これと次は第一部のエピローグ的な話になっています。本番はその更に次から……
よしなに
月は欠け始めて
最近、アミの様子がまたおかしい……らしい。リュウがそう言っていた。
今日の授業は全て終わった。生徒はそれぞれ帰る支度や雑談をしていて、人の出入りが激しい。人の波を避けながら目的地に辿り着いた、バンのいる1-2のクラスだ。
恐る恐る中の様子を覗いて彼女を探すが、目についたのはいつも通りの見慣れた顔が何人か。でも肝心のアミが見当たらない。
クラスに顔をだせばいつもの席に座っているアミがいて、「カズ、遅かったわね」なんて笑顔で手を振ってくれていたのに。でも今は空っぽ、机だけがそこにあるのみだった。
「なんだ、もう帰ったのか?今日なにか用事あったっけ……」
「カズ、どうしたの」
「うわ!?……なんだミカか、脅かすなよ」
いつのまにか背後に忍び寄っていたのは「三影ミカ」だった。青い髪をツインテールにまとめて、パンクロック風な服を好んで着ている。
ちょっと不思議ちゃんな所があって掴みどころがない、LBXの話もバトルにも付き合ってはくれるが。バンやアミのような深い付き合いじゃない。
「バンに用があるの、知らない?」
クールな振る舞いは変わらず、なんの用があるかは知らないが俺だって探してるのに。
「さあな、知らない。電話してやろうか?」
目を瞑り首をゆっくりと横に振る……弱ったな、会話が続かない。
「えっと、なあ。なんでバンに用事があるんだよ、また人探しでもしてんのかな……ミカはなんで用があるんだよ。バトルしたいのか?」
「違う、これ」
CCMを取り出してとある画像を見せてきた。まあ相変わらずというか、やはりというか……。
「郷田だよな、なんでここでバンが関係してんだよ」
「写真、くれるって約束したの……楽しみ」
頬を赤らめ、硬い表情が柔らかく緩んだ。でも俺には理解できない、なんで郷田みたいなのがモテるんだろうな。今は違うってわかってるけど、あんな明らかにヤバいザ・漢って奴のなにがいいんだか。不良に恋する乙女って奴か?
「そ、そうか。よかったな……なあミカ、アミ見なかった?探してんだ。なんか知ってるか?」
話題を変えたせいなのか、またいつものクールな表情に戻って窓の方を指差した。ミカが指し示す場所はグラウンド、校門に向かう生徒が何人か歩いているのが見えた。
その中に居るのかと窓から身を乗り出して探してみるが、それらしい人物は見つけられなかった。
「いないじゃねーかよ……まさか、スラムに行ったってことか?」
「違う、さっき帰ったの。なんか用事があるんだって」
「なんだよ……もう校舎には居ないってことかよ」
小さく頷いた。ならそう言ってくれよ、紛らわしいな。一足遅かったようだ、用事があるならしゃーないな……明日にでも話しかけてみよう。
「カズこそ、アミに何の用なの?」
「え、俺?えっと……」
ミカの悪意ない問いかけに、思わず言葉が喉に引っかかった。ただ最近の様子がおかしかったアミが、また変になったって聞いて心配になった……ただそれを口にすることができず俯いて黙ってしまい目だけが忙しなく動いてしまった。
心配なだけだって言ったら、なんか負けたみたいで目の前のミカから目を逸らしてしまった。
自分でもわからないむず痒さと戦う俺を、ミカは首を傾げながらもなにも言わずに眺めている。不思議そうにその表情を見ていると、やはり会話が続かないとしか考えてしまう。
バンなら沈黙なんて気にしないだろうし、アミならこういう時の対応が一番上手いのになぁ……俺もしかして、会話下手くそなのかな。
「あ、カズじゃん。どうしたの?」
気まずい空気に助け舟を出したのは、ひょっこり教室に戻ってきたバンだった。ナイスタイミング!
「ミカも一緒だなんて、珍しい組み合わせだね」
「まあ……たまたま、な?」
それらしい会話もなかったから適当な返事をしたようになってしまった、気まずい。
「わたしはバンに用事があっただけ。郷田さん、ちょうだい」
「そうだった、じゃあ送っちゃうね」
CCMを操作して画像を送っていた……なんでバンが持っているんだ?郷田の写真。と疑問に思ったら、みんなで撮った写真を送っていた。郷田だけ写っているのはなかった、それでいいのか。
早速ミカはバンに貰った画像を確認しうっとりと眺めている。それでいいんだ……確かにいい笑顔だけど。
ちょうどいい、この間にバンにアミのことを聞いておこう。嬉しそうにCCMをしまったところに向き合って声を掛けた。
「なあバン、アミってさ……」
「ん?」
バンはキョトンとした顔で顔を向けてきた。屈託のない表情を見ていると、心配している自分だけなんじゃないかと不安が積もっていく。
なんだか確認しないわけにはいかない衝動に駆られる。が、すぐに話題を振って疑われてはいけない……とりあえず別の話題から入ろう。
「いや、えっと……そう!Lマガのネット記事は読んだか? 特集組まれてたろ、アミが出ていたネオアポロンの」
「うん! 見た見た! 凄かったみたいだね、ジンのインタビューも載ってたもん。オレも出たかったなー」
バンは無邪気な笑顔でいつも通り、興奮気味に食いついてきた。まあかなり熱気が伝わる記事だったからな、バンならもう読んでいたと思ったぜ。
「お前は家の用事と被ったもんな、俺も予定合わなかったし……」
「ジンがね、アミと仙道に向けてコメントもしててね、バトルの動画も上がってたんだよ。後で見てみなよ」
「マジかよ!?絶対見なきゃじゃん!」
あの『秒殺の皇帝』の海道ジンが、記事の中でアミの名前を出していた。それもただの対戦相手としてではなく、自分を追い詰めた好敵手としての評価をしていた。その人物と友達だという優越感で、読んだときに俺も鼻が高くなったってもんだぜ。
「あのジンがさ、「あのふたりとまた戦いたい」とか言わせちゃってさ。すげーよな本当」
「うん!そうだよね、意外な組み合わせだけど。ジンが絶賛したふたりとオレも戦ってみたいよ」
バンの無邪気な発言に、次の言葉が詰まる。俺はずっと引っかかっていた疑問の正体が浮き彫りになってちょっとだけ俯いてしまう。
なぜ倒すことに執着していたのに、そんな相手と手を組んで。しかもジンをギリギリまで追い詰められるような連携ができていたのか……謎ばかりが残ってしまう。
やっぱアミがさらにおかしくなった原因はなんだ?なにか仙道に弱みとか握られているんじゃないか。いや……流石に考え過ぎか?だとしても、俺は友人としてアミが心配だ。
だから知りたい、アミがなんてことのない……その事実を。
「……実はさ、そのアミなんだけど。また様子がおかしいって聞いたんだよ。なんかこう……らしくないって聞いて」
俺の質問に対し、バンは意外そうに目を丸くしていた。しばらく考えて、眉毛をハの字にして話し始めた。
「うーん、オレから見た限りだけど、そんなことなかったよ?またいつものアミだった気がするけど」
「そ、そうなのか?」
いつもの? そんなまさか……だって倒すために必死にバトルしまくって、あんなに目の敵みたいにしてたのに、一回組んだだけで変わるもんか?逆にもっと倒してやるー!って気持ちが前にくるんじゃないのか。
聞けば聞くほど勘ぐってしまい、自分の中でうまい具合に纏まりが無くなってくる。結局アミは大丈夫なのか?そうじゃないのか?今の俺にはよく分からない。
「うーん、オレも詳しくは知らないけどさ」
バンは少し考え込むように腕を組んで、ストンと納得したように言った。
「きっと、アミは仙道を倒したんじゃないかな?」
「……は?」
「え、アミ。倒したの?仙道」
CCMに釘付けだった筈のミカでさえ、バンの推理に顔を上げた。
そう……なのか?なら腑に落ち……いや待て、やっぱおかしい。
「おい待てよ、俺は違うと思うぜ?あの仙道だ、アミひとりですぐ倒せるわけないだろ」
「だよね、やっぱそうかも」
俺の否定にすぐ納得して再び考えだしたバンは、今度は別の推理を披露してくれた。
「そうじゃなかったら……目標の形が変わったのかも。どちらにせよ、今のアミは少し前のアミよりイキイキしてたんだ」
エヘヘと笑うバンに、反論する言葉を見失って。俺はつい口を閉ざしてしまった。
そんなことはない……だってアミはあの『箱の中の魔術師』である仙道ダイキを、パンドラをボロボロにしてまで追いかけていたんだ。それが手を組んでうまくいったからって、掲げていた目標を投げ出すような奴じゃなかった。
でもバンがいうように『目標の形』というものが、仙道を倒すことの意味すら変えたことだとしたら……。
バンの言う「イキイキしてるアミ」が、俺の知る「いつものアミ」と同じなのか。それとも、誰も知らない「新しいアミ」なのか。
文字に表せない黒いなにかが、ポチャンと音を立てて胸に広がったように感じた。牛乳に一滴だけ墨汁を垂らしたように、じんわりと触手を伸ばしていく。
「カズ、覚えてる?アミは今高い壁に挑戦してるって話」
バンの何気ない言葉で我に返る、きっとあの夜のことだろう。忘れたくても中々忘れない言葉だった、だからすぐ反応した。
「あ、ああ……バンがハンバーグ弁当買ってた夜だろ?」
「うん、そう!よかったよね、アミが壁を乗り越えたみたいでね」
「……そうだな」
そんな風に思えないけど、なんて後ろ向きな言葉を封じ込めて。当たり障りもない言葉を呟いてしまう……なにがどうなっているんだろう。バンは心配じゃないのかな、アミの変化って。
「じゃ、オレ用事あるから。また明日!」
曇りのない顔で教室に戻っていったバンの背中を見守り、軽く手を振って別れた。
結局目的だったアミにも会えなかった、バンの言葉で答えから遠ざかった気さえする。しかもこのモヤつきが消えるどころか増えただけだった……いっそ会いに来なければ良かったのかかもしれない。自然と零したため息で視界が大きく曇ったような気さえ感じてしまう。
「カズ、大丈夫?」
「ん?なんだミカ、まだいたのかよ……」
用は済んだ筈なのに、なぜか俺の顔をじっと見つめている。じっとりとした視線がちょっと怖い。今はなにに対しても恐怖を感じてしまいそうだ。
「……言いたいことあるなら、遠慮なく言っていいんだぜ?」
「ん」
CCMを仕舞い、俺の顔を更にじっと見ながらミカの口が動いた。
「考えすぎ、過保護なんじゃないの?」
「は?なにが――」
「信じられないなら、踏み込みすぎない方がいい。身体が持たないから……じゃあね」
ふわっとした言葉だけを残し、ミカは俺の横を通り過ぎて行ってしまった。
一瞬の出来事に固まってしまい、言葉を捻り出すことも出来ずその背中を見送ってしまった。
本当はなにか反論したかった。俺はお前よりずっと、アミのことを見てきたんだって言いたかった。でも、舌が渇き、声が出せず情けないことになにも言えなかった。
「なんだよ……みんなして知った口しやがって。誰もアミのこと心配じゃないのかよ」
自分だけが取り残されたみたいで苛立ちが募っていく……違う、取り残されたんじゃない。ひとりだけ理解できないことに対する苛立ちを八つ当たりしているだけだ、今更その事実に気づいてしまったことにも腹がたった。
「あー、気分が上がらない……河川敷にでも行くか」
このままだとアミに余計なことをしそうだ、それだけはいけない。
重くなった足を上げ、教室まで戻り荷物をまとめ。俺も校門に向かった。
遠くの橋の上に電車が通っている、それが見えなくなると夕焼けが顔を出した。道なりをひとり歩いていると、坂の下でサッカーをやっている小学生達が見える。のんびりとした夕方の風の中を進みながらつい考えてしまうのはさっきのこと……ミカの去り際の一言、ここまで来るまで頭にこびり付いて離れなかった。
「考えすぎ、過保護って……俺はただ。アミが……」
心配を口にしているだけなのに、気持ちはどんどん深い場所に沈んでいく。ふと振り返れば夕焼けに照らされて生まれた黒い影がある、心情が色濃く染み出したようだ……この背伸びしたような影が、情けなく嫌でしょうがない。
「はぁ……そういや、バンが動画がーとか言ってたな。気晴らしにでも観てみるか」
近くの寝転がれそうな原っぱに腰を据え、CCMで動画を検索する。
「えっと?ネオアポロン……バトル……お、結構動画上がってるんだな」
動画サイトで調べただけで結構ある、運営や個人が投稿したものが数本上がっていた。大会は数日前だった筈なのに、もう結構再生されている。
「オタレッドとかも出てたんじゃん。あ、これが一番再生されてる……バンが言ってたのはこれだな?」
運営から投稿された動画を再生する、暗い会場のスポットライトが集中したステージにジン、そしてアミと仙道がいる。なにか仙道が怒鳴ってからバトルが始まった、画面越しだけど荒れてるな……恐喝まがいなことをしてジンを脅すなんて。
やはり俺は仙道という人間を好きになれない。
言動が芝居っぽくてなにを考えているかわからない、勝利に貪欲で魔術なんて嘘をついてまで人を騙そうとするイカサマ師だ……LBXがいくら上手いからって、それが尊敬に繋がる理由にはならない。これがよく表れているなと思う、それになんか怖いし。
「まあいいや、動画に集中しよう……」
再生を続け、見続ければ見続けるほど。仙道の素行の悪さが目立ってくる、プロトゼノンを煽るように行動し。乱暴に場を荒らす言葉や態度が気になる、コメントでも仙道の批判の声が多く目に入ってくる。
でも、それ以上に称賛のコメントで溢れている。その理由を、少し後で俺は見ることになる。
「こ、これが……本当にアミなのか!?」
仙道がブレイクオーバーした後の盛り上がりが凄かった。片腕になったとはいえ、あの『秒殺の皇帝』である海道ジンに連撃を食らわせ、攻める手を止めず前のめりに踏み出すパンドラが映っていた。コメントもこのふたりを讃えているのも納得だ。結果はわかっているとはいえ、これは手に汗握る熱いバトルだ。
「は、はは……すっげぇ……」
興奮気味に呟いた言葉にも気が付かず、目の前に広がるジンとアミの戦いに釘付けになっていた。
お互いの必殺ファンクションがぶつかって画面全体が眩しく光り、ラストでプロトゼノンが膝をついた時。思わずガッツポーズをしてしまった、そのすぐ後に前のめりに倒れたシーンを最後にバトルは終わった。
「はぁー!凄かった、あんなワクワクするバトルなんて久々に見たぜ!」
動画を静止し、あまりの興奮冷めない中でCCMから目を離し空を見上げ、吹く風で体の熱を逃がしていく。でもまだ心臓の音がうるさい……まるで自分も現場に居合わせたような興奮が、画面から顔を逸らしても止まらなかった。
動画を見ていただけなのに、まるで会場の熱気と迫力が伝わるような臨場感が伝わってきた。本当にすごかった……語彙力のない俺が捻り出せる唯一の言葉だけど、これ以上の言葉を出さなくたって、迫力が十分伝わってきた。
「あー、あんなバトルがあるなら。俺も参加したかったなぁ……コメントになんか書いてないかな?」
最高潮なテンションのまま、コメント欄を開き色々な人の感想を読み漁った。
「やっぱアミとジンのコメントが多いな……あとは仙道の批判があるくらい……ん、なんだ?このコメント」
数ある中で、とあるコメントに惹かれてしまった。かなり長い文章のようで、バトルの解説とかかな?なんて思って読み進めてみた。
「えっと……プロトゼノンとパンドラの迫力もすごかったが、私が思う……今回のMVPは……仙道ダイキ!?」
あまりの驚きに手からCCMを落としそうになってしまった。
「おいおい、そんなわけないだろ。なにを見てたんだコイツ」
楽しかった気分に水を差されたようで一気にテンションが下がった、もう読むのを辞めてしまおうかとも思ったが。どうしても気になってしょうがないコメントを閉じることはしなかった。
「……まあいいや、どうせ見当違いなことを書いてるに決まってる」
なにに対してかわからない対抗心の中、とりあえずその文章を読み進めていく。
『彼といえば、孤独の中で自らの技術を磨き上げるプレイヤーだった。アルテミスの時だってそうだ。あの他者を切り捨てて孤高であろうとするプレイのそれが、彼そのものを象徴していた。しかし、このバトルの彼は自らの機体を囮に使ってパンドラにバトンを渡していた。私はそんな彼の成長とも捉えられる姿を称賛せずにはいられない、このバトルの勝者は明らかだ。プロトゼノンでもパンドラでもない、ナイトメアこそが勝利に最も貢献したと私は信じている』
丁寧な言葉で書き連ねられたコメントに、批判の声がついている。それは俺と同じような意見が集まっていた……だよな、やはり――。
「そんな筈ない。今回一番頑張ってたのはアミだ」
この場違いなコメントに向けた言葉なのか、小さな不満は風の中に溶けていった。
なんか嫌な物を見てしまった気分だ。もう一度動画を見返してみよう、きっとこれは間違いだと証明される筈だから。
「あ、カズじゃない」
再生ボタンを押そうとする指先が固まって、心臓がドクンと大きく跳ねた、今日ずっと聞きたかった声が聞こえた。
振り返って見上げればいつも通りのアミがそこにいた……がアングルがアングルなのでハッと顔を逸らし急いで立ち上がって改めて向き直った。
「あ、アミ!?お、おま……お前なんでここに!?」
「なにって、ちょっと色々ね。あんたこそどうしたの?」
「お、俺は……別にいいだろ」
照れくささから目線を逸らし、ついCCMのボタンを親指でさすってしまう。
「そ、そうだ。ネオアポロンの試合見たぜ、マジ凄かったな。ジンに膝をつかせるなんて、俺じゃ到底できないぜ!」
薄い感想かもだけど、あの興奮をどうしても伝えたくて。自分に出来る限りの言葉で伝えた。
「本当?ありがとう、そういって貰えて嬉しいわ」
無邪気に喜ぶアミを見て、ちょっとだけ今までの不安が解消されていく。目の前のアミは俺の知っている「いつものアミ」そのものだったから、しかもバンが言うようにイキイキしている。良かった、俺が知っているままで。
「でもね……」
「ん?」
小さく髪が揺れ、その隙間から嬉しそうな顔を覗かせた彼女が視界に入った。言葉は控えめなのに、すごく嬉しそうな思いを言葉を口にしたアミは……俺が知らない顔をしていた。
「仙道がいたから、ここまでやれたのよ。私だけじゃ無理だった……ほんとね、仙道が居てくれたから出来たことなのよ」
「……アミ?」
アミの言葉に耳を疑った。なんで……なんでお前さえ仙道を褒めるんだよ、あの大会で一番頑張ったのはアミ、お前なのに。なんであのコメントを書いた奴もアミさえも、仙道しか見てないんだよ。
「だから、私は仙道とタッグを組めて、本当に良かったわ」
夕日に背を向けて、その顔は影で暗くなっているはずなのに。俺には頬を赤らめて優しい口調で、俺の知らない顔をしたアミが映っていた。
その、今まで見たこともない。絶対俺に向けられていないその顔に、俺の心にまた黒い何かが伸びてくる。
俺の目の前にいるのは、本当にアミなのだろうか……そんなくだらないことが頭をよぎってしまった。
「じゃあそろそろ行くね、また明日」
いつも通りの顔に戻り、手を振って背中を向けて離れていく。それがなんだか……二度と戻ってこない気がした。でも止めることもできず、小さくなる背中をただ見つめていた。