石の世界に祝福を   作:stein0630

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第17話 月からの命令

 

 

 最初に戻されたのは、龍水だった。

 

 次にクロム。

 

 フランソワ、コハク、律、大樹。

 

 船員たち。

 

 島民たち。

 

 キリサメ。

 

 オオアラシ。

 

 石だったものが、人へ戻っていく。

 

 誰かが泣き、誰かが怒り、誰かが膝から崩れ、誰かが空を見上げた。

 

 石化解除は奇跡ではない。

 

 科学だ。

 

 だが、それでも奇跡と呼びたくなる光景だった。

 

 ソユーズは、父の石像の前で膝をついていた。

 

 長く忘れていた記憶が、目の前の顔と結びついていく。

 

「……父さん」

 

 千空は、その背中を少し離れて見ていた。

 

 今すぐ全員を戻したい。

 

 だが、復活液は有限だ。

 

 白金が必要だった。

 

 百物語に残された、宇宙飛行士たちからの宝。

 

 その箱を開けた時、クロムは息を呑んだ。

 

「これが……白金?」

 

「プラチナだ」

 

 千空の声には、抑えきれない熱があった。

 

「こいつがあれば、硝酸が作れる。復活液が量産できる」

 

 龍水が笑った。

 

「つまり、世界中の石像を買い戻す鍵だな!」

 

「買うな。戻すんだよ」

 

 ゲンが肩をすくめる。

 

「龍水ちゃんの辞書だと、だいたい買うになるんだよね」

 

 その時、後ろから声がした。

 

「素晴らしい成果です」

 

 全員が振り向いた。

 

 黒と濃紺の装甲。

 

 異形の仮面。

 

 両腕を拘束され、装甲の大半を剥がされ、背中には太い縄。首には木製の枷。腰の周りには、千空が即席で作った札が下がっていた。

 

 危険物。勝手に開封禁止。

 

 クロムの字で、横に小さく追記されている。

 

 ※しゃべります。

 

 ボンドルドは、その札に気づいているのかいないのか、いつも通り穏やかだった。

 

「復活して早々、札つきとは光栄です」

 

「光栄に思うな」

 

 千空は言った。

 

「本来なら、当分石のままにしたかったんだがな」

 

「私の知識が必要になった」

 

「腹立つことにな」

 

 復活の時、条件はすべて守られた。

 

 両腕拘束。

 

 装甲全解除。

 

 未開示装備の提出。

 

 ゾアホリック断片の確認。

 

 石化装置への接触禁止。

 

 会話記録。

 

 違反時、即時再石化。

 

 ボンドルドは、その条件を聞いて頷いただけだった。

 

「よく整理されています」

 

 その一言で、コハクが槍を握り直した。

 

 今の彼に、冗談を受け流す余裕はなかった。

 

   *

 

 石化装置は、木箱の中に保管された。

 

 箱は三重。

 

 一層目は木。

 

 二層目は油を塗った革。

 

 三層目は竹と布で作った衝撃吸収材。

 

 箱の周りには、さらに音を遮るための厚布。

 

 千空は言った。

 

「音声命令で動く可能性がある。だから、近くで距離と時間っぽい数字を口にすんな」

 

 クロムが頷く。

 

「つまり、“何メートル何秒”みたいなの禁止ってことか」

 

「そうだ」

 

 ゲンが笑った。

 

「日常会話で急に言っちゃいそうで怖いね。『このパン、三メートル先に一秒で投げて』とか」

 

「言うな」

 

「はい」

 

 ボンドルドは箱を見ていた。

 

「音を遮るだけでは不十分かもしれません」

 

「理由」

 

「装置が音圧そのものではなく、音声パターンや意味情報に反応している可能性があります」

 

「意味を理解してるってのか?」

 

 クロムが言う。

 

「可能性です。距離と時間を指定しているなら、単なる振動より複雑です」

 

 千空は頷いた。

 

「そこは同感だ。だが、今は触らせねえ」

 

「もちろんです」

 

「もちろん、って顔で触るタイプだから言ってんだよ」

 

「顔は仮面で見えないはずですが」

 

「声が触りたがってる」

 

 ゲンが小さく笑った。

 

「声が触りたがってる、は名言」

 

 フランソワは静かに記録していた。

 

 ボンドルドの発言は、すべて記録対象になっている。

 

 彼が提案する。

 

 千空が採否を決める。

 

 フランソワが残す。

 

 コハクが見張る。

 

 クロムが「それヤバくね?」と叫ぶ。

 

 この流れが、宝島での新しい安全手順になりつつあった。

 

 誰も嬉しくはなかった。

 

 だが、有効だった。

 

   *

 

 ソユーズの父が復活した。

 

 島民たちは泣き崩れた。

 

 キリサメは、初めて頭首の前で膝をつき、声を震わせた。

 

「申し訳、ありません……私は……」

 

 頭首は、ゆっくりと彼女の肩に手を置いた。

 

 言葉は少なかった。

 

 だが、島の空気は変わった。

 

 イバラの支配が終わったのだと、誰もが理解した。

 

 ソユーズは、新しい島の中心に立たされた。

 

 本人は戸惑っていた。

 

「俺が……?」

 

 龍水が豪快に笑う。

 

「欲しがれ、ソユーズ! お前の島だ!」

 

「欲しがるって、そういう……」

 

 ゲンが肩をすくめる。

 

「龍水ちゃん式激励だと思って流して」

 

 千空は言った。

 

「お前が全部背負う必要はねえ。だが、島の連中にとっては、お前が橋になる」

 

 ソユーズは、少しずつ頷いた。

 

 その後ろで、ボンドルドが呟く。

 

「正統性の再接続。支配構造の更新としては理想的です」

 

 コハクの槍が、すっと動いた。

 

「今くらい黙れ」

 

「はい」

 

 本当に黙った。

 

 それが逆に、周囲を落ち着かなくさせた。

 

   *

 

 イバラは、復活されなかった。

 

 彼だけは、石のまま保管された。

 

 島民の多くは、それを当然だと思った。

 

 キリサメは何も言わなかった。

 

 ソユーズは長く石像を見て、最後に目を伏せた。

 

 千空も、復活液をかけようとはしなかった。

 

「珍しいですね」

 

 ボンドルドが言った。

 

「あなたは全員を救うとおっしゃっていた」

 

「今はな」

 

 千空は短く答えた。

 

「今、戻せば混乱を生む。島民の判断も必要だ。こいつの復活は、罰じゃなく管理の問題だ」

 

「管理」

 

「テメーの好きな言葉だろ」

 

「はい。ですが、あなたが言うと意味が変わる」

 

「変えてんだよ」

 

 ボンドルドは、イバラの石像を見た。

 

「彼を部分的に復活させれば、石化装置の運用情報を得られます」

 

 空気が凍った。

 

 千空の目が冷える。

 

「部分的に?」

 

「声帯、聴覚、必要最低限の意識。四肢は石化のまま。逃走不能。質問は可能です」

 

 コハクが槍を突きつけた。

 

「それを尋問と呼ぶのだ」

 

「はい」

 

「しかも、身体を石のままにして」

 

「安全性を考慮すれば有効です」

 

 ボンドルドは、あまりにも自然に答えた。

 

「本人の同意は」

 

 フランソワが静かに聞いた。

 

「得られません」

 

「であれば、却下でございます」

 

 ボンドルドはフランソワを見る。

 

「あなたは明確ですね」

 

「人を扱う時ほど、明確でなければなりません」

 

「同意します。ただし、私は別の結論へ行きます」

 

「存じております。ですので、あなたには監視が必要でございます」

 

 龍水が笑った。

 

「フランソワが言うと、裁判の判決みたいだな!」

 

 千空はイバラの石像から離れた。

 

「部分復活尋問は却下。記録しとけ」

 

 フランソワが記録する。

 

 ボンドルドは、素直に頷いた。

 

 だが、その目はまだイバラを見ていた。

 

 千空は、それを見逃さなかった。

 

「考えるなよ」

 

「考えるだけなら」

 

「やめろ」

 

「では、保留します」

 

「保留もすんな」

 

   *

 

 通信機が直ったのは、その夜だった。

 

 クロムと千空が組み直し、島の材料で補強し、船の残骸から使える部品を拾い上げた。

 

 ルリとの通信が戻る。

 

 村の声。

 

 日本本土の声。

 

 それは、宝島での勝利を実感させるものだった。

 

 だが、喜びは長く続かなかった。

 

 雑音が入った。

 

 ザザ。

 

 ザ、ザザザ。

 

 千空の顔が変わる。

 

 クロムが叫ぶ。

 

「またか!?」

 

 通信機の向こうから、声がした。

 

 いや、声というより、機械が人間の声を真似たもの。

 

 しかも、その声は。

 

 千空の声だった。

 

 距離。

 

 時間。

 

 地球を丸ごと呑む数字。

 

 部屋が凍りつく。

 

 石化装置は、箱の中だ。

 

 厚布で覆われている。

 

 だが、全員が一斉にそちらを見た。

 

「まさか、遠隔命令……?」

 

 クロムの声が震える。

 

 千空は箱へ走る。

 

「全員、耳を塞げ!」

 

 コハクが箱へ飛ぶ。

 

 龍水が叫ぶ。

 

「布を増やせ!」

 

 フランソワは即座に水で濡らした厚布を持ってくる。

 

 しかし、最も早く動いたのはボンドルドだった。

 

 拘束されたまま、身体を倒すように箱へ向かった。

 

 コハクが槍を向ける。

 

「動くな!」

 

「箱を完全に塞いではいけません」

 

「何?」

 

 ボンドルドの声には、いつもの穏やかさの底に、明確な熱があった。

 

「反応を見なければ」

 

「ふざけるな!」

 

 コハクの槍が喉元に触れる。

 

 千空が叫ぶ。

 

「完全遮音だ! 今は観測より安全優先!」

 

 ボンドルドは、一瞬だけ沈黙した。

 

 それから頷いた。

 

「承知しました」

 

 その返事が、早すぎた。

 

 千空は違和感を覚えた。

 

 箱が厚布で覆われる。

 

 音が遮断される。

 

 通信機の声は、なお続く。

 

 千空の声で、世界を石にしろと命じている。

 

 だが、何も起きない。

 

 石化装置は沈黙している。

 

 クロムが息を吐く。

 

「止まった……のか?」

 

 千空は箱を見た。

 

「いや。反応しなかった。電池切れか、遮音が効いたか、命令条件が合わなかったか」

 

 ボンドルドが静かに言う。

 

「いいえ」

 

 全員が彼を見る。

 

「装置は反応しかけました」

 

 千空の顔が変わる。

 

「なぜわかる」

 

「箱の内側に、微細な振動がありました」

 

「見えたのか?」

 

「いえ」

 

 ボンドルドは、自分の袖口を見た。

 

 拘束具の隙間から、細い黒い糸が一本、箱へ向かって伸びていた。

 

 コハクが即座に切った。

 

「何をした!」

 

「接触式の振動記録糸です。危険はありません」

 

「許可した覚えはない!」

 

「許可を求めれば、却下されたでしょう」

 

 千空の声が低くなる。

 

「テメー……」

 

「遠隔命令が成立するかどうかは、極めて重要でした」

 

「世界が石になる可能性があったんだぞ」

 

「はい」

 

「それでも記録したのか」

 

「はい」

 

 沈黙。

 

 次の瞬間、大樹がボンドルドの胸倉を掴んだ。

 

 装甲を剥がされているため、布が軋む。

 

「お前……!」

 

 大樹の声は怒りで震えていた。

 

「みんなが石になるかもしれなかったんだぞ!」

 

「だから記録しました」

 

「違う!」

 

 大樹の拳が震える。

 

 殴れば、ボンドルドは倒れる。

 

 だが、大樹は殴らなかった。

 

 千空が言った。

 

「大樹、離せ」

 

「でも!」

 

「離せ。殴る価値もねえ」

 

 大樹は歯を食いしばり、手を離した。

 

 ボンドルドは、乱れた襟を直した。

 

「装置は遠隔音声に反応し得る。ただし、発動には至らなかった。理由は、出力不足、劣化、遮音、または条件不一致」

 

「そのデータを取るために、全員を危険に晒した」

 

「危険は管理しました」

 

「管理してねえ。隠した」

 

 千空は近づく。

 

「これで違反二回目だ」

 

「記録してください」

 

「言われなくてもな」

 

 フランソワは、無言で記録板に書き込んだ。

 

 ボンドルド、無許可で石化装置に振動記録糸を接続。

 

 目的、遠隔命令反応の観測。

 

 重大違反。

 

 ボンドルドは、それを横目で見て言った。

 

「字が美しいですね」

 

「黙れ」

 

 フランソワが即答した。

 

 その静かな怒りに、クロムが少しだけ怯えた。

 

   *

 

 通信機の声は、やがて途切れた。

 

 部屋は、しばらく沈黙したままだった。

 

 ゲンがぽつりと言う。

 

「これ、つまり……敵は石化装置を遠隔で動かそうとしたってことだよね」

 

 千空は頷く。

 

「ああ。しかも、俺の声を使ってな」

 

「気持ち悪っ」

 

「気持ち悪いどころじゃねえ。こいつは、石化装置の仕様を知ってる。通信で命令できる可能性も知ってる。地球まるごと指定する数字も知ってる」

 

 クロムが顔を青くする。

 

「じゃあ、石化の黒幕か?」

 

「少なくとも、関係者だ」

 

 ボンドルドが言った。

 

「月です」

 

 全員が彼を見る。

 

「なぜだ」

 

 千空が問う。

 

「電波の方向性、遅延、強度、そして地上に残る発信源の不足。確定ではありませんが、地球外からの信号と見るべきです」

 

「飛ばしすぎだ」

 

「はい。仮説です」

 

 千空は、通信記録を見る。

 

 地球外。

 

 月。

 

 それは突飛だ。

 

 だが、この世界で最も突飛なことは、もう起きている。

 

 全人類の石化。

 

 ならば、月からの信号程度で驚いている場合ではない。

 

 龍水が笑った。

 

「ならば、次の目的地は月か!」

 

「気が早え」

 

 千空は言った。

 

「だが、最終目的地候補には入った」

 

 クロムが叫ぶ。

 

「月って、あの月だろ!? どうやって行くんだよ!」

 

「ロケットだ」

 

 千空は即答した。

 

 部屋が静まり返る。

 

 龍水だけが笑った。

 

「欲しいぞ、月!」

 

 ボンドルドは、月という言葉を聞いた瞬間、明らかに空気を変えた。

 

「ロケット」

 

 彼は静かに繰り返す。

 

「地上の文明再建から、宇宙へ」

 

「そうだ」

 

 千空は言った。

 

「黒幕が月にいるなら、月まで行く」

 

「素晴らしい」

 

 ボンドルドの声に、熱が混じった。

 

「人類の前進として、これ以上の道はない」

 

 コハクは彼を睨む。

 

「お前は乗せない」

 

「現時点では、そうでしょう」

 

「永遠にだ」

 

「永遠という条件は、科学の前では変わりやすい」

 

「変えさせない」

 

 千空はボンドルドを見た。

 

「テメーは当面、石化装置から十メートル以内に近づけねえ」

 

「十メートルですか」

 

「不満か」

 

「いいえ。距離が具体的なのは良いことです」

 

「その距離の外から何か仕込むなよ」

 

「では、二十メートルにしますか?」

 

「黙れ」

 

 少しだけ空気が緩んだ。

 

 だが、緩んだのは一瞬だった。

 

 フランソワが、記録板を閉じる。

 

「千空様。ボンドルド様の処遇を再検討すべきかと」

 

「だな」

 

 千空は言った。

 

「拘束を強化する」

 

 ボンドルドは穏やかに聞いた。

 

「再石化ではないのですね」

 

「ああ」

 

「理由は」

 

「テメーが今取ったデータが必要だからだ」

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言うな。吐かせるだけだ」

 

 ボンドルドは頷いた。

 

「では、取引です」

 

 コハクの槍が動く。

 

「まだ言うか」

 

「はい。私の処遇と引き換えに、遠隔命令反応の全データを提示します」

 

「全部吐かせるっつったろ」

 

「私が死蔵している解釈までは引き出せません」

 

 千空は笑った。

 

「自分の頭を人質にするの、何回目だよ」

 

「有効なので」

 

「最悪だな」

 

「よく言われます」

 

 千空は少し黙った。

 

 そして言った。

 

「条件を出せ」

 

「石化装置の観察権」

 

「却下」

 

「では、観察済みデータへのアクセス」

 

「共有記録なら許可」

 

「遠隔命令の再現実験」

 

「却下」

 

「遮音状態での模擬音声実験」

 

「検討」

 

「ゾアホリック断片の返却」

 

「却下。永久封印」

 

「スパラグモス残骸の確認」

 

「俺の監視下でなら一度だけ」

 

 ボンドルドは、そこで初めて満足したように頷いた。

 

「成立です」

 

「まだこっちが成立って言ってねえ」

 

 龍水が笑う。

 

「いや、成立だ。こいつは今、月への道に必要な毒だ」

 

「毒なら薄める」

 

 フランソワが言った。

 

「それでも毒であることに変わりはございません」

 

 千空は頷いた。

 

「薄めて、ラベル貼って、鍵かけて、必要な時だけ使う」

 

 ボンドルドは静かに言った。

 

「まるで薬品ですね」

 

「テメーは劇薬だ」

 

「適切です」

 

   *

 

 その夜、ボンドルドは新しい拘束室に移された。

 

 窓なし。

 

 装甲なし。

 

 道具なし。

 

 拘束具は二重。

 

 見張りは交代制。

 

 会話は記録。

 

 室内の壁には、クロムが書いた札が貼られた。

 

 仮面に話しかけられても、勝手に納得しない。

 

 ゲンが見て笑った。

 

「クロムちゃん、いい注意書き書くじゃん」

 

「大事だろ!」

 

「大事だね」

 

 ボンドルドは、その札を見て言った。

 

「実に実用的です」

 

「褒めんな!」

 

 千空は扉の前に立った。

 

「最後に一つ聞く」

 

「どうぞ」

 

「テメー、遠隔命令の瞬間、箱の遮音を完全にする前に反応取ったな」

 

「はい」

 

「仮に発動してたら?」

 

「島は再石化していた可能性があります」

 

「俺たちもか」

 

「はい」

 

「それを許容した」

 

 ボンドルドは、少しだけ黙った。

 

「遠隔命令が実際に装置へ干渉するかどうかは、人類の存続に関わる情報です」

 

「だから、全員危険に晒していいってか」

 

「いいとは言いません」

 

「思ってるだろ」

 

「必要であれば」

 

 千空は、扉の枠を握った。

 

 木が軋む。

 

「ボンドルド」

 

「はい」

 

「次に同じことしたら、俺はテメーを戻せない場所に封じる」

 

「殺さないのですか」

 

「殺さねえ」

 

「なぜ」

 

「テメーのやり方に寄るからだ」

 

 ボンドルドは黙った。

 

 千空は続ける。

 

「俺は人類を戻す。テメーみてえなやつも含めてな。ただし、自由にするとは言ってねえ」

 

「なるほど」

 

 ボンドルドの声は、ほんの少しだけ柔らかかった。

 

「それが、あなたの地獄ですか」

 

「あ?」

 

「救うと決めた相手が、救うに値しない行動を取り続けても、あなたは救う方法を探す」

 

 千空は答えなかった。

 

 ボンドルドは続ける。

 

「やはり、あなたは私よりもずっと残酷です」

 

「黙れ」

 

 千空は扉を閉めた。

 

 鍵がかかる。

 

 外では、月が出ていた。

 

 白く、遠く、静かに。

 

 その月のどこかから、何者かが石化装置へ命令を送った。

 

 人類をもう一度、石に戻そうとしている。

 

 科学王国は、宝島を越えた。

 

 次は世界だ。

 

 そして、その世界への航海には、鍵のかかった部屋の中で静かに笑う、最悪の科学者も乗っている。

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