添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜   作:鐘楼

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悪魔集結

 なんだかぎこちない空気のまま朝を過ごして、由衣ちゃんを見送った後。私は何やら真剣な顔をした深白さんと向かい合っていた。

 

「それで……なにがどうしてああなった?」

「えっと……すみません。具体的な単語が一つとしてないので、意味がよく……」

「だから、なんで由衣とセッ……『添い寝』することになったんだって話だ」

 

 どうやら深白さんが気にしているのは、私と由衣ちゃんが添い寝をすることになった経緯みたいだった。元々、由衣ちゃんは深白さんの知り合いなんだから、気になるのは納得できる話だ。

 

「えーっと……私が添い寝をしてもらわないと眠れないって話、もうしましたよね?」

「あの話、本気だったのか!?」

「信じてくれてなかったんですか!?」

 

 驚いた反応をする深白さんに、こっちもびっくりだ。まさか、深白さんが私の話を本気にしていなかったなんて。

 

「いや……悪い。てっきりそういう誘い文句かと思ってて……」

「そういうわけですから、昨日深白さんから帰ってこないと連絡があったとき、困ってしまってですね……」

「もしかしなくても、それで……」

「はい。仲良くなったので、由衣ちゃんに頼みました!」

 

 私が肯定の意を示すと、深白さんはなぜだかとても頭の痛そうな顔をした。

 

「お前……そういうことなら、もっとちゃんと言ってくれればあたしだって……。決めた、毎日……は厳しいかもしれないけど、これからはあたしが添い寝してやる」

「いえ! 深白さんにばかり迷惑をかけるわけにはいきませんから!」

「セリフは立派なんだけどな……じゃあ希沙音お前、あたしに頼らないとしてどうする気なんだ?」

 

 深白さんがジト目でそう尋ねてくる。私の体質のせいで、深白さんにばかり迷惑をかけられないというのは紛れもない本音だ。いや……それは由衣ちゃんにだって変わらない。お姉ちゃんと違って、相手は家族じゃない。だから、誰か一人の相手に負担をかけるわけにはいかないんだ。つまり……!

 

「はい! 勇気を出して、色んな女の子に頼んでみます!」

「アウトだよ!!」

 

 私の宣言に被せるような深白さんの大きな声が、寮のラウンジに響き渡った。

 

「大体、添い寝してもらうって簡単に言うけどな……」

「実は由衣ちゃんで自信がついたので、チャレンジしてみる価値はあると思います!」

「言い方!!」

 

 大声を出す深白さんの姿は……なんだか昨日や一昨日の余裕のあるクールな姿とはほど遠い。なんだか面白くて、思わずくすりと笑ってしまう。

 

「ふふっ……」

「? なんだよ?」

「深白さん、いつもかっこいいのかと思ってたから……余裕のない深白さん、なんだか新鮮で」

「お前のせいお前のせい」

「面白がってるだけじゃないですよ? 嬉しいんです。深白さんの新しい一面が見れて……これから毎日、知らない深白さんを見つけられたらなぁって考えたら、幸せで……」

「…………なんか今、片鱗を見た気がする……それにしたって由衣はチョロすぎだけど」

 

 改めて、深白さんが高嶺荘にいて良かった……という気持ちを口にすると、なぜか深白さんは引いていた。でも嫌がっているわけじゃなさそうなので、一安心……かと思いきや、次の瞬間深白さんは声を張り上げた。

 

「というか! 仮に可能だとしても、マズいだろ! 出会ったばっかの女と添い寝なんて……」

「でも、深白さんとも会ったその日に添い寝しましたよ?」

「……………………そうだったな……はい、あたしが悪かったです……」

 

 たとえ会ったばかりでも、添い寝してくれる女の子はいる。他ならぬ深白さんがそう教えてくれたということを指摘すると、深白さんは頭を抱えた後項垂れてしまった。

 

「……とにかく、だ。これはもう提案じゃない。あたしからの頼みだ。頼む希沙音。なるべく添い寝の相手はあたしにしてくれ」

「そう言われてしまうと、断る理由はないですね……私のために本当、ありがとうございます! 深白さん!」

 

 深白さんの方からお願いされてしまうとなると、もはや私の方に遠慮する理由はない。ありがたく、どこか疲れ気味な深白さんの手を取る。やっぱり少し申し訳ないけど、これで当面の間は眠ることができる……!

 

 ピッ、ガチャリ。

 

 その時だった。高嶺荘の玄関の扉が解錠される音が聞こえてきたのは。

 

「……あ、帰ってきた」

 

 深白さんの言葉で、私もその音の正体に見当がつく。噂に聞く、この高嶺荘の寮生。先輩が、帰ってきたのだ。

 

「深白ちゃ~ん? いる~?」

 

 一つは、初めて耳にするはずなのに安心感を感じてしまう、飴玉のような柔らかい声。

 

「どうやら二人ともいるようですよ、甘露姉(かんろねぇ)。これは都合がいい」

 

 もう一つは、どこか身体の奥が振るわされるような、気づいた時にはその言葉に従ってしまいそうになる、甘い毒のような美声。

 

「はぁ……一応出迎えに行くぞ、希沙音」

「あ、はい!」

 

 深白さんに言われて席を立ち、共にすぐそこの玄関口へと向かう。案の定そこには、二つの声の主が立っているのだった。

 

「深白ちゃん! 良い子にしてた?」

「……甘露さん、あたしが良い子だったことなんてあります?」

 

 先輩二人のうちの片方、抜群のスタイルと木漏れ日のような雰囲気を併せ持つ女性は、深白さんの顔を見ると満面の笑みを浮かべる。対する深白さんは、どこか呆れているような、とはいえ満更でもないような表情で応対している。

 

「深白ちゃんはずっと良い子だよ? 悪い子っていうのは、いばらちゃんみたいな子のことを言うの」

「そうですね。深白のやることはかわいらしいですから。こと高嶺荘においては良い子、と言って差し支えないでしょう」

「そりゃあんたに比べたらな……」

 

 悪い子と言われて悪びれもしない先輩は、眼鏡の奥に垂れ目の瞳が冷たく輝く、柔和と怜悧が紙一重で混在しているような、不思議な雰囲気を持つ人だった。そんな人の視線が、不意に私の方へと向けられる。

 

「ところで、貴方が……」

「あ、はい! 一昨日からここに入寮することになりました、花平希沙音で──わっ!?」

「──かわいい!」

 

 私の自己紹介は、ふんわりとした衝撃によって中断されてしまった。甘露さん、と呼ばれていた方の先輩にいきなり抱きしめられたのだ。

 

「ちょ、あの……っ」

 

 息がしづらいのと、もう少しだけ先輩の胸に挟まれていたい気持ちが入り交じって、身動きが取れなくなってしまう。

 

「甘露姉。困らせてしまっていますよ」

「あっ、ごめんなさいね……! 希沙音ちゃんがあまりにもかわいくて、つい」

「あ、い、いえ……」

 

 もう一人の先輩の一声によって解放されて、少しの名残惜しさを感じつつ、一歩下がって謝ってきた先輩の顔を改めてよく見つめる。

 

「わたし、姉ヶ原甘露(あねがはらかんろ)っていうの。よろしくね、希沙音ちゃん」

 

 姉ヶ原……甘露先輩。綺麗な人だ。それに雰囲気が……なんて言うんだろう、お姉ちゃん? お母さん? 私のお姉ちゃんやお母さんとは違うタイプなんだけど、みんなの思う理想の母性みたいな、そういうものを第一印象で感じさせる、そんな人だと感じた。

 

「そして私は、桐峰いばらといいます。……なにか困りごとがあれば、なんなりと私に。希沙音さん?」

 

 桐峰いばらさん。いばら先輩は軽く自己紹介をすると、その手を私の頬に当てて、目線を合わせてそう言った。頬に当たった、いばら先輩の手袋の、高級感のある生地の肌触りに、なぜだか心を撫でられたかのような錯覚に陥る。

 

「あ……はい……」

 

 いばら先輩に見つめられて、私は頷くのが精一杯だった。この人に正面から見つめられていると、だんだん彼女の人形になってしまったみたいな感覚になってきて──

 

「はいはい、そこまでっす」

「おや」

「……あ、深白さん」

 

 気づけば私は、深白さんに抱えられていばら先輩と引き離されてしまっていた。

 

「希沙音。あんまりこの鬼畜眼鏡先輩には近づくなよ。あ、甘露さんも別に安全じゃないから気をつけろな」

「安全じゃない……?」

 

 甘露先輩、こんなに優しそうなのに安全じゃないってどういうことなんだろうか……いばら先輩も、なんだか不思議な魅力があって素敵な人だと思ったのに、深白さんは何を危惧しているんだろう。

 

「深白がセーフなら、同じことだと思いますが」

「や、一緒にしないでほしいっす」

「まぁまぁ! 深白ちゃん、希沙音ちゃん! 今日はなにか予定がある?」

 

 深白さんといばら先輩が口論をはじめそうになったところを、甘露先輩が止める。そして、私と深白さんに予定を尋ねてきたのだった。もちろん、私の予定は空いていた。

 

「ないです!」

「あたしも空けてあります」

「良かった~、それじゃあ……希沙音ちゃんの歓迎会、やりましょう!」

 

 甘露先輩の宣言が、高嶺荘の玄関に響き渡る。そういえば昨日深白さんが言っていた気がするけど……なんと、先輩たちは私の歓迎会を計画してくれていたのだった。

 

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