添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜 作:鐘楼
「お、おい? どうしたんだよ、急に」
「い、いえ……大丈夫です……」
「そうは見えねーけど……」
終わった……まさか、みんな一人部屋だなんて……普通は嬉しいことなのかもしれないけど、私は添い寝をしてもらわなければ眠れないのだ。毎日お願いできる可能性の高い相手が存在しないというのは、すごくまずい。
「……よく分かんねーけど、ほら。立てよ、希沙音。案内してやる」
「あ……ありがとうございます」
差し出された手を取って、私は立ち上がる。伊咲さんは人好きのする笑顔で高嶺荘の案内を買って出て、さりげなく私の腰に手を回してエスコートしてくれる。伊咲さん、優しいな。
「希沙音、いくつだ? あたしは高一」
「あ、私も同じです」
「お~、タメか。ここ先輩しかいなかったから、嬉しいな」
「え? そうなんですか?」
「おう。というか、寮生はあと二人しかいないんだけどな」
「す、少ないですね……」
じゃあ、ここに住んでるのは私と伊咲さんを含めて四人ってことなのかな。聞けば聞くほどこの寮の話が分からなくなるけど、それはそれとして楽しそうだ。……睡眠の不安を置いておけば、だけど。添い寝を頼める人が三人しかいないなんて、不安でいっぱいだ。
「そ、それじゃあ管理人の人とかはいないんですか?」
「寮監な。ほぼいないと考えていいぞ」
「えぇ……?」
ここを管理する大人の人も、伊咲さん曰くいない日の方が多いらしい。そんなので大丈夫なのかなと思いつつ、伊咲さんの案内は続く。
高嶺荘は本当に新しめの一軒家のような造りになっていて、それぞれの個室と、あとはラウンジと称したリビングと、共用のキッチン、トイレ、バスルーム。どれも綺麗で新しい……のは良いんだけど、明らかに寮として作られたものじゃない。……それは普通のことなのかな?
「ここが希沙音の部屋だな」
「け、結構広いんですね……」
最低限の家具しか置いていないからそう見えるのかもしれないけど、案内された個室は十分に広く感じた。特にベッドなんかは……あれ?
「ベッド……大きいですね」
備え付けられていたベッドは、私と一緒に眠ることを想定して選んだお姉ちゃんの部屋のベッドと同じくらい大きい。
「あー、まぁ……でも、嬉しいことだろ?」
「それは……そうですね。すごく、嬉しいです」
どうして一人用の部屋であんなに大きいベッドが用意されているのか不思議だったけど、こんなに都合の良いことはない。これなら、添い寝をお願いするときに無理をせずにベッドを使うことができる。無理そうだったら布団を敷こうかと思っていたところなのだ。
「……お?」
そんな時、寮のインターホンが鳴った。
「あ……私の荷物かもしれません」
たしか、このくらいの時間に届けてもらえるという話だったはず。確認すると、やはり私の荷物を届けに来た業者さんだった。
ダンボールを一通り玄関口まで運び込んでもらい、仕事を終えた業者さんにお礼を言うと、私は息をついた。
私はそこまで荷物の多い方ではないから、これでも楽な方なんだろうけど、目の前に積まれた四つのダンボールを見ていると、思わず気が滅入ってしまう。とはいえ、いつまでもそうしていたって仕方がない。気合いを入れて荷解きを始めようとしたその時。
「ほいほい、手伝ってやるよ」
「伊咲さん……!」
伊咲さんが、笑ってそう言ってくれたのだった。悪いとは思いつつも、甘えて頼ってしまって手伝いをお願いすると、伊咲さんは早速涼しい顔ダンボールの一つを持ち上げた。
「どれどれ……ん? これ楽器か?」
「あ、はい。開けてないのによく分かりますね」
「ま、あたしも弾くからな。ふーん、へぇ……とりあえず部屋に運んじゃうな」
「お願いします!」
何やら意味ありげに頷いた後、伊咲さんはダンボールを持って私の部屋へと歩いて行った。
……伊咲深白さん。最初はちょっとびっくりしたけど、優しい人だ。あの人なら……お願いすれば今日一日くらいは、私のお願いを聞いてくれるかもしれない。というか、他に人がいないならそれ以外に選択肢がない。
そんな思いを抱きながら、荷解きを始めて、伊咲さんに手伝ってもらってなんとか荷物を片付け終わって……もうすぐ夕食時、という時間になった頃、私は意を決した。
「あの、伊咲さん! 散々頼ってしまって申し訳ないんですけど、お願いがあるんです!」
「え、なんだよ急に改まって……」
もし断られたら、一日徹夜になってしまう。その恐怖から、土下座一歩手前みたいな体勢になって伊咲さんにお願いをする。
「私、実は……添い寝をしてもらわなきゃ眠れないんです! だから、今日のところは……伊咲さんに添い寝をお願いできたらな、って思って……」
「……へぇ?」
伊咲さんは聞こえるか聞こえないかくらいの声量でそう言った後、少しの静寂が流れる。この体勢じゃ伊咲さんの表情も見えないから、伊咲さんの詳しい反応も分からなくて、余計に沈黙が長く感じる。
やがて返ってきた返答は、声ではなくて指だった。
私の頬をなぞって、人差し指で顎に触れると、そのまま力を入れられて顔を伊咲さんの方へ向けさせられる。そうして見えた伊咲さんの表情は、ワイルドで、どこか艶やかで。
「──そんな顔するなよ。いいぜ」
「ほ、本当ですか?」
「ただし」
伊咲さんはそこで言葉を切ると、続く言葉を私の耳元で囁く。
「あたしのことは
「あ、はい。深白……さん」
私が伊咲さんを名前で呼ぶと、彼女は満足げに笑うのでした。