ジャケットを返して貰ってから更に数日後。ふとCCMを弄っていれば、川村アミから連絡を貰った、「指定する場所に来て欲しい」と。
買い物に付き合って欲しい……なんて図々しいお願いかと思ってCCMを開けば、送られてきた地図と画像に度肝を抜かされたのを覚えている。
メールを頼りに見知らぬ土地をウロウロして、ようやく辿り着いたのだが……。
「本当にここであってんのか?」
書かれた場所を何度か読み返しても、やはりここで間違いはないようだ。
目の前には見上げても頂点が見えないほど高いビル、見上げているだけで首が痛くなってきた。そこからリニアモーターカーの線路が這うように伸びているのが見える……多分、いや絶対にLBXをやっていて知らない人間などいないだろう。
LBXが誕生した場所、『タイニーオービット本社』なのだから。
「シーカーの本部を紹介したいと書いてはあったが……よりによってここにあるなんてな、まあ秘密組織と戦うってなればこれくらいしなきゃいけないんだろうな」
出入りする人の半数以上がスーツや白衣を着こんで歩いている、当たり前だが社員ばかりなんだろう……俺が場違いなだけなんだが、居づらくてしょうがない。
慣れない場所に入ることを躊躇い、情けない話だが入り口付近で二の足を踏んでしまっている。
遠くのガラス張りの壁越しに見えるのは、磨き上げられた床に天井の照明を反射して輝き、巨大モニターには最新LBXの滑らかなCG映像が流れている。目に映る大人は皆足早に、耳のインカムで会話をしながら歩いている。
「たしか結城……という人を探せと言っていたな、そんな簡単に見つかるなんて思わないが」
川村アミからのメールにはそれだけが書いてあったが、顔も分からない人間をこの中から探すのは骨が折れそうだ。どうしたものか……誰かに聞ける雰囲気でもない。
ふと目をやれば、社内のモニターにジョーカーの映像が流れた。初めて見る機体に躊躇いが好奇心に負けて、遂に社内に足を踏み入れてしまった。人をうまい具合に避けながら映像に没頭する。
「ジョーカーXか……あんなのも出るんだな」
新型機に目を奪われ、前を見ていなかった……ドンッ、と鈍い衝撃と共に床に何かが崩れ落ちていた、誰かとぶつかってしまったようだ。
その人が抱えていた書類が雪崩のように流れ出してしまい、慌ててかき集めている。要領の悪そうな白衣の男性だ、これはよそ見していた俺が悪い……手を貸さなければ。
「すみません、拾います」
「ああ、ごめんなさい!助かります」
こんな技術が発展していて今更紙かよ……かさばるだろうな。適当に束ねて整えつつも箱に入れていく、周囲の大人達が我関せずと通り過ぎていくのが目に入ってしまう……俺も暇じゃないから正直そうしたい。でも放置していくのは気が引ける、早く終わらせよう。
ある程度かき集めた書類の下から社員証が出てきた、彼のだろう……どうやら紐が千切れてしまったようだ。
「社員証落ちてますよ……ん?」
「いやお恥ずかしい……あれ?こんな所に学生がくるなんて珍しいね。見学かな……あぁ!?」
じっと俺の顔をみたかと思えば衝撃を受け仰け反る勢いで驚いた。そんな彼のあからさまな態度に、俺は少し身構えてしまう。
なにを言われるか察しがついたからな……まあ、LBXの関係会社なら顔は割れているのだろうな、悪い意味で。印象が悪くなるプレイばかりしてきた……怒られるのか?
「君!仙道ダイキくんだよね!」
言うが早いか、その人は俺の手を両手で包み込むように握りしめ。キラキラと期待のこもった目で俺を見つめてきた、予想していなかった展開に言葉がつっかえてしまう。きっと、すごく情けない顔をしているんだろうな……今の俺は。
「え、あの――」
「すごいまさかこんな所で会えるなんて……初めましてだね、僕は『結城研介』。ここの開発部で働いているんだ、お会いできてとても嬉しいよ!僕、君のファンなんだ!」
書類をまとめる手を止めてまで、ファンだと名乗ったこの男は早口でまくし立てるように喜びを伝えてきた。
社員証でお目当ての人物だとわかっていたが、まさかこういう人だったなんて。会話に割って入る隙がない熱量で、俺のバトルの事を畳み掛けるように語っている……用事があるのはこちらも同じなので、あしらうわけにはいかない。どうしたものか。
「恰好いいよね!うちのジョーカーを使うプレイヤーで一番輝いているよ、今日会えて本当によかった!これからもタイニーオービットをご贔屓にね!」
「えっと……こちらこそ……」
嫌悪感を向けられるのには慣れているが、ここまで尊敬されるのは初めてだ……こそばゆい感情に鳥肌が立ってしまう。
「はぁー、幸せだなぁー……あ!ねえねえ。今ナイトメア持ってる?見せてよ」
「え、あ……はい……どうぞ」
結城という男のペースに乗せられ、ナイトメアを取り出し目の前に差し出した。
結城は嬉しそうに手にナイトメアを乗せ、観察し始めた。那須家の奴がヒィヒィ言いながら直してからはほとんどバトルはしていない……プロの目からどう映るのか、興味がないわけではない。
「うわぁー……すごい、本来開発していたものより軽量化がされている。見た目はそのままだけどすごく軽い、中を削ったんだね」
「まあ、はい……」
軽く触っただけでお見通しか、伊達にプロやってないんだな。
「アルテミスで使ってたジョーカーMk-2もそうだったけど、自分でカスタマイズしてるんだよね?すごいなぁ……個人であそこまでのカスタマイズ……いいなぁ、アキハバラキングダムもネオアポロンも直接見たかったなぁ……本当に君はプロ顔負けのプレイヤーなんだね!」
勝手に考察を垂れ流し続ける結城に、俺は口を挟む瞬間を逃し続けている。
そう……なのか、ナイトメアを手に入れた時。箱にタイニーオービットのロゴがあったのは確かだが、これがそんな貴重なものだったとはな。色々あって手に出来たが、まさかタイニーオービットの社員に褒められるレベルだとは……嬉しいのやら、恥ずかしいのやら。
しかし、開発段階がどうこう言っていたな。これを手に入れた経路が経路なだけに知らなかった……もうあんな真似は二度とごめんだ。あの時の苦労なんか、思い出したくもないな。
「お、ようやくお出ましだな。舎弟の時より素直に来やがって……」
慣れない場所、初対面な彼の言動の波に揉まれた中に聞き覚えしかない声と下駄の音が耳に入ってきてつい眉間に皺が寄った。
振り返れば案の定、郷田が立っていた。
「……よりによって郷田かよ」
「よりによってってなんだ!?俺がわざわざ迎えに来てやったのによぉ」
ここまで来て察しがついた。そう言えば何回か郷田からメールが来ていた、普通に体調不良で寝込んでいたので返信をしなかったが……そういえば治った後も放置していた。川村アミの協力の元、俺を騙しに掛かったな……ガサツが知恵つけやがって。
「そうかい、それはご苦労様で。ミソラ二中の破壊神様は暇なもんだなぁ」
「んだゴラ!仙道の癖に調子乗りやがって、だいたいてめぇが俺の連絡を無視するからこんな回りくどいことになってんだろ!」
また始まった、顔を合わせたらすぐこれだ。俺がなにを言っても単細胞なこいつは突っかかってくる……揚げ足取られたくなきゃ噛みつかなきゃいいのにな。馬鹿のひとつ覚えに吠えるから虫唾が走る、だから連絡も返して貰えないんだ、間抜けめ。
「ちょっとふたりとも!ここは他の社員の目もあるからさ。ちょっと移動しようか!ほらほらこっちこっち」
いがみ合う俺達を強引に押しながら、ちょうど到着したエレベーターに誘導して自らも乗った。
狭い箱の中に詰め込まれ、少々苛立ちが静まらない中。結城は慣れた手つきで階層のボタンを押していた、書類の山を持ったままでやってのける……大人って器用だな。
「おい、どこまで行くんだ?」
「それは後のお楽しみだね」
胃がふわりと持ち上がるような感覚を覚え、体が置いていかれるような気がした。扉の上の電子板の数字が減って数字の横に『B』が付き始め、階層が徐々に下がっているのがわかる。だが長いな……思っていたよりも続く束縛の中に苛立ちを覚えた。
「……まだつかないのか?」
「文句が多いな、閉所恐怖症かよ。箱の中の魔術師さんがよぉ?」
郷田がまた噛み付いて来やがった、飽きもせずいけしゃあしゃあと……。
「沈黙が嫌なだけだ、少なくともお前のようなむさ苦しい奴といるだけで息が詰まる」
「……可愛げのねぇ奴だ、もっぺん舎弟にでもしてやれば、ネジ曲がった性格とその屁理屈が減るか試したいもんだぜ」
俺達の小競り合いを結城は楽しそうに見つめ、「仲がいいんだねぇ」なんて呟いていた。勘違いされている、しかし訂正するのも癪だから敢えて聞こえないふりをした。
「この階層だよ、ふたりはここで降りて」
ガコンと重い音を立てて、エレベーターの扉が開く。郷田と共にエレベーターの外に出て、ひとり取り残された結城を見る。ここらで別行動するらしい。
「じゃ、僕はこの辺で……ごめんね。早急にこの資料を実験室に届けなくちゃいけなくてね、後の案内は郷田くんにお願いするよ。仙道くん、また後で」
「うっす!おまかせください結城さん」
俺達を残し、またボタンを押して上の階層に向かっていった。
扉が閉まるまで名残り惜しそうな顔をしていた、最初から最後まで賑やかな人だった。扉の向こうから音は聞こえないが電子板の数字が増えている。
「そんじゃいこうぜ、案内してやる」
正直こいつと一秒でも共に行動するのが気に食わない……が、俺はこの場所を知らないからな。勝手にうろつくことも良くないだろう。嫌気が差す下駄の音につられ、俺は静かにその後を追った。
シーカー本部だと言われて入った部屋は、かなりスペースがある開けた場所だった。
オペレーターと思われる人々が目の前の画面を見ながらなにか打ち込んでいる。壁全体をモニターで埋め尽くし、部屋の中心になにかの機材が置いてある。ハイテクなことには変わりないのだが、生憎この空間を言語化できる知識も言葉も持ち合わせていない……金と労力をかけてここまでやらないといけないほど、イノベーターは手強いらしいことだけはわかった。
「静かにしろよ……さっきも説明したが、ここがシーカー本部だ。余計なもん触るんじゃねえぞ、盗むのはもっとやめとけよ」
「やらねーよ、どっかの誰かさんみたいに俺は盗みなんてしないからな……アーマーフレームとか、な?」
どうやら逆鱗かなにかに触れたようで、横で郷田がギャーギャー騒ぎ出した。静かにしろって言った割に随分と騒がしい……やはりこいつのことは好きになれない、理性より感情が前にくる奴は大抵大事な場面で取り返しのつかないミスを起こすからな。叶うことならこれ以上の接点は御免だ、俺は――。
ふと考え込んでいたら、誰かに肩を叩かれた。振り返ると左頬に食い込むか食い込まないかぐらいの指を見つけた。こんなことを俺にしようとする命知らずはひとりしか知らない、目線を落とせば案の定あいつはいた。
「遅かった……じゃない。せん……どう……ちょっと届かないから、もうちょっとしゃがんで」
いたずらしようとして失敗している川村アミの仕業だ。無理に背伸びしているせいか、指先から爪先までプルプルと震えている。
意地の悪いことをするようだが、ただ従うだけでは面白くない。なのでようやく届きそうだった彼女の指先から逃げるように、わざとかかとを浮かせて背を伸ばしてやる。すると変な声を出して指が頬から離れた。
「わ、わわ……ちょっとずるい!ちゃんとしゃがみなさいよ」
「すまないな、背が高くてよく聞こえなくて……なんて言った?」
「ひっどい、そんなことばっか言ってたらモテないわよ」
諦めたようで手を引っ込め、不満げな顔で俺を見上げている。まあ当たり前だが、居るよな……メール寄越した本人だし。
「なんだよ、お前らそんな仲よかったのかよ……あ、だからお前……」
俺達の様子を不思議そうに見守りながら、郷田が疑問を口にした。「それなりに」とか適当な返事を返してこの話を終わらせた。
「まあタイミングが良かったわね、仙道も見てくる?エターナルサイクラーの試作機を作ってるのよ」
誇らしそうに現状を教えてくれた川村アミの話から察するに、この前レックスが言っていたエターナルサイクラーの話は順調に進んでいるらしい。
「解読コードが集まったようで何よりだ、ハッカー軍団にも労いの言葉でも送ってやらなきゃな」
俺は断片的な情報しか分からない……正直どんな苦労をしていたか知らんが、もう目標のブツが手に入りそうならば。俺はお役御免だとは思うのだが……帰ってもいいだろうか。
「みんなお待たせ!……あ、仙道!来てくれたんだね」
何本か飲み物を抱えて更に現れたのは山野バンだった、俺が居ることがそんなに嬉しいのか見るなり目を輝かせている。
イノベーターとの命がけの戦いを終え、今までの苦労がようやく実を結ぶというからか……それとも元からなのか、どちらにせよ相変わらず呑気そうだ。バトル中に見せる闘志と向上心は、今はどこに隠してるのやら。
「はい、紅茶がアミで炭酸水が郷田ね……あれ、カズは?」
「トイレ行ったわよ、後で戻ってくるって」
「そっか、わかった。仙道!スポーツドリンクとカフェオレ、どっちがいい?」
差し出された二本のペットボトルのうち、とりあえずカフェオレを選ぶ。どちらを選んでも甘そうなら、俺はコーヒーを選ぶまでだ。
「……俺なんかが貰ってもいいのか?」
「うん、拓也さんがみんなにってお金くれたからね。仙道が来るのは知っていたから、アミから聞いて好きそうなの選んどいたんだ」
チラリと川村アミを見ると、軽くウィンクして返事をしてきた。
私は仙道のことならなんでもお見通しよ!とでも言いたげな態度に無反応で目を逸らし、山野バンには労いの言葉をかけてやる。
「苦労かけるな」
「それでも、念の為にスポーツドリンクも買って置いたんだけどね……じゃあこっちはオレが貰うね」
無邪気に笑い、ペットボトルに口をつけ美味そうに飲み始めた。
まだあどけないこの顔をみていると、こんな俺より小さな少年が自らの意思で戦っていることが……正直恐ろしくなる。
なにも知らないままなら、今頃布団の上で漫画を読んでゲーム片手にダラダラとしている筈なのに……自分を中心に事件が起こっていても怯むことがないとは、強靭なメンタルだ。
「そうだ仙道、ネオアポロンの試合見たよ!凄かったね」
喉を潤した山野バンが思い出したように目を輝かせ、お世辞なんかで着飾らない言葉を送ってきた。
「……かなり罵倒の数々を貰ったがな、俺は俺のやり方で戦ったまでだ。結局、なにもできず終いだったしな」
不意にポケットからタロットカードを取り出し内容を確認する、
「あれか、お前の発言で炎上……とまではいかなくとも相当叩かれてたやつ。今更だよなぁ、お前がああいうことするのなんて日常的なのによ」
飲み終わったペットボトルの底の方で、俺の肩をつつきながら郷田が余計な一言を飛ばしやがる。アルテミスでレックスに同行して、伝説のLBXプレイヤーなのに決勝まで上がれなかったのは、あの足手まといの郷田のせいだ……とかなじられてた奴なんかに言われてもなぁ。
「ナイトメアもスゲー強かったね。仙道、またバトルしてよ!今は……無理そうだけど」
最後の方は勢いを落とし、少し残念そうに俯きつつ言葉を続ける。
「エターナルサイクラーの試作機が最優先だからね、なにかあった時に備えなきゃ」
「なんだ?急ぐ理由でもあるのか」
こちらの疑問に対し、山野バンは眉毛を八の字にして困ったように頬を指で掻いていた。
「えっと……なにから説明しよう」
なにも理解していない俺に、何から話せばいいかと悩む山野バンに変わって、口を開いたのは川村アミだった。
「ねえ仙道。地殻動発電って知ってる?地球の表面に力が加わって、地殻が変形する現象を発電にできないかってニュースでやってるの」
「あれか……海道義光が進めている最新式の発電方法なんだろ?大規模な計画だから、嫌でも目に止まる」
真剣な眼差しで解説を続ける、普段のお転婆な様子から想像もできない位に聡明な振る舞いだ。
あの甘い物を幸せそうに口に運んで、緩んだ表情を見せていた奴と同一人物だとはな……いかん、集中して聞いてやろう。
「そうその発電所。実は一部の研究者から危険視する声が上がってるの……地殻への負担が大きすぎるって。最悪の場合、連鎖的な大地震を引き起こしかねないの」
「ほう……なら、なんでそんな事誰も言わなかったんだろうな。ひとりくらい疑問に思ってもおかしくないだろう、学者だって盲目ばかりじゃないのにな」
俺が持つ小さな疑問に、川村アミが情報を噛み砕いて補足を入れてくれる。
「海道はその声を全て揉み消してるからよ。しかも試運転できる段階まで完成させちゃって、後は財前総理の承認さえあれば稼働してしまうのよ」
こういう複雑な話を説明することが得意なのか、頭でイメージしやすい言葉選びだ……なるほど、それとエターナルサイクラーの話が大きく関わってくるのか。
「もしその発電所が動いて。エネルギーを取るために無理やり地殻を動かしてみろ……どうなるかなんて俺でも想像できる。それだけは止めなきゃだろ?」
今度は郷田の雑な解説が入ってきた、馬鹿が馬鹿なりに考えて話している。情報が削ぎ落とされてイメージがしやすい……郷田なのに。
「郷田の言った通りだ。それを止める為にプラチナカプセルから設計図を取り出して、今組み立てている。エターナルサイクラーは人類の希望なんだ……絶対守らないといけない」
俯いていたバンが自分自身に言い聞かせるように顔を上げ、俺と目を合わせながらも、自分自身の決意を言葉にした。
「だから仙道、改めてオレ達と戦ってくれ!今は戦いがなにもないかもだけど……エターナルサイクラーが完成してしまえば。大きな戦いが待っている……オレはひとりでも多くの仲間と戦いたい」
13歳の少年の小さな右手が、俺の前に差し出された。
その手をよく見れば、親指を始め掌全体にマメやカサブタができている……少年らしからぬ傷だらけの手だった。俺の予想できない時間と過酷な環境で戦っていたことが、その手を見ただけで察せた。
ゲームセンターで初めて顔を合わせた時には分からなかった、その残酷な運命ともいえる悲惨な戦いは。山野バンという少年をどれほど追い詰め、削り磨いたのか。
やはり俺は、山野バンという人物が恐ろしく思う。眩しい程に純粋で、盲目な程に真っ直ぐだ。まるで水晶のようなその精神が、なにかの拍子に折れなければいいんだがな。
「仙道、改めて言わせて欲しい。オレ達と戦ってくれ」
覚悟の表れを差し出しながら、真っ直ぐな目で俺を見つめる。その純粋さに躊躇いながらも、山野バンの手に一枚のタロットカードを握らせた。
予想していなかった俺の行動に驚きつつ、恐る恐る絵柄を確認していた。
「……え?なに、AX-00?」
「『
またタロットかと呆れる郷田と、川村アミが静かに見守る中で俺自身の言葉を口にする。
「お前は少し張り切りすぎのようだな、力み過ぎて視野が狭くなっている……自分の手が届く範囲くらい理解しておけ」
「え?つまりどういう――」
素直に言葉に出してやるつもりはない、だけど最大限の敬意だけでも示してやらなければ……そういう一心で言葉を捻り出した。
「死角ぐらいなら俺が助けてやる、せいぜい前だけ向いていろ。お前はよそ見すると駄目になるだろう……賢い身の振り方は、今後に向けて覚えておけ」
俺の言葉の裏を読めずに戸惑う山野バンに、イタズラを仕掛ける子供のような顔で川村アミが嬉しそうに助言をしやがった。
「一緒に頑張ろうねって言ってるのよ、ねー仙道」
「おい、余計な事を言うな」
精一杯の圧を込めて川村アミを睨みつけるも、なにが嬉しいのかニヤケ面のまま俺と山野バンを交互に見ていた。
「んだよ、なら素直にそう言えってんだ……そうだったな、お前はタロットカードがなきゃ喋れないもんな!」
ガハハと大口を開けて憎たらしい顔で俺の肩に手を乗せ嬉しそうに笑っている郷田と、結局言葉の意図がわからずに戸惑って頭の上にはてなマークを浮かべている山野バン。
場の空気が明後日の方向に逸れだしておかしくなってしまった……面倒くさい、もうなにもないなら帰りたい。
「ハァ……ハァ……バン!いるか!?」
そんな和やかな空気を壊したのは、扉に衝突する勢いで転がり込んできた山野バンとつるんでいる……のをみたことのある……ような気がしたドレッドヘアーの少年だった。
肩で息をし、目を見開いて絶望しきったような姿が目に入る。一目見ただけで異常事態だと察し、俺達の和やかだった空気が一気に引き締まった。
「どうしたの?そんなに慌てて――」
「バン!みんな!警戒しろ、さっき拓也さんから連絡があった。相当やばいことになったぞ!」