添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜   作:鐘楼

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ミシロ(後)

 せいぜい奥から、冷めた態度で眺めてやろう──そんなつまらない意地は、一瞬で吹き飛んでしまった。

 

 あの人が奏で、歌うたび、胸の奥に熱いものが灯っていく。耳から脳髄へとダイレクトに伝わる生の音色は想像を絶するもので、動画で見たそれとは大違いだった。

 

 夢中になってあの人の姿を目に焼き付け、魅入られるほど夢中になって……そんな自分を舞台の上のあの人に見られた気がして、顔が熱くなったりもしたけれど。

 

 それでも震え立つような熱はそのままに、あっという間に彼女のバンドの出番は終わった。

 そうして、確信した。これは憧れだ。

 

 自分もあの場所へ立ってみたい。そうすればきっと、今以上の熱を感じることができるんだと、あたしは初めて、人生の目的地を定めた。

 

 

『ねーねー、どうだった? ミシロちゃん、結構ノリノリだった気がするんだけど!』

『見えてたのかよ……』

 

 そのしるべがこの女だということは、素直に受け入れがたいものの。

 

『……良かったよ、すごく。ありがとうな……招待してくれて』

 

 ここで素直に褒めないようなガキではいたくない。そんな思いで女を賞賛すると、案の定調子に乗ったニヤけ面が帰ってきた。

 

『あっ、デレた! ミシロちゃんがデレたぁ~!』

『うっせーな……褒める気失せる反応すんなよな』

 

 あの時のかっこよさはどこへやら、ただただウザいプライベートの彼女は……不意に、顔を背けたあたしの視界に回り込み、まるで舞台の上の彼女のように微笑んで、言った。

 

『それで……惚れ直してくれたってことでいいんだよね?』

『はぁ?』

 

 正真正銘、照れ隠しでも何でもない声が出たのを覚えている。

 

『えっ、違うの?』

『ちげーよ。なんでそう思った』

『だって誘ったら家に来てくれるし、片付けしてなくても嫌な顔しないし……』

 

 たしかに、今日も女の家に上がり込んでいるが、それは女が金欠で仕方なくだし、汚部屋に小言を言わないのはハナから期待をしていないからだ。

 

『私に憧れてギター始めてるし……』

『それは……それだろ。きっかけなのは認めるけど、あたしはあたしでバンドを組むことに決めたし』

『え、そうなの!?』

 

 あたしが流れで決意を口にすると、なぜか女は慌て始めた。

 

『こ、こんな美少女がバンド組んだら、一瞬で追い抜かれる……!』

『多分だけど、そんな簡単じゃないだろ』

『それで売れた後、インタビューで尊敬する人を聞かれて私の名前を出すけど、インタビュアーからもっと有名な人でお願いしますって言われて私の名前が世に出ることはないんだ……!』

『たくましい妄想だな……』

 

 突飛な妄想を口にしながら平静を失う女に、あたしは呆れた笑みを浮かべた。

 

『……落ち着けよ。これから何があったとしても、あたしに火をつけたのはあんただってのは、動かない事実なんだからさ』

『おぉ……脈なしでもないのかな?』

『は?』

 

 またおかしなことを、と目を細めて女を見ると……案外、彼女の表情にふざけがないことに気づく。そして次の瞬間、女の腕があたしの背へと回った。

 

『ねぇ、ミシロちゃん。お姉さんといいこと、しない?』

『……』

 

 普段の女と、ステージ上の彼女が混ざったかのような貌をあらわにした彼女の、その言葉。

 あたしは良い育ちじゃないし、その言葉の意味するところを理解しているつもりだった。分かった上で、あたしの頭に浮かんできたのは「何言ってんだコイツ?」という困惑だった。

『いや、女同士だろ。何言ってんだ』

『……ふ~ん。はは~ん』

『なんだよ』

 

 至極当然の指摘をしたつもりなのに、あたしの言葉で女は笑った。今なら分かる。あたしだって、同じ立場ならほくそ笑むかもしれない。この時のあたしの言葉には、拒絶の色が微塵も含まれていなかったのだから。

 

『……関係ないよ』

『む……』

 

 女にそのまま優しく押し倒された時も、あたしは抵抗しなかった。どうやらこの女は同性のガキ相手に発情しているらしいという事実を頭で理解してもなお、抵抗する気にはならなかった。拒絶する理由が見つからなかった、というべきか。

 

 女は甘い言葉を吐きながら、あたしの身体を暴いていった。そこにはたしかに気遣いといたわりを感じたが、本当にそんなものがあるのならガキにこんなことはしないだろうと頭で思い直して……全身で感じる女の体温の心地よさに、あたしは前者を信じることにした。

 

 思えばあたしは女の体温を……いや、他人の体温を、ここまで直に感じたことがあっただろうか。その温かさは、あたしがもらえなかったものだ。それに気がついた時、あたしは涙を流していた。

 

『ミシロちゃ……うぇっ!? い、痛かった!? っていうか嫌だった!?』

『今更日和んなよ……』

 

 あたしの涙に気づいた女が飛び退こうとするのを、抱きしめて捕まえる。

 

 それが和らいで、あたしは初めて自分の痛みに気がついた。

 

 ずっと、ずっとずっと痛かったのだ。もうずっと、痛むのが当たり前だったから、気がつかなかった。

 

 愛で満たされるべきだった部分が欠けて、窪みになったまま固まってしまったあたしの心。ずっと痛んでいたそれが、こうしていると埋められたような気分になれる。

 

『じゃ、じゃあどうして……』

『それは……いつまでも主導権をあんたに握られてるのがイラついたんだよ』

『……へっ?』

 

 隙を突いて、逆に女を押し倒し返す。間抜けな顔をした女は、結構愉快だと思った。

 

 

 

 未成年どころじゃないガキの略取。犯罪者だと、何とでも言えばいい。あたしも、否定はしない。

 

 でも誰がなんと言おうと、あの人がいつか本当に起訴されようと。

 

 前を向いて歩くための道標と、痛みを誤魔化すための鎮痛剤と。あたしに必要なものをくれた。

 

 あたしを人間にしてくれたのは、紛れもなくこの人なのだ。

 

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