UNREASONABLE   作:斎藤純哉

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リク視点です。


第2話 仕様

 夢の中で気づくと、福井県内のどこかに"転送"されている。大概は恐竜博物館だったり隣接しているかつやま恐竜の森だったりと、何かと恐竜関連の施設からスタートする。なぜ恐竜関連なのか……は、「……福井県だから?」としか言いようがないけど。

 

 現実で晩御飯を食べたり課題を終わらせたりしてからベッドに入る。そしてすうっと意識が閉じられるのも束の間、波打つように夢の中で"覚醒"し──今夜も恐竜の森、恐竜博物館に隣接する森林公園の中からだった。

 

 私を囲う恐竜の模型たち、草葉と土の匂い、ざわざわと鳴る木々の音、点検用に設置されているのか、ほのかに電灯で灯された森林道──。

 

 立ちすくむ私。キケさんとの出会いによって、私はこの夢の中でも立ち振る舞いを考えなければならなくなっていた。

 

 歩きながら考えを巡らせる。思えばなぜ手当たり次第に殴りかかっていたのか? ストレス発散か? 馬鹿じゃないのか? 仕方ないじゃないか、夢の中なんだもの。相手も私に殴られる夢を見てたなんて思うわけがないじゃないか。砂利道を履いてる運動靴で蹴り上げるように一歩踏んだところで──ざわり、とそばの茂みが揺らぐ。

 

 そこから人の気配がした。多分キケさんじゃない。臨戦態勢を取ると、そこからゆらりとひとりの、私と同じくらいの年齢、身長の女子が現れた。次いで私を見ると、「──え」と震えた声を漏らしながら辺りを見渡す。

 

 黒髪のポニーテール、ぱっちり開いたその目はハの字になった眉と歪み……服装は動きやすそうなグレーのランニング用の服を着ていた。思えば今までの私の被害者たちも似たような、動きやすそうな服を着ていた記憶がある。一連の夢の仕様なのだろうか?

 

 その女子は「……またこの夢?」と私を見て狼狽える。そこで私は勘づいた。彼女は私の被害者のひとりだ。私は覚えてないけれど、この女子は私にボコボコにされた経験がある。

 

 私は何も発さず様子を伺った。このまま逃げてくれればいい。そうすれば被害が拡大することも、私が戦うこともないからだ。この夜の恐竜博覧会を満喫してから目覚めれば良い。しかし──。

 

「──なら、やられる前に!!」

 

 彼女は、私に向かって駆け出し、拳を振り翳してきた。

 

「……アホか……!?」

 

 私はその拳を交わして隙を作り、みぞおちに軽く一発喰らわせる。女子は「ぐえ!?」と分かりやすく反応すると、地べたでのたうち回った後うずくまった。

 

 追撃は加えずに様子を見る。私の方が逃げるべきだろうか? 彼女もまたこうして私と会う夢を見ているのなら、私のことを覚えられてしまうのは不都合だ。そんなことを考えていると、「──あの」と女子から話しかけてきた。

 

「──何?」

 

「あなたって、何者なんですか? ThisManみたいな、そういう類の……?」

 

「違う。普通の人間。私も今夢を見ている。貴女に会う夢を、今」

 

「へっ!? じゃあ実在する人!? なら、お名前は──」

 

「リク。貴女は」

 

「えと、鹿島、明日菜、です」

 

 女子──明日菜も立ち上がって、お互いが攻撃してきてもすぐに反応できるような距離を保ったまま言葉を交わす。

 

「……明日菜は、どこの人?」

 

「生まれは富山です。だけど福井に引っ越すことになって……」

 

 やっぱり福井だ。キケさんも比較的近所だと言っていた。もしかすると、福井にいる人しかこの夢に出てこないのかも知れない。

 

「……年齢は?」

 

「なんか職質みたいになってません? 高1です」

 

 私も、と出かけたところで言い淀む。これ以上話すといよいよ私のことを探られかねない。

 

「というか、リクさんは? リクさんのことも教えてくださいよ」

 

「……近づかないで」

 

「えー? いいじゃないですか。見た感じ年代近そうですし、もしかして高校生? まさか同じ学校だったり──」

 

 やばい。夢と現実両方の私を知る人間はキケさんくらいにしたい。絶対に面倒くさいことになるからだ。どう拒絶すべきか──その時だった。

 

 明日菜の頭を何かが貫いた。

 

 倒れる彼女。側頭部から広がっていく血の池。

 

「──え」

 

 狙撃だ。逃げなくては。ただあまりに初めてのことにすっかり立ち尽くした私は、ゆっくりと弾が飛んできた方を見ることしかできない。

 

 きらり、と何かが遠くで瞬く。私は動けず終いのまま、眉間にズンとした感覚とともに──。

 

 ◇

 

 ベッドの上で仰向けになって、天井を見据えていた。

 

 撃たれたであろう眉間をさすりながら身体を起こす。

 

 空いた片方の手を空にかざした。間違いない。現実はこっちだ。

 

「……夢の中で死ぬと、目を覚ますのか」

 

 さしずめ脱落ではないか。撃たれてとはいえ敗北なんて初めてだ。明日菜はどうなったのだろうか? 私を撃ったのは誰だ? まさかキケさんだろうか? 今度会ったら聞いてみようか?

 

 尽きない謎に頭を悩ませながら、ゆっくりとベッドから立ち上がる。

 

 おそらく、次に眠りについたときも福井のどこかで"目を覚まし"、目が覚めるまで戦うのだろう。

 

 これから、どうすべきか。

 

 逃げ惑うわけにはいかないのだろう。何せ私は先にたくさんの人に殴りかかったのだから。

 

 次回からは平常心で、いままでの感覚で。対峙する者たちを蹴散らすしかない──。

 

 夢の中で繰り広げられるバトルから、私はもう逃れられない運命なのだと悟ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「えー、今日は転校生を紹介します。富山から来た鹿島明日菜さんです」

 

 嘘だと言ってくれ。

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