添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜   作:鐘楼

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つい(伊咲深白視点)

 新入りの話を聞いたとき、迷惑だなと思った。

 

 こんな時期にこの高嶺荘に新入りが来ること自体が、じゃない。新入りの世話を押しつけられたことに対して、だ。そういうのは寮監のアレの仕事……なのは今更だから置いておくとして、他の二人の寮生(先輩たち)が留守だからという理由であたしに話が回ってきたときは、率直に貧乏くじを引かされたと思った。

 

 とはいえ、新入りが悪いわけじゃない。何日持つか分からないが、これから共同生活をするかもしれない相手だし、なにより面倒な相手になっていない女を邪険にする趣味はない。常識的な範囲で親切はしてやろうと考えていた。

 

 あとできれば、あたしのやる気が出るようにかわいい子、もっと言うとこの寮にいない可憐なタイプの子が来てくれたら良いなと思っていたくらいだったのが。

 

『あ、あの……お邪魔……でしたよね?』

 

 申し訳なさそうに現れた新入り、花平希沙音は……ハッキリ言って、ドンピシャだった。

 

 それだけに、つい先ほどまでセフレを連れ込んでいた挙げ句さよならのディープキスまで見られたのは「やっちゃったか?」と思ったものの、希沙音は思いのほか気にすることなくあたしに人懐っこい笑みを向けてくれた。

 

 それで気分が良くなったし、希沙音が同じ寮生じゃなければ速攻で狙っていたけども、寮生相手じゃ今後のこともある。我慢して荷解きなんかの面倒を見た。明日以降はともかく、今日のところはそれで何事もなく終わる……はずだったのが。

 

『私、実は……添い寝をしてもらわなきゃ眠れないんです! だから、今日のところは……伊咲さんに添い寝をお願いできたらな、って思って……』

 

 希沙音がそんなことを言い出すものだから、あたしは完全にスイッチが入ってしまった。

 

 無論、マズいとは思った。今後の関係に致命的な影響が出かねないから。

 

 でも、それで止まれないのが伊咲深白なのだ。

 

 希沙音が処女だったと分かったときはもっとマズいと思った。でも希沙音があまりにもエロかわいいので止まれなかった。だってそれがあたしだから……。

 

 結論から言えば、迷いはなかった。あの時、あの瞬間は。

 

「ヤってしまった……」

 

 けれど後悔というものは、いつも行為の後でやってくるもの。翌朝目覚めたあたしは、頭を抱えていた。

 

 そこらの女ならまだいい。良くないが、稀によくやっていることだ。けれど希沙音は、高嶺荘の寮生。合法的にここへ出入りする権利を持っている相手だ。そんな相手と身体の関係になったら確実に面倒なことになると、分かっていたはずなのに……!

 

「って、あれ……?」

 

 そういえば、その希沙音がいない。昨日この部屋に連れ込んで、このベッドで思いっきり啼かせたはずの希沙音は、脱がせた服ごと綺麗さっぱり消えていた。

 

 良かった、じゃあ夢か……その日初対面の相手のエロい夢見るあたしって一体……という考えがよぎるものの、それらはしっかりシーツが汚れていることですぐに否定された。

 

「……先に起きたってことか?」

 

 疑問に思いながらも、服を着直して自室の扉を開ける。するとその瞬間、まるで姉ヶ原先輩が手料理を用意してくれた時のような香りが、優しく鼻腔をくすぐった。

 

「あ、おはようございます、深白さん!」

「お、おう……おはよう」

 

 見れば、希沙音が階下のリビングで手を振っていた。エプロン姿が可愛らしい……ではなく。その手には、美味しそうなホットサンドが乗った皿が。

 

「希沙音、それ……」

「あ、朝ごはん作っておきました。昨日、ここにあるもの使っていいって聞いたので……マズかったですか?」

「いや……ありがとう。むしろ悪い……片付けは手伝う……」

 

 あまりにも……あまりにも、昨晩寝た相手に対して自然に振る舞う希沙音に、こっちの方が困惑する。

 

「いえ! 昨日はお客さんでしたけど……今日からは対等ですから。私の得意なことを、深白さんにお裾分けしたいんです。代わりに、深白さんに頼っちゃうこともあると思いますけど……」

「あ、あぁ……いいよ、いつでも頼ってくれて」

「ありがとうございます! さ、こっちに来て座ってください!」

 

 言われるがまま、あたしは希沙音の用意した朝食が並べられた食卓に座った。そのままホットサンドを口にする。めちゃくちゃうまい。気の利いた感想は浮かんでこないが、寝ぼけた舌にはもったいないくらいうまかった。

 

「美味いな……」

「本当ですか? 良かったです。深白さんの好みとか、聞けていなかったので、実はちょっと不安だったんですよ」

 

 朗らかに笑う希沙音に、『あれ? 寝たんじゃなくて結婚したんだっけ……?』という錯覚をしそうになるが、間違いなく昨日あたしは希沙音と一線を越えた。希沙音の方からその話をしないのであれば、こっちから話を切り出すしかない。ここをなぁなぁにするわけには、さすがにいかないのだから。

 

「私、いつもお姉ちゃんの分まで朝ごはんを作ってたんですよ。それで、一人分だけっていうのはどうにも落ち着かなくて……」

「……あの、希沙音」

「はい? なんですか?」

 

 可憐に首を傾げる希沙音に心が揺れる。けれど決意のままに、あたしは口を開く。

 

「昨日の、ことなんだけどさ……」

「あぁ、はい。いや、凄かったです」

「その……ええと……」

「私、知りませんでした……あれが、本物の『添い寝』だったんですね……!」

「なんというか、昨日は本当に…………ん?」

 

 謝罪の言葉をひねり出すより先に、全く想定していなかった言葉が希沙音から出てきた気がして、思わず希沙音の方を二度見する。

 

「今まで、お姉ちゃんとしか添い寝してこなかったので、新しい知見を得る機会がなくって……でも、深白さんのおかげで、真の『添い寝』を知ることができました……!」

「え、あ……お、おう……どう……いたしまして?」

「はい!」

「……」

 

 なんだこれ……無知シチュってやつか……? 変に拗れてなさそうだし……良かった……のか? 分からん……そもそも、初めての朝チュンって言ったらもっと視線が合わなかったり、ぎこちなくなったりするものなのに……こんな女、初めてだぞ……!

 

「……でもまぁ、彼女面されるよりマシ、か……?」

「? 深白さん、なにか言いました?」

「いや……なんでもない……」

 

 

 

 そんなこんなで私、伊咲深白と、花平希沙音の日々が、幕を開けるのだった。

 

 あと、ホットサンドはマジで美味かった。

 

 

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