唐突に始まったふたりで過ごしたあの日から数日後のミソラ商店街。その一角にあるゲームセンター内で熱く火花を散らし、激戦が繰り広げられている。店の中心に置かれた強化ダンボールを挟んで仙道と私がそれぞれのLBXを用いてバトルに励んでいた。
遡ること1時間前、たまたま商店街を暇そうに放浪していた仙道に声をかけたのが始まりだった。気まぐれに交わした口約束を果たすため、ゲームセンターに寄ってバトルを開始したのだが……。
ステージ中を煙のように逃げ回るナイトメアを、持ち前の機動力で捕らえるどころか目で追うことすらできないパンドラ。ダガーを振りかざせば後ろに避けられ、回し蹴りをすればジャンプで避けられる。ナイトメアはおちょくるかのように攻撃の手を止め、煽るように回避に専念して持ち前の余裕さを見せつけてくる。
プレイに集中しようにも意識がまばらになって指先に力が入りすぎる、CCMのボタンに爪が当たってカチカチと音を立てる度に気持ちが昂る。本来の持ち味である冷静な判断ができず。ただ目の前のナイトメアに攻撃を当てるべく、無我夢中になって踏み込んでいった。
LBXの性能やカスタムの差はそれほど無い……はずなのに、それを上回る圧倒的且つ研ぎ澄まされたプレイスキルに手も足も出ない!やはり魔術師の名は飾りではなかった。
「どうした降参か?このままだと眠っちまいそうだから早く攻撃しろよ」
余裕綽々と仙道の口角が上がる、いつもは多少腹が立つ程度だが今日は違う。気持ちを逆撫でるような挑発にもうムカッ腹が立ってしょうがない、つい声を荒げ威嚇するように言葉を放った。
「こっちはかすり傷ひとつ与えられず三連敗決め込んでるのよ!?黙って負けたくなんかない!」
自分に喝を入れつつ、指が痛くなっても操作も止めず攻撃を続けた。激しい攻防が繰り広げられる中、杖を振り下ろしたナイトメアの首付近に隙ができた。ここに攻撃が当たれば勝機があるかもしれない……ならば決めるまで、一瞬の隙を狙ってパンドラがホープ・エッジの刃先を定めた。
「そこっ!もら――」
「遅いっ!」
でも、一瞬の隙を突かれたのはこちらだったようだ。ナイトメアの振り下ろしからの突き攻撃が、意識が逸れたその一瞬に狙いを定め、パンドラの腹部に深く突き刺さった。
「しまった!」
すぐさま抜こうと足掻くものの、思考が纏まらず手が止まる。たったその一瞬を狙って、仙道は更に早い判断で行動して仕掛けてきた。
ナイトメアはそのままパンドラを突き刺したままナイトメアズソウルを振り上げ、その身軽さからは想像できないパワーでパンドラを空中に放り飛ばした。身動きが取れないまま、無防備になったのを狙っていたかのように、ナイトメアはあの技の構えを取った。
「必殺ファンクション!」
CCMが技名を読み上げた瞬間、ナイトメアの目は怪しい光を放ち。その場で舞を披露するかのように回り出す、たちまち黒い竜巻を呼び寄せ。真上にいるパンドラへ放つ。仙道がもっとも愛用する技『デスサイズハリケーン』だ。
空中でまともに回避することもできないまま竜巻の刃で機体をガリガリと削られ、敢えなくブレイクオーバー……本日四度目の負け。観客のいない静かな戦場でも、彼の実力は惜しまず発揮されていた。
「あーまた負けた……」
「はいまた俺の勝ち」
ニタリと勝者の余裕を見せる仙道、それに反し肩を落とした自分の表情は強張ったまま。負け惜しみや皮肉でも言いたいけど、言葉を思い浮かべても興奮から来る熱でうまく纏めることができない。ただただ惨めさを晒すだけだから口に出すべきじゃない……お口チャックを決めた。
「やっぱ凄いわね、悔しいけど……あんたは強いのね」
ようやく出てきた素直な気持ちを言葉として吐き出し、傷だらけになったパンドラを強化ダンボールから取り出した。LBXの実力はそこそこある方だし、バンやカズと多くの修羅場を乗り越えて来たからプレイヤーとしての実力はある方だと思っている。アルテミスにだってバンと一緒だったけど出られた実績もそれを強く後押ししている。
しかし最近は自惚れが過ぎたようね。チームプレイで活躍していても、ひとりで戦うと感情的になってボロが出てうまく立ち回れない。自身の欠点を誰かが補っていて、結果がでていたことが痛いほどわかってしまう。
今までの実績は皆がいたから乗り越えてきたもの、真っすぐ努力しているバンや才能のあるジンに、凡人の私は遠く及ばない。その痛いほどの事実に唇を強く噛んでしまう、ちょっとだけ血の味がした。
「負けが続いて焦りが出たか?攻撃にムラが多く集中力が切れてるな。全体の流れすら掴めずがむしゃらに殴りに掛かるのは、どっかの破壊神様と同じじゃないのか?」
的確な指摘にぐうの音も出ないとはこのこと、ほんと今日は散々ね……正論がこんなに痛いんだもの。
「俺のような強者に勝てなくて悔しがる気持ちもわかるが。冷静に周りを見ているお前にしては、らしくないんじゃあないか?」
ナイトメアを回収し、代わりにタロットカードを一枚取り出した。『
「絵柄が逆になっているわ、取り出す時は絵柄の向きを揃えなきゃ駄目よ」
「タロットカードってのは正しい位置と逆の位置でそれぞれ意味があるんだ、間違えちゃいないよ」
嫌味を正論で返された、自分の無知さまで晒してしまい顔が赤くなる……知ったかぶりまでして、恥ずかしい。
「じゃあ……これってどういう意味なの?」
わからないなりに仙道の言葉の意味を問いただす。返って来たものが意外だったのか、ちょっと目を丸くしつつしばらく考えてから誤魔化すようにタロットカードをジャケットにしまい込んだ。
「知らないのか……まあいい気にするな。要は休憩にしようってことだよ、そのパンドラじゃどちらにせよもう満足に戦えない」
取り出したCCMで何かを検索しながら、ゲームセンターを出ようとする仙道に慌てて追いついて尋ねた。
「ちょっと、何処行くのよ」
「近くにキタジマって名前の模型店があっただろ。そこで修理でもやってもらえ」
「キタジマならいつも行ってるから場所はわかるわ、案内してあげる」
仙道の横に並び、キタジマ模型店を目指すため歩き出した。
商店街の階段を下りた先の模型店、バンたちとの憩いの場……目的のキタジマ模型店に着いた。外で待つとか言って入店拒否しかけた仙道を引きずりながら入店する。
「アミいらっしゃい、おや?随分と珍しい子を連れているようだね」
「こんにちは店長、それに沙希さんも。ちょっといろいろね……」
店に入ると見慣れた店長と沙希さんが出迎えてくれた、店の中もいつも通り。綺麗に陳列された商品棚、ちょっとだけ塗料の臭いが充満している……ちらりとメンテナンスエリアを軽く見てもお客さんは居らず、メンテナンスの対応はすぐしてくれそうでちょっと胸を撫で下ろす。
一応店長たちにも軽く仙道を紹介すると、小さく会釈をしたものの会話はせず、すぐに商品棚の物色のために傍から離れた。愛想がないのは知っていたけど、思ってた以上……案外ただの人見知り?まあいっか、とりあえず用件はこっちだから。
「今日は修理のお願いにきたんです、見てもらえますか?」
「もちろん歓迎するよ、このトレーに置いてみて」
差し出された金属のトレーに汚れ傷ついたパンドラを乗せる、店長はボロボロになったパンドラを持ち上げ、破損箇所の確認を始める。丁寧に確認する店長を横目に沙希さんが呆れながら質問を投げかけた。
「相当やんちゃしたのね、今日はなにと戦ったのよ」
「えっとぉ……」
ちらりと仙道の方を目で追う、沙希さんはすぐに察したようで。納得したように手をポンと鳴らし子供のようなキラキラとした笑顔で聞いてきた。
「あらアミちゃん、その年で彼氏とデートしてたの?LBXで?あらあら〜最近の子は手が早いわねぇ」
「ぜんっぜん違います!ただお互いゲーセンで、その……流れ……そう!流れで!私達そんな仲良くないし!」
「フフフ、そういうことにしてあげる」
なにを勘違いしたのか、目を輝かしてとても楽しそうに口元を緩ませ、うっとりと私を見ている沙希さんを店長が宥める。
「そうだな……傷は多いが修復するのには特に問題ないとは思うけど……うん。メンテナンスも一緒にするから2時間くらい待っていてくれ、綺麗に直してあげるよ」
「本当ですか!?よかった」
LBXは大切な相棒だ。ちゃんとメンテナンスは忘れないとはいえ、やはりバトルを繰り返せば傷が増えるのも事実。私は傷の修復があまり得意じゃないから、キタジマにお願いすることも少なくない。傷のケアも自分でできるのが理想だけど、店長は腕がいいし綺麗だからいつもお願いしている。
「じゃあどこかで休んできなよ、それまでウチのが仕上げちゃうからさ」
沙希さんにそう言って貰い、有り難くそうすることにした。なにか期待の眼差しを向けられている気がするが気のせいだろう、きっとそう。
「わかりました、宜しくお願いします……仙道お待たせ。どっかでお昼にしようよ」
裾を引っ張り声をかけると、仙道は手に持っていた箱を戻して支度をし始めた。
「若いねぇ、可愛いねぇ」
「あまり若者をからかい過ぎるなよ」
デレデレとする沙希さんに一喝し、店長はパテとヤスリを取り出してパンドラの修復に手をつけ始めた。そんなふたりの会話に背を向けて、私たちは店を出た。
近くのファストフード店に入って注文を済ませて商品を受け取り、向かい合わせで席に座る。お客さんの数はまばら、知り合いの気配はなさそう……とりあえず安心。またからかわれたらちょっと嫌だものね。
「あの模型店はよく行くのか?」
アイスコーヒーを口に運び、視線を逸らしながら仙道が聞いてきた。でもどこか不機嫌そうにも見える。
そういえばキタジマ模型店から出てから口数が少ない、なにか気に障ることでもしたのかしら?それとも体調が良くないの?いずれにせよ口数は減っているのは事実だけど……思い当たることはない。
「うん、バン達とよく行くわよ……なに、不満そうね。気に入らなかったの?」
「……そうじゃない」
何気ない会話に対してもどこ吹く風、かと思えばCCMを取り出してボタンを押し始めた。ハンバーガーを食べながら見守りつつ、お目当てのものが出てきたようで手が止まり、私にとある写真を見せてきた。よく見てみると、キタジマ模型店のショーケースの一角を撮ったものだった。
「いつ撮ったのよ」
「お前が話し込んでいる最中にな。それで、何かに気が付かないのか?」
ショーケースには馴染みあるパーツからちょっと珍しいパーツまで、精密機械となる物が飾られている。これといっておかしな箇所はないように見えた……いや待って、最新モデル入荷しましたのエリアに置いてあるあれって――。
「仙道がこの前買ってたモーターじゃない、しかもあの時より結構安……あ」
仙道が言いたかったことを察して、思わず口を閉じて続きを飲み込んだけど一足遅かった。
不満そうな顔から哀愁漂う顔になり、全身でショックを表現するかのように肩を落とした。まるで叱られて落ち込む子供のようだな……なんて思ってしまって、吹き出しそうになるのを必死に堪える。
「この辺りは郷田の奴と、チンケな取り巻きに遭遇する確率が高いから……模型店にはなるべく近寄らないようにしていてな。金額の差に落胆するのはよくあることだが、買ったばかりの時に遭遇するのはさすがに凹むな……」
肩を落としため息を漏らすほど、仙道が予想以上のショックを受けていることはわかった。わかるんだけど、今までとのギャップが……。
「もっと前から行けばよかった、まさかこんな近くに……いくら掛かったと思ってるんだよ、二個も買えたぞ」
「ふっ……元気……だ、出してよ……っふふ。きっと……良いことあるから……その内」
言葉と共に空気が抜けて笑いが漏れてしまう、隠そうとしても隠しきれない笑いに当たり前だけど仙道は気がついた。
「なに笑ってんだ」
顔を手で覆い小さく震えるこちらを、低く唸るような声で脅してきた。昔はちょっと怖かったけど今日はそうでもない、ただの強がりなのが分かっているからもう怖くなくなっちゃった。
「ごめん……仙道ってオタレッドの時もそうだったけど。結構根に持つタイプよね……んふふ」
「根に持つタイプで悪かったねぇ、こっちは真剣なんだけどな」
ぶっきらぼうに吐き捨てて、トレーに残ったポテトを一気に口に運んだ。一見不機嫌になったようにみえるが、どこか諦めがついたようにも見えた。
「ごめんごめん。ほら、この長いポテトあげるから元気出して」
「いらん!」
怒らせてしまったようでそっぽを向いてしまった。やりすぎたかなぁ……なんて思えてこっそり仙道のトレーにそっと長いポテトを置いてあげる。
「……なんだ、ジロジロ見るな」
「えーいいじゃない、なにか不満なの?」
「ふん……好きにしろ」
短い時間だけど話してみてわかったことがある、『箱の中の魔術師』と異名を持つ仙道ダイキ。中二病で嫌味ったらしくて捻くれている。遠くから見ていた時は腕は確かかもだけど、近寄りがたい雰囲気があったのは事実だ。
だけど今は違う。いつも通りに皮肉をいい、人に合わせることをしない嫌な奴の筈なのに……なぜだろう、自然と言葉が出て不意に顔が緩んで、声を弾ませて笑って。こんな奴と一緒にいて「楽しい」と感じてしまう。でも、この関係が終わってしまう気がして口に出すことはしない、この心にしまっておくことにした。
そんな私の葛藤に気が付かず、急に機嫌を直しコアスケルトンの関節部に使うグリスの話を始めた仙道。なるべく悟られないように、私は突如開かれた演説会に耳を傾けた。
その後、ふたりで2時間くらいと言われた時間を潰した。ファストフード店を出た後は本屋に寄って本を探したり雑貨店に寄って商品を見たりと商店街のふらっと寄れる場所に足を伸ばし、途中で何気ない会話を挟みながら穏やかに過ごした。
キタジマ模型店に予定通りの時間に戻り、雑誌を読む店長に声をかける。沙希さんは見当たらないので行方を聞いたら、どうやら別の場所で作業中のようだった。
「アミ!戻ってきたか、タイミングがいいね……さっきちょうど終わったんだよ」
店長はすぐさまパンドラを取り出し渡してくれた。綺麗に傷が消え光沢が戻った新品同様の姿で戻ってきた。
「凄い綺麗……いつもありがとうございます」
「こちらこそ毎度あり、沢山バトルするのはいいけど。無茶はしないでね、はいご請求はいつも通りね」
慣れた手つきで会計を済ませ、私の用事はこれで終わり。また棚を物色していた仙道に声をかける。
「これで今日のリベンジができるわね、勿論相手してくれるわね?」
やる気満々でCCMを取り出して見せる、冷めた目で見つつ手に持った商品を棚に戻してこちらに向き直り、ナイトメアを取り出した。
「……いいだろう、これで最後だからな」
「もちろんよ、手加減とかしないでよね」
店の中央に置かれた強化ダンボールを挟んで向かい合い、互いのLBXを設置する。気だるそうにCCMを持つ仙道とは反対に、頬を叩き気合十分に構える。パンドラもメンテナンスで綺麗になったし落ち着いている、勝つことはできなくとも攻撃は当てられる筈。一矢報いなきゃ。
「箱の中の魔術師の仙道ダイキくんとの対決か、こりゃ見ものだね。見学失礼するよ」
店長が見守る中、CCMがバトルの開始を告げる。開始の合図と同時にパンドラはナイトメアへ一気に距離を詰める、風を切る鋭い音と共に武器を構え懐に潜り込むため姿勢を低く構える。ナイトメアの頭部に向けてアッパーを繰り出す、ここまでの操作に無駄な動きが少ない。メンテナンスのお陰かいつも以上に動きがスムーズ、まずは一発!
「ほう……」
しかしナイトメアは首を後方に動かしその一撃を躱し、がら空きになったパンドラの胴体に強烈な蹴りを喰らわせた。
「嘘!今の反応できるの!?」
一瞬の出来事に驚きつつも体勢を立て直し、引き続き連撃を繰り出す。右、斜め、突き、斬り上げ……しなやかに繰り出される攻撃は滑らかで隙がない。だがナイトメアは余裕であると言わんばかりに最小限の動きで躱し続ける、まるで予知で見ているかのように正確に。
「くそ、こんの!避けるばっかじゃなく反撃くらいしなさいよ!」
四連敗した実績がまた苛立ちを加速させ、攻撃の速度すら上げる。端からみても明らかに冷静ではなく勝敗はついているのかもしれない。だがそれだけじゃ終われない、終わらせられない。
「絶対!ぜったいに一発当てないと終われないのよ!私は!」
「……一発……ねぇ」
気合を言葉として吐き出し、渾身の一撃とも言える一撃がナイトメアの首元に伸びる、触れるか触れないかの瀬戸際になった時。ナイトメアがついに杖を構えた。
「……つまらない」
冷え切った仙道の独白の下、空中を切る鈍い音が鳴る。弧を描いたそれはパンドラに直撃。衝撃で宙に浮いたかと思えば振り上げられた杖をパンドラの真上から振り下ろし、力いっぱい地面に叩きつける。
「パンドラ!」
「終わりだ」
仙道はまるで死の宣告をするかのように呟き、命令に答えるようにナイトメアはパンドラに片足を乗せ。首元にナイトメアズソウルをかける、刑を執行せんとばかりの圧を感じ。恐怖で手が止まってしまった。
「や、やめ……」
「ちょちょちょストップ!ストップ!そこまでやる必要はないんじゃないの!?」
店長が慌てたように制止に入る中。操作の指が思うように動かない、指先に鉛がくっついているように重く。次の行動を考えようともしない、仙道ダイキという人間の本気の戦いを目の当たりにし。情けなく縮こまることで精一杯だった。
「あーあ……お前もこんなもんだったか」
深い深いため息を吐き出す仙道は、CCMを数回押し。パンドラの首に手をかけ始めていたナイトメアを制止させ、回収する。
「おい」
怒気のこもった低い声にハッとし顔を上げる。一緒に出かけていた時見せていた年相応の穏やかな顔とは違う。本当に私の目の前にいるのは、仙道なの?とわけの分からない現実逃避をしたくなるほど。別人に見えてしまった。
眉間に皺を寄せ冷たく私を見下ろし、心から軽蔑した目を向けていた。それはアングラビシダスで数多のLBXの首をはね屈服させた「箱の中の魔術師」の顔だった。
「てめぇ一体何考えてんだ」
「え、えと……」
言葉に詰まる私に、仙道は畳み掛けるような棘のある言葉を次々と打ち込んできた。
「なにが一発当てないと終われないだ、攻撃さえ当ててしまえば勝ち負けなんかどうだっていいってことか?俺との勝負はその程度で満足したってのか?」
「ち、違……違う!」
怒鳴る様子は一切ない、それなのに突き放すような言葉。仙道が放った刃のような事実が心臓に深く刺さった。鼓膜を揺らす言葉が呼吸を乱れさせ、目の前が揺らいだ。否定以外の言葉を吐き出せなくなった私のそんな様子に、失望だと言いたげにまた大きなため息を零して入り口に向かって歩き出した。
「残念だよ、本当に」
横をすり抜ける時、聞こえるか聞こえないかくらいの囁きを残し店を出ていった。店には慌てふためく店長と情けない自分が残った。
恐怖の対象が去った後、体の底から沸々と怒りや後悔が溢れ出す。決して仙道に向けてじゃない、自分自身に向けて。
「こんなんじゃ……こんなんじゃいけない」
自身に言い聞かせるように震えながら拳に力が入る、仙道が怒るのももっともだ。私は攻撃さえ当たればいい……それを前面に出し、仙道に対して勝敗の有無を考えていなかった、なんとも自分勝手なことだろう。真剣に、しかも今日一日ずっと付き合ってくれたのに……仙道らしい誠実さを仇で返してしまった。本当、私はまだまだね。
「だ、大丈夫?」
蚊の鳴くような声を捻り出し、店長が肩に手を置く。ゆっくりと振り返り、私は今決心した言葉をそのまま店長に尋ねた。
「店長、仙道に勝つにはどうすればいいんでしょうか?」
「えぇ?そ……そうだな」
少し困った顔をし考えた店長は、戸惑いながら答えを聞かせてくれた。
「アルテミス出場経験のある彼に、俺なんかができるアドバイスは少ない……それでもいいなら付き合うよ」
「はい、お願いします」
心に芽生えた灯火はまだ小さい、しかし確実にこの瞬間に熱を帯びた。自分が強くなるため、生半可な気持ちを二度と抱かないため。今日この日、確実な一歩を踏み出す覚悟を決めた。