石の世界に祝福を   作:stein0630

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第16話 二つ目の声

 

 

 イバラは、勝ったと思っていた。

 

 島は沈黙している。

 

 兵も、島民も、キリサメも、モズも、外から来た科学王国も、すべて石になった。

 

 鳥は羽ばたきの途中で止まり、木々は葉先まで灰色に固まり、浜辺には逃げかけた者たちが恐怖の姿勢のまま並んでいた。

 

 石化装置は、オオアラシの腹の中にある。

 

 イバラは、石化したオオアラシの体を見下ろした。

 

「悪いねえ」

 

 声には、悪いと思っている響きがなかった。

 

 彼は石斧を振り下ろした。

 

 乾いた破砕音。

 

 石化した腹部が割れる。

 

 中から、小さな装置が転がり落ちた。

 

 石化装置。

 

 世界を止める力。

 

 イバラはそれを拾い上げ、口元を歪めた。

 

「これさえあれば、何度でもやり直せる」

 

 その時だった。

 

「――やり直し、ですか」

 

 声がした。

 

 イバラは振り向いた。

 

 誰もいない。

 

 石像しかない。

 

 だが、声は確かに聞こえた。

 

 穏やかで、礼儀正しく、不快なほど冷静な声。

 

 ボンドルドの声だった。

 

「……何だ」

 

 イバラは周囲を見回す。

 

 黒と濃紺の装甲をまとった異形の探窟家は、広場の端で石になっている。動かない。声など出せるはずがない。

 

 それでも、声は続いた。

 

「石化装置の回収、お見事です。ただし、オオアラシさんの破損状況は深刻ですね。復活時の修復限界を検証するには、興味深い標本です」

 

「黙れ」

 

 イバラは、自分の耳を押さえた。

 

 声は外からではない。

 

 内側からする。

 

 頭蓋の裏側に、細い針が触れているような感覚。

 

「まさか……お前、何をした」

 

「ご安心ください。完全な転移ではありません」

 

 声は穏やかだった。

 

「私の本体は石化しています。これは、ごく小さな観測用の残響です。あなたに触れられた時、ほんの少しだけ、置かせていただきました」

 

 イバラは、腕を見た。

 

 以前、ボンドルドを殴った時に石化し、復活しかけ、また血が滲んだ場所。

 

 そこに、小さな黒い針のようなものが刺さっていた。

 

 痛みはなかった。

 

 だから気づかなかった。

 

「貴様……!」

 

「ゾアホリックの断片です。本来の機能には遠く及びません。意識の完全移植も、身体の支配もできない。ただ、感覚の端に、私の観察を残す程度です」

 

「化け物が!」

 

「分類上は人間です」

 

 イバラは針を抜こうとした。

 

 指先が震える。

 

 抜けばいい。

 

 ただの針だ。

 

 だが、石化装置を持つ手が重い。

 

 声が、彼の思考に触れてくる。

 

「急がないのですか。千空さんは、復活している可能性があります」

 

 イバラの動きが止まった。

 

「何?」

 

「彼は、石化波の到達時間を測っていました。復活液を持っていた。あなたは、彼が自分を戻す手順を作っていた可能性を考えるべきです」

 

「そんなことが……」

 

「できます」

 

 断言だった。

 

「彼なら」

 

 イバラは汗をかいた。

 

 勝ったはずだった。

 

 島ごと石にした。

 

 全員を止めた。

 

 なのに、あの科学者だけは、まだ生きているかもしれない。

 

 ボンドルドの声が、やさしく囁く。

 

「確認しましょう。生き残りがいるなら、最初に動くのはどこか。モバイルラボです。復活液です。通信機です。そして、石化装置を取り返しに来る」

 

「黙れ……黙れ……!」

 

「私は、あなたの味方ではありません」

 

「知っている!」

 

「ですが、あなたが彼を探せば、私は観測できます」

 

 イバラは、ようやく理解した。

 

 この声は助言ではない。

 

 呪いでもない。

 

 観察器具だ。

 

 自分の焦り、判断、恐怖、行動。

 

 すべてが、石になったはずの男に見られている。

 

「殺してやる……!」

 

「私を砕くのは有効です。ただし、千空さんが私の石像を必要としている場合、彼は必ず回収を試みます。そこも罠にできます」

 

 イバラは笑い出した。

 

 乾いた、壊れかけた笑いだった。

 

「いいだろう。お前も、千空も、まとめて壊してやる」

 

「それは残念です」

 

 ボンドルドの声は、少しも残念そうではなかった。

 

   *

 

 千空は、まず龍水を戻した。

 

 龍水は復活した瞬間、状況を聞く前に立ち上がった。

 

「船は!」

 

「石だ」

 

「装置は!」

 

「イバラが持ってる」

 

「なら取り返す!」

 

「話が早えな」

 

 次にクロム。

 

 彼は復活直後に、地面に残された数字を見て青ざめた。

 

「これ、ボンドルドが書いたのか」

 

「ああ」

 

「腹立つくらい使えるな」

 

「腹立つくらいな」

 

 次にフランソワ。

 

 彼らは、復活直後から一切取り乱さず、水、食料、負傷者確認の段取りを始めた。

 

 そしてコハク。

 

 石が割れた瞬間、彼女は槍を探した。

 

「イバラは」

 

「生きてる。装置持ちだ」

 

「ボンドルドは」

 

「石のまま」

 

 コハクは一瞬だけ黙った。

 

「そのままでよい」

 

「今はな」

 

 千空は短く言った。

 

 復活液は少ない。

 

 全員を戻す余裕はない。

 

 だからこそ、順番が重い。

 

 クロムが言った。

 

「ボンドルドを戻せば、イバラの動き読めるんじゃねえか?」

 

「戻さねえ」

 

 千空は即答した。

 

「あいつは石化装置が目の前にある状況で戻したら、百億パー何かやる」

 

「じゃあ、どうする」

 

 龍水が笑った。

 

「使うんだろう? 石のまま」

 

 千空は、ボンドルドの石像を見た。

 

 仮面の一部が欠け、左腕は焦げ、指先は地面へ文字を刻んだ姿勢で止まっている。

 

 黙っている。

 

 だが、まだ盤面にいる。

 

「こいつは、石になった後も情報を置いてる」

 

 千空は言った。

 

「つまり、イバラ側にも何か置いてる可能性がある」

 

 ゲンがいれば、嫌そうな顔をしただろう。

 

 その役を、クロムがやった。

 

「え、何それ。石になっても裏切れるってことかよ」

 

「ボンドルドならな」

 

 コハクが低く言った。

 

「本当に最低だな」

 

「最低ってのは、使える時がある」

 

 千空は、ボンドルドの石像の周囲を調べた。

 

 血。

 

 焼けた装甲片。

 

 スパラグモスの残骸。

 

 そして、仮面の内側から抜け落ちた、ごく細い黒い針。

 

 千空の目が細くなる。

 

「……ゾアホリックか」

 

 クロムが聞く。

 

「何だそれ」

 

「こいつのヤバい遺物だ。意識を他人に分ける。完全版なら、身体ごと乗り換えられる」

 

「はあ!?」

 

「安心しろ。ここにあるのは断片だ。完全な装置じゃねえ。だが……」

 

 千空は、黒い針を竹ピンセットで持ち上げた。

 

「イバラに同じのを刺してたら、最悪だ」

 

 コハクが即座に言う。

 

「操れるのか」

 

「完全には無理だろう。だが、声くらいは届くかもしれねえ。視覚か、感覚か、思考の端か」

 

 龍水が笑みを深くした。

 

「つまり、イバラは今、ボンドルドの声を聞いているかもしれんと」

 

「そうだ」

 

「最高に最悪だな!」

 

「笑うな。いや、笑っていい。最悪すぎて使える」

 

 千空は、すぐに作戦を切り替えた。

 

「イバラは焦る。ボンドルドの声が本当に届いてるなら、俺が生きてる可能性を吹き込まれてる。なら、確認しに来る」

 

「どこへ?」

 

 クロムが聞く。

 

「モバイルラボだ」

 

   *

 

 イバラは、モバイルラボを見つけた。

 

 森の陰。

 

 車輪の跡。

 

 石化を逃れた痕跡。

 

 彼は笑った。

 

「いるんだろう、千空」

 

 返事はない。

 

 だが、声が内側から言う。

 

「左です」

 

 イバラは反射的に左を見た。

 

 何もない。

 

 その瞬間、右から小さな土器が飛んだ。

 

 割れる。

 

 中から、刺激臭の煙。

 

「ぐっ……!」

 

 イバラは後退した。

 

 千空の声がした。

 

「よお、イバラ」

 

 岩の上に、千空が立っていた。

 

 白く荒れた石化痕を残した顔。

 

 手には、復活液ではない。

 

 小さな罠の紐。

 

「まさか、本当に生きてるとはねえ」

 

 イバラは笑った。

 

 だが、その笑みは歪んでいる。

 

「お前、何をした」

 

「科学だ」

 

「そればかりだね」

 

「便利だからな」

 

 イバラは石化装置を掲げる。

 

「なら、もう一度石になれ」

 

「やってみろよ」

 

 千空は動かない。

 

 距離。

 

 時間。

 

 石化装置の命令には、それが必要だ。

 

 イバラは測った。

 

 千空までの距離。

 

 逃げ道。

 

 風。

 

 だが、その時、また声がした。

 

「近すぎます」

 

「黙れ!」

 

 イバラは叫んだ。

 

 千空の目が鋭くなる。

 

 聞こえた。

 

 イバラは、誰かに向かって怒鳴った。

 

 誰もいない場所へ。

 

「当たりか」

 

 千空が呟く。

 

 イバラは歯を剥いた。

 

「ボンドルド……あの化け物が、頭の中で喋る……!」

 

 千空は一瞬だけ黙った。

 

 そして、心底嫌そうに笑った。

 

「やりやがったな、あいつ」

 

「お前の仲間だろう!」

 

「違う。あれは災害だ」

 

 イバラは石化装置を握りしめる。

 

「なら、お前ごと消す」

 

 彼は叫ぼうとした。

 

 距離と時間を。

 

 その前に、千空が紐を引いた。

 

 足元が崩れる。

 

 落とし穴ではない。

 

 浅い。

 

 ただし、イバラの姿勢を崩すには十分だった。

 

 石化装置の向きがずれる。

 

 命令が途切れる。

 

 イバラは転がりながら、歯を食いしばった。

 

「この程度で!」

 

 彼は跳ね起きた。

 

 その動きは速い。

 

 年寄りの動きではなかった。

 

 石化装置を再び構える。

 

 千空は逃げる。

 

 イバラが追う。

 

 森を抜ける。

 

 崖へ向かう。

 

 そこは、波が砕ける断崖だった。

 

   *

 

 龍水は、別の場所で待っていた。

 

 小型のドローン。

 

 粗いが、飛ぶ。

 

 ワイヤー。

 

 通信具。

 

 耳元へ音を届ける小さな装置。

 

 クロムが震える手で最後の調整をしている。

 

「これ、マジで飛ぶのか?」

 

「飛ばすんだ」

 

 龍水は笑った。

 

「俺が欲しいのは勝利だ。なら、空だろうが糸だろうが手繰る!」

 

 コハクが崖の方を見た。

 

「千空が来る」

 

「イバラもな」

 

 龍水は操縦桿を握る。

 

「奴が装置を投げた瞬間、掴む」

 

「外したら?」

 

「外さない」

 

 その時、足元に転がっていた黒い装甲片が、風で少し動いた。

 

 クロムが眉をひそめる。

 

「これ、ボンドルドのやつだよな」

 

「ああ」

 

 龍水が拾い上げる。

 

 裏に、刻みがあった。

 

 文字ではない。

 

 矢印。

 

 風向き。

 

 崖の上昇気流。

 

 ドローンの補正角。

 

 クロムが青ざめる。

 

「いつ書いたんだよ……」

 

「石になる前だろうな」

 

 龍水は笑った。

 

「本当に、最悪の男だ」

 

「使うのか」

 

「使う」

 

 龍水は即答した。

 

「勝つためにな」

 

   *

 

 崖の上。

 

 千空は追い詰められていた。

 

 背後は海。

 

 前にはイバラ。

 

 イバラの手には石化装置。

 

「終わりだねえ」

 

 イバラは笑った。

 

「お前は賢い。だが、逃げ場がない」

 

 千空は肩で息をしていた。

 

「逃げ場ならある」

 

「海へ飛ぶかい?」

 

「似たようなもんだ」

 

 イバラが石化装置を掲げた。

 

 その瞬間。

 

 声がした。

 

 ボンドルドの声。

 

「右上です」

 

 イバラは反射的に右上を見た。

 

 何もない。

 

 いや、遅れてドローンが現れた。

 

 だが、イバラは見てしまった。

 

 右上を。

 

 その一瞬で、千空が動く。

 

 石化装置を掴もうとする。

 

 イバラは笑った。

 

「読んでるよ!」

 

 彼は逆に腕を引き、装置を空中へ投げた。

 

 命令を叫ぶ。

 

 距離。

 

 時間。

 

 千空を呑むだけの小さな範囲。

 

 だが、ドローンが滑り込む。

 

 龍水の操縦。

 

 ボンドルドの風向き補正。

 

 クロムの調整。

 

 コハクが張ったワイヤー。

 

 装置に、小さな通信具が触れた。

 

 龍水が叫ぶ。

 

「掴んだ!」

 

 イバラの目が見開かれる。

 

 千空は、通信具へ向けて声を放った。

 

 距離。

 

 時間。

 

 イバラだけを呑む数字。

 

 だが、イバラは即座に反応した。

 

 帽子を投げ、ワイヤーへ絡める。

 

 装置の軌道が変わる。

 

 千空の声が届く前に、装置が遠ざかる。

 

「惜しかったねえ!」

 

 イバラが笑う。

 

 その瞬間、彼の内側で、ボンドルドの声がした。

 

「今です」

 

「黙れ!」

 

 イバラは叫んだ。

 

 その叫びが、通信具に拾われた。

 

 不完全な音。

 

 だが、千空は聞いた。

 

 イバラが、もう一つの声に反応している。

 

 ならば。

 

 千空は叫んだ。

 

「ボンドルド!」

 

 石像の男に向けてではない。

 

 イバラの中に刺さった、断片へ向けて。

 

「聞こえてんなら、黙ってろ!」

 

 数秒。

 

 世界が静かになった。

 

 イバラの頭の中から、声が消えた。

 

 完全な沈黙。

 

 それが、かえってイバラを狂わせた。

 

 今まで煩わしかった声が、突然消えた。

 

 頼ってなどいない。

 

 だが、警戒していた対象が消えた瞬間、人間は一拍遅れる。

 

 千空は、その一拍を待っていた。

 

「龍水!」

 

「欲しかったぞ、その一瞬!」

 

 ドローンがもう一度跳ねる。

 

 ワイヤーが装置を絡める。

 

 通信具が、装置に触れる。

 

 千空が叫ぶ。

 

 距離。

 

 時間。

 

 イバラを呑む、小さな緑の輪。

 

 今度は届いた。

 

 イバラの目が見開かれる。

 

「な……」

 

 彼は逃げようとした。

 

 だが、遅い。

 

 緑の光が、足元から上がる。

 

 膝。

 

 腰。

 

 胸。

 

 喉。

 

 顔。

 

 イバラは、最後に自分の腕を見た。

 

 そこに刺さっていた黒い針が、石化の直前にぽろりと落ちる。

 

 ボンドルドの断片。

 

 最後の声は、誰にも聞こえなかった。

 

 ただ、イバラだけが聞いた。

 

「観測、ご協力ありがとうございました」

 

 イバラは、憎悪の顔のまま石になった。

 

   *

 

 崖に、波の音だけが残った。

 

 千空はその場に座り込んだ。

 

 龍水が笑いながら駆け寄る。

 

「勝ったな!」

 

「ギリギリだ」

 

「ギリギリも勝ちは勝ちだ!」

 

 クロムは腰を抜かしている。

 

「マジで……マジで勝った……」

 

 コハクは、石化したイバラを見た。

 

 そして、足元の黒い針を拾おうとした。

 

「触るな」

 

 千空が止める。

 

「それは、ボンドルドの一部だ」

 

 コハクは手を引く。

 

「一部?」

 

「意識の断片。完全じゃねえ。だが、イバラの頭に声を入れてた」

 

 クロムが顔を青くする。

 

「つまり、あいつ、石になってても戦ってたのか?」

 

「戦ってたんじゃねえ」

 

 千空は言った。

 

「実験してた」

 

 龍水が笑みを消す。

 

「イバラを操ったのか」

 

「操りきってはいねえ。囁いて、焦らせて、反応を見てた」

 

「十分に最悪だな」

 

「ああ」

 

 千空は黒い針を、竹筒の中へ落とした。

 

 封をする。

 

「これで、ゾアホリック断片は回収。二度と勝手に使わせねえ」

 

 コハクは、広場の方を見た。

 

「ボンドルドを復活させるのか」

 

「最後だ」

 

 千空は言った。

 

「キリサメ、モズ、島民、船員。全員の安全を確保してからだ」

 

「そして?」

 

「檻を作る」

 

 龍水が言う。

 

「ただの檻では足りんぞ」

 

「わかってる」

 

 千空は、石化したイバラを見た。

 

 そして、遠くに立つボンドルドの石像を見た。

 

 勝った。

 

 イバラには。

 

 だが、ボンドルドには勝っていない。

 

 あの男は、石になりながら、イバラの中に声を残し、最終戦の盤面に干渉した。

 

 敵を利用し、味方を利用し、自分の石化すら利用した。

 

 それは忠誠ではない。

 

 裏切りでもない。

 

 もっとたちが悪い。

 

 科学そのものを、自分の居場所にしている。

 

   *

 

 夜明け。

 

 千空たちは、石化したイバラを安全な場所へ移した。

 

 石化装置も回収した。

 

 ドローンは壊れかけていたが、仕事は終えていた。

 

 龍水は満足げに言った。

 

「これで宝島は落ちた」

 

「落としたんじゃねえ」

 

 千空は言った。

 

「解放するんだよ」

 

「同じようで違うか」

 

「違う」

 

 まず、クロムが復活液の増産準備を始める。

 

 フランソワが水と食料を整える。

 

 コハクとアマリリスが、島民の石像の安全を確認する。

 

 ソユーズは、父の石像の前で膝をついていた。

 

 そして千空は、最後にボンドルドの石像の前に立った。

 

 仮面の欠けた異形の探窟家。

 

 左腕は焼け、胸元には隠し管の跡。

 

 地面には、まだ薄く文字が残っている。

 

 ――次は、もっと良い手順に。

 

 千空は言った。

 

「次はねえ」

 

 石像は答えない。

 

「だが、復活はさせる」

 

 コハクが眉をひそめる。

 

「なぜだ」

 

「こいつの頭がいる。石化装置、ゾアホリック断片、スパラグモスの残骸。全部、管理するには本人から情報を引き出す必要がある」

 

「また使うのか」

 

「使う」

 

 千空は即答した。

 

「だが、自由にはしねえ」

 

 彼は新しい板に書いた。

 

 ボンドルド復活条件。

 

 一、両腕拘束。

 二、装甲全解除。

 三、未開示装備の全提出。

 四、ゾアホリック断片の有無を確認。

 五、石化装置への接触禁止。

 六、復活直後、千空・龍水・コハク・クロム・フランソワ立会い。

 七、会話は記録。

 八、違反時、即時再石化。

 

 クロムが呟いた。

 

「マジで檻だな」

 

「檻じゃ足りねえ」

 

 千空は言った。

 

「これは、実験室だ」

 

 その時、石像の足元に、もう一つ小さな文字があることに気づいた。

 

 石化の直前、右足で刻んだらしい。

 

 千空は顔を近づける。

 

 そこには、こうあった。

 

 ――復活条件案。おおむね同意します。

 

 千空は、しばらく黙った。

 

 そして、心底嫌そうに笑った。

 

「聞いてもねえのに、先に同意してんじゃねえよ」

 

 龍水が腹を抱えて笑った。

 

「最高だな! 檻に入る条件まで商談している!」

 

 コハクは笑わなかった。

 

「やはり危険すぎる」

 

「ああ」

 

 千空は、復活液の瓶を持ち上げた。

 

「だから、こっちのルールで戻す」

 

 悪魔はまだ石のまま。

 

 だが、石化装置を巡る宝島の戦いは終わり、次の戦いが始まろうとしていた。

 

 相手はイバラではない。

 

 石化装置でもない。

 

 科学王国の内側に置くことになる、最悪の科学者だった。

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