添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜 作:鐘楼
「あ、深白さん! お帰りなさい!」
「深白ちゃん、お帰り~」
甘露先輩と一緒に帰ってきた深白さんに出迎えの言葉をかけるながら、さりげなくその顔色を観察してみる。話によると、なじめない家で用事を済ませて疲れているかも……と近づいてみると、不意に深白さんの両手が伸びてきて、挟むようにほっぺを押されてしまう。
「ふにょっ!? な、なんですか深白さん……!」
「いや……希沙音。なんかあったか?」
「えっ!? な、なんにもないですよ!」
隠し事を追及するようなことを言う深白さんに、私は勝手に深白さんの事情を知ったことが態度に出てしまったのかと思いとっさにとぼけた。それを見た深白さんは何か違和感を覚えたのか一瞬だけ首をかしげると、すぐに目線を甘露先輩の方へと向けた。
「……甘露さん、希沙音に手出したでしょ」
「ん~、希沙音ちゃんが悩んでたみたいだったから、いばらちゃんと一緒に、先輩として導いてあげただけだよ」
「げ、あの人もっすか……」
深白さんは見るからに頭の痛そうな顔をすると、短く息をついた。どうやら深白さんが疑念を抱いていたのは私が先輩たちにえっちなことをされたんじゃないかということだったみたいで、深白さんの過去を聞いてしまったことではないみたいだ。良かった……良かった?
「はぁ……まぁ、希沙音の調子も変わらずみたいですし、そこは良かったっすけど」
「そうそう! 希沙音ちゃんすごいのね~、独り占めしようとする深白ちゃんの気持ちも分かるなぁ」
「ありがとうございます……?」
「そういうんじゃ……なんすかその生暖かい目は」
甘露先輩の私を褒めてるっぽい言葉に、私は曖昧にお礼を言って、深白さんは居心地が悪そうに視線を惑わせながら、甘露先輩から守るように私を後ろ抱きにする。
「……希沙音」
「は、はい」
「やっぱり先輩たちは危ないから、添い寝はあたしに頼むこと、良いな?」
「え、でも深白さんにばっかり迷惑じゃ……」
「いーから」
理由は分からないけど、深白さんは毎日の添い寝を買って出てくれる。色々あったけど、一人では眠れないという私の問題は何も解決していない。だから深白さんの申し出は本当にありがたいんだけど……。
「いいな~……ね、希沙音ちゃん。わたしにだっていつでも頼ってくれていいんだからね?」
「希沙音。騙されるなよおっぱいに。赤ちゃんにされるぞ」
「あはは……」
どこまでが冗談なのか分からない二人の言葉に、私は困った笑顔を浮かべて……同時に、深白さんが思っていたよりずっと元気そうなことに安堵するのだった。
☆
「お邪魔します」
「あぁ」
約束の通り、私は枕を持って深白さんの部屋を訪れる。ここ一週間、寮で眠る時はずっとこうしているから、私も深白さんももう慣れたものだ。
「って、ちょっと来るのが早かったですかね……わっ!? み、深白さん?」
そのはずだったのに、部屋で私を待っていた深白さんの様子はいつもと違っていて、入ってきた私を捕まえて、強く抱きしめてきた。
「ど、どうしたんですか……?」
「……すまん、ちょっとだけ……」
深白さんはそれだけ言って、しばらく私を抱きしめる。私は、先程の元気そうな深白さんが虚像だったことを内心反省して、彼女の背中をさすった。
「ん……ありがとな、希沙音」
やがて満足したのか、深白さんは私を解放する。するとそこには、普段通りの深白さんがいた。いや……深白さんが辛い思いをしているのは間違いがない。甘露先輩の話から考えて、多分家族のことで。つまり私は……今の、普段通りに痛みを耐えている深白さんしか知らないんだ。
「あの……深白さん。お家で……なにかあったんですか?」
「あ~、いや。大したことじゃないよ。ひたすら窮屈ではあるけど、ただお行儀良くしていただけだ」
「お行儀良く……」
「……ただ……あたしは弱くなった。昔ならなんでもなかったはずのことでも、一々気を紛らわせたくなる……それに、希沙音を利用しちまった。悪いな」
「いえ……」
これだけで、深白さんの気が楽になるなら願ったりだ。だけど……それはきっと、本当の解決にはならないんじゃないかと、心のどこかでそんな確信があった。
どうにか力になれないかと、深白さんのことを考える。
「さて、そんじゃ改めて……」
「……へっ?」
そんな矢先、気づけば私は、あまりにも自然な流れで深白さんに押し倒されていた。
「あれ……? えっと、深白さん?」
「ん? いや、するんだろ? 『添い寝』」
「あ……それはいつも通りにするんですね……」
たしかに、ここ最近は毎日こうしていたけれど……さっきまでの姿が嘘みたいに、深白さんは完全に平常運転のようだ。……って、そうじゃなかった! さすがに一つ、深白さんにこれだけは言っておかないといけないことがあるんだった……!
「あの、深白さん!」
「ん?」
「その、これ……添い寝じゃないですよね?」
「えっ………………」
深白さんの表情が凍り、やがて滝のような汗が流れ始めるのだった。