添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜 作:鐘楼
寮に帰ってきた私は、今日までの一週間と少しについて思い返していた。深白さんと出会って、添い寝をお願いして……快く応じてくれた深白さんに、私は新しい『添い寝』を教わった。
……と、そう思っていたのだけど。
由衣ちゃんの言葉が切っ掛けで調べてみたところ、女性同士でも性行為は成立して、客観的に見て私は深白さんに襲われていたのだった。
初対面の相手に添い寝を頼んだ私も私だけど、一般的に考えて深白さんはとても悪いことをした……というのを認識した上で、私は深白さんに悪い感情を抱かなかった。
私は特に何も傷ついていないし、むしろあの日の夜も含めて深白さんと出会ってから幸せなことばかり。肝心のちゃんとした説明をしてくれなかったことに関しては思うところがないわけじゃないけど、深白さんは私の知らないことをたくさん教えてくれた。感謝してもしきれない相手だ。
「でも、問題は……」
そう、問題は私の方だ。深白さんに教わってからというもの、毎日のように添い寝じゃない『添い寝』を喜んでシてしまっているし、それに由衣ちゃんまで巻き込んでしまった。本当はこういうこと、恋人とだけするべきものであって……無闇に友達とするのは良くない、んだと思う。
だけど、それでももう、私は──
「……希沙音ちゃん? どうかしたの?」
「わっ!? 甘露先輩!?」
うんうんと悩んでいるところに話しかけられて、私は思わず声を上げる。見れば、いつの間にやら甘露先輩といばら先輩が私の顔を覗き込んでいた。二人がこの寮にいつのは当たり前のことなんだから、驚くなんて失礼だったかな。
「希沙音さん、一人ですか? 深白は?」
「あ、途中まで一緒に帰ってたんですけど、偶然良い車に乗った深白さんの家族っぽい人と会って、それで深白さん連れて行かれちゃったんです」
「……なるほど。そうでしたか」
いばら先輩に深白さんのことを伝えると、何か心当たりがあったみたいで先輩たちは納得したような表情を見せた。
「じゃあ、希沙音ちゃんが悩んでたのも深白ちゃんのこと?」
「えぇっ!? そ、それは……」
違う、と正直に否定するべきか迷う。こんな悩みを知られて軽蔑されないかとか、深白さんの立場が悪くならないかとか、色んな懸念が頭をよぎって……それらはみんな、甘露先輩の優しげな瞳を見ているうちに溶けてなくなっていく。
不思議な安心感に包まれて、甘露先輩に全部を曝け出したい気持ちが湧いて出たかのように溢れてくる。
「実は、その……」
そのまま私は、寄り添うように私の隣に座った甘露先輩と、テーブルの向かいに座って優雅にコーヒーを嗜むいばら先輩相手に、深白さんと出会ってからの出来事と直面している悩みを洗いざらい吐き出すのだった。
☆
「……それで、悩んでて……」
「……なるほど。やけに深白の手が早いと思っていましたが、そういうことでしたか」
私の話を聞き終わったいばら先輩は、私を軽蔑するでも同情するでもなく、ただ合点がいったとばかりに短くそう言った。いや……少しだけ、いばら先輩の眼差しが変わっているような気もする。
「希沙音ちゃんは、どうしたいの?」
「え……私は……というかあの、甘露先輩近くなってませんか?」
隣でずっと話を聞いていてくれた甘露先輩は、気づけば私に密着するほど距離を詰めてきていた。名前や雰囲気に違わない甘い香りが鼻腔をくすぐり、思わず視線を逸らしてしまう。
「まぁまぁ。それじゃあ、質問を変えよっか」
「か、甘露先輩?」
なんと甘露先輩は私に体重を預けたまま、テーブルに置かれていた私の手に覆い被さるようにその手を乗せて、指の間を縫うように優しく握り込んだ。甘露先輩の体温が伝わってきて、なんだか無性に気持ちが良い。
「こういうの、好き?」
「あったかくて……すき、です」
「ふふ、そっか」
私が正直にそう答えると、今度は甘露先輩の指がより深く、私の手の中へと入り込んできた。甘露先輩の長い指が、私の掌を触れているのに触れていないかのようなギリギリの間隔を保ったまま、一撫で。
「んっ……!?」
掌を撫でられただけなのに、私の喉からは高い声が漏れた。そのまま、なぞられ、擦られ、再び撫でられるたびに、どんどん身体が熱くなっていく。これ……私も真似していた、ベッドでの深白さんの指づかいと同じだ。同じだけど……違う。甘露先輩の方が、ずっと上手い……っ!
「希沙音ちゃん。これは、好き?」
「ぁっ……すき、です……っ」
「そっか……えっちなんだぁ」
「……っ!」
耳元で囁かれた甘露先輩のその言葉に、目が覚めるような衝撃が走った。そうだ……きっと、その通りなんだ。
添い寝してもらわないと眠れないのは……それはそれで本当のことなんだけど。もはやそれとは関係なく、私は気持ちいいことが好きで、もっと女の子を気持ちよくさせたい。どう取り繕っても、それが私なんだ……!
「……といっても、甘露姉に
私が真実に辿り着いた矢先、微笑を浮かべて私と甘露先輩を眺めていたいばら先輩が口を開く。
「そんなこと言って、いばらちゃんの方が上手いのに」
「えっ……!?」
甘露先輩の言葉に驚いて、思わずいばら先輩の方を見つめる。深白さんより上手い甘露先輩よりって、一体どんな……!?
「否定はしませんが。……ともかく、希沙音」
「は、はい」
私の視線を受けても全く動じないいばら先輩は静かにティーカップを置くと、やはり笑って私の名前を呼んだ。初めて、呼び捨てで。
「自分を偽った先にある未来に、納得するのは難しいものです。それならば、自らに正直に生きた方が良い……というのが、私の意見です。無論、その結果として他人から後ろ指を指されることもあるかもしれませんが……少なくとも、この寮に貴方を否定する人間はいないのですから」
「いばら先輩……!」
「うん。わたし、希沙音ちゃんらしい希沙音ちゃんのことが好きになっちゃった。だから、そのままでいてほしいかな」
「甘露先輩……!」
二人の言葉を聞いていると、どんどん勇気が湧いてくる気がした。私は……私は、女の子が大好きで良いんだ……!
「それじゃあ……希沙音ちゃん。これからわたしの部屋に来ない?」
「へっ……?」
決意と勇気で奮い立ったところで、甘露先輩にそんなことを言われて解消された達成感ごと悩みが吹き飛んでいく。もう、さすがに分かる。今、そんな声色でのお誘いは、間違いなく──
「そ、それって……」
「希沙音ちゃん、わたしのせいで火照っちゃったよね。お姉さんに責任、取らせてほしいな
って」
「っ……」
深白さんの、優しさで包まれた強引さとは違う、年上の女性の誘い方。未知のドキドキと期待感に、自ずと私の首は縦に振れる。
「よ……よろしくお願い、します」
「やった! 希沙音ちゃんのかわいいところ、もっと知りたいなぁ」
花のように笑いながら、蛇のような眼差しを覗かせる甘露先輩に、不思議なゾクゾクが止まらない。そのまま、甘露先輩に導かれるまま立ち上がろうとして……次の言葉に、更なる衝撃が走った。
「そうだ! いばらちゃんも一緒にどう?」
「へっ!?」
「…………」
思いもよらなかった甘露先輩の言葉に、驚いたのは私だけ。いばら先輩はやはり動じるこおとなく、ただ薄く笑う。
「甘露姉の誘いなら、断れませんね」
そう言って、いばら先輩は私の目の前までやってくると、その手で私の前髪を上げて私の瞳を見下ろす。いばら先輩がいつも着用している手袋で触られる感触が、どこか非現実的で夢に迷い込んだみたいな感覚に陥ってくる。そんな状態で見下ろされていると、まるで自分が犬になったようで、すぐにでもお腹を見せて褒められて──
「も~、いばらちゃん。希沙音ちゃん連れて行かないでよ」
「おっと、すみません。ですがそうですね……思えば、貴方のことは深白に任せっきりになってしまっていた」
「あ、え、えっと……」
「私からも、『指導』をすることにしましょうか。貴方の、これからの糧になるように」
現実に戻ってきた私だけど、心の奥深くにかかった魔法はまだ解けていなくて……そもそも、頭の中は期待と高揚で埋め尽くされていて、引き下がる理由はどこにも見つからなくて……なんにせよ、断る選択肢は私の中のどこにもない。
「よ、よろしく、お願いしましゅ……」
二人の先輩に囲まれて、私はふと昨日の由衣ちゃんの姿を思い出した。私と深白さんでめちゃくちゃにした、あの時の由衣ちゃんを。
──きっと、私はあんなものじゃ済まないだろうな。
言い知れぬ、そんな