黒く傷痕を残した残響 作:リアンに殺されたい
10章が来たよ!!
これまで何してたんだい?
「ということは…残るはイサン君と当人の番であるな?」
「また、相手す大罪は嫉妬ならん。」
残された二人の囚人たちは、腕をくるくると回して体をほぐしながら隔離室へ向かう。
「一度は静電気を経験したことがあるだろう?」
「…ほへ?それと嫉妬にいかなる関係があるというのだ?」
「もし誰かから嫉妬されたことがあるなら、これら2つがチクチクする性質を持つという共通点があることに同意するであろう。」
「うむ…意味がさっぱり分からぬが…。」
ホーエンハイムの説明に納得がいかないドンキホーテに対して、囚人1番が子供にモノを教えるように、やわらかく、ゆっくりと丁寧に噛み砕いた説明を始めた。
その陰で、私は再び思案に沈む。
「……。」
嫉妬。私とは切っても切り離せないもの。
「……兄様を誑かすのはやめてください。」
兄様を奪ったあの女、セラフに私は嫉妬した。
「このイカれ野郎が……」
「自分より後輩の私が先に昇級したからって寝込みを襲おうとする貴方の方が、よほどイカれ野郎だと思いますよ。」
昔所属した事務所の代表に嫉妬された。
「いいなぁ……アイツはハナ協会から直接仕事を斡旋されてるんだろ?」
「俺たちみたいな底辺フィクサーの気持ちなんて、これっぽっちもわからないんだろうな。」
「良いよな、楽そうで。」
多くの人々からその実力を嫉妬された。
「……。」
そんな時でも、私に声をかけてくる友人が1人いた。
「オルガン、今の君のやり方はあまりにも敵を作りすぎる。」
クテシビオス。ハナ協会3課所属だが、役職もなければパッともしない有象無象。今では図書館に飲み込まれて消えてしまった、私の親友。
「僕と一緒にハナ協会で働こう。協会所属のフィクサーになるんだ。そうなれば、誰も文句は言わないし、誰もが納得する。」
「誰もが納得する……か。それは偽りだよ、クテシビオス。」
たとえ敵を使っても、誰かから常に嫉妬されたとしても、私にはどうでも良かったのだ。
「私が納得できない。ハナ協会は、私に黒い沈黙のことを教えてくれないし、所属したとしても閲覧の権限はくれないのだろう?」
「……そうかもしれない。でも、今回の図書館事件で一緒に戦ってくれるなら!」
「もういいよ、クテシビオス。図書館は私にとって割に合わない仕事だ。私はゆっくり、黒い沈黙の手がかりを探すさ。」
「あ…待ってくれ、実は図書館に──」
「聞きたくないよ、受けない仕事のことは。」
私はもう、黒い沈黙に取り憑かれているのだから。
あの演奏を、もう一度聴くために。
私は、あの人の背中を追いかけなければならないんだ。
「あ、そういえばドンキホーテに聞くのを忘れていたね。」
私は隔離室の中で戦う囚人たちを眺めながら、先ほどホーエンハイムによって中断された、黒い沈黙に関する質問を思い出した。
「このテストが終わったら、改めて聞いてみようかな。」
視点:ドンキホーテ
目の前の嫉妬大罪を打ち滅ぼすと同時に当人とイサン君は羽織っていた楔事務所の人格が剥がされ、隔離室から出るように促された。
しかし、そんな時にちょうどロシナンテの靴紐が解けてしまった。
「もう少し待ってくだされ…!ロシナンテの靴紐が解けて…。」
《はい…?この前、私が七回もきつく縛ってあげたじゃないですか?》
当人の言葉に、イシュメール君が困惑と呆れが混ざった言葉を投げかけるが、仕方ないことである。ロシナンテには少々厳しいエクセソリィであったが故に……。
そのような会話をしていると、イサン君が好奇心を目に宿しながら疑問を口にした。
「今のドンキホーテ嬢はロシナンテを脱ぐと一体いかがならんや?」
視点:オルガン
──結論から言うと、今目の前には血鬼の第二眷属がいて、囚人たちがそれに対応中だ。
そして今、ドンキホーテ……いや、第二眷属サンチョが高く飛び上がったかと思うと、破滅的な威力を持つ血槍の投擲を行い、囚人たちが壊滅した。
「……私の出番、だね。行ってくるよ。アリサ、マートン…それからホーエンハイム。」
「……上には、赤い視線の介入許可の申請をしている。それが通るまで、いなしてくれればそれでいい。君がアレに勝つことなど、初めから期待していないからな。」
「ふふ、珍しいね。私の心配なんて。」
そうして私は、強烈な圧力が満たしている隔離室の中へ飛び込んだ。
死んだ囚人たちの遺体を踏まないように、私は血鬼の前に立つ。
「……ウチのホーエンハイムが煽ったせいであるとはいえ、囚人たちが余計に傷つき、死んでしまったね。」
「……。」
「ドンキホーテ、もしも君にまだ声が届くなら、気に病まないでほしい。」
ゆっくりと、私は愛剣を……長剣リュッサを構えた。
「君が今どう思っていようと、何も考えることができなかったとしても……悪夢は、これで終わりだよ。」
「管理人がこの都市で追う星を、今日ここで沈めるわけにはいかないから。」
次の瞬間には、私の剣と彼女の槍が轟音と共にぶつかっていた。
「……なるほど。」
本来なら、私は今ので押し負けていた可能性が高い。だが、この鍔迫り合いに勝ったのは私だった。
「飢えているからか、それとも知り合いを傷つけたくないからか……暴走状態にあるというのに、力をセーブできているんだね。偉いじゃないか。」
少しずつ、目の前の彼女に傷を刻んでいく。私もある程度の手傷を負いながらも、彼女の攻撃に対応していく。
刻んでいくたびに、彼女の身体から私由来の旋律が吹き抜ける。肉体を削っていく。
このままいけば、私でも抑えることはできるかもしれない。
……やれる。
そう思った時、スピーカーから爆音が響いた。
《背中がガラ空きだ!!!オルガン!!!!》
今まで聞いたことがないほど切羽詰まった、ホーエンハイムの絶叫。
その声に驚き背後を振り向くと、地面から血でできた杭のようなものが3本、私の心臓を目掛けて伸びていることに気づいた。
この戦場には、囚人たちと私が零した血液が、絨毯のように広がっていた。それを彼女は利用し、こうして、意識外からの攻撃に転用したのだ。
「……あぶなっ!!!」
なんとかそれらをいなし、致命傷を避けた。だが、その隙を第二眷属が見逃すわけがない。
──【ラ・アベントゥラ・ア・テルミナード】。強力な攻撃が、一方的に降りかかる。これまで蓄積していたダメージも併せて、体勢が崩れる。
「吾は…。皆の…母になるべきであるが故…家族たちの…渇きが…。」
再び槍を握り、ゆっくりと歩いてくる彼女を見た私は、終わりを予感し、もう立つこともままならず、地面に身体を横たえた。
「兄…さん……。」
──その時だった。
「いいえ。あなたはここでは誰の父母になる必要も無い…。」
隔離室に新たに入ってくる足音。どうやら、間一髪間に合ったようだった。
「囚人でしかありません。」
疲れた私は、横になったまま目を閉じた。
隔離室内は静かになった。
「……生きているか。」
しばらくして、そんな私に近づいてくる足音があった。だが、私が関心を向けたのは足音ではない別の音だった。
繊細で、今にも泣きそうな旋律。ガラスや水に近い、心細い音色。自分自身を切り裂いていく自責的な音色。それが、大きく響いていた。
「馬鹿だね……勝手に殺さないでくれないかな?」
「……まったく、紛らわしいことこの上ないな。」
メガネに光が反射しているせいで表情は読めない。でも、旋律が静かに落ち着いていくのを見るに、安心したのだろう。
「素直じゃないね……良かったって心の底から安堵してるんじゃないのかい?」
「そうだな。私の指示によって部下が死んでいたかもしれないという、私の天才性を毀損しかねない凡庸なミスを犯したのではないかとは恐れてはいただろう。」
……素直じゃない奴。
「……じゃあ、なんでそんな泣きそうな顔をしているんだい?」
「──気のせいであろう。」
私は、ホーエンハイムの頬に手を触れた。その際に、眼鏡がズレてホーエンハイムの目元がよく見えた。
……ようやく、ホーエンハイムという人間から聞こえる旋律の性質が、少しずつわかってきた。
ホーエンハイム。類稀な天才性と、他者を寄せ付けないハリネズミのような人間性を持ちながら、多くの部下に慕われる男。
響く自責的な旋律。まるで、自分の存在を肯定できていない哀れな男。自分が受けるこの世の全て苦痛の原因を自分のせいであると、背負い込もうとする傲慢な男。
もっと知りたい。正確に、この旋律を理解したい。
「聞かせてくれないかい、君の抱える…苦痛のこと…を……。」
あの沈黙ほどではないが、私がホーエンハイムの旋律により強い関心を抱いたのは……この時からだった。
目を閉じていく中、私は久しく感じた充足感に身体を預けていた。
視点:ダンテ
マッチを取れずに素通しされたドンキホーテの攻撃で混乱したオルガンを、寸前のところでヴェルギリウスが助けた。
決してオルガンが弱かったわけではない。むしろ、オルガンの戦闘は今まで出会ってきた敵たちよりも洗練されていたし、脅威だった。あの中指の末兄……リカルドですら、彼女の前では霞むだろう。だが、彼女よりもドンキホーテの方が強かったというだけで。
……今後巡礼を続けていく中で、私たちが戦う相手はどうなのだろうか。オルガン、いや……靴を脱いだドンキホーテと同等の相手が現れた時、私たちは勝てるのだろうか。リカルドの時のように、いつもヴェルギリウスが側にいてくれるとは限らないのに。
「今回の件では誰にも責任を問いません、ダンテ。」
〈……。〉
「かつての第1眷属が、囚人3番ドンキホーテに残したロシナンテという抑制具に関する収集情報があまりにも乏しかったせいで…会社側でも正確な予測は立てられなかったのだろう。」
ヴェルギリウスが、担架に載せられて運ばれるオルガンの方を一瞥しながらそう呟いた。
「……あの程度のフィクサー1人で、この囚人チームの緊急事態に応対できると踏んだ本社の判断は、あまりにも甘かったと言わざるを得ないな。」
ヴェルギリウスの戦う姿を何度も見たことはないけど、少なくとも今まで見た中では一番疲れているように見える彼を眺めながら…私は素直に時計を回すことにした。
意識を取り戻したドンキホーテの心境を思うと……胸が痛い。
視点:オルガン
「……私は…眠っていたのかい?」
医務室で目を覚ました私は、そばに控えていたアリサに尋ねた。
「はい、およそ1時間ほど。」
「そうかい……いやぁ、情けないところを見せてしまったね。」
ベッドから抜け出し、傍に置かれていたリュッサを確認する。
「アレだけ無茶に扱ったのに、数ひとつないとは……」
意外なことに、損傷はなかった。あれほどの相手とぶつかり合ったのだから、多少は傷がついているかと思ったものだが……。
「……ホーエンハイムは?」
「最後の検診に移ろうとしています。」
「それじゃ、私も行かないとね。」
あの馬鹿の仮説を否定してやらないと。
「無茶ですよ、オルガンさん。まだ本調子じゃないですよね?」
「ふふ。私は、安静にしていることができなくてね。」
ズキズキと痛む身体を無視し、私は演奏会場へと向かった。
視点:ホーエンハイム
「待てよ、本当にこのまま別れちまうのか?」
「大罪にはならなかったみたいですね。」
ねじれていく私を、助手君たちが見つめていた。
「……これが、ホーエンハイム?」
それから、ゆっくりと歩いてきたオルガンが私の姿を見て、一瞬瞳を揺らした。
しかし、今の私にはそれらの景色全てが遠いものに思えた。
私の体を這うように、数多の声と手の体温が包み込んでくる。
「あぁ…かくて、こうして…。彼らの声は未だに聞こえるのだな…。」
「まだ…覚えているさ。」
視点:マートン
「戻る人だとは信じていますけど…結構身体が震えますね。」
目の前で身体の内側から捻れ、異形へと変貌したチーフの姿を見て、幻想体やねじれの扱いには慣れてきたと自負していた自分ですら震えてしまう。
まるで、不可逆的な羽化のようにも見えたそれが、本当にチーフが戻ってくるのかという不安を呼び込んでくる。
「……うるさい。ホーエンハイムの音が聞こえなくなる。」
隣では、オルガンさんが不愉快な顔で虚空に向かって何か毒づいていた。全ての光景が、どこか現実離れしているように見える。
カチ、コチ。
管理人の頭から音が聞こえ、そちらを見た。
すると、ファウストさんがその翻訳をしてくれた。
「管理人様が絶対連れ戻すと仰っています。」
力強い言葉だった。その言葉に、身体の震えが驚くほど自然と消えていた。
「心強いですね。それでは、これをお任せします。」
アリサも同じようで、管理人に事前に用意していたメモ用紙を受け渡した。
その紙を管理人はムルソーさんに渡して、読み上げさせた。
「ロボトミー・コーポレーション。5分。可能性。期待。右腕。」
すると、ねじれたチーフを中心としてポータルが開かれた。
「見せたくなかった、誰も興味など抱かないであろう私の過去までここでは曝け出されるだろう。」
ポータルの奥へ姿を消したチーフの声が、実験室に響く。
「実験のためには甘んじて受け容れるしかないのはわかっている。しなし…。」
「だからといって、全てを曝け出す必要もないであろう。」
「どうせ…もう過ぎ去ったことではないか。」
その声を聞いて、LCBの皆さんがポータルの中へと足を踏み入れた。
「……私も行ってくるよ。マートン、アリサ。」
「わかりました。お気をつけて。」
そして、続いてオルガンもポータルの中へと入り込む。
……拒絶されて吐き出される様子はなかった。
「行っちゃいましたね。」
「ええ。ですが……これがきっと、二人にとって良いことだと信じてますから。」
俺が思うに、オルガンさんはチーフに好意を抱いている*1。よく、アリサとそのような話をすることがあった。
心象ダンジョンの中で、もしも万が一LCBがねじれをほどくのに失敗したとしても、オルガンさんなら……なんとかできるだろう。
「信じて待ちましょう。俺たちにできるのは、それだけですから。」
ダンジョン突入時のオルガンにはデバフがついてます。
【病み上がり】攻撃レベル・防御レベル-30
オルガンvsサンチョ
敗因:レベル不足&スロット不足
マッチを取れず一方攻撃を喰らったりしていたらダメージがどんどん蓄積して、最終的にはマッチ取れなかったテルミナードの一方攻撃で混乱した。