石の世界に祝福を   作:stein0630

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第14話 悪魔を買う

 

 龍水は、復活して一時間で作戦会議を支配した。

 

 石像から戻ったばかりとは思えない声量で、彼は砂地に描かれた地図を指した。

 

「敵は三つに分けろ。イバラ、キリサメ、モズだ」

 

 千空が頷く。

 

「イバラは石化装置の命令権を握ってる。キリサメは装置の実行役。モズは単純戦力として厄介だ」

 

「そしてボンドルド」

 

 ゲンが嫌そうに付け加える。

 

「敵か味方か不明な、最悪の変数」

 

「違うな」

 

 龍水は笑った。

 

「奴は商品だ。買い方を間違えると噛み殺される、最高級の毒物だ!」

 

「商品にするな」

 

 コハクが低く言う。

 

「いや、龍水の見方は使える」

 

 千空は砂に四つ目の印をつけた。

 

「ボンドルドは、誰の側にもいねえ。石化装置を最も見られる場所へ動く。なら、俺らがその場所になる」

 

 アマリリスが顔を青くする。

 

「あの人を、こっちに戻すの?」

 

「戻すんじゃねえ」

 

 千空は言った。

 

「檻ごと引きずってくる」

 

 その時、森の向こうから鳥が飛んできた。

 

 まただ。

 

 足には黒い糸。

 

 コハクが捕まえる。

 

 結ばれていたのは、小さな布片だった。血が少しだけついている。文字は、驚くほど整っていた。

 

 ――契約条件、拝見しました。たいへんよくできました。

 

 ゲンが額を押さえた。

 

「また煽ってきた」

 

 龍水は大笑いした。

 

「気に入ったぞ! 商談相手としては最悪だが、読みごたえがある!」

 

 千空は続きを読む。

 

 ――ただし、足りません。

 ――石化装置の観察権だけでは不十分です。

 ――発動条件の検証、距離指定、時間指定、遮蔽、部分石化の可否。

 ――最低四項目の実験権限を要求します。

 

 コハクの手が震えた。

 

「実験……?」

 

 ゲンが続きに目を落とす。

 

 ――被験者は、イバラ側から調達可能です。

 ――生存を保証する努力はします。

 

 空気が凍った。

 

 千空は、布を握り潰した。

 

「クソ野郎」

 

 龍水の笑みも消えた。

 

「これは買えんな」

 

 ゲンが言う。

 

「買ったら、こっちがボンドルドちゃんになる」

 

 千空は、少しだけ黙った。

 

 そして、新しい布を取り出した。

 

「返事を書く」

 

「何て?」

 

 千空は短く書いた。

 

 ――人間実験は却下。

 ――石化装置の観察は許可。

 ――実験は既存事象の記録のみ。

 ――被害を作るな。

 ――それでも協力するなら、取引成立。

 ――しないなら、お前ごと石化装置を奪う。

 

 最後に一行。

 

 ――こっちのルールで来い。

 

 ゲンが覗き込んで笑った。

 

「強気だねえ」

 

「弱気であいつが止まるかよ」

 

 千空は布を結び、鳥を放した。

 

 コハクは鳥が飛び去るのを見ていた。

 

「来ると思うか」

 

「来る」

 

 千空は即答した。

 

「あいつは見たい。なら、こっちのルールに穴を探してでも来る」

 

   *

 

 ボンドルドは、返事を読んでいた。

 

 浜辺の岩陰。

 

 拘束されたまま、モズの監視下にある。

 

 イバラは彼を信じていない。だが殺せない。情報を失うのが怖いからだ。

 

 それが、ボンドルドの居場所だった。

 

 縛られているのに、誰よりも自由に見える。

 

 モズが布を覗き込む。

 

「なんて?」

 

「断られました」

 

「残念?」

 

「いいえ」

 

 ボンドルドは、声だけで笑った。

 

「予想通りです」

 

「じゃあ、どうするの」

 

「既存事象の記録のみ、という条件に従います」

 

「お前が?」

 

「はい」

 

 モズは声を上げて笑った。

 

「絶対嘘だ」

 

「いいえ。既存事象を、これから発生する状況に含めればよい」

 

「それを詭弁っていうんじゃないの」

 

「運用です」

 

「悪いなあ」

 

 そこへ、イバラが近づいた。

 

 顔には苛立ちがある。人質を海から奪われ、モバイルラボも奪われた。だが、石化装置はまだある。頭首の権威も、兵も、キリサメも、モズもいる。

 

 少なくとも、彼はそう思っていた。

 

「ボンドルド。お前をどうするか決めたよ」

 

「伺いましょう」

 

「千空を釣る餌になれ」

 

「喜んで」

 

 イバラの目が細くなる。

 

「即答かい」

 

「はい。私も千空さんに用があります」

 

「だろうね」

 

 イバラは兵に命じた。

 

「こいつを広場へ連れていけ。千空たちが見える場所で吊るす。奴らが来れば、石化武器でまとめて終わりだ」

 

 モズが肩をすくめる。

 

「雑だねえ」

 

 イバラが睨む。

 

「何か言ったかい」

 

「いや。お年寄りの作戦って感じ」

 

 イバラの顔が歪む。

 

 ボンドルドは、そのわずかな軋みを見た。

 

 モズとイバラ。

 

 そこに亀裂がある。

 

 亀裂は、広げれば割れる。

 

   *

 

 広場には、石の柱が立っていた。

 

 かつて何かの儀式に使われたのか、頭首の権威を示すものなのか、島民たちはそこへ近づかない。

 

 ボンドルドは、その柱に縛られた。

 

 黒と濃紺の装甲は傷だらけ。仮面の一部は欠け、下顎の皮膚が少し見えている。だが、彼は頭を垂れない。

 

 まるで、処刑台ではなく、講壇に立っているようだった。

 

 島民たちが集まる。

 

 イバラは声を張った。

 

「外から来た異物だ! 頭首様に逆らう者は、こうなる!」

 

 キリサメは少し離れた場所にいた。

 

 表情は硬い。

 

 彼女はボンドルドを警戒している。外から来た危険な男。だが、同時に違和感も覚えている。

 

 イバラは、なぜこの男をすぐ石化しないのか。

 

 なぜ話を聞くのか。

 

 なぜ頭首様の名ではなく、自分の判断で動いているのか。

 

 ボンドルドは、その視線に気づいた。

 

「キリサメさん」

 

 イバラが眉を吊り上げる。

 

「誰が喋っていいと言った」

 

「すみません。重要な確認です」

 

 ボンドルドはキリサメを見たまま言った。

 

「あなたは、石化装置の仕組みをどこまでご存じですか」

 

 キリサメの表情が動く。

 

「黙りなさい」

 

「距離と時間を指定する。投げる。範囲内を石化する。では、発動後の装置はなぜ石化しないのでしょう」

 

 広場がざわつく。

 

 キリサメの目が揺れた。

 

 イバラが怒鳴る。

 

「黙れ!」

 

「装置が自身を石化しないなら、対象選択の規則がある。あるいは、石化波は装置を通過する。では、装置を飲み込んだ場合はどうなるのでしょう」

 

 その言葉に、イバラの表情が一瞬だけ変わった。

 

 ごく小さく。

 

 だが、モズは見た。

 

 ボンドルドも見た。

 

 千空が近くにいれば、同じように見ただろう。

 

 ボンドルドは穏やかに続けた。

 

「興味深いですね」

 

「黙れと言っている!」

 

 イバラが杖を振った。

 

 兵がボンドルドの腹を殴る。

 

 鈍い音。

 

 ボンドルドは咳き込んだが、声色は変わらない。

 

「痛みで、仮説は消えません」

 

 キリサメは、石化装置を握る手に力を込めた。

 

「イバラ様。なぜ、この者を石化しないのです」

 

「使い道があるからだよ」

 

「危険です」

 

「だから縛っている」

 

「本当に、頭首様の御意志ですか」

 

 広場の空気が止まった。

 

 イバラの目が冷たくなる。

 

「キリサメ」

 

 その声には、刃があった。

 

「疑うのかい?」

 

 キリサメは答えなかった。

 

 ボンドルドは黙った。

 

 種は、落ちた。

 

   *

 

 森の中から、千空たちは広場を見ていた。

 

 コハクは怒りで震えている。

 

「あいつ、わざとだ。キリサメを揺さぶっている」

 

「そうだな」

 

 千空は双眼鏡代わりのレンズを下ろした。

 

「イバラが装置を飲ませる可能性まで、もう読んでやがる」

 

 ゲンが顔をしかめる。

 

「今のって、もしかして島全体石化の布石?」

 

「近い」

 

 千空は短く言った。

 

「イバラが追い詰められた時、装置を誰かに飲ませて中央まで走らせる。そうすりゃ、島ごと石化できる」

 

 アマリリスが震える。

 

「そんなこと……」

 

「やる」

 

 千空は断言した。

 

「イバラはやる。ボンドルドは、それを早めようとしてる」

 

 ゲンの顔が青ざめる。

 

「なんで早めるの」

 

「観測したいからだ。島全域石化の条件を」

 

 コハクが吐き捨てる。

 

「狂っている」

 

「だが、助かる」

 

 千空の言葉に、全員が見る。

 

「あいつがわざとキリサメに疑念を植えた。イバラとキリサメの連携が乱れる。モズも揺れてる」

 

 龍水が笑う。

 

「最高に危険な駒だな」

 

「駒じゃねえ。勝手に動く爆薬だ」

 

 千空は言った。

 

「爆発する位置を読む」

 

   *

 

 その夜、モズはボンドルドの前に立った。

 

 広場にはもう人はいない。

 

 兵も少ない。

 

 イバラは奥の屋敷へ戻り、キリサメは黙ったまま石化装置を持って去った。

 

 モズは柱に縛られたボンドルドを見て、笑った。

 

「お前、わざとキリサメを怒らせたね」

 

「怒らせたのではありません。疑問を持っていただきました」

 

「同じだよ」

 

「結果は近いですね」

 

 モズは槍を肩に担いだ。

 

「で、俺には何を撒くの?」

 

「あなたには、もう撒いてあります」

 

「へえ」

 

「あなたはイバラさんを好いていない。キリサメさんほど忠誠もない。強い相手と戦いたい。美しいもの、面白いものに惹かれる。ならば、イバラさんが島ごと石化する選択を取った時、あなたは従わない」

 

 モズの笑みが消えた。

 

「島ごと?」

 

「可能性です」

 

「それ、イバラがやると思う?」

 

「追い詰められれば」

 

「俺も石になるじゃん」

 

「はい」

 

 モズは黙った。

 

 ボンドルドは続ける。

 

「あなたは、自分が石化される可能性を軽視しています。自分だけは避けられる、自分だけは勝てる、と」

 

「悪い?」

 

「いいえ。強者として自然です」

 

「褒めてる?」

 

「観察です」

 

 モズはしばらく黙り、やがて笑った。

 

「俺は、お前のそういうところ本当に嫌いだな」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めてない」

 

「よく言われます」

 

 モズは柱へ近づき、ボンドルドの縄を一本だけ切った。

 

 完全には自由にしない。

 

 右腕だけが動く。

 

「何のつもりですか」

 

「面白い方に賭ける」

 

「千空さん側へ?」

 

「まだ決めてない」

 

 モズは笑った。

 

「ただ、イバラに全部決められるのは、つまらない」

 

 ボンドルドは、動くようになった右手を軽く握った。

 

「十分です」

 

   *

 

 ボンドルドは、その右手で何をしたか。

 

 逃げなかった。

 

 縄を切らなかった。

 

 武器を奪わなかった。

 

 柱の根元に、小さな文字を刻んだ。

 

 朝、見張りの兵がそれを見つける。

 

 そこには、こう書かれていた。

 

 ――柱から東へ二十歩。

 ――よくできました、の次へ。

 

 兵には意味がわからない。

 

 だが、遠くの木の上でレンズを覗いていた千空にはわかった。

 

 東へ二十歩。

 

 そこは、広場の中央からの距離。

 

 石化装置の範囲計測に使える基準点。

 

 ゲンが呆れた。

 

「またメッセージが煽り口調」

 

「しかも、俺ら用だ」

 

 千空は笑った。

 

「広場を実験場に変えやがった」

 

 コハクが怒る。

 

「笑うところではない」

 

「笑ってねえと、殴りに行きたくなる」

 

 千空は、柱と広場を見た。

 

 距離。

 兵の配置。

 キリサメの投擲位置。

 イバラの指揮位置。

 モズの動き。

 

 そして、ボンドルドの刻んだ基準点。

 

 情報は揃ってきている。

 

 嫌になるほど、ボンドルドの手で。

 

   *

 

 昼。

 

 イバラは作戦を変えた。

 

 千空たちをおびき出すため、ボンドルドの処刑を宣言した。

 

 広場に島民が集められる。

 

 キリサメは石化装置を持たされる。

 

 モズは腕を組んで見ている。

 

 ボンドルドは柱に縛られたまま、空を見上げていた。

 

 イバラが声を張る。

 

「この異物を、頭首様の名において石に戻す!」

 

 キリサメの手が動く。

 

 石化装置を構える。

 

 その瞬間、ボンドルドが言った。

 

「キリサメさん」

 

「黙りなさい」

 

「距離は?」

 

 彼女の手が止まる。

 

「何?」

 

「石化範囲を指定するのでしょう。私一人を石にするなら、距離は小さいはずです。ですが、イバラさんの位置まで含めると危険です」

 

 ざわめき。

 

 イバラが叫ぶ。

 

「早くやれ!」

 

 ボンドルドは続けた。

 

「あなたは、命令の意味を理解していますか。私だけを石化するのか。周囲の兵も含めるのか。イバラさんは範囲外にいるのか」

 

 キリサメの額に汗が滲む。

 

 彼女は戦士だ。

 

 命令に従う者だ。

 

 だが、無意味に民を巻き込む者ではない。

 

 イバラが一歩下がった。

 

 その動きを、キリサメが見た。

 

 見てしまった。

 

 モズも見た。

 

 千空も、遠くから見た。

 

 ボンドルドは穏やかに言った。

 

「今の一歩が、答えです」

 

 イバラの顔が歪んだ。

 

「やれ、キリサメ!」

 

 その時、広場の外で爆発音がした。

 

 千空の煙玉。

 

 同時にコハクが走る。

 

 モズが笑い、彼女を迎え撃つ。

 

 アマリリスが島民を逃がす。

 

 ゲンが叫ぶ。

 

「皆さん、離れて! 石になるよ!」

 

 混乱。

 

 キリサメの照準が揺れる。

 

 イバラが奪いに出る。

 

 その一瞬。

 

 ボンドルドは、自分の右腕を柱に押しつけた。

 

 縄で擦れて血が出る。

 

 だが、彼は構わず、自分の親指を変な角度に曲げた。

 

 関節が外れる音。

 

 縄の隙間ができる。

 

 右手が抜けた。

 

 コハクが見ていたら、怒っただろう。

 

 千空が見ていたら、止めたかもしれない。

 

 だが、誰も近くにはいない。

 

 ボンドルドは柱から落ちた小石を拾い、キリサメの足元へ投げた。

 

 攻撃ではない。

 

 音。

 

 視線誘導。

 

 キリサメの目が一瞬落ちる。

 

 その間に、イバラが石化装置へ手を伸ばす。

 

 千空が叫ぶ。

 

「今だ!」

 

 コハクがモズの横を抜け、イバラへ迫る。

 

 モズは笑った。

 

「行かせると思う?」

 

 槍が交差する。

 

 だが、モズの動きが一瞬遅い。

 

 彼は本気で止めていない。

 

 イバラが気づく。

 

「モズ!」

 

「ごめんね。面白い方を見たい」

 

 イバラの顔が怒りに染まる。

 

 石化装置が、彼の手に渡りかける。

 

 その瞬間、ボンドルドが動いた。

 

 まだ縛られた身体を引きずり、倒れ込むようにイバラの足元へ転がる。

 

 イバラの足が止まる。

 

 ほんの半歩。

 

 コハクが届く。

 

 石化装置を持つ手を弾く。

 

 装置が宙を舞った。

 

 全員が見た。

 

 キリサメ。

 モズ。

 千空。

 コハク。

 イバラ。

 ボンドルド。

 

 そして、ボンドルドが笑った。

 

「観測可能な落下軌道です」

 

 装置は、地面へ落ちた。

 

 割れなかった。

 

 だが、砂の上に転がった瞬間、イバラが叫んだ。

 

 距離。

 時間。

 

 発動命令。

 

 緑の光が、装置の中心から広がり始めた。

 

 近すぎる。

 

 コハクが叫ぶ。

 

「千空!」

 

 千空は、すでに走っていた。

 

 ボンドルドは、光の広がりを見ていた。

 

 逃げるのではなく。

 

 測っていた。

 

 足元の刻印。

 東へ二十歩。

 柱。

 兵の位置。

 光の速度。

 

「なるほど」

 

 彼は呟いた。

 

 緑の光が、彼の足元に届く。

 

 石化が始まる。

 

 脚から。

 腰へ。

 胸へ。

 

 ボンドルドは、最後に千空を見た。

 

「たいへん、よく――」

 

 声が途切れた。

 

 仮面ごと、石になった。

 

   *

 

 光は小規模だった。

 

 広場全域には届かない。

 

 キリサメは範囲外。

 

 モズもぎりぎりで避けた。

 

 イバラは、腕の一部だけ石化した。

 

 コハクは転がって逃れた。

 

 ボンドルドは完全に石になった。

 

 千空は、光の端を見切って止まっていた。

 

 息を荒げながら、彼は石化したボンドルドを見た。

 

 ゲンが駆け寄る。

 

「やった? いや、やられた? どっち?」

 

「どっちもだ」

 

 千空は言った。

 

 彼の手には、砂に残った数字の跡がある。

 

 ボンドルドが身体を張って得た、石化範囲と速度の情報。

 

 そして、イバラの腕に残った部分石化。

 

 キリサメの疑念。

 

 モズの離反。

 

 すべてが、一気に動いた。

 

 コハクは石化したボンドルドへ槍を向けたまま、歯を食いしばった。

 

「こいつは……自分まで実験に使ったのか」

 

「そうだ」

 

 千空は答えた。

 

「最悪の形で、最高のデータを寄越しやがった」

 

 ゲンが乾いた笑いを漏らす。

 

「最後まで煽ってたね。たいへんよく、まで言って石になった」

 

「復活させるのか」

 

 コハクが聞いた。

 

 千空は即答しなかった。

 

 石になったボンドルドは、静かだった。

 

 ようやく黙った。

 

 だが、その沈黙すら、彼の計算に見える。

 

「させる」

 

 千空は言った。

 

「まだ使う」

 

 コハクの目が揺れる。

 

「これほどのことをしてもか」

 

「ああ」

 

 千空は、石化した仮面を睨んだ。

 

「ただし、次に戻した時、あいつは完全に檻の中だ」

 

 ゲンが言う。

 

「檻、破ると思うよ」

 

「破らせねえ」

 

 千空は、砂に残った数字を記録した。

 

「今度はこっちが、あいつを実験条件に入れる」

 

 広場の向こうで、イバラが血走った目で逃げていく。

 

 キリサメは動けずにいた。

 

 モズは笑っているが、その目はボンドルドの石像を見ている。

 

 そして千空は理解していた。

 

 ボンドルドは、今回も勝った。

 

 石になってもなお、盤面を進めた。

 

 人を傷つけ、自分を壊し、敵味方を分断し、石化装置のデータを奪った。

 

 やばいどころではない。

 

 この男は、自分の敗北すら、次の実験に変える。

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