添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜   作:鐘楼

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末っ子気質?

「甘露先輩、私も手伝います!」

 

 私の歓迎会を計画してくれていた甘露先輩といばら先輩は、なんとそのために二人で食材を買ってきてくれていたのだった。料理を作ってくれるらしい甘露先輩には、「希沙音ちゃんは座ってて」と言われてしまったものの、黙ってもてなされるだけというのも申し訳なかったし、なにより仲良くなれるチャンスだと思って、私は手伝いを買って出た。

 

「そう? 今日は希沙音ちゃんが主役なのに……いいの?」

「はい! 甘露先輩の料理、近くで見て参考にしたいので!」

「あら……希沙音ちゃんにそう言われたら、気合いが入っちゃうわ」

 

 そんな感じで、私は甘露先輩と一緒にキッチンに入った。深白さんは甘露先輩の料理の腕にかなりの信頼を置いているみたいだったので、楽しみだ。あ……そういえばそれを言われたのは、キッチンの説明を受けたときだっけ。

 

「あ……ここのキッチン、甘露先輩の私物も多いんですよね? 私、勝手に使っちゃったかも……」

 

 私が来るまで、高嶺荘で料理をするのは甘露先輩だけだったようなので、ここのキッチンはいわば甘露先輩の城だ。深白さんは自由に使っていいと言っていたけど、知らぬ間に他人に踏み入られた甘露先輩としてはあまり良い気分じゃないかも……なんて考えがよぎって、私は甘露先輩に頭を下げた。

 

「希沙音ちゃんは律儀ね」

 

 そんな私を見て、甘露先輩は……今度は優しく、私を抱きしめてくれた。そこまで深刻に謝ったつもりはないのに、甘露先輩はまるで叱られた子供をあやすような手つきで私の背中を撫でる。

 

「か、甘露先輩?」

「わたしね……嬉しいの。深白ちゃんもいばらちゃんも、すすんで料理はしないから……一緒に料理をしてくれる希沙音ちゃんみたいな子が来て。道具も、好きに使っていいからね」

「は、はい! 私も、一緒に料理をする相手なんていなかったので……甘露先輩がいてくれて嬉しいです!」

 

 お姉ちゃんは私に料理を任せっきりだったし、一緒に料理をするというのは私にとっても新鮮で楽しそうに思える。にしても……。

 

「……甘露先輩って、お姉ちゃんよりお姉ちゃんっぽいかもです……」

 

 率直に、思ったことが口に出る。……いや、私は私に頼りっぱなしのお姉ちゃんのことが好きなんだけどね!?

 

「……あら、お姉さんがいるの?」

「はい、そうなんです」

「納得ね。希沙音ちゃんの妹力もなかなかのものよ」

 

 そう言って、甘露先輩は私の頭を撫でてくれた。お姉ちゃんも昔はよくしてくれたけど、最近はしてくれなくなっていた、懐かしい感覚。

 

「えへへ……甘露お姉ちゃん! なんちゃって……」

「まあ! 先輩じゃなくて、普段からそう呼んでくれない?」

「それはちょっと恥ずかしいかもです……」

 

 私のおふざけを気に入ってくれたのか、甘露先輩が普段からお姉ちゃん呼びしてくれなんて冗談を言う。さすがにそれは恥ずかしいけど……そんな冗談を交わすくらいには仲良くなれた気がする……なんて思った、そんな時。

 

「ほんと、かわいい……」

「……甘露先輩?」

 

 変わらず私を撫でながら、甘露先輩がその目の色だけを変えた。その変化は一瞬だけだったけど、見つめられたらドキドキする、どこか危険な瞳。さっきまでの甘露先輩の、安心をくれる眼差しとは正反対のそれは、少し顔を出したかと思えばすぐに消えてしまった。

 

 甘露先輩はそのまま私を撫でるのをやめると、キッチンの棚を開けて準備を始めた。

 

「ふふっ、それじゃあ始めましょうか。希沙音ちゃん、腕に覚えがあるみたいだし、簡単な工程だけ……っていうのは、失礼になっちゃうわね」

「あ……はい! 任せてください!」

 

 そうして、私と甘露先輩の料理が始まって……甘露先輩の腕前に私もヒートアップして、歓迎会に相応しい四人前の料理を作り上げる、そんな楽しい時間があっという間に過ぎていった。

 

 

「お~! すげぇ美味そう……!」

「本当ですか? 深白さんに気に入ってもらえて良かったです!」

 

 並べられたご馳走に、深白さんが歓喜の声を上げる。お姉ちゃんもだけど、こうして喜んでもらえると、報われた気持ちになる。そのまま、深白さんが真っ先に手をつけようとして。

「深白。手は洗いましたか?」

「……へーへー。洗ってきますよー」

 

 いばら先輩の一言で、深白さんは素直に洗面所に駆けていった。その光景がなんだか不思議で、私は思わずいばら先輩に声をかけていた。

 

「いばら先輩……すごいです! 深白さんがあんなに素直に……」

「いえいえ。深白が素直で良い子、というだけのことです」

 

 そう言って、いばら先輩はにっこりと笑う。そういえばあの時も、いばら先輩たちは深白さんを良い子だと言っていたっけ。

 

「深白さんが良い子、ですかぁ……」

 

 私も、深白さんは良い人だと思うけど、まるで子供扱いするみたいに「良い子だ」なんて思ったこともない。年上だとそう感じるのかな……?

 

「……たしかに、貴方と比べてしまえば深白も悪ぶって見えるところがあるかもしれませんね」

「あ、えっとそれって……」

「褒めています。ただ……それもこれから、ですね」

「これから……?」

 

 いばら先輩の言葉の意味が分からず、なんとか理解しようと頭を働かせていると……不意に、いばら先輩が私の手を取ってすぐ側にまで寄ってきていた。ごく自然な動作で、まるで王子さまがお姫さまの手を取る時のような体勢になっていて、なぜだか顔が熱くなる。

 

「希沙音さん。私は……できることなら、隣人のことは愛していたい」

「愛す、って……」

「その為に。私は貴方を知っていきたい。これから触れる貴方の姿に、私は相応の愛を示しましょう」

「は、はい……」

 

 まただ。いばら先輩に見つめられると、まるで身体が固まってしまったみたい。身体が勝手に、いばら先輩の言葉に首肯する。……頷いちゃったけど、正直いばら先輩の言葉は分かりにくい。ええっと、『相応の愛』ってことは……つまり「貴方のことを好きになりたいから、それに足る姿を心がけろ」ってことかな。……え?

 

「い、いばら先輩! それってもし……私がいばら先輩に気に入られるような人間じゃなかったら、どうなっちゃうんですか!?」

 

 硬直も振り切って、私は浮かんだ危惧を口にした。深白さんもいばら先輩には要注意みたいなことを言っていた気がするし……もし疎まれちゃったら、凄絶な嫌がらせとか……!?

 

「そうですね……もしそうであったら」

 

 私の恐怖とは裏腹に、いばら先輩は妖艶な笑みを浮かべると、そのまま私の耳元まで顔を近づけてきた。そして、美声で囁かれた言葉が、私の頭へと攻め入ってくる。

 

「貴方のことを……私の愛せる形に変えてしまうかもしれません」

「~~~~っ」

 

 痺れてしまいそうな美声で、不思議な魔力を帯びた言葉が刻みつけられるような感覚に、私は──

 

「はい、そこまで」

「おや、深白」

 

 唐突に、戻ってきた深白さんによって私はいばら先輩から引き離された。

 

「全く油断も隙もない……希沙音、いばら先輩には気をつけろって言ったろ」

「あ……はい。ごめんなさい?」

 

 深白さんはそのまま私を自分の隣に座らせると、早速料理に手をつけ始める。見知った相手とはいえ、深白さんに話を中断させられていばら先輩は怒ってないかな……と、顔色を窺ってみる。

 

「……ふふっ」

 

 笑った……? 多分、深白さんを見て……いばら先輩は笑った。さっきの妖艶な笑みじゃなくて、すごく自然な微笑。こう……とても、嬉しそうだった。

 

「はい、これが最後の一品。それじゃあ……って、深白ちゃん! どうして主役の希沙音ちゃんより先に食べ始めてるの?」

「あ、すんません甘露さん」

「まぁまぁ! 私も温かい内に食べてほしいので!」

 

 キッチンから甘露先輩が戻ってきて、とうとう私の歓迎会は始まった。私も、自分のことを色々と話したけど……一番は、深白さんたちの仲の良さを知ることができた、そんな会だった。私も、早く本当の意味でここに馴染みたいと、強く思った。

 

「……ん? すいません、電話っす」

 

 だけど、その歓迎会も終わりに近づいた頃に、深白さんが立ち上がって電話を取った。

 

「……はぁ!? 飛んだ!? 待て、ほんとに連絡は……」

 

 電話をする深白さんはどんどん面持ちが悪くなっていって、やがて食卓から離れて本格的な話をするため扉の奥へと行ってしまったのだった。

 

「深白さん、どうしたんでしょうか……」

 

 私が心配でそう先輩たちに尋ねてみると、いばら先輩がコーヒーを味わいながら答えてくれた。

 

「深白はロックバンドのリーダーですから。おそらくは、そこに関連したトラブルでしょうね」

「あ……!」

 

 そういえば、由衣ちゃんが深白さんのファンになったきっかけもそのバンド活動なんだっけ。

 

 なんにせよ、深白さんのトラブルが無事に済むことを祈るばかりだった。

 

 

 

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