星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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タイニーオービット防衛戦②

 シーカー本部の案内などしている暇も帰る余裕も無くなり、急遽待機を命じられた。

 

 さっきまでの浮かれた空気が180度も変わり、緊張の糸が張り詰めシーカーの大人達は慌ただしく動いている。山野バンはドレッドヘアの少年となにやら話し込んで俺達から離れてしまった。川村アミ、郷田とやることもないので黙って壁際に追いやられ退屈ながら人の動きを目で追っている。真剣な現場に水を差すようだが、ずっと引っかかっていた疑問が漏れ出してしまう。

 

「……随分と準備がいいんだな」

 

「シーカーが?」

 

 不安など微塵もみせない川村アミが、俺の独り言に反応してきた。

 

「いや、イノベーターだ。お前らがここに来たのは今日なんだろ?エターナルサイクラーを作り始めたのもだ。一日も経たず、すぐ攻め込む準備ができたとは思えなくてな……」

 

「ああ確かに、すごい数って話だし……もしかして、シーカーかタイニーオービットのどこかにスパイがいるかもってことね」

 

「内部事情が筒抜けなら、ずっと前から襲撃の準備をしていた……なんてロジックがあっても納得がいく。一番安全な場所に本部を移したっていってたが、今回は裏目に出たのかもしれないな」

 

「ゴチャゴチャうるせぇーぞ仙道!」

 

 雑談に華を咲かせていたわけじゃなく、割と真剣な話をしていたのになぜか俺だけ怒鳴られた。郷田の野郎……俺だけ目の敵にしやがって。

 

「バン、待たせたな」

 

 濃い緑色のスーツに身を包み、山吹色の髪を綺麗に整えた男性が山野バンの名を呼びながら入ってきた。

 

 川村アミの話を聞く限りだと彼がシーカーのリーダー的存在の『宇崎拓也』だろう。本来は自己紹介でもするべきなのだが、今は問題が別にある……顔だけは覚えておこう。

 

 宇崎拓也が他の人員に指示を出せば、シーカーの巨大な壁に映像が映し出された。画面に注目が集まった横で、またシーカー本部に誰かが入ってくる。確認しようにも画面越しの人物が話し始めたのでそちらに集中することにした。

 

「バン、アミたん、そしてその他皆の衆。久しぶりデヨ」

 

 今度はピンクのジャージに顔中が白髪にまみれた顔が画面一杯に映っていた、『オタクロス』だ。

 

 特徴的な口調も態度も相変わらずか……ふざけた老人だが、実力は本物だ。あの鳥野郎の師匠とか言っていたな……一瞬あの腹の立つヒーローもどきの面がよぎって奥歯を強く噛んでしまう。

 

「ハッカー軍団から緊急連絡があってだデヨ……宇崎社長、細かい説明はまかせたデヨ」

 

「わかりました、お任せ下さい」

 

 画面からこちらに体を向け、俺達を見渡している。先ほど部屋に入ってきていた身なりのいい男性と、隣の秘書らしい女性が全員の注目を集めた。

 

 喜ぶべきか、悲しむべきか……Lマガでよく目にしていて、アキハバラキングダムの時に姿を見た記憶が新しい。

 

 『宇崎宗助』だ、タイニーオービットの社長さんか。そんな大物まで関わっているとはな……本当はもっと別の形で出会いたかった。

 

「現在、古い地下鉄の廃線を辿り。おおよそ25000機以上のLBXがタイニーオービットのすぐ近くまで攻め込んできている」

 

「25000機!?とんでもねぇ数が攻め込んできやがったな」

 

「拓也さん、警戒ラインとかを超えた場合のセキュリティーとかなかったんですか?」

 

 驚きで声がデカくなった郷田に反して、落ち着いたまま純粋な反応をする山野バンは尋ねる為に宇崎社長を見ていた。

 

 しかし宇崎社長は顔をしかめ、表情を曇らせてしまう。様子を見る限りなにかあったのだろう、そこを突き詰めてももうなにも出てこなさそうだが……おそらくセキュリティーが作動しなかった。やはりスパイがいたのだろうか?……いやよそう、もう考えるだけ無駄だ。今は目の前の問題に集中しなくては。

 

「敵LBX!侵攻が止まりません!」

 

 オペレーターのひとりが鬼気迫る絶望を叫ぶと、また一気に空気が重くなった。25000機以上の武装したLBXが攻め込んできている……そりゃ誰もが口を閉ざすよな、郷田でさえ圧倒的不利なのが理解できたのか黙ってしまった。

 

 どうするんだろうな、完成を急いでいるエターナルサイクラーの作業を中断させてしまえば世界が危うい……かといってこのまま呑気に待っていることも難しいだろう。ならば――。

 

「戦うしかあるまい!」

 

 騒めく空気に鶴の一声が響き渡り視線が一点に集まった、口を開いたのはやはり宇崎社長だった。

 

「イノベーターは想像を絶する数のLBXを投入してきた……だが我々はこれに屈してしまえば、人類の希望は潰える。それだけは避けなくてはいけない」

 

 言葉が積もるほどに怒気が宿る、それほどまでこの人は本気なのだろう……こういうひたむきさは尊敬に値する。

 

「宇崎氏、ハッカー軍団のLBXは予定通り配置済みデヨ。社内無線ポートを」

 

「わかりました、手筈通りに」

 

 隣の秘書に目配せをし、手に持ったタブレットで何かを操作している。理屈は知らないが遠隔操作をして機数を増やすようだ、こちらもイノベーターに負けず劣らず準備がよろしい様で。

 

「こちらは社内にいるプレイヤーを総動員させます、霧野君。頼んだよ」

 

「かしこまりました、社長」

 

 指示を受けた女性秘書はCCMを取り出し、どこかに電話を掛けながら部屋を出ていってしまった。

 

「拓也、お前はここで指揮を」

 

「……わかった」

 

 宇崎社長が淡々と状況を整理しながら的確に物事をまとめ導く。なるほど、さすがタイニーオービットの社長か。段取りや役割分担を頭一つで理解し、少ない言葉で指示を投げている……ああ、やはり別の形で出会いたかった。

 

「郷田君はハッカー軍団と共に、前線での活躍をお願いしたい」

 

「おう、任せておけ!」

 

 気のいい返事を返し、横で張り切っている郷田に慈悲を向けずには居られなかった。大変だな前線に放り込まれて……お前の活躍は覚えておいてやる。

 

「ほらいくぞ仙道」

 

 なぜか俺の肩を叩き、郷田は後ろのエレベーターを指さしている。

 

「は?なぜ――」

 

「そうか、君は仙道君か……君も居たとはなんと心強い。非常に申し訳ないが、仙道君も前線で戦って欲しい。任せたよ」

 

「は、いや。待って――」

 

 宇崎社長が俺の存在に気が付き、嬉しい誤算とばかりに郷田の案に乗っかる。優しく微笑む宇崎社長が、俺の目に一瞬だけ悪魔のように写った。

 

 会話に割って入る隙間がない、これでは俺も郷田諸共、LBXの波に飲まれ倒れてしまう……背中に嫌な汗が流れ全身の体温が下がっていく。助けを求めようと隣の川村アミを見るが、なにも言わずに憐みの目を向けていた。

 

「というこった、いっちょ暴れてやろうぜ!」

 

「おい待て!俺は行くなんて一言も――」

 

 フードをあり得ない馬鹿力で引っ張られ、喉に圧力がかかり声が潰れる。抵抗しようにも踏ん張りが効かないまま、扉の向こうに引き摺り込まれた。

 

 待ち受ける最悪な状況を考えてしまい、扉が閉まるまで無意識に川村アミの呆れた顔を目に焼き付けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 昔、地下鉄が通っていた廃線だったらしい。遠い過去に乗り物が通っていた筈なのに、今は空気の循環がないからカビと埃の臭いがする。なんとも言えない環境の中で鼻が曲がりそうになり、舞い上がる砂塵で目が痛む。

 

 非常用に付けられた小さな光のその先、薄暗い筈の暗闇に赤い星々が灯っているのが肉眼でも確認出来た……本当に星であればどれほどよかったのだろうか。

 

 あのひとつひとつがLBXか、間近で見ればその恐ろしさも、エターナルサイクラーを手に入れたい理由さえ理解できてしまいそうだ。

 

「おい、今更ビビってんのか?」

 

「慎重とでも言い変えろ……お前のように能天気ではいられないのさ」

 

 ひとり頬を叩き、気合いなんて気休めを注入している郷田に、心の底から嫌悪感が湧き出る。

 

 俺はこんな所で死ぬなんざまっぴら御免だ、しかもよりによって日の出を浴びることが叶わないような最悪な場所で……あのメールにまんまと乗せられたが運の尽きだな。

 

 タロットカードを取り出せばよりにもよって『(ムーン)』が出てしまった、最悪だ。今日は本当についていない。

 

「はぁ……もし死ぬことがあれば枕元に立ってやるぞ、川村アミ」

 

「なら頑張ったら?」

 

 聞き慣れた声がCCMから聞こえた。画面を覗き込めば、なにかの乗り物に乗っている川村アミから連絡が入っているようだった。

 

「……一足先に棺桶にでも入っているのか?」

 

「そんな訳ないでしょ、コントロールポッドの中からよ」

 

 コントロールポッド……コントロールポッド?一体なんのだ、なんでそんなのに入らないといけないんだ。そもそも川村アミは今、どこにいるんだ?

 

 ひとり聞き慣れない単語に訝しみ、横で興奮を抑えられない郷田に聞いてみることにした。俺よりは多少詳しいだろうからな。

 

「おい、コントロールポッドってなんのだ?」

 

「知らないのかよ、ニュース見た方がいいぜ。えっと……でっかいCCMだよ、スパートなんとかってやつの!」

 

 一生の不覚、聞く相手を間違えた。

 

「私語はそこまでだ、各自集中を切らさないように」

 

 画面に更に誰かが混ざってくる、顔をみれば宇崎拓也と呼ばれていた人物からだった。

 

 顔を上げれば横からハッカー軍団の『グレイメイド』という名称のLBXがぞろぞろと現れ、業務用エレベーターからタイニーオービット発のLBXが降りてくる。軽く見て千を超えるLBXの先頭に、ナイトメアとハカイオー絶斗が並び立った。

 

 武者震いとはまた違う……アドレナリンが分泌され体内の端々に巡り、体に熱が篭り鼓動が早くなっていくのを感じる。今はなるべく冷静を保ち、開始の合図を待つばかりだった。

 

「郷田、仙道、無理はしないでくれ」

 

「よっしゃ!拓也さん、任せておけ」

 

 こんな命がけなのに……いや、命がけだから張り切って声を張り上げる郷田の声で前を見据える。

 

「並行してエターナルサイクラーの開発も急いでいる。郷田君、仙道君……どうか武運を」

 

 宇崎社長からの有難いお言葉まで頂けた、今の俺はなんて幸せ者なんだろうな……ここまで来たらもう引き返せない、ならばいっそ暴れるまでだ。

 

「総員!構えろ!」

 

 宇崎拓也の合図と共にハカイオー絶斗がチェーンソーを鳴らし、ナイトメアは杖を構えた、その後ろで鈍い金属音がこだまする。目の前からバラバラとLBXの足音が聞こえてくる。

 

 『デグー』、『インビット』、『アヌビス』……剣や重火器を構えまるでゾンビ映画のように足並みを揃え列を成している。

 

 最悪な結末が頭を過りCCMを握る手が汗ばんでいく、そうはならない……俺はこんな所で終わる奴じゃない。と言い聞かせ余計な考えを振り払い手に力を入れる、いつでも操作ができるよう、指をボタンの上に添えて合図を待った。

 

「迎撃開始っ!」

 

 宇崎社長の合図の元、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 ランチャー武器の火薬が弾ける音が一斉に響き、前列にいたイノベーターのLBXが弾け飛ぶ。土埃が舞い上がる中に、追い打ちと言わんばかりに銃弾の雨が降り注いだ。

 

「おらぁ!必殺ファンクション!」

 

 郷田が荒々しい雄たけびを上げると、ハカイオー絶斗が共鳴するように胸部のふたつの砲門にエネルギーが蓄積されていく。機体全体に電撃が走り、ハカイオー絶斗の踏ん張ったアスファルトにヒビが入る。

 

「喰らいやがれ!」

 

 最大限に貯められたエネルギーが土埃が晴れかけた敵陣に向け一直線に放たれ、イノベーターの大群を蹴散らしていく……『超我王砲(ちょうガオーキャノン)』か。ガサツな郷田らしい出鱈目な強さだ。

 

「どうだ、参ったか!」

 

 煙が晴れると同時にハカイオー絶斗の前に現れたデグーが切り掛かろうとしていた。

 

「な!?くそっ!」

 

 反動で動けないのを狙ったのか、偶然生き残ったのか……ハカイオー絶斗の強力な必殺ファンクション。反動がデカい分、連射すべきじゃなさそうだ。

 

「馬鹿みたいに発射してんじゃねぇ!配分を考えろ能無し!」

 

 ナイトメアが駆け出し、寸前でデグーに飛び蹴りを喰らわせ危機を脱することができた。

 

「ちぃ、油断した。悪いせん――」

 

「よそ見してんじゃねぇ、来るぞ!」

 

 弾丸の雨を生き残ったLBXが次々と飛び掛かってきた、武器を構え直し。俺達はそれぞれ敵を対処していった。

 

 それぞれの場所で乱闘が始まり、剣劇が繰り広げられる。ナイトメアも負けじと杖を振るい、続々と首を落とし群がる敵を薙ぎ払って確実に戦力を削いでいく。

 

「派手に暴れてんなぁ、仙道……俺も負けてられないぜ!」

 

 大振りなチェーンソーを軽々と振り回し、次々とあちらも敵機を粉砕していく。

 

 周りも着々と数を減らし減らされで、戦況が大きく動いているのが分かる……分かるんだが。俺がずっと思っていたひとつの疑問が、戦いの最中でより浮き彫りになっていく。敵を倒せばその数だけ、より濃くなる疑問が遂に口に出てしまった。

 

「おかしい……」

 

「なにがだよ」

 

 目の前のデグーを斬り上げ、ナイトメアと背中を合わせ間合いを計ったハカイオー絶斗の手を止め。横目で見つつ郷田がちゃちゃを入れてきやがった。こんなに戦って疑問すら抱いてないのか、呆れて皮肉も出ない。

 

「あいつらのLBX、全て自動操作だろうが。様子がおかしい……こういうのはハンドラーがいるもんじゃないのかねぇ」

 

「ハンド?手?」

 

「要は指揮官だ。大群をただ死に急がせないよう、指示を出す奴がいる筈なんだ。石田三成なんかがいい例えだ……さすがのお前でも知っているだろう?」

 

 歴史の教科書に載っている、誰もが知っている名前を出してやった。郷田でも知っているだろうから……戦場でこんなくっちゃべってる隙はないが、どうにも不安で小言が増える。

 

「石……だ……えっと」

 

 思い出すのに必死になったせいか操作の手を止めてしまった、その一瞬でハカイオー絶斗の上に敵機体が切り掛かっていく。

 

 固まるハカイオー絶斗のサポートに回りつつ深く反省した、余計なことを言ってしまったと……こいつなんかに知識を求めてはいけなかった。

 

「人の名前はいい!とにかくここに戦力を注いでいる割に、全体的に弱いってことだ……まるで囮だ」

 

「じゃあ、ということは――」

 

「もしかしたら別のルートこそ本命、なんてこともあるかもな」

 

 憶測の域は出ない……それでも、ここが戦場もどきになること位は向こうも読んでいる筈なんだ。しかし、ならどうやって?

 

 エターナルサイクラーを運び出せるLBXなんか何体も必要だろう。完成品の大きさも未知数だ……じゃあなにで持ち出す?奴らの狙いはなんだ?

 

「さすがだね仙道君、君は周りをよく見ている」

 

 俺達以外の気配を察知し郷田とふたりで声の主を探せば、階段から降りて俺達の背後に迫る人物がいた。意外だった、よりによってあいつがこんな場所にまで降りてくるなんてな。

 

「ジン!お前がここまで来るなんてな、生身でくる馬鹿は俺達だけだと思ったぜ」

 

 まるで状況の危機に颯爽と現れた英雄のように登場したのは海道ジンだった。掌にオーディーンを乗せ、肩にもう一機別の機体を乗せている。プロトゼノンの面影は残しつつ、より洗練されたシャープな機体になっていた。

 

「ほう、プロトゼノンの上位機体があるのは。本当だったんだな」

 

「そうだ、サイバーランス社が作り上げた次世代のLBX。その名も『ゼノン』だ」

 

 見た目だけでは判断がしにくいが、かなり良い機体なのだろう。背中のジェットブースターが取り除かれ、より騎士らしいデザインになっている。

 

「地下のことは僕達に任せてくれ、君達とカズヤ君、アミさんはレベル4研究室の防衛へ。エターナルサイクラーの完成は近い」

 

「おっしゃ!まかせとけ。バン!ジンのこと守ってやれよ」

 

 掌に乗ったオーディーンにそう告げた郷田を追ってこの場所を去ろうとすると、不自然な揺れを感じ悪寒が全身に走った。どうか勘違いであって欲しいと願いながら振り返り、地下道の先を確認してしまう。

 

 俺のささやかな願いは見事打ち砕かれてしまった。こんな地下道の、ましてや絶対存在するとは思えない……電車や車とはまた違う、明らかに兵器や戦車のような巨大ななにかが這っているのが分かってしまったからだ。

 

「な、なんだありゃ!?」

 

 キャタピラの擦れる音を鳴らしてLBXの亡骸を踏み歩き、暗い中に大砲や機関銃を備えたシルエットが浮き彫りになってくる。戦車とはまた違う、まるで要塞のようなそれの赤い目が俺達を睨んでいた。

 

「は、はは……悪い勘はよく当たる。当たるなら占いだけにして欲しいもんだねぇ」

 

 らしくない言葉を漏らす程、目の前の要塞に怯んでしまう。まさかこんな大物を忍ばせていたとは……敵も本気だということか、イノベーターは俺が思っていた以上に本気だ。その事実だけでCCMを握る力が失われ、煙い空気を肺に入れてしまい軽い目眩を感じる。

 

「おいジン!さすがにこれはやべーって!俺達も残って――」

 

「いい、僕達の目的はエターナルサイクラーの死守だ」

 

「だ、だがよぉ……さすがに、こんなの……」

 

 まあ今回は郷田に賛成だ、こんな要塞もどき……人手がいるだろう。早急に言葉を取り繕い、海道ジンを説得に掛かろうとするとCCMに連絡が入る。開けば山野バンからだった。

 

「郷田!仙道!オレ達を信じてよ。大丈夫、必ず止めるから」

 

 画面越しに見えた山野バンの表情は、あんなにふやけていた少年ではなく。俺達以上に戦う覚悟を持ち、まっすぐ前だけを見ていた……これは説得しても時間の無駄だろうな。

 

「で、でもよぉ!俺は――」

 

「郷田、もうよせ。これ以上は時間の無駄でしかない」

 

 必死に止めようとする郷田の肩に手を置き、CCMに表示された山野バンの顔を見つめる。やはり揺らぐことのない決意が読み取れる、だから……せめて言葉だけでも託すことにした。

 

「山野バン、さっき言ったことが早速実行になるな……死角は任せろ。黙って前だけを見ておけ」

 

「うん!ありがとう、仙道」

 

 俺の言葉に表情を一瞬だけ緩ませ、また引き締まった顔に戻った。

 

「畜生、仙道まで……ああ!わかったよ!バン、ジン、ヤバくなったらすぐ逃げろよ!こっちが片付いたら必ず戻ってきてやるからな!約束だぞ!」

 

 山野バンと海道ジンに背を向け、エレベーターまで一気に駆け抜ける。俺がパンドラを、郷田がフェンリルを回収して扉が開いたエレベーターに乗り込んだ。

 

 ボタンを押し、扉が閉まったと同時に動き出した。エレベーター特有の浮遊感に、あの場所から生きて帰ってこれた……ひとまずその事実にため息が出てしまう。

 

「一時の休憩だな……あー、空気が悪かったから息が詰まったぜ」

 

 膝に手を当て大きく息を吸っては吐いてを繰り返している郷田。まあ、あんな場所に長時間いればしんどいのも分かってしまう。郷田に釣られ、額に滲んだ汗を拭った。

 

 ふと掌に握ったままのパンドラを見つめる……ナイトメアとはまた違うスピードに重点を置いた美しく無駄のないデザイン。それに制御系のバランスを向上させているのだろうか、スタビライザーをつけて安定性を増している。

 

 本来目立つパーツの筈なのに、このパンドラはスカートのようにしてデザインに取り入れ、女性的な見た目に仕上げている……なんという調和性の取れたLBXなんだ。今はじっくり観察出来ないのが惜しい……今度頼んでみるか。

 

「仙道……そんなに見つめないでよ」

 

 CCMから流れる声に意識を向けると少し顔を赤らめた川村アミから連絡が入っていた。

 

「……どういう意味だ」

 

「エッチ……」

 

 よくわからない答えに戸惑いつつも、宇崎拓也からの通信が入った。

 

「四人とも、ご苦労。レベル4研究室の防衛に関しての班決めを発表する」

 

 膝から手を離し、郷田もCCMに集中する。

 

「広い天井裏エリアはカズ、郷田ペア。狭く暗い通気口エリアはアミ、仙道ペアがそれぞれ向かってくれ」

 

「了解!よろしくな、カズ」

 

 郷田はまた、手に乗せたフェンリルに話しかけている。CCMに言えよ、向こうに聞こえないだろう。

 

「オーディーンの時もそうだったが、なぜLBXに話しかけているんだ?」

 

「いやだから、バン達は巨大なCCMに乗り込んでるんだって!」

 

 両手を広げ「あれが……」とか「これが……」とか言われても一切わからない、後で川村アミに聞いてみるか。

 

「お前のガサツな説明を理解できる頭を持ち合わせていなくて悪いが、意味がわからん……結局なんなんだコントロールポッドって。LBXとなにが関係のあるものなんだ」

 

 しばらく黙って考え、結論をまとめたらしい郷田が口を開いた。

 

「案外仙道ってバカなんだな……」

 

「自分の説明下手を棚に上げるな」

 

 雑なやり取りを強制的に終わらせるベルの音が聞こえた、目的の階層に辿り着いたようだ。扉が開き、我先にと郷田が飛び出していく。

 

「そんじゃ仙道、精々気張れよ!また後で会おうぜ」

 

 フェンリルを握ったまま腕を振って走りだした。気を取り直してCCMを開き、川村アミと通信を繋げる。

 

「忙しないねぇ……俺達もいくぞ」

 

「オッケー、もうひと踏ん張りね」

 

 指定された場所を目指し、俺も歩みを進めるのだった。

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