添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜   作:鐘楼

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ミシロ(前)

 別に、恨んではいない。

 

 母はただ馬鹿で能力が足りていなくて、世間知らずで覚悟もないまま茨の道を選び……その結果としてあたしが在る、それだけのことだ。人間だと思っていない、と言われれば、それもその通りだ。

 

 愛されていなかったわけではない、と思う。ただ、母の中であたしの優先順位は二番目以下で、甘えても疎かにされて。不満で泣いても、母には問題を解決する能力がなかった。それを経験で理解してから、いつしかあたしはただただ大人しくしている子供になっていた。まぁ悪意がなかったあたり、親としては下の中か。

 

 そんな母に感謝しているものがあるとすれば、それはたった一つ、伊咲の血だ。

 

 母が考えなしに捨て去ったそれにこそ、母自身以上の価値があった。

 

 ある日を境に、母も男も帰ってこなくなってしばらくした後。家に知らない人間がやってきて、無駄に心苦しそうな顔で母が死んだことを告げられた。

 

 あたしは母の死よりもまず、今後の生活のことが頭をよぎったが……あたしは母が捨てた名家、伊咲の家に引き取られることになったのだ。なんでも母が死んではじめて、絶縁状態の伊咲にあたしの存在が伝わったらしい。

 

 伊咲の家では慣れないことばかりで、居心地は決して良いものじゃなかったけれど……正直言って、そんなことは気にならなかった。なんせ金持ちの家だ。とりあえずは生きていける。よく金と他の何かを天秤にかける奴がいるが、贅沢だろう。両方ないより良いに決まっている。

 

 だからあたしは、母のことで後ろ指を指され、礼儀知らずを叱られても、平気な顔でやり過ごしていた。

 

『──貴女。言っておきますけれど、(わたくし)は貴女を姉とは認めておりません』

『……ふーん』

 

 そんな時、あたしに声をかけてきた同じくらいの少女がいた。最黒(もぐろ)。生粋のこの家の子で、本当ならあたしの従姉妹だった義妹。あたしの方が少し早く生まれたらしいということで、なぜだか姉になってしまった。

 

 あたしの存在で、一時は家督争い? とか、そんな話にもなりかけたみたいだが、当のあたしがうつけだったおかげで、向こうもさぞ安心しているだろう──そう思っていたのだが、一体何の用なのか。

 

『ちょっと、真面目に聞いているのですか?』

 

 もっとも、何用だろうと興味はない。そんな思いを胸に適当な受け答えをしていると、最黒は苛立ちを募らせていく。こっちにだって、生粋のお嬢様と話すようなことは何もない。そのまま呆れて失せてくれないか、そう考えていたその時だった。

 

『貴女……! ……ふん、そうですか。汚れた血は話もできませんか』

 

 それは、深い意味も理解せず、周りの大人が口にしたのをそのまま借りた言葉だったのかもしれない。ただ、それを聞いたあたしは……怒るでもなく、ただまっすぐにお嬢様の目を見返して、笑った。

 

『あぁ……あたしもそう思う』

『っ……』

 

 その時の笑みがどんなものであったのか、あたし自身は知ることはできないが……それを見た最黒の顔は、今でも思い出せるくらい印象的だった。それきり、最黒は何か口を動かしては言葉をのみ込む状態に陥ってしまい、あたしはこっちから立ち去ってやろうと背を向けることにした。

 

『あっ……その……ご、ごめんなさい。先程のは、過ぎた言葉でしたわ』

 

 すると、最黒は去って行くあたしに謝罪の言葉を投げかけてきた。

 

『別に、いいのに』

 

 本当に気にしていなかったあたしには、特に、何も響かなかったのだが。

 

 以来、時たま最黒があたしの様子を遠目から伺ってくることが増えたものの、変わらずあたしは孤独だった。そうして最低限の作法はこなせるようになった頃、余裕ができたあたしは家出じみた散歩をするようになっていた。

 

 伊咲の家にいても、することもない上に心が落ち着かないから。気にかけられていないので、簡単に抜け出せるから。多少危なかろうとどうにかする自信があったから。理由は色々あるけれど、今思えば……いや、寂しかったからだとは、今でも認めたくはない。

 

 そんな散歩も日常的な出来事になりつつあった矢先。あたしはある女と出会った。

 

『う゛~~』

『……大丈夫か?』

 

 あからさまな酒の臭いを漂わせ、無防備に頭を抱える楽器持ちの女。なんとなく、声をかけてしまっていた。

 

『これで……これで水買ってきて……』

『……』

 

 小銭を差し出されて、後悔したのを覚えている。目に見えていた面倒事に踏み入ってしまったことを悟りながら、ここまで来て捨ておくのも野暮だなと思い、小銭を受け取り自販機へ。

 

 よく見ると十円足りていなかったのに気づきムカついたが、堪えて自腹で補填してやり、女に水を差し出す。

 

『っは~、ありがとう!』

『……別に』

 

 水を一飲みした女は、無邪気に笑う。小銭が足りなかったことについて一言文句を言ってやろうと思っていたが、その馬鹿みたいな笑顔にそんな気持ちが霧散してしまう。

 

『あれ……? きみ、子供……? え、家出?』

『……だったら? あんたはまず自分の心配をするべきだろ』

 

 一人で酔い潰れているような女に説教をされたらたまらない。あたしが牽制の言葉とともに女を睨みつけると、女は目を丸くする。まるで「一本取られた!」とそのまま書いているような表情だった。

 

『それもそうだ! お姉さん、さっきので現金尽きちゃって……あれ? パスケースは……? あっ、あれがないと帰れない……!』

『知らねーよ……』

 

 女の騒がしさに頭が痛くなりそうだったが、成り行きでそのまま一緒にパスケースを探すことになって……幸い、十五分ほどで女のパスケースを見つけることができた。

 

『良かったぁ~~! ありがとう! そうだ、きみ、名前は?』

『……深白』

 

 どちらの姓も好きではなかったからだろうか。自然と、名字は口から出てこなかった。

 

『ミシロちゃんかぁ。よろしくね、かわいいミシロちゃん!』

 

 そう言って、女はあたしの頭を撫でた。

 

 

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