が、詰まる。

 だが。

 逃げない。

 

『……ここで、伝えなければならないことがあります』

 

 その声は、震えていた。

 だが、はっきりしていた。

 

『過去に、怪獣と戦った人がいます』

 

 聖人の目が、わずかに動く。

 

『その人は、街を守りました』

 

 心臓が、強く打つ。

 

『ですが、その後――』

 

 一瞬、言葉を選ぶように間があく。

 

『その人は、責められました』

 

 聖人の指が、ぎゅっと握られる。

 

『私は、その時、子供でした』

 

 カメラが、少しだけ揺れる。

 

『でも、覚えています』

 

 真っ直ぐ、レンズを見る。

 

『あの時、助けられた人がいたことを』

 

 沈黙。

 

『だから――』

 

 息を吸う。

 

『もし、あなたが見ているなら』

 

 聖人の呼吸が、止まる。

 

『どうか、もう一度――』

 

 その瞬間。

 オゾラが、動いた。

 

『――っ!!』

 

 画面が激しく揺れる。

 叫び声。

 ノイズ。

 そして。

 映像が、途切れた。

 ――無音。

 

 聖人は、動かなかった。

 いや。

 動けなかった。

 今の言葉が、頭の中で反響している。

 

 ――助けられた人がいた。

 

「……」

 

 目を閉じる。

 浮かぶのは、過去の光景。

 瓦礫の中で泣いていた子供。

 助けを求めていた人。

 そして。

 それに応えた、自分。

 

「……」

 

 ゆっくりと、立ち上がる。

 足が、重い。

 だが、一歩。

 また一歩。

 玄関へ向かう。

 

「……関係ない、はずだろ」

 

 呟く。

 

「もう、終わったんだろ」

 

 靴を履く。

 

「なんで……」

 

 扉に手をかける。

 震えている。

 

「なんで、まだ……」

 

 握りしめる。

 そして。

 

「……見て見ぬふりができねえんだよ」

 

 扉を開けた。

 冷たい空気が、流れ込む。

 雪は、まだ降っている。

 だが。

 その足は、止まらなかった。

 

 金城聖人は、歩き出した。

 もう一度、“守る”ために。

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