絶え間なく続いた戦いの最中、私達は隣り合って座って束の間の休息を過ごしている。
一足先にパンドラのメンテナンスを終えて、机の上に片肘をついてやけに重たく感じる頭を支えている。
「ふぅ……一日が長く感じるわね」
呟く声は自分だけの世界に没頭し、ナイトメアを分解している仙道には悲しいかな届かない。私の体は興奮による熱がまだ冷めなくて、心拍数のテンポだけがゆっくりとなっていくのを感じている。
足裏はふわりと何かに突き上げられるような感覚を覚える。それは勝利の余韻だとかそういうものではない……勝ち抜いた、だけど問題はここからだというプレッシャーが、浮ついた心と沈むような感覚が分離している証になっているのかもしれない。
「ジンに勝てると思う?私達で……ねえ聞いてるの?」
「聞いている、反応がしにくいだけだ。勝手に話していてくれ」
ドライバーを握りしめ、ナイトメアの関節部のネジ調整に取り掛かりつつ素っ気ない返事が返ってきた。
ナイトメアのアーマーフレームは繊細な手付きで取り外されて、今はコアスケルトンが露わになっている。
「さっきからずっと気になってたんだけど……それで動くの?」
さっきまで動いていたのを横で見ていたのに、素っ頓狂な質問が口から漏れてしまった。なぜならその全貌は、本来のものとは似ても似つかないような代物だった。
私と同じストライダーフレーム用コアスケルトンなのは確実なんだけど、私が使っているもの以上に細い……というかかなり痩せている。横でちょっと見ただけでも判断できてしまう。
仙道の異常なまでの執念と知識によって、あのナイトメアの素早さを実現している……でもちょっとドン引き。やっぱ仙道のLBXへの思いは、どこかおかしいのかもしれない。
「そんな痩せたコアスケルトンでよく今まで戦えてたわね、途中で焼ききれて動かなくなってもおかしくないのに……」
皮肉を交えつつ会話を続ける。凝り性なのか、プライドからなのか。本来ならば動くことすら怪しい……でも横で見てきて、戦ってきて知っている。怪しいどころか信じられないくらい強いってことを。
「そうだな……ニクヌキでできる限りを取り除いて。コアスケルトンも削って……まあそんな所だ」
ナイトメアのアーマーフレームの一部をひとつ手に取って裏返してみる、そこには大きく削った跡が残っている。ただでさえスピードを重視しているストライダーフレームは軽さを求められる、にも関わらずそれ以上の軽さを求め。細部を削れる物で取り除いたのだろう、指でつまめば折れてしまいそうで怖くなった。そっと優しく机に置いて、割れなかったことについほっとしてしまう。
「もしかして、ジョーカーを使ってた時も全部ここまでやっていたの?」
ちょっと気になったから聞いただけだったのに、仙道が手を止めて私と目を合わせ。よく気がついたと言った感じで目を細め語りだした。
「それに思い至るとは流石だな。そうさ、だから俺様はあのスピードとテクニックを実現できた。中々ここまで気付く奴はそう居ない……お前がそのひとりで嬉しい限りだ」
「……魔術師って意外と苦労しているのね」
嫌味をぶつけたつもりだったのに、仙道なのに言葉のままに受け取ったのか。強張った表情を緩めて目を閉じて鼻が鳴っていた。そんな喜ばれるような言葉は言っていないのに、変なの。
「メンテナンスもそこまでやるのね……やっぱり調子悪そうだったりするの?」
「あ?普通だろこれくらい」
「普通って、そんな分解してまで細かくなんかやらないわよ。元に戻せないでしょ」
バラバラのパーツを横目にみつつそんなことを言えば、仙道は大して見もせずに散らばったパーツのひとつを拾い上げてナイトメアに装着する……どの部分のパーツだとかを全部記憶しているの?ってくらい正確に拾い上げていた。
「ここまでやっているからこそ、俺は確実に勝ち続けたんだよ。お前も覚えたほうが良いぜ?」
「なにそれっぽく言ってんのよ、最近は郷田にさえ負けっぱなしじゃない。さっきはオタレッドにも……あ」
余計な一言を言いかけた口を抑え言葉を切る、仙道の機嫌を損ねてしまったかもしれない。どうしよう、ここまで順調だったのに私のせいで逆戻りだ。
ゆっくりと顔を上げると、怒るどころか気にも止めずにメンテナンスに取り掛かっていた。
「……ごめん、言い過ぎたよね?」
「いい、事実だからな。もう気にしてない」
言葉は素っ気ないように聞こえたが、仙道の横顔は少し緩んでいるように見えた。なにを見て思ったかは自分でもわからない、でもいつものように後悔を引きずり復讐に燃え続ける姿とは違うように見えた。
「うん、ありがとう……そうだ、向こうに自販機があったの。なにか飲み物買ってくるわね、仙道はコーヒーでいい?」
「ああ、頼む」
集中している仙道の側を離れ、ひとり飲み物を買いに向かった。
「コーヒー……甘くないのならどれでもいいのかな?みんな同じよね、ラベル可愛いの選んじゃお」
ガコンと機械的な音と共に目的のコーヒーが出てくる。私のスポーツドリンクと一緒に抱え、浮き足立つ気持ちのまま戻ろうと立ち上がる。
予選が終わり、ジンに挑めなかったプレイヤーは残るか帰るかを選択できる状況にあるらしい。でも海道ジンとその戦いを見届けるのに、まだ多くの人達が残っている。
「まだすごい人……気を引き締めないと」
「アミたん、お疲れ様!」
声の方に振り返ると、まあ案の定というか……オタレッド達がいる、仮面の下の声はいつもより高い。浮かれているのはいつものことだけど、今日はそれ以上に嬉しそうに感じた。
「オタレッド、オタイエロー。聞いたわよ、あなた達が一番乗りだったって」
「はっはっは、嬉しいよ!君にそんな褒めて貰えて……それにすごいのは君の方だよ」
「うんうん……今日のアミたん、すごく格好良かったんだな」
ふたりの曇りのない尊敬の言葉に、ちょっとだけ照れくさくなって目を伏せる。でも、オタレッド達は勘違いしている……そこだけはどうしても訂正したくて顔を上げ会話を続ける。
「私だけの力じゃないわ、仙道と一緒にここまでこれたのよ。だから私が特別すごい訳じゃない、あいつには助けられてばかりだったわ」
「アミたんは謙虚なんだな」
「う、うぅ……君はなんて……グスッ」
オタレッドがマスク越しに目元に腕を当て謎に泣き出した、実力はあるのにこういう所で損をしていると思ってしまう。大げさね、本当。
「ひっく……君こそ本物のヒーローだよ」
「そう、ありがと」
褒めてくれたことには一応お礼を言いつつ、あまりこの茶番を長引かせないようにぶった切ってしまう。
「レッド、そろそろ行こうよ。もう少しで海道ジン戦だよ」
オタイエローの冷静な言葉にすぐに涙をひっこめた、器用ね。
「ああ、わかった……アミたん、私達がたどり着いたここはゴールじゃない。みんなが望んだこのステージは、敗れた者達の夢でもある……お互い全力で挑もう」
去り際までヒーローを演じてレッド達は手を振って私の前から去っていく、これから振りかかるプレッシャーをものともしていない。強靭な精神だけは見習いたい……精神だけね。
私も気を取り直して仙道の元に戻る、買ったコーヒーをちゃんと飲んでくれればいいな……なんて気の抜けた事を考える足取りは、どうしてか軽かった。
川村アミが飲み物を買いに席を外し、俺は黙々とナイトメアの修理に取り掛かる。
焦げた関節部にグリスを注ぎ、浮き出た汚れを綺麗にふき取る。ネジを緩め、オイルを流し入れ摩擦を減らすように。しかしネジは締め過ぎないように……ざわめきが止まない会場の空気と音を遮断し迷いを消す、そのせいかいつもの言葉を口にしてしまう。
「それが……私を殺さなかったなら、それは私を……強くする。だから折れてはいけない、だから負けてはいけない……」
震えるドライバーの先が徐々に収まり、理想的なメンテナンスは終わった。
張り詰めた糸が緩んだように、肩の力が一気に抜け。息を思い切り吸った衝動で目の前が歪む、いつもの酸欠だ。
ぐにゃりとした感覚に空っぽの胃の中から酸っぱいなにかが上がり、脳みそが激しく揺れる。緊張からきたものなのか、はたまた外部からのプレッシャーなのか。
冷静になれ仙道ダイキ、あとは残すは海道ジン。あいつに挑むに当たって今は条件が悪い……だが勝算はゼロにはなっていない。今日の戦績は良い、それも思っていた以上に。
急きょタッグを強いられてしまい、なにも知らない川村アミを騙し参加はできた。俺を叩きのめしやがったクソ鳥野郎以外は想定内で勝ちに繋げてこれた、風間と森野の雑魚ふたりを前にトラブルが発生したものの、大丈夫だった。
今まさに、幸運と俺自身の実力が背中を押し、今日この舞台に登りつめている。なのに――。
「仙道、おまたせ」
俯いていた耳に突如聞き慣れた声が届く、顔を上げると両手いっぱいに飲み物と食べ物を抱え帰ってきた川村アミがいた。休憩時間とはいえ、気の抜けた表情でどこか浮ついているのが一発で分かった。
「なんだそれは、なんで食いもんなんか持っているんだ」
「これ?感動したーとか、頑張ってねーとかで貰ったんだ。差し入れだって」
無邪気に腕の中に抱えられたそれを見つつ、そう答えていた……名前も知らない他人から食い物なんかホイホイ貰うなよ、緊張感のないやつめ。毒でも仕込んでいたらどうするんだ。
「そうか、ひとりで食うつもりか。頑張れよ」
「さすがに無理よ、だから一緒に食べましょ?仙道も息抜きしてジンに備えましょうよ」
ナイトメアの作業スペースの横にポンポンと食べ物を乗せる。クッキーにサンドイッチに菓子パン、誰かから貰ったとはいえ結構な量だ。最後にペットボトルを差し出してきた、受け取ると全然知らないメーカーのコーヒー。贅沢は言えないが、なぜこれを選んだ。ラベルによくわからないコーヒー豆のキャラがピースサインをしている、なんとも憎たらしい顔だ。
「で、なに食べる?」
「なんでもいい、甘くなければ俺は構わない」
「それじゃ……はい、カツサンド」
色々と言いたいことはあったが、川村アミから差し出されたサンドイッチを受け取り、自らのごちゃごちゃした思考を剥がし取るかのようにラベルを取り除く……見た目は普通だな、細工の跡もない。きっと大丈夫だろう……映画の観すぎだな、そんなことされる覚えんかしてはいるが。そこまでの執着はされていないのに。
香ばしいソースの香りが漂い腹の虫が鳴る、軽く齧れば肉の厚みとシャキリとしたキャベツのみずみずしさを感じた。ソースの濃い味も食欲を刺激し、口いっぱいに頬張りゆっくりと咀嚼し飲み込む。かなり好みの味だ、憂鬱な気分が少しだけ浮き上がった気がする。
口の中に残った油を流すためコーヒーを口に運んだ。舌に乗せた瞬間、想像以上の味に胃が受け付けるのを拒否して吹き出しそうになった。机の上を汚しそうになる一歩手前でなんとか堪えた。
「ぐ……なんだこれ、ま……んぐ」
「仙道、なんかあったの?」
隣でクッキーを咥えた呑気な川村アミが尋ねる、素知らぬ顔で俺の異変に心配の声を飛ばす。独特の酸味となんとも言い難い豆の臭みに鼻が曲がってしまいそうになる。これ賞味期限大丈夫なのか!?と心配して日付をみても問題はなかった、試飲の時に誰も止めなかったのかよ。よく商品化が通ったもんだ。
よりによってこんなの選びやがって……まさか今日の恨みをここで晴らしに来たな、この策士め。いつかこの恨みは百倍にして返してやろう……いや待て、そもそも自分の撒いた種が原因だな。それを利用したのか?……抜け目ない奴だ、俺はこいつを相当侮っていたということか。
咳払いで誤魔化しつつも口直しが出来るものの目星をつける、ちょうど次のクッキーに手をかけようとしていた川村アミに、やむを得ず助けを求めることにした。
「……おい、クッキー寄越せ」
「え?う、うん……仙道にはバタークッキーあげる、これが一番おいしいのよ」
笑顔で承諾した川村アミから何枚か手渡しで貰い、とりあえず口に入れて言葉じゃとても表現しきれないコーヒーもどきを飲み干す。これはコーヒーじゃない、名前を借りただけの……やめておこう、これ以上はいけない。
空になったペットボトルを机に置いて一息つく、吐く息でさえあのコーヒーの臭いを連れて戻ってくる。このメーカーのコーヒーは二度と口にしない、そう決意した。
「そんなお腹減ってたの?」
「違う……いや、いい。見るな、黙って食ってろ」
口いっぱいに広がるなんとも言えない後味に追い打ちのクッキーの甘さで誤魔化した、眉を下げ顔を覗こうとする川村アミの目を、俺はなるべく合わせないよう逸らす。
「?……変なの」
俺を馬鹿にするわけでもなく、ただ他愛もない区切りで会話を終わらせ目の前の菓子パンに手を伸ばしていく。
ふと今どんな顔をしているか気になってしまう、見るとリスのように美味そうに頬張っている緊張感の欠片もない姿に力が抜ける。
「ほんとお前は――」
一瞬漏れ出しそうになった言葉を抑え込む、隣の彼女には伝わってないかと肝が冷えた。
隣にいるだけなのに、肩の荷が下りる。話しているだけなのに、取り繕うことをやめてしまう。だけど川村アミ自身は俺を暴こうとも知ろうともしない……ただ当たり前だと言いたげに受け入れてくれる、暗闇に灯る小さなライトの下にいる感じだ。
正直心地がいい。他の見た目だけで寄ってくる女や、LBXプレイヤーとしての名誉に飛びつく野郎共とは明らかに違う。干渉はしない、しかし突き放すこともなにかを強いることもしてこない。だから安心して背中を任せられる、俺がいくら突き放しても諦めないという信頼を知っているから。
しかし、川村アミも見えている顔は同じ筈。俺のことは『箱の中の魔術師』としてしか知らない、それ以外のことは気づきすらしないのだろう……だから可能性をいくら想像しても、川村アミは受け入れてくれない。俺の元から去ってしまう。
だから、俺にできることは仮面を被り続け。みんなが尊敬して止まないLBXプレイヤーの『仙道ダイキ』で居続けること、そうすれば……もう大丈夫。もう誰も俺を責めることもない。
「俺は負けない、ただそれだけでいい」
残りのカツサンドを口に突っ込む、先ほどあんなに美味いと思っていたものがやけにしょっぱく思えて飲み込むのを躊躇ってしまう。
流し込める飲み物もない中、なんとか濃い味を詰めた。カツの油が喉にへばりつき、鮮度のいい気がしたキャベツも口の中で水分までも、不快さが染み出てくるようだ。今はただ無心で咀嚼し、込み上げて来るものと一緒に飲み込んだ。
「ふぅー食べた食べた……もうちょっとで始まるわね」
「そうだな」
こちらになにか異変を感じたのか、はたまたただの気まぐれか。川村アミは飲みかけのスポーツドリンクを差し出してきた。
「なんの真似だ?俺はいらないぞ」
「あんなにがっついていたら喉渇くでしょ、飲んだら?……飲みかけだけどね」
「は、いや……」
無邪気な優しさを向けた川村アミについ言葉が詰まってしまった。なるべく穏便に断るような言い訳を考えようとも、なにも思いつかず言葉が纏まらない。なんて断ればいい……なんて言えば彼女を傷つけないで済む。俺は、なにを言葉にすれば正解なんだ。
考えれば考えるだけボロボロと思考が零れ落ちて言葉がどんどん出なくなる、焦りからか手汗が出てきて気持ち悪い。俺はなにをやっているんだ。
「もう、早く飲んでね。はい」
口を噤む俺の手にペットボトルを握らせ、ゴミを手際よくまとめていく。
「お、おい……俺は……その……」
「私ゴミ捨ててくるね、最後まで頑張りましょう」
こちらに軽く微笑んだ川村アミは、くるりと背を向け行ってしまった。ただひとり残され、彼女の置いていったペットボトルを握りしめたまま、人混みに紛れる姿を目で追うことしかできなかった。
「はぁー……ほんと、お前という人間にはつくづく……」
もらってしまったものは仕方がない、蓋を開け口元に運ぼうとすると。不意にくだらない事が頭に入り込んできた。
「かん……クソッ!やはりあいつと組むべきじゃなかった!」
乱れた心を落ち着かせたつもりで、半分ヤケクソ気味にスポーツドリンクを飲み干した。
くどい甘さを空にして、俺も川村アミに続いて席を立つ。
この感情の正体に、敢えて名前なんかつけずただそこにある異物として、掃き溜めの中へと捨ててやった。
会場が一段とざわめきを増した、司会の男がマイクを握りしめステージに上がっていたからだ。いよいよ待ちわびた海道ジンのご登場、観客はこれがお目当てで集まっている。
さすが皇帝様、随分と人気であらせられる。そりゃこんな虫みたいに連中が群がるよな……さて、あいつはどこに行った?
「仙道、こっちこっち!」
人混みの中で小さく跳ねたピンク色の頭髪が見えた、虫の群れにノミを見つけた。見つけやすくて助かる。人を掻き分け、なんとか川村アミと再会を果たした。
「随分と騒がしいな、お陰様で見つけやすくていい」
「なんかいつも通りに戻ってる、もう大丈夫なの?」
俺の顔をマジマジと見つめ、心配そうに声を掛けてくれたが。俺自身に思い当たる節はない……いやあるにはあるが、こいつには話すことでもない。だから普段通りのテンプレートな言葉で返事をする。
「……なんの話だ」
「ううん、気にしないで」
軽い会話を挟み、合流を果たす。気晴らしに雑談を繰り返していると、どこかから伸びているスポットライトが灯り視線が一点に注がれる。階段を上がり堂々とした足取りで歩みを進めていく、王の風格のようなプレッシャーが肌を刺してきて身震いまで感じてしまいそうだ。
登場しただけでこれだ……年下ながら可愛げのない奴。俺はどうにも好かん。
「皆様、大変長らくお待たせしました。これよりメインイベントの海道ジン様とのバトルを始めたいと思います」
司会の男の言葉を皮切りに、会場に熱気が湧き上がり人々の雄叫びが響き、暗く湿っぽい会場が別次元になったようだ。
こういう空気の移り変わりは慣れているつもりだったが、急激な環境の変化に一瞬身体がビクついてしまう。隣を見れば完全にビビり散らかし、口を開け混乱を隠しきれないでいる川村アミを目に入れ。謎の安心感を取り戻す。
司会からマイクを受け取り、皇帝がようやく重い口を開いた。
「皆様、お疲れ様です。これまでのバトルは非常に面白かったです……ええ、とても」
海道ジンとはいえ所詮は中学生、大勢の前だと言葉が詰まっているように見える。表情は堅苦しく、声が途切れマイクを握る手に力が入っているのが遠くから分かった。慣れていそうなもんだがな、意外な一面を見た気がする。
「全てを見ていたわけではありませんが工夫や判断、そのすべてが大会の価値を高めていてとても面白かった……あいえ、よかったと思います」
言葉がテンプレートに則っている、あれは本心じゃないな。
サイバーランスみたいな大手のお抱えになると、あんなお遊戯も披露しなきゃいけないのか。秒殺の皇帝は自分の感情をも殺すんだな。
「この後の試合も、全力で受けさせてもらいます。どうか、最後まで楽しんでいってください」
司会にマイクを返し、ジン自身のLBXを取り出した途端。賑やかで騒がしい会場の圧が変わった。
ナイトメアより禍々しいオーラを放つ黒と紫の機体。雄牛のような二本の角と尻尾、蝙蝠のような大きな翼。悪魔のような機体『プロトゼノン』、あれで試作品の意味を持つプロトがついてるということは。あれ以上に化ける機体だと名前で証明している……ほんと、皇帝様は上ばかり見てらっしゃるようで。気に入らない。
「ありがとうございました……では、最初のチームの登場です。ユジ……え、違う?あこっちですか。お、おた……オタレッドオタイエローチーム!」
「ハーッハッハッハ!みんなお待たせ、ヒーローの参上だよ!」
「な、なんだな」
司会の戸惑う声と共に両手を上げ高々とステージに登場したのは、あのイカれコスプレ集団。仮面の下は見えないが、戯言を吐き散らすその薄っぺらい正義の仮面が、皇帝に捻り潰されさえすれば俺は満足だ。
「海道ジンが今回どういった策を立てるか、お手並み拝見といこうじゃないか」
「……そうね、ちゃんと見て備えないと」
横にいる川村アミも、食い入るようにステージを見ている。海道ジンが投げたDキューブが展開する、ステージは『地中海遺跡』か……中々洒落た死に場所だ。
両者LBXの配置を終え、会場の期待が全てステージに向けられた。ようやく始まるか。
これからの見えない先に震えを感じる、それは恐怖ではない。滾る思いとようやくこの時が来た歓喜の事実からだとわかる。アキハバラキングダムの時には郷田に邪魔をされたが、ようやく俺は皇帝と真正面から戦える。前回は分身を見破られたか、今回の魔術は皇帝なんぞにはきっと見抜けないだろう……だから――。
「
手の中で鈍く輝く未来を握りしめ、お手並み拝見と意識を目の前に向けた。
「ジンくん、相手にとって不足無し!全力で行かせてもらうよ!」
「お願いしますなんだな」
あいつら風の言い回しをすれば「誠心誠意」な挨拶をするが、海道ジンは無反応。目の前のDキューブの中へ意識を向けたままだ。
少々ぎこちない開始の合図が流れ、ビビンバード達は一気にプロトゼノンに詰めていった。