添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜   作:鐘楼

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「紹介する。代打の花平希沙音だ」

「花平希沙音です! よろしくおねがいします!」

 

 翌日、早速深白さんに連れて行かれたスタジオで、私は既に待機していた深白さんのバンド仲間に挨拶をする。頭を下げて、その後しばらく反応が返ってこないことに心細さを感じていると、やがてバンドの人が小声で……私ではなく、深白さんに話しかける声が聞こえてきた。

 

「ちょい深白……どっからこんなかわいい子連れてきた」

「別に、寮の新入りだよ」

「あの乱痴気寮の新入り……!?」

「らんちき言うな」

「あんな子兎みたいな子が猛獣の群れに……!?」

「誰が猛獣だ誰が」

「あの……?」

 

 私をそっちのけて会話を始める皆さんの様子を窺っていると、深白さんに耳打ちしていたバンドメンバーの人が急に私の側に寄ってきた。

 

「希沙音ちゃん……深白になにかされたら、いつでもうちに連絡してね……証拠を持って一緒に警察に行くから……」

「はい……?」

「なんの証拠だよ。っていうかなんでお前が証拠を持ってるんだよ」

 

 深白さんとそんなやりとりをして、私の側で面白そうに笑うその女性は、金髪に深白さんによく似たピアスを燦めかせる、かっこいい容姿をしている。だけど身に纏う雰囲気は底抜けに明るく感じられて、むしろ親しみやすさを覚える、素敵な人だと思った。

 

「改めて、うちはドラムの芳沢(よしざわ)巳遙(みはる)。よろしくやね、希沙音ちゃん……といっても、本当に深白の言う実力があるか次第だけど」

「がんばります!」

 

 巳遙さんの言うことは当然だ。深白さんたちが今まで積み上げていたバンドの看板を背負う以上、相応しい実力を示さなきゃならない。私に務まるという自信があるわけじゃないけれど、それを判断するのは巳遙さんたち。私は全力でやってみるだけだと、そういう覚悟は決めてきた。

 

「あの、ところで……メンバーは巳遙さんと深白さんだけなんですか?」

「そうね~、ベースに抜けられちゃったから、今は深白と二人だけ」

「今はここにいる二人で、『carse dony(カルセ・ドニー)』だな」

 

 『carse dony(カルセ・ドニー)』。それが深白さんたちのバンド。由衣ちゃんがファンなのは知ってるけど、どれほどの人気があるのか私は知らない。急にメンバーが替わって受け入れられるのかも分からないけど、深白さんの頼みならやってみるしかないんだ。

 

「それじゃ早速、テスト開始だ。希沙音、まず一人で……そうだな、まず得意な曲をやって、次に本番でやる曲の楽譜を渡すから、できる限りやってみてくれ」

「はい」

 

 ……不思議だ。いざ演奏するというのは久しぶりなのに、お姉ちゃんがくれたベースを触っているとあの頃の感覚がどんどんよみがえってくる。深白さんにあの時披露した曲の音源をかけてもらって、それに合わせて演奏をする。あの日に刻まれたテープをそのまま再生するみたいに、そのままの動きをなぞっていく。始まってしまえば、曲が終わるまであっという間だった。

 

「…………っ!」

「……希沙音、次。これなんだけど……まず楽譜を見ながら音源を聞いて、できると思ったら始めてくれ」

「分かりました」

 

 そうしてスマホに送られてきた楽譜のデータと、差し出されたイヤホンから鳴る音楽は、完全に未知のオリジナル。深白さんたちが作った曲だった。最初はついつい聞き入ってしまって、いい曲だなぁなんて思いながら再生が終わってしまった。気を取り直して、楽譜を目で追いながら集中して耳を澄ます。楽曲を下から支えるリズムを捉えると、音をトレースするように指が自ずと踊り出し、これを演奏する自分のイメージが構築されていく。

 

「やります」

「……分かった」

 

 二週目を聞き終わると、不思議と行けるような気がしてきた。早速深白さんに合図して、いよいよ実際の演奏を開始する。と言っても、先ほどの試聴で既に指は動いていて、違いは実際に音を鳴らすかどうかの差だけ。一つとして詰まることはなく、スムーズにリズムを刻みきることに成功する。

 

「ふぅ。どうでしたか?」

「…………深白、ほんとにどこで拾ってきたの?」

「別に、なんか転がってきたんだよ。……いるんだな、野良の天才」

「言い過ぎですよ……!」

 

 野良の天才、だなんて。買いかぶりすぎだ。これに関しては、お姉ちゃんの方が凄いんだから。

 

「ともかくもう文句はないだろ、巳遙?」

「ま~ね~……実際に合わせてみるまでお墨付きはあげられないけど、これなら一週間丸々

セッションに使えそうだし」

「恐縮です!」

 

 何はともあれ、私は巳遙さんからもバンドのピンチヒッターとして認められたみたいだ。

 

「いっそ、希沙音ちゃんのテクを活かしたアレンジ決めちゃったり? 夢が広がるわ~」

「いや、先にパフォーマンスだろ。もっと希沙音の顔が目立つパートをだな……」

「わ、私をそんなメインみたいに扱うつもりなんですか!?」

 

 

「それじゃ、希沙音ちゃんまたね~。いやぁ、逆に本番が楽しみになってきたよ」

「はい、おつかれさまです!」

 

 初日の練習を終え、巳遙さんと別れて深白さんと一緒に帰路につく。私は合わせの演奏でも三度目でなんとかリズムを合わせることができて、順調な滑り出しだと思う。これに関しては、私と巳遙さんが作ったリズムに乗りきってギターを奏で歌う深白さんがすごかった。普通は、新しいリズム隊にそう簡単に合わせられないだろう。お姉ちゃんじゃあるまいし。

 

「あ、そうだ。希沙音、これ」

「? これって……」

 

 不意に深白さんが紙切れを差し出してくる。受け取ってよく見てみると、それは今度のライブのチケットだった。

 

「本当はチケットノルマってのがあるんだけど……今回は気にしなくていいし、それもあたしの奢りだ。誰か誘いたい奴がいたら渡してやれ」

「わぁ~、ありがとうございます!」

 

 そうして、深白さんのサービスでライブチケットをもらった私は……当然、お姉ちゃんを誘おうと思った。

 

 だけど、メッセージアプリでそれとなく予定を聞いてみた結果、お姉ちゃんはその日都合がつかなくて……他の人にしなければいけなくなってしまった。

 

 学校の友達を急に誘うのも気が引けて、どうしたものかとメッセージアプリをスクロールして……最近追加されたあるアカウントに目が留まった。

 

 ……由衣ちゃん。松原由衣。彼女は元々、バンドマンとしての深白さんのファンだったはずだ。だから、元から今回のライブに来る予定なのかもしれないけど……それが無料となったら彼女も嬉しいはずだと、そう考えて私は由衣ちゃんに連絡をするのだった。

 

 

 




金特解説コーナー

変幻自在……リバ○の上位。
恋情不知……色を味わえど恋に結びつく気配はなく。他人の恋慕に鈍感になるが、決して惚れた弱み・執着を見せない。
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