怪獣対巨大ロボット〜リベンジ・オブ・オールドボーイ〜   作:アイアイホイホイおさるさん

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第9話「再起動」

 雪を踏みしめる音が、やけに大きく聞こえた。

 山道を下りる。

 足場は悪い。滑りやすい。

 

 だが、聖人の足は止まらなかった。

 どこへ向かっているのか。

 自分でも、はっきりとは考えていなかった。

 ただ一つだけ、分かっていることがある。

 

 ――戻る。

 二十年前、自分がいた場所へ。

 

「……今さらだろ」

 

 歩きながら、呟く。

 

 分かっている。

 都合がいい話だ。

 散々否定されて、捨てられて、それでもまた戻る。

 

「……笑えるな」

 

 自嘲気味に笑う。

 だが、その足は止まらない。

 

「それでも――」

 

 言葉は、最後まで出なかった。

 代わりに、思い出す。

 さっきの映像。

 

 泣いていた子供。

 震えていた声。

 それでも伝えようとしていた、あの女の言葉。

 ――助けられた人がいた。

 

「……ああ」

 

 短く息を吐く。

 

「いたよ」

 

 それは事実だ。

 否定しようのない事実だ。

 そして。

 

「……今も、いる」

 

 だから、行く。

 理由は、それで十分だった。

 

 山を下りきる頃には、空が白み始めていた。

 その先に、一台の車が止まっている。

 辻健介だった。

 

 ドアに寄りかかり、腕を組んでいる。

 だが、その姿勢には落ち着きがない。

 何度も足を動かし、遠くを見ては、また視線を落とす。

 そして。

 聖人の姿を見つけた瞬間。

 

「……!」

 

 目を見開いた。

 

「……来ると思ってました」

 

 ゆっくりと歩み寄る。

 

「嘘つけ」

 

 聖人は、短く返した。

 

「半分くらいは、本気で思ってました」

「半分かよ」

 

 小さく笑う。

 ほんのわずかだが、空気が和らいだ。

 

「……行くぞ」

 

 それだけ言う。

 

「……いいんですか」

 

 辻が、確認するように問う。

 

「もう決めた」

 

 視線は前。

 

「どうせ、見てられねえ」

 

 その言葉に、辻は何も言わなかった。

 ただ、深くうなずいた。

 

 車が走り出す。

 雪道を抜け、舗装路へ。

 そして高速へ。

 ラジオから、断続的にニュースが流れる。

 

『オゾラは現在、首都圏外縁部へ――』

『被害はさらに拡大しており――』

『防衛隊は総力を挙げて――』

 

 聖人は、窓の外を見ていた。

 

「……あれは、どうなった」

 

 不意に口を開く。

 

「マサムネ1号ですか」

「ああ」

 

 辻は、少しだけ間を置いた。

 

「……博物館にありました」

「……は?」

「展示されてました。“負の遺産”として」

 

 沈黙。

 聖人の眉が、わずかに歪む。

 

「……そうかよ」

 

 それだけ言った。

 怒りは、なかった。

 あるいは、もう通り過ぎた後だった。

 

「ですが」

 

 辻が続ける。

 

「現在、回収して改修中です」

 

 聖人の視線が、わずかに動く。

 

「間に合うのか」

「間に合わせます」

 

 即答だった。

 

「現場は、必死です」

 

 その言葉に、嘘はなかった。

 車は、さらに速度を上げる。

 

 そして。

 数時間後。

 巨大な格納庫が、視界に入った。

 仮設の施設。

 急造の設備。

 だが、その中にあるものは――

 

「……」

 

 聖人は、言葉を失った。

 そこに立っていたのは。

 マサムネ1号だった。

 かつての無骨な姿。

 ドラム缶のような胴体。

 無骨な腕。

 だが、変わっている部分もあった。

 装甲が補強されている。

 関節部が強化されている。

 全体に、新しい鋼の色が混じっている。

 

 そして何より。

 “まだ戦える”という存在感。

 

「……勝手に、いじりやがって」

 

 聖人は、小さく呟いた。

 だが、その声には、わずかな熱があった。

 

「すみません」

 

 辻が言う。

 

「でも、必要だったんです」

「分かってる」

 

 短く返す。

 ゆっくりと、機体に近づく。

 手を伸ばす。

 装甲に触れる。

 冷たい。

 だが、その奥にあるものは、知っている。

 

「……久しぶりだな」

 

 誰に向けた言葉でもない。

 だが、それは確かに“再会”だった。

 

「……乗れますか」

 

 辻が問う。

 聖人は、少しだけ考えた。

 そして。

 

「……やるしかねえだろ」

 

 振り返る。

 

「ここまで来といて、やっぱやめた、なんて言えるかよ」

 

 口元が、わずかに上がる。

 それは、かつての少年に近い表情だった。

 

 サイレンが鳴る。

 

『オゾラ、都心部に侵入――』

 

 空気が、一変する。

 

「時間がない」

 

 辻が言う。

 聖人は、うなずいた。

 

「分かってる」

 

 コックピットへ向かう。

 一歩一歩、踏みしめる。

 二十年分の時間を、越えるように。

 ハッチが開く。

 中に入る。

 座席に座る。

 手を、操縦桿に置く。

 

 その瞬間。

 すべてが、繋がった。

 感覚が戻る。

 記憶が蘇る。

 体が、思い出す。

 

「……いける」

 

 小さく呟く。

 電源が入る。

 低い駆動音。

 モニターが点灯する。

 外の世界が、映る。

 

「マサムネ1号、起動確認!」

 

 オペレーターの声。

 

「出るぞ」

 

 聖人は言った。

 迷いは、もうなかった。

 

「マサムネ1号、出撃する」

 

 巨大な機体が、ゆっくりと立ち上がる。

 その一歩が。

 再び、世界を動かす。

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