星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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※原作と比べ過度な
・解釈違い
・独自解釈

が発生しています、ご注意下さい


タイニーオービット防衛戦③

 郷田と別れ、宇崎拓也に指定された通気口に辿り着けた。

 

 先にパンドラを押し上げてやり、ナイトメアを操作して通気口の中に入れる。配線が絡み合った薄暗い通気口……というより隙間に近いの向こうをCCM越しに確認する。

 

 奥の方に赤く光るなにかが揺らいでいる……最悪だ、まだいやがるのか。

 

「ほんっと、しつこい連中ね」

 

「そうだな……死に急ぐなら望み通りに殺してやるまでだ」

 

 杖を構え、先陣を切って突っ込む。パンドラも続いて強く地面を踏み込んだ。

 

 ナイトメアズソウルで先頭のインビットの頭部を叩き割り、一撃で動かなくなったそれを踏み台にして、回転しながら狭い空間をギリギリまで攻めて飛び上がる。

 

「下がってろ!」

 

「オッケー、決めちゃって!」

 

 ボタンを素早く入力し、まずは一発目を叩きこむ。

 

「くたばりな!」

 

 CCMから技名が鳴ると暗闇で赤く目を光らせ、ぐっと力を込め敵の大群に向け空中を薙ぎ払えば竜巻が発生し、黒い風の刃でLBXの波を切り刻む。『デスサイズハリケーン』が敵陣に向けて放たれた。

 

 狭い空間で衝撃波が反響しあい、いつも以上に威力が増して見える。風圧に勝てずに吹き飛ばされたLBXを、パンドラが的確に叩き潰していく。

 

「漏れた分はこっちで叩く、仙道はそのまま切り開いて!」

 

「言われるまでもない、ドジ踏むんじゃないぞ!」

 

 華麗に着地を決め、近くのアヌビスに切り掛かり、後ろに潜んでいる群れにボーリング玉のように当ててやる。がら空きになった空間にナイトメアが突っ込み思い切り杖を振り回し一回転させる。くるりと杖を回転させ、今度は槍のように構える。敵の隙間を縫って石突を一機ずつ確実に頭、胴体に追撃を喰らわせる。当たり前だが、相手との一手の読み合いがないから段々飽きてきてつい欠伸が出てしまった。

 

「……生ぬるい戦いばかりで、眠気が――」

 

「仙道、気を抜かないの!」

 

 マシンガンを無策にも撃ちこんできたデグー共の弾丸を風車のように高速で回して全て弾き落とす。その遠心力を利用して床に突き立てポールダンスのようにナイトメアが回転し、迫ってきていたインビットへドロップキックを決めることに成功した。練習だとこうはいかなかったな、土壇場だとできるもんだな……ちょっと嬉しい。

 

「ねぇ、ちょっと遊んでない?」

 

 川村アミからの冷ややかな視線をCCM越しに感じる。半分正解だと思いつつ、刈り取ったデグーの頭部を杖でフルスイングしてみては敵陣に当てていく。

 

「こういう芸当を磨けば、案外金になるかもな」

 

 動画とか撮ってネットに上げれば、きっかけがあれば一発狙えそうだ……すぐネタが尽きるだろうけどな。

 

「もう!」

 

 アヌビスの頭をビリヤードの球のように打っていたら、パンドラから小突かれてしまった。少しだけLPが削れて我に返った。

 

「まあいい、お遊戯も飽きた所だ。終わらせてやる」

 

 武器を構え直し、少なくなった群れに踏み込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 通気口の暗闇の中でイノベーターのLBXだったものは漏電をし、もう動かない鉄屑と化してしまった。そんな残骸を見下ろしながら、近くに脅威がない事を確認しつつナイトメアとパンドラは撤退する。

 

 出てきたナイトメアを回収し、降りてきたパンドラに膝をついて掌を差し出した。パンドラを乗せたタイミングでまたCCMに着信が入る。

 

「またジロジロ見ないでよね」

 

「さっきからなに訳の分からんことを言ってやがる、お前のことなんか見えるわけないだろ」

 

「もーそういうことじゃないのに……」

 

 まあこのカラクリの正体はコントロールポッドが関わっているのが明らかだ、後で長ったらしい解説でも聞いてやろう。

 

 よそ見していた俺が悪い。また誰かとぶつかり、軽くよろめいてしまった。

 

「あ、すみま――」

 

 振り返ると初老の男性のようだ、詳しくはわからなかったが多分研究員……またはその関係者だろう。俺に目もくれず、忙しないまま奥へ行ってしまった。社内中にアナウンスが流れ避難警告まで出していた筈なんだが、まだ残っていたか。

 

「なんだあのオッサン……逃げ遅れたか?」

 

「仙道?どうしたのよ」

 

「……なんでもない」

 

 妙な引っかかりを覚えたが、気のせいだろう。今は現状の報告を優先させるべくCCMから連絡を入れる。

 

「こちら通気口エリア、無事に完了した」

 

「こっちもだ、天井裏は片付いたぜ!」 

 

 同時に郷田からの連絡も入った。残すは地下のあの要塞戦車だけ……また戻らなければいけないのか、憂鬱だ。息が詰まる程の土煙を思い出しながら、また画面に意識を戻す。

 

「おい仙道、今すぐ地下に戻るぞ!あのデカブツを叩きのめしに――」

 

 今度こそと憤る郷田に割り込んで、冷静に宇崎拓也が現状を伝えた。

 

「その必要はない。今、要塞戦車バルドーマの完全停止が報告された……それにエターナルサイクラーも完成したぞ」

 

「え、ということは?」

 

 驚きで固まる郷田に、力が抜けて口角が上がっている宇崎拓也が嬉しい知らせを告げた。

 

「お疲れ様、全てのミッションが完璧なまでに完了したぞ……これで俺達の勝利は確実だ」

 

「まじすか!?よしゃ――」

 

 爆音の恐れがあったので急いで通信を遮断した、鼓膜が破れる所だった。ここに来て一番の大怪我を負わなくて良かった、宇崎拓也には悪いが……逃げさせて貰った。

 

 全ての問題が片付いた……その事実に安堵したせいか、力が一気に抜けて壁に肩をぶつけて倒れかけてしまった。その拍子で口の中を少し噛んでしまい血の味が広がって気分が悪くなっていく。

 

 脳内を焼いていたアドレナリンが落ち着き、副交感神経が前に出ている。理屈ではわかった……反動だと。しかもたちが悪いことに、今回は反動が段違いで大きい。

 

「かなり……無理をしていたようだ」

 

 そのまま背をつけ座り込む、改めて思い返そうとすると握りしめていた手が痙攣するように震えて止まらなかった。

 

 戦場の真っただ中に身ひとつで投げ出され、無我夢中で戦った。目の前でスクラップになっていくLBXと、もしかしたら同じ運命を辿っていたという可能性に……今更恐ろしくなってしまった。

 

「こんなん毎回やってたら、いつか俺も――」

 

 目の前が霞み、脳みそが大きく揺れる……ものすごく気持ち悪い。なにも入ってない筈の胃からなにかが上がるのを抑えつつ、耳障りな心音を鎮める為にゆっくり呼吸をする。少し休んだら戻ろう、俺なんかはもう出番がないのだから。

 

 目を閉じ、気分を落ち着かせる為に呼吸を続ける。気持ちを落ち着かせると今度は眠気が上がって瞼が重くなった、だがここで寝てはいけない……それをわかっていても、今は疲れた。

 

 遠くから誰かの靴の音が聞こえる……起きなくては。でも……眠い。

 

「……ん……どう……仙道!しっかりして!」

 

 肩を大きく揺らされ嫌々目を開けると、本来そこにいない筈の川村アミみたいな人物がいる。

 

「もう、倒れるのはしょうがないとしてもここで寝ないで。また風邪引くわよ」

 

「……コントロールポッドってのはホログラムも出せんのか?」

 

 はっきりとしない思考の中で手を伸ばし、試しに頬に触れてみる。少しビクッとしたが触感は柔らかかった。無機質な光を通過するかと思えば、たしかにそこに体温を感じた。

 

「すごいな……感触まで表現している。本物みたいだ」

 

「本物よ!もう、無理しないでって前も言ったじゃないの」

 

 頬の手を優しく払いのけ、俺にペットボトルを差し出してきた。

 

 よくわからないまま受け取って蓋に手を掛ける、しかし思った以上に力がうまく入らずペットボトル如きが開けられない。指の力すらまともに入れられないとはな、我ながら呆れて言葉も出ない。

 

「開かん……悪いが少し放って置いてくれ。ほら、お前のパンドラだ」

 

 弱い力でなんとか守っていたパンドラを差し出してやる、なにも言わず受け取って。どういう考えか知らんが、川村アミは俺の隣に腰かけた。

 

「……大丈夫なの?私が開けてあげる。貸して」

 

 俺からペットボトルを掠め取り、ひとり蓋と格闘し始めた。さっきまでいた戦場がすぐ近くにあると言うのに、どこまで行ってもお気楽な奴だ。

 

「川村アミ、お前は平気なんだな」

 

「なに……がよ……」

 

 相当硬いのか、小刻みに震え顔が少し赤くなっている……そこまでしてもらう義理はないのにな。

 

「あんな戦いがあったんだぞ、大丈夫だったのか?」

 

「まあね、現場に直接行ってたあんたよりは平気……よ!あ、開いた!ほら、どーぞ」

 

 無事に封が開いたものを俺の方に差し出してきた、軽い達成感で浮かれているのを断る気も起きない……せっかくだから受け取り、飲み物を口に含んでみた。

 

 コーヒーのような香ばしい風味は若干感じるものの味がしない、甘さも苦さもない。とりあえず今はそれを機械的に流し込めば、少しだけ胸のざわめきが落ち着いた。しかしその代わりのように、今度は吐き気が込み上げ顔が青くなって目が回りそうになってしまう。

 

「味がしない……気持ちわるい……頭が割れる……」

 

「ひっどい顔色、ちょっと歩ける?手を貸すわよ」

 

 今動いてしまえば確実に吐いてしまいそうだ、首を振って全力で否定する。

 

 ちゃんと動かして欲しくないことが伝わったようで、川村アミは諦めたように膝を抱え、俺を見つめている。

 

 観察するような、機を伺っているような視線を感じる。こいつが今、なにを考えているかはわからない。どうせいつもの余裕綽々と笑う魔術師らしくない……そう思われているのかもしれない。嫌だな、川村アミに失望されることだけは。

 

「もういい、ひとりにしてくれ……」

 

「嫌よ!放っておけないわ。この前よりずっと酷い顔してるわよ」

 

「休めば……すぐに治る」

 

「なら傍にいる!」

 

 キンとする甲高い声が頭に響く、だから放って置いてほしいんだがな。直接言葉で伝えたとしても、多分しつこくここにいると駄々をこねそうだ。本当、郷田以上にやっかいなのに懐かれたな。

 

「ねぇ仙道……聞いてもいい?」

 

 今度は優しく語り掛ける声が聞こえる、目だけで確認すると。いつぞやの夕焼けに照らされて見た。ぎこちなく、どこか大人びた顔がそこにはあった。沈黙を了承と捉えたのか、川村アミは話を続けた。

 

「仙道ってさ、なんでシーカーに入ったの?」

 

 いずれ誰かに聞かれるだろうとは思っていたが……よりによって今で、相手が川村アミだとはな。郷田に雑談程度に聞かれるくらいなら、適当な言葉で着飾って誤魔化せたのに。

 

「悪く言うかもだけど……あなた正義感なんて無いじゃない?人にも物にも基本的無関心で……LBX以外に興味示さなくて」

 

「正義感が皆無な人間が、ヒーローごっこをしてはいけないとでも言うのか?」

 

「ほら、そうやってすぐ話逸らして逃げようとしないの……だから、仙道がそこまで戦ってくれる理由ってなんなのか知りたくなった」

 

 こいつ、まさか俺の弱みでも知りたいのか?

 

「話したくなければ話さなくてもいい。踏み込まれるのが仙道が一番嫌いなのは知ってる……ただ、いつか教えて欲しいとは思ってる」

 

 踏み込んでこない、だが確実に俺の奥底にあるものを覗こうとしてくる。好奇心だけとはまた違う、なんの原動力かわからない力が仮面を剥いでくる。

 

「私にもいつか話してね、いつでも待ってるから」

 

 無邪気に微笑み、優しく包むような言葉を置かれてしまった。

 

 最悪の気分だ、これは吐き気からくるものじゃない。相手が川村アミだから、彼女だから感じてしまった居心地の良さと、俺の言葉ひとつで今の関係とこの距離が崩れる恐怖の境目にいる……その事実そのものにだ。

 

 それだけで、俺の情緒がグチャグチャになって、プライドと名誉で塗り固めていた壁が音を立てる間もなく崩壊していく。

 

 その無邪気な優しさは、逃げ道を塞ぎ、俺を貫く刃のように思えて仕方がない。

 

 だから、なんて言えばいい。俺は嫌だ……この関係が崩れてしまうことが。誰にも踏み込まれたくなかった仮面の下に、ぱっと出のこいつなんかが覗き込んでくる……もし俺が本音を口にしてしまえば、この心地よい距離感は確実に壊れてしまうだろう。

 

 もう二度と取り返すことが叶わない、この星のような輝きが。俺の言葉で、俺の感情ひとつで……潰えてしまう可能性がある。その事実が、ずっと胸の奥深くに根付いている。この名前の分からない絶望が、今の俺にはなによりも恐ろしく思えてしまう。

 

「もー、また顔怖いわよ」

 

 また優しい声が聞こえる、無意識に川村アミから目を逸らした。ふらつく体を無理やり立ち上がらせる、壁にもたれながら少しでも川村アミの元から去ろうと歩き出す。

 

「ちょっと、仙道!まだ休んでなくて――」

 

「トイレだ、ついてくんなよ」

 

 下手な言い訳をしてしまった手前、引き返せるわけもなく。吐き気が収まってもまだ止まないざわめきを感じながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、宇崎社長の死。その上試作機のエターナルサイクラーはイノベーターの手に渡り。俺たちの頑張りが全て無駄になったことを知った。




また猛省の書を上げておきます。

一息付きたい、でも止まらないものですね。執筆が楽しくて仕方がねぇですわ
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