添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜 作:鐘楼
「いやあのっ、怒っているわけではなくてですね……!」
ものすごく気まずそうな深白さんに、私は慌てて補足した。深白さんが私にしたことの是非はともかく、責めるつもりで言ったのではないのだ。
「……そうなの?」
「はい。むしろ感謝してるんです。深白さんのおかげで、本当の自分のことを知れましたから」
「あ、そう……」
私が深白さんの瞳をまっすぐ見つめてそう言い切ると、深白さんはなぜかものすごく微妙な顔をした。
「でもあの時……私が最初に高嶺荘に来たあの日、深白さんはどうして私に手を出したんですか?」
「そりゃ……添い寝の話を聞いた時、普通に誘われたと思ったし……一緒に寝たら、するのが当たり前みたいになってて……」
「なるほど……ふふっ、今ならその気持ち、よく分かります」
「分かるなよこんなこと」
後ろめたそうに動機を語る深白さんに笑って同意すると、深白さんが今度は真顔になった。かと思えば、急に真面目な顔になって息をつく。
「……違うんだよ。欲に流されて、っていうのもゼロじゃないけどさ」
「違う、というのは……?」
「あたし、親いなくてさ。それ自体はどうでもいいんだけど……」
「!」
ただの前提、という風な口調で語られるその情報は、甘露先輩に聞いた話と同じだ。本当のことだったんだという思いと、もう聞いてしまった話だということを悟られまいとする思いが入り交じる。……と、そんな意識をしたのが良くなかったのか、深白さんの目が目が細められた。
「希沙音……もしかして知ってたか?」
「えっ!? な、なんでそう思ったんですか!?」
「それは図星の反応だろ……勘だよ。甘露さんだな?」
「そこまで!?」
一瞬で情報の出所まで見破られてしまい、今度は私の方が冷や汗を流す。でも幸いなことなのか、呆れ気味の深白さんに怒った様子はなかった。
「消去法だよ。あの人しかいないだろ」
「甘露先輩には、勝手に秘密を聞いたことバレないようにって念を押されてたんですけど……」
「残念。あたしはそういうのには鋭いし、甘露さんは自分で思っているより分かりやすい人だし、希沙音は言わずもがなだ」
私ってそんなに分かりやすいんだと、深白さんの言葉に軽くショックを受けていると、ほっぺに緩い痛みを感じる。深白さんが、軽く私のほっぺをつねっていたのだった。
「気に病むなよ。あたしは気にしてないし、甘露さんがあたしのためを思って希沙音に話したのは分かる。だからこれであたしが希沙音に手を出したのはチャラ……とはいかないか……」
「……甘露先輩は、引き取られた今のお家に馴染めてないんじゃないか、って……」
「それはその通りだけど……もういいんだ。今はこの高嶺荘があたしの家で、甘露さんも希沙音も……まぁいばら先輩も、気に入ってる。伊咲の家に顔を出すのは憂鬱だけど、ちょっとだけだ」
柔らかい表情で私に語りかける深白さんは、嘘を言っているようには見えない。いや間違いなく、深白さんに嘘を言っているつもりはないのだろう。でも、その言葉が真実であるとも、私には思えなかった。だって……深白さんの言葉が本当なら、さっきの……私が部屋に入ってきた直後の弱みを露わにした深白さんの説明がつかない。
「……本当ですか? 本当に、深白さんは気にしていないんですか?」
「っ……」
薄闇の中、深白さんの瞳が揺れる。
「気にしていない……って、昔なら断言できたんだけどな……」
「……!」
不意に、私を押し倒していた深白さんが脱力して、その体重を預けてくる。深白さんの頭はちょうど私の肩口に落ちてきて、その顔が私の視界から外れた。
「昔は、本当に気にならなかったんだ。かまわれなくても、愛されなくても……。でも、目標ができて、仲の良い奴ができて、居場所ができて……状況が良くなるにつれて、自分の痛みに気づかされた。楽になっているのに苦しくなるなんて、変な話だよな」
「深白さん……」
その表情は窺い知れないけれど、耳元で語られる深白さんの本当の気持ちには、私が今までの人生で……家族に、お姉ちゃんに愛されて育った私の人生には存在しなかった全く未知の感情が込められているのが伝わってくる。
「深白さんが言ってた、『弱くなった』って、もしかしてそのことですか?」
「そうだよ」
「それは、弱くなったとは言わないと思います。強がらないで、ちゃんと人に甘えられるっていうのは……遅くなってしまったかもしれないけど、『成長』だと……」
「……そんな健全な話じゃないよ」
深白さんのため精一杯に紡いだ言葉は、深白さんの固くなった声に否定される。
「あの日……お前に手を出した
「えっ? あ、はい」
唐突に話題が巻き戻って、虚を突かれた私が間抜けな返事をするのにも構わず、深白さんは語り続ける。
「昔……一番荒んでた時期のあたしに、憧れた人ができたんだ。バンドを始めるきっかけになった人」
「……」
「色々あって、家に上がり込むくらいの仲になったんだけどさ……襲われたんだ、その人に」
「……!」
「あぁ、別に悪い思い出じゃない。希沙音と一緒で……むしろ良かったと思ってる。抱かれた時、満たされた気がしたんだ。今まで欠けていたものが、埋められていくような気がして、痛みが和らいだ」
私と同じだと、深白さんは言う。たしかに満更でもなかったという部分は共通しているけれど、その内実は全く違っている。
「それからかな……あたしは苦しみを紛らわせるために女を抱くようになった。女の肌に触れていれば、夢中になっていれば、その時は満たされるから……人気者になってからは、誰でもいいから手を出して痛み止めにしてきた。由衣だってその一人で、今日も……お前を使って自分を使って慰めようとした。あたしは……それしか知らないから」
「深白さん……」
深白さんの独白に、甘露先輩の言葉を思い出す。甘露先輩は、深白さんを自分たちとは違うと評していたけど、それはきっとこのことだ。甘露先輩たちや私は、純粋にえっちを楽しんでいたけれど、深白さんにとってのそれは手に入らなかった愛情を求める代償行為だったんだ。
「ははっ……すごいな、希沙音は。全部言っちまったよ……最低だろ? 突き飛ばしてくれたって……は……?」
自嘲する深白さんが言い終わるのも待たずに、私は何も言わずに彼女を抱きしめた。昔、お姉ちゃんが私にしてくれたのを思い出しながら、いいこいいこと深白さんを優しく撫でる。
「希沙音……?」
「ねぇ、深白さん。今日は、このまま普通に添い寝をしましょう」
「普通に、って……」
困惑する深白さんに、私はただゆっくりと語りかける。
「深白さん。私にとって添い寝は……絶対的な安心なんです」
「絶対的な、安心……?」
「昔から夜が怖くて……でも、こうしてお姉ちゃんに抱かれながら眠れば、何も怖くないかったから……今の深白さんに必要なのは、この感覚だと思うんです」
「必要……」
これまで、私がお姉ちゃんに当たり前にもらってきたものを、今度は深白さんに。そう考えると、自然に笑みがこぼれた。
「深白さんに教わった『添い寝』も、刺激的で、鮮烈で、眩くて……世界が変わるくらいの衝撃でしたけど……私の知ってる添い寝も、良いものですよ。どうですか?」
「……うん……そう、するか……」
「はい! ふふっ、なんだか嬉しいです。深白さんには教えてもらってばかりだったから」
いつもは力強く、女の子を抱き寄せている腕が、弱々しく私の背に回される。お互いの表情は見えないままだけど、それが良かったのかもしれない。今は恥じらいなんて考えず、深白さんに安心してほしいから。
「……敬語」
「はい?」
静寂の中、唐突に言われた短い言葉に聞き返すと、少し不機嫌そうな……いや、不器用に甘えた深白さんの声が続く。
「タメだって、最初に言っただろ……なんで由衣にはタメ口で、あたしは敬語のままなんだよ……」
「いやそれは……なんか寮の先輩、って感じがして……」
盲点だった。深白さんが同級生だと、頭では認識していたのに……歩んできた人生が違いすぎて、ひどく大人びているように見えていたから、敬語が自然になっていたのだ。でもそれは勘違いだったんだと、今日分かった。
「……あたしもタメがいい」
「! ……はい、うん、分かった」
直すべきかと私が提案する前に、深白さん……いや、深白に望まれて、慣れないタメ口に切り替える。言葉にしてみてようやく、なんだか対等になれた気がしてくる。
「ん、希沙音……」
「ふふ……おやすみ、深白」
そうして、私たちは抱き合ったまま眠りにつく。久方ぶりの静かな夜に、私の意識はあっという間に微睡んでいく。
お姉ちゃんの添い寝と全く遜色なく、心地の良い安心感が身を包んでいき、そのまま、
「……やば……好きかも……」
彼女のつぶやきを耳にすることはなく、眠りに落ちた。
\ステータスオープン!/
伊咲 深白(いさき みしろ)
学業成績……………51(D)
運動神経・体力……78(B)
エスコート力………86(A)
フェロモン…………74(B)
メロみ………………87(A)
テクニック…………84(A)
○欲…………………72(B)
特能
奉公誘引 言葉責め リーダーシップ ワイルド チャレンジング トライアンドエラー 本命童貞
状態
人気者 愛着形成×
備考
高嶺荘においては内面が最も不安定で、そういうところを先輩たちから「かわいいね♡」と思われている。深白もそんな空気をなんとなく察しているため、ちょっと怯えている。深白は四天王最弱……!