星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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※原作と比べ過度な
・解釈違い
・独自解釈

が発生しています、ご注意下さい


仮面の裏

 オタレッドとオタイエローの連携は凄かった、私達と戦った時以上に作戦を練って連携を崩さずにプロトゼノンに攻め入っていた。

 

 会場もふたりの連携の完成度に、どちらが勝つかわからないままに盛り上がった。

 

 でもそれは杞憂だった。私達は海道ジンという恐ろしさを、まだ十分に理解していなかったと思い知らされた。

 

 ジンの一撃によって、あっという間に決着がついたからだ。司会者も観客も、そして隣の仙道も口を開けて固まっていた。会場全体がなにが起こったかを理解できないままでいた、それは私も同じ……でもひとつだけ理解できた。ジンは強いって。

 

「た……ただいまの勝負、海道ジンの勝利!」

 

 あまりのスピードに司会者は戸惑いを隠しきれないまま進行を続ける、それを皮切りに会場が熱気の渦に飲まれた。ある者は歓声を上げ、またある者は驚きでまだ固まっている、『秒殺の皇帝』と謳われる海道ジンの本気を垣間見られたのだから。しかもたった一撃であのオタレッド達を仕留めた、盛り上がらないわけがない。

 

「そ、そんな……僕達が、一撃で……嘘だ、オタレンジャーの連携が効かないなんて」

 

「なんて恐ろしい、まるで――」

 

「32秒58、悪くない戦いだったよ」

 

 絶望に打ちのめされ崩れたオタレッド達とは真逆に冷静な分析の末、当たり障りない褒め言葉を口にするジン。泣き崩れるオタレッドはオタイエローに支えられながらステージから降りていく、その姿に少し寂しさを感じてしまった。

 

 入れ替わりで司会者がマイクを持ってステージに上がり、冷静なジンと対照的な明るい声で時間稼ぎのインタビューを始めた。

 

「凄かったねぇジンくん、やっぱ『秒殺の皇帝』と呼ばれるだけあるね。それとも今日のLBX、プロトゼノンのお陰かな?」

 

「特別なことはしていません、プロトゼノンも調整は加えているものの。僕はいつも通り戦っただけです」

 

「そ、そう?あ、噂で聞いたんだけど。このLBXの更に上の機体を作っているってほんと?」

 

「……その質問に、僕はお答えできません」

 

 ジンのクールな性格と機械的な回答のせいで司会者が苦笑いをし、端のほうにいる別のスタッフになにやら耳打ちをし始めた。あまりにも早く終わってしまったからか、尺稼ぎに必死なのがこちらにも伝わってくる。ああいう仕事って本当に大変なのね。

 

「えっと、そうだジンくん。一番好きなLBXは?」

 

「どれも甲乙つけがたいので、選ぶ気はありません」

 

 あーあ、ついにありきたりな質問タイムに入っちゃった。

 

「ねー仙道、これじゃ私達の出番も早いかもね。作戦でも考えましょうよ……仙道?」

 

 雑談程度に話しかけたつもりだったのに、反応がないので不思議に思って顔を向けた。

 

 少し薄暗い会場内でもはっきりわかるほどに顔が青ざめ、震える口に手を当てている仙道がいた。なにかに怯えているような、それに目の焦点も合っていない……やはりまだ本調子じゃないの?だとしても様子が変だ。

 

「顔色が明らかに悪いわよ。少し座ってた方がいいんじゃないの、ほらこっち」

 

「やめろ、いつも通りだ……海道ジンめ、更にカスタマイズを重ねていやがる。あいつは悪魔にでも魂を売ったのか?」

 

 伸ばした私の手を軽く押し退け、先ほどのジンが見せた圧巻のバトルを考察し始めた。仙道の焦り具合から察するに、アキハバラキングダムの時以上にカスタマイズをしているらしい……私は見ただけじゃなにをどう弄っているかはわからなかった。あんな一瞬の動きでわかるものかしら?まあ仙道は一回戦っているから余計敏感なのかもしれない。

 

「……あんまり無理しないでね」

 

「さっきからなんだ、俺は何ともない。そうだろ?」

 

 今まで通り目を細め口角を上げ、歯を見せて余裕そうに振る舞う。でもやはり違和感が残る……なにか隠しているように見えるけどただの強がりかもしれない。少しくらい相談して欲しいものね。

 

「……いくぞ」

 

 仙道が少し苛立った様子で乱暴に私の右手首を掴み、人混みを掻き分け進もうとする。急な行動に慌ててその場に踏ん張りを効かせて抗おうとした。

 

「え、ちょっと。これから首刈りガトーとジェイソン・クロサワがでるのよ?いいの見なくて」

 

「結果は同じだ、見る価値なんてない。ほら、来い!」 

 

「ちょっと……きゃ!」

 

 仙道の手加減なしの力に抗えるはずもなく、人とぶつかりながら引っ張られ続ける。小さく謝りながらも止まらない力の前で無力なまま、流れに身を任せることしか出来なかった。掴まれた手首がズキンと痛んだ……なんで急に。

 

「痛、ごめんなさい……ねえ仙道!止まって!痛いって!ねぇ!」

 

 必死に声をかけても、仙道の耳には届いていない。ぶつかる人が不思議そうに振り返ったりしているが、誰も止めようとはしてくれない。だから自力で振り払おうにも、握る力は段々強くなって熱が籠もっていく。徐々に痺れるような感覚で、私の中で恐怖が増していく。

 

「仙道、どうしちゃったのよ!?なにが……いでぇ!」

 

 急に立ち止まった仙道の背中に顔面を強く打ってしまった。鼻の痛みで蹲ろうとすると右手首が自由になったのに気がついた、いつの間にか手を離していたのだろうか。

 

 急いで服を捲って見てみると、掴まれた跡が真っ赤に残っている。薄暗い会場でも分かるくらい……内出血はして無さそうだけど、鼻と同様ちょっとズキズキする。でも痛みはゆっくりと引いているような気がした。

 

 落ち着いて周りを見ればステージから離れ、人混みを避けた場所に出ているのに気がついた……よく周りを見渡せば、仙道と大会のルールを聞いた壁際まで戻ってきたみたい。

 

「川村アミ」

 

 今まで聞いたことのない声が聞こえた……仙道の声には間違いないのだけど、私が知っているどの仙道にも当てはまらない声だった。

 

 恐る恐る顔を上げれば背中を向けたままだったけど、声は震え始め握った拳に力が入ったような軋む音が聞こえた。

 

「海道ジンに俺達なら勝てるってお前言ったよな?……お前が、俺に」

 

「え?なんで急に……ねえやっぱあなた変よ?なにがあったの」

 

 仙道が大きく息を吸ったからか、背中が膨らむ。息を吐くことはせず、自分に言い聞かせるように言葉をただ吐き出し始めた。

 

「きっとあのプロトゼノンはパワー特化だ、それに追尾機能や反動抑制。それに属性武器の耐性もある……しかしあのサイバーランスが必死に皇帝に献上した上モノだ、あの一戦じゃ見られなかった隠し機能もあるのかもしれない……」

 

「ねえ……仙道……」

 

 私に話しかけている、そんな筈なのに。私の反応なんかお構いなしに話し続ける、不安を言葉にしなければ……そういう声に混じったなにかを強く感じ取れた。

 

「それにだ、俺は戦って知っている。あのバケモンは俺のナイトメアの分身を見抜いている。理想的な機体で理想的なプレイヤーが出せた神業だ、それが今日更に完成度を上げてきた……無様に散っていったあのヒーローもどきをお前も見てただろう?あいつらで40秒手前でやられたんだぜ、笑っちまうよな?」

 

「落ち着いてよ、やっぱさっきからずっと変だよ。ねえ仙道!せん……」

 

 こちらに振り返った仙道の顔を見て続く言葉が詰まってしまう。

 

 目は開いてはいるのに焦点が合っていない、顔は酷く青ざめて肩を落とし腕にすら力が入っていない一瞬のうちに別人に成り代わってしまったのでは、そういう風に疑いたくなる程の変わりようだった。さっきまでの余裕そうにニヤいて、タロットカードを持って小難しい事を口にしていた仙道が……どうして?

 

「仙道……なに、あなたどうしちゃったのよ」

 

「俺、俺は平気に決まってんだろ。大丈夫、お前が勝てるって言ったんだから。なにか手がある筈、ナイトメアは十分戦えない……でも必殺ファンクションを当てればもしかしたら。それにアングラビシダスの時みたいにトラブルが味方するかもしれない。それに万が一、俺が負けるようなことがあれば……いやない、俺は大丈夫。だいじょうぶなんだ……」

 

「あなた……」

 

 目の前の私に目もくれず、もうなにに語りかけているかも本人すら分かっていないのかも知れない。心配と戸惑いで混乱する私を差し置いて仙道のうわ言は続く。

 

「どうすれば勝てる……あの海道ジンに……今のままじゃ駄目だ……勝たないといけない、俺は逃げないんだ」

 

 暗く深い水の中を足掻こうとして、力尽きて沈んでいくかのように。仙道の表情に黒い影を落としていく、安心させるために吐き出した言葉が逆に仙道自身に重くのしかかり。本人の首をキツく絞め上げていく……今、仙道に纏わりつく勝利への懇願が。私にはまるで体に巻き付く呪いに思えて仕方がなかった。

 

「どうすればいい、俺がすべきことはなんだ……なにもできない、俺は――」

 

「仙道、ごめん」

 

 彼の口からこれ以上弱音を聞きたくなかった理由じゃない、焦るのを落ち着かせたかった理由じゃない。きっとなにを言っても私の言葉なんか聞く体勢に入ってなかったから。

 

 だから聞いてもらうために、下を向いている仙道に背伸びをしてちょっとだけ届いた頬の両端をなんとか掴む。指に軽く力を入れてそれぞれ反対方向に引っ張った。思ったより伸びなかった。

 

「……なんの真似だ」

 

 仙道とやっと目があった。

 

「こうでもしないと聞いて貰えないからよ、あんたあんまりほっぺた伸びないのね……スベスベ肌な割に」

 

「おい離せ」

 

「だめ、私だって何回も離してって言ったのに離さなかったの誰よ?」

 

「それは……」

 

「じゃー今度は私の番!話し終わるまで離さないから、逃げられると思わないことね!」

 

 なにかを言おうと口が動くが、声は出てこない。仙道からの承諾と捉えて勝手に話させて貰おう。

 

「私達はどうやったって勝てない……かもしれない。ジンってああいう場所に慣れているだろうし、完璧に仕上げて来ているだろうし……仙道だって本調子じゃない」

 

「だが、お前は言った筈だ。「更にその上だって」と、だから俺は――」

 

「勝った負けたって、私はただの勝敗としてだけは考えてない。結果だけを見たらそこで終わるけど、私はそれ以外も見ていたい!あんたとは価値観が違うけど、私は過程だって見て誇らしくありたい!じゃなきゃ……辛いでしょ?」

 

 図星だったのか、仙道の顔が一瞬強張り目線がまた下がる。一瞬で罪悪感がでてきて咄嗟に手を離してしまった、つねっていた場所がちょっとだけ腫れていた。

 

「えっと……だから、勝負だけじゃなく。別の所で勝ちに行きましょうよ!」

 

「……そんなもんになんの価値を見出す。くだらん、無意味だ」

 

「じゃああんたは、何のためにコアスケルトンを極限まで削ったり。そんな神経すり減らして折れそうになってまで立とうとしてるのよ」

 

「そ、それは……」

 

 言葉を詰まらせ、仙道が答えを探すように目を泳がせていたが、言葉の続きは一向に出てくる気配はなかった。

 

「すぐに答えられないのね、でもいい。私が言いたいこととは関係ないから」

 

 とりあえず意味はないけど、また仙道のほっぺたを伸ばす。先ほどよりは気持ち控えめに力を込めた。

 

「……それやめろ」

 

「最後まで聞いてくれたらね」

 

「じゃあとっとと話せ」

 

 続きを急かす仙道が、ちょっとだけかもだけど本調子に戻った気がした。

 

「わかった……ケホン。たしかに勝てるって言った、でも私は今日絶対に勝つなんて言ってない。私達は連携もダメダメだし実力だけでもきっと届かない、でもジンに勝つというゴールに向けての一歩を確実に進めていけば……いつか辿り着ける。今日この一歩でジンまでに届くなんて思ってない、そんなの現実的じゃないから」

 

 言葉は拙くて、言いたいことが上手く纏まらない。でも綺麗に言葉を並べられなかったけど、これが私の本心……勝ちたい気持ちもそれまでも。全部私が歩いた軌跡、それはどんな結果でも大事な物。今は辛くとも、私が大事にしていることの全てだ。

 

「……じゃあ、お前は。もしずっと暗闇の道を、訪れるか分からない光を求めて止まらないと。それでいいのか?それこそ辛くないのか?」

 

 少しだとしても、仙道の耳にも届いたようで。まだ暗い顔のままだけど気持ちは持ち直したように感じた。

 

「うん、大丈夫……また立ち上がればいいから。何度も挑戦して、いつか来る日を目指すことが、私は楽しいから」

 

 仙道はまた下を向き、言葉には出さずとも唇が動く。なにを言っているかわからない、でも前向きな言葉じゃないのはわかった。全ての話が終わったのでそっと手を離してあげる。

 

 観客達がまた歓喜の声を上げたのが聞こえた。首刈りガトーとジェイソン・クロサワもきっと駄目だったのかも知れない。

 

「行きましょう、次は私達の番だよ」

 

 垂れた手を握り、力の入っていない仙道を引っ張りながら歩き出す。自身満々で孤独でも力強く地に足をつけていた……あの仙道が、今はされるがままに流れに身を任せてしまっている。

 

 いつもの仙道じゃないから正直やりにくい……でもきっとしょうがない、仙道は仙道なりに悩んで落ち込んでいる。恨まれてもしょうがないけど、今手を引いてあげられるのは私だ。ちゃんと離さないようにしないと。

 

「……こんな俺でも、お前は手を引くんだな」

 

 聞こえないよう呟いたつもりだったのかもしれない、不意に溢れた言葉に足を止めてしまう。振り返ると気まずそうに俯く仙道が、皮肉を捨ててまでそう言っていた。本音だったんだろう……だから私もちゃんと拾い上げ、丁寧に言葉を返した。

 

「当たり前でしょ?仲間ってそういうもんよ。いくわよ、ほら」

 

 手を少しだけ強く握り、仙道を引きずりながらステージ近くまで歩みを進めた。

 

 仙道は本調子じゃない、むしろ不調だ。LBXも本人も……だけど不思議と、今の仙道となら大丈夫だと思えた。

 

 きっとジンに負ける、でもその負けはずっとは続かない。いつかを夢みて今を進むのが、それを仙道と歩けることがちょっとだけ誇らしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 会場は異常なまでにざわめきと困惑の渦に包まれていた。

 

 バトルは見られなかったけど、首刈りガトーとジェイソン・クロサワのチームはオタレッド達以上に早く終わったのだと予想できた。圧巻すぎる強さの前に手も足も出せずに……。

 

 司会者も観客も動揺を隠しきれない中。ジンだけが遠くを見据え、いつも通りの堂々とした振る舞いを見せていた。でも、どこか退屈そうにも見えた。バンと戦っていた時に見せたあのキラキラとした視線を誰にも向けず、今この状況が早く終わればと絶望が混ざった表情をしているようにも感じた。

 

「えー、正直こちらの質問にお気に召さないようで……困っちゃったな?あはは」

 

 戸惑いを隠しきれない司会者に誰も反応しなかった。観客側の考えも一貫して「次もきっと同じ」「つまらない」と口には出さずとも、皆表情や視線でわかってしまう。ほとんどの人がステージに目もくれず、CCMや会話に意識がずれているのが証拠だ。

 

「凄かったねジンくん、あの首刈りガトーとジェイソン・クロサワをあんな圧倒できるなんてね!さすが秒殺の皇帝!凄いねー」

 

「……ありがとうございます」

 

 もはや中身なんてなにもないやりとりに、苛立った観客から野次が飛んできた。

 

「おいとっとと終わらせろよ!どうせ次もなにが起きてるかわかんねーんだからよぉ!」

 

「そうだそうだ!中身のない会話ばっかりしやがって!もうちょっと面白いことしろってんだ」

 

「お高くとまってんじゃねー!見せ場くらい作れないのか!」

 

 最初の不満を皮切りに観客達からの苛立ちが雪崩のようにステージに振り注ぐ、もはやジンに向けられていた尊敬の目は。理解の範疇(はんちゅう)を超えたプレイスタイルにより、敵意に変わってしまった。ジンが無敵だからこそ起きてしまった災害、だからこそジン自身も早く終わらせたい……そんな苛立ちと絶望に打ちのめされているのかもしれない。

 

「皆さん落ち着いて……スタッフ、もう次行こう!どうせあの子達もすぐ終わっちゃうんだから。これだからサイバーランスからの無茶ぶりは嫌だったんだよ僕は!」

 

 マイクに本音が乗っていることに気が付かないほど焦りながら司会者が急かし、スタッフさんが謝りながら私達の背中を押してステージ近くに連れてかれた。

 

「はいじゃあ最後のチームです、仙道川村チーム。どうぞー」

 

 雑な紹介の元、慌ただしくステージに登る。少しだけ緊張の中周りを見渡すと苛立った人々とステージに関心のない人々で空気感は最悪だった、端のほうでオタレッド達が手を振って応援してくれてるのが見えるけど。ネガティブな視線に飲まれそうになり、思わず固唾を飲み込んだ。

 

「仙道君、アミさん。すまない……」

 

 仙道とはまた違う暗い声に顔を向ければ、澄ました顔はステージを向いているのに目だけが虚ろなジンが謝罪を漏らしていた。

 

「君達の戦いを楽しみにしていたのは本当だ、でも……こんな舞台を用意する予定じゃなかった」

 

 顔はそのままなのに、ふと違和感を感じて下に目をやると握られた拳が震えている。ジンなりの感情の表し方なのか、自分自身が許せないのか。ただジンは期待に添えるようにいつも通り戦っただけなのに……。

 

「ジン……」

 

 悔しさと後悔が押し寄せ、絶望の淵に立たされている。しかも周りからは酷い言葉の嵐、今まで見てきたどのジンよりも辛そうだ。

 

 私はなにを言えばいい、そこに私なんかの言葉が届くの?ただ戦うだけじゃ駄目、なにか声をかけないとお互い満足に戦えない……それだけは嫌だ。

 

「海道ジン!」

 

 会場全体につんざくような声が響く、ざわめきに包まれていた会場が一瞬にしてしんと静まりかえる。驚きつつ声の方を恐る恐る見ると、眉間に皺を寄せて、むき出しの怒りを示している仙道がいた。感情を抑えきれないままに、思うがまま言葉を続けた。

 

「随分と腑抜けた面だな、皇帝が下ばかり見やがって……倒しがいがなくなる。俺様が一瞬でも恐れを見せた海道ジンの末路がこれか?随分と小洒落たピエロだな」

 

「ちょ、仙道!?急にどうしたのよ、落ち着いてって!」

 

「軽い野次を飛ばされた程度で怖気づきやがって……お前は雑音如き寝言を言われて尻込みする奴なのか?ここまで戦ってきた報酬がこんなのと戦えなんて、ふざけてやがる!」

 

 ゴミでも見るかのように軽蔑の言葉を容赦なく浴びせ続ける、止めようにも方法がわからないので口を無理やり塞ごうと試みるものの身長差で届かない。言葉を失って固まるジンも、困惑の余り口を閉ざした観客も司会者も、怒りを露わにしてしまった仙道を止められる者は誰もいなかった。

 

 タロットカードを一枚だけ取り出し、死刑宣告でも告げるかのように。いつもの予言のような言葉を口にした。

 

皇帝(エンペラー)の逆位置、反逆にひれ伏せ。臆病者」

 

 煽るだけ煽ってナイトメアを取り出した仙道、ジンの疲弊によって調子が戻ったのはいいけど戻りすぎ。あーみんなの視線が痛い、小声で「箱の中の魔術師が秒殺の皇帝に喧嘩売ってる」とか「仙道ダイキならもしかして……」とか聞こえる。恥ずかしい!

 

「じ、ジン……ごめん。でも正直仙道には同意なの、こんなこと言いたくないけど……今のジンは私達が目指したジンじゃない、だから倒させてもらう」

 

 私もパンドラを取り出し、Dキューブ内にセットする。ジンはまだなにか考えながらプロトゼノンをセットし終える。

 

 最悪な空気の中、始まってしまった最後の戦いが今、幕を開けた。

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