黒く傷痕を残した残響 作:リアンに殺されたい
ヴァル夜はどうでしたか?
私は、ダメでした。
貯蓄は計画的に……!
それから、嫉妬大罪を使った指揮能力テストなどの多岐にわたるテストがダンテたちに降りかかった。
正直、見ていて感心する。ダンテが指揮するだけで、軽快なリズムで囚人と大罪の攻撃がマッチし、鍔迫り、一つずつ確実に仕留めていくのだから。
そんな戦闘テストもひと段落つき、囚人の常識・知識や性格を測るテストへと移行していく。
そのテストには私も協力した。ホーエンハイム、アリサ、マートン、私の4人でそれぞれ3人から2人を担当し、問診を行う。
「新しい人と会った時に、君達ならどこに注目するかな?」
「ハッ……匂いだな。それだけで、そいつがどれだけの死線を潜ってきたのか、推測する材料にはなる。」
「俺は……そうだな、俺が握手をしようと右腕を差し出した時に嫌な顔をするかどうか、だな?」
私が担当するのは囚人4番と囚人13番だ。
「次に……リーダーシップを発揮する時のスタイルは?」
「断・決──即断即決だ。状況が目の前にあるのなら、即座に判断して敵を断てば良い。」
悪くないね。さて、問題は──
「……。」
「囚人13番、答えづらいかい?」
「……悪いな、少し時間をくれ。」
「いや、構わないよ。答えられない、というのも一つの回答さ。」
目の前の囚人はとても苦しそうに見える。旧G社の英雄にこんな質問をすれば、戦争の古傷を抉るなんてのは分かり切っていた。
「……いや、答えられるさ。」
囚人13番は深呼吸をして、タバコをふかすとゆっくりと口を開いた。
「リーダーシップを発揮するなら……俺は一番前に立つんだろうな。誰よりも前で、敵の攻撃の目前で仲間に指示をする。一番最初に死ぬのが、俺であるように。」
「……無・任。」
「無責任ってか?」
「……いや、考え無しに任務に殉じるのはリーダーの器じゃないと言ってるね。」
「ほぉ、正解だ。」
「おい!後半の文章どこいった!?」
それは私も聞きたい。
「次は囚人たち全員の基礎体力検査である。ようやく本格的な検診が始められそうであるな。」
「今まで僕たちが受けてきたのは、いったい何だったんですか!?」
ホーエンハイムの言葉に、囚人11番が疑問の声を上げた。
「LCE部門で、今まで知りたかった色々なデータを集める……ある種の個人的な動機のための時間でしたね。」
「それでも、検診結果から皆さんをサポートするのに必要な情報が集められた有意義な時間でした。」
「まあ、そういうワケだ。」
「じゃあ、今から急ぎで団体検査から始めますのでこちらに集まってください。」
アリサが案内し、囚人たちを一列に並ばせた。
……一部、指示に従わない囚人もいたけれど私の出る幕ではなさそうだったので何もしなかった。
「と、とりあえず……団体基礎検査は終わりました。」
アリサがそう告げた時、ホーエンハイムがふと何かを思い出したように顔を上げた。
「検診を実施する前に、急いでテストを実施したせいで大事なことをふとつ忘れていたようだ。」
ホーエンハイムは勿体ぶって囚人たちの前まで歩いていくと、眼鏡をクイッと持ち上げた。
「助手。」
「何かな?」
「君ではない、オルガン。テストを円滑に進めるのを手伝ってくれる助手が必要なのだよ。」
それは遠回しに私がその職務を遂行できないと言っていないかい?
「ふーん、それなら……あなたの後ろに適任が2人がいるんじゃないの?」
「私たちはホーエンハイムさんの助手ではありません。補助研究員です。」
「そうだ、その2つの違いは非常に大きいのだよ。」
……あれ?
ホーエンハイムから聞こえてくる音色が、少し……。
「検診を手伝う助手を諸君のうち一人が受け持ってくれるといいのだが……。」
それから助手を決める作業に入ったのだけど、やっぱり気のせいではない。ホーエンハイムから聞こえてくる音色が、あの寂しい音楽が少しだけ、ほんの少しだけ引き出されている。
「ホーエンハイム?」
「……オルガン、君を指名することはないからそんな神妙な顔でこちらを見るのはやめてくれないか?その顔をされると、何を考えているのか分からなくて背筋がゾッとする。」
「ああ……本当に失礼だね、ホーエンハイム!」
「あ、あはは。仲が良いんですね?」
囚人11番が生暖かい目でこちらを見つめていた。
「……さあ、決定したぞ。なお、全ての判断基準はあくまで私の主観的な見解に基づくということを断っておこう。」
不機嫌になった私には目もくれず、ホーエンハイムは話を進める。
「そこ、オレンジ髪の囚人……。」
その言葉にまるで跳ね飛ばされるかのように囚人8番が立ち上がり、管理人も危うく転倒しそうになった。
「ご安心ください、ホーエンハイムさん。私の資料をご覧になったのならご存知かと思いますが、私は昔働いた協会と事務所でも多くの方の期待に応えてきました。」
「ふむ、確かに優秀そうだもんね。」
そんな優等生タイプをホーエンハイムが選ぶとは思えない……という言葉は飲み込んでおいた。
「ありがとうございます、オルガンさん。それともし、いつか本社へ配置転換の申し込みをする機会があれば……キャリアに反映されますか?」
「その野心、まだ消えてなかったのか?もう諦めたのかと思ってたんだけど?」
囚人8番の語る将来への希望に、囚人13番がやや呆れながら反応する。そこで私はふと、ホーエンハイムの顔を見た。
その表情はやはりというか、なんというか……。
「……オレンジ髪の囚人の後ろにいる囚人のことを言ったのだ。君が前に出過ぎて見えなかったからな。」
私は視線を囚人8番の方へ再び移した。その顔は、信じられないとでもいうかのように硬直していた。
それから視線を、ホーエンハイムが指名した囚人へ移す。さて、誰を助手に指名した…の、か……?
全員の視線が、囚人7番へ集まっていた。
「なんだよ……。」
本人は一瞬、なんで全員が自分を見ているのか分からないという顔をしていたが、すぐに状況を理解したようだ。
「オ…オレ!?」
ちょっと待ってほしい。
私も……この男に負けたのか?助手として?
「ど…どうしてですか?どうして私じゃなくて、あ…あんな……。」
「そ、そうだよ。ホーエンハイム。か、彼に任せるくらいなら私の方が適任じゃないのかな?」
「大半の研究者はしばしば根本的な勘違いをするものだ。」
ホーエンハイムは、私と囚人7番の話をバッサリと切り捨て、自論を語り始める。
「高度な教育課程を修了して経歴が華々しいほど優秀な人材だとな。」
「じょ…常識的なことじゃないですか?少なくとも研究という仕事に限っては……。」
「だが、ほとんどの偉大な発見は即興と直感から生まれるという事実を知っているかね?まさにこの者にぴったりと当てはまるのだよ。」
正直不服だったけど、囚人7番を助手として指名してから、やはりあのか細く美しい音楽がより引き出されてきている。
君だったんだね、ホーエンハイムの音色を引き出す人間は。
……でも、なんか複雑だな。
「えっ…あっ……。」
「どうかね、ヒースクリフ君。君のその猪突猛進な直感と情熱溢れる勢いは、私の代わりにこの者たちを統率して率いる資格が十分にあると見込んだのだが。」
「あっ…その……そうか?」
ホーエンハイムの声と目が、どこか遠くを見ている気がした。それは距離の話じゃなくて、時間の話で。
「我が助手になったことを歓迎しようではないか。」
「それじゃ……オレはまずは何からやれば…けほん…いいんだ?」
「難しいことはないさ。君の持っている自由奔放な気質を、あるがままに発揮してくれればいいだけだ。」
それはまるで、未亡人が失った恋人の姿を属性の近い他者に重ねる姿と近かった。とはいえ、ホーエンハイムは異性愛者だから、恋人というわけではないのだろうけど。
おそらく、ここまでの会話の流れからして……「助手」だろうね。昔、大切な助手がいて、その人を失ったのかな?
たとえば、ロボトミー・コーポレーションとかで。
それから、囚人7番……いや、ホーエンハイムの助手になったからには名前で呼ばないとね。ヒースクリフ君に眼鏡を貸し与えた。
「今回のテストの核心は……入社前の身体能力と、今の能力にどれくらいの差があるかを調べることです。」
〈ふむ、つまり入社前よりどれだけ成長したかってことかぁ……。〉
管理人のその言葉を聞いて、囚人たちが騒つき始めた。
彼らは、「成長」という言葉に反応しているが、現実は非情だ。彼らは入社とともにその実力が下方平準化されている。
たとえば、囚人12番なんかを例に挙げればわかりやすいだろうか。本来の実力で言えば私と同等か、私より強い程度の人間であるのに、今では他の囚人たちと実力に大きな差がない。きっと今私と戦えば、私が確実に勝利するだろう。
管理人の鎖による契約。全てを均す契約。詳しいことは知らないけれど、とても恐ろしくて興味深い。
〈ふむ。やっぱり、時間にはどうしても成長が伴うからね……。〉
「そうですね、ちょっとずつお互い繋がった……しっとりした関係になりましたし。」
「繋がってしっとりかぁ。良い語彙だな、それ。」
「ふふっ……」
「な、なんで笑うんですか、オルガンさん?」
つ、繋がってしっとり……私、涙が出そうだよ。
「あぁ。暖かい話題と共に、どうやら何か勘違いが生じている気がするから割り込ませてもらおう。」
それから間も無く、誤解を解くためにホーエンハイムはネタバラシをした。
「あぁ。君がさっき言ってた繋がってしっとりというのが、こういうことを意味していたのであれば悪くない言葉遊びだったな。」
「おい、さっき言ったことナシにしろ。」
「……ナシで。」
ああ、可哀想に囚人11番……。
「って言っても、ヒースクリフさんも結局は僕と同じレベルってことなんですね?」
おっと?話が変わってきたね?
「うわぁ。今うちのシンクルの「恐怖心」って3文字が砕け散る音が聞こえた気がするんだけど……。」
「私にも聞こえたね、興味深い音色だった。」
「この…ク──」
今にもプッツンしそうだったヒースクリフ君の声を遮って、囚人8番が下方平準化の原理についてを確認した。こういうところ、本当に優秀だなぁと思う。ハナ協会の子を思い出すよ。
「ロボトミー・コーポレーションが使っていたクリフォト抑止力と似た系統の力としても見ている。」
「明らかになってよかったな。だから、このウーティスが入社と同時にこれほどまでに惰弱になったのだろう。」
そこで声を上げたのが、囚人12番だった。
「知っていたというのであるか?」
「当然だ!本来なら私は数秒以内でお前たち全員を戦闘不能にできるほどだったからな。」
「……うん、だろうね。少なくとも、管理人と契約している囚人相手なら。」
契約を解除された囚人たちが相手なら……どうなるだろうか。12番が囚人全員を制圧するとなると鬼門はドンキホーテと4番、13番になるだろうか。
「なんで私たちを戦闘不能にする前提なんですか……?」
「まったく、証明もできないのに大口を叩かれても困るな。ふう…振るたびに人を何人も殺してた腕が入社後やけに大人しくなったなと思ったけど。気持ちのせいじゃなかったってことかぁ……。」
〈グレゴール……。〉
そんな恐ろしい実力を持つ者たちの力を奪い、均してしまう黄金の枝。もしかすると、私たちが思う以上に恐ろしい物品なのかもしれない。
そんな物品を集めさせてしまうのも、もしかするとこの都市にとって大きな厄災の火種にもなりうるのかもしれない。
だけど、私は都市がどうなろうとどうでもいい。あの沈黙を、もう一度聞けるのなら。
「はっ、私の実力を真っ当に評価しているのは貴様だけのようだな。」
「まあね、私が囚人の中で一番警戒しているのは君なのだから。」
「ほぉ、目の付け所が良いな。」
〈……仮にも本社の人間に警戒されてるのはあまり良いことじゃないと思うのだけど。〉
囚人12番と目を合わせた。
その目には、私への不信感が揺らいでいた。
視点:ヒースクリフ
それからしばらくして、メガネが大罪を使った戦闘力の変動測定テストを実施することをオレらに告げた。
「はい、ヒースクリフ君。これが段取りの書類ね。」
「お、おう。うげぇ……文字が多いな。」
オルガンとかいう奴が渡してきた資料は文字がビッシリで、正直気が遠くなりそうだった。
「その、なんだ…最初は……。」
「ゆっくりでいい、落ち着いて進めてくれ。」
〈まるで保護者だね。〉
……時計ヅラは気付いてないんだろうが、このアマ──オレのことをまるで覗き込むかのように見ている。
オレを補助しているようにも見えなくないが、違う。オレのことを見ている。
値踏みされてるみたいで、正直気分が悪い。
「──お前、とお前!だ。入れ。」
でも、今は仕事に集中しねえと。
オレはボンボン二人を指差して実験室へ送り込んだ。
だが、この違和感は忘れないでおく。
何か大切なことな気がするから。
はやく全ての囚人たちを名前で呼びたい。
そういえば、囚人ウーティスの過去は閲覧が禁止されている(公式設定)のですが、なんでオルガンは知ってるんですかね〜
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オマケ
視点:■■■■■
「なんでそんなにヒースクリフに近づいてるの?あなたは誰?」
「いい加減、離れて欲しいのだけど。」
「離れて。」
視点:オルガン
この男のどこがホーエンハイムの心の奥底に干渉しているんだろう。顔?声?性格?いや、裏路地育ちで直感型なところ?
ただ、もし条件が裏路地育ちで直感型なところだとしたら、私でも音色を引き出すことができていたはず。だから、そこじゃない。
わからないなぁ、そもそもヒースクリフ君ってなんのために入社したんだっけ。彼に関係する黄金の枝回収任務も意味のわからないことばかりだったし、本当に何者なんだろう。
・・・