星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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魔術師を追うのは

 教室にチャイムの音が響き、先生が宿題について話し終えて教室を出ていった。今日の授業は全て終わった、まだ時間があるのにソワソワして時計を見ればまだ15時になったばかりだった。

 

 それぞれの生徒が友達の席に行ったり、LBXを手に教室を飛び出したり束縛されていた時間からの解放にはしゃいでいる。ふと、目線がとある席に向く。

 

 いつもならLBXを取り出して「今日、キタジマに行こう!」と張り切って、私やカズを引き連れていたバンの席に……やはり今日も駄目だった。

 

 本当は今すぐにでも声をかけてあげるべきなのかもだけど、やはり下手な刺激は本人が一番辛いことだってある。複雑な感情に一旦蓋をして、鞄の中に忍ばせたチケットがあるかどうかを確認した。

 

「ま、こっちもこっちで下手に刺激しそうだけど……」

 

 昨日那須家さんから貰った水族館のチケットを手に取る、とりあえず18時に行けば会えるって言ってたけど……あの仙道が素直にくるとは思えないわね。

 

 何を言われるか分かったもんじゃない、正直面倒くさい。だけど……会わなきゃいけない、この関係を終わらせたくないから。

 

「アミちゃーん!このあと暇ぁ?」

 

 もう荷物を纏め終えて、帰る支度がもうバッチリなリュウがお気楽そうに声をかけてきた。慌ててチケットを鞄の奥にしまい、何事もありませんよという風に咳払いして向き合った。

 

「アミちゃんがよかったら、エンジェルスター・マックスの新作モデルの話とか。究極(アルティメット)ブルドっていう伝説のブルドの話とかしようよ!」

 

「あー……うん、ごめんね。私今日用事が――」

 

「アミー!いるかー!」

 

 やんわりと断ろうとした直後、今度はカズが訪ねてきた。次から次へと……。

 

「なによー!居るわよー!もう、みんなしてなによ。よりによって今日に……」

 

「なにブツブツ言ってんだよ、機嫌悪そうだな」

 

「はぁ……なんでもない」

 

 不思議そうに見つめてくるリュウを横目に、心がソワソワしてしまう。いくらまだ余裕があるからってなるべく早く着いていたいのに、ここからどう切り抜けようかしら?

 

「まあいいや、なあアミ。結局仙道には会えたのかよ?」

 

「色々あったけど、駄目だったわ。未だ電話にすら出てくれないし……ほんと腹立つ」

 

「アミちゃんと仙道って人、連絡取り合うほど仲がいいんだ……う、羨ましい」

 

 人差し指同士を突き合って軽く前かがみになったリュウにはなにも言わず、とりあえずカズと話を続けた。

 

「で、今日はどこ行くんだよ。俺で良ければ付き合うぜ?」

 

 得意げにそう言って鼻を鳴らしたカズ、あんなに行きたがらなかったのに……調子いいこと言って。

 

「あら、どういう風の吹き回しかしら?あんなに色々言い訳してたあんたが、まさか手伝ってくれるなんて言い出すなんて……」

 

「そ、そりゃあ……あんな野蛮な野郎とふたりきりにさせるのもあれだよ。お前が、その……なにかあっても嫌だし」

 

 照れ隠ししながらも、尻すぼみに小さくなる声で心配事を吐き出した、要は一緒に行動したいとの申し出らしい。

 

 なんか……私が守られていないとなにもできないみたいな言い方に聞こえた。そんなこと思われてるのね、よりによってカズに……と考えが浮かんできて、ちょっとだけイラついて無意識に腕を組んでしまった。

 

「仙道のこと、悪魔かなんかだとでも思ってるの?」

 

「そりゃあ、郷田以上にヤバい危険人物だぜ?誰だって警戒するだろう」

 

 対して話したこともない癖に……ムカつく。

 

「というこった、しょうがないから俺が付き合って――」

 

「いらない!なによ、みんなして仙道のことを言いたい放題……仙道が何したっていうのよ!」

 

 昨日のこともあってか、仙道があまりにも悪く言われるのに我慢の限界がきてしまい、声を上げて否定してしまう。ハッと我に返ってふたりをみると、驚きと戸惑いを半分ずつ顔に出して固まっている。

 

「郷田のLBXをボロボロにして、アングラビシダスでほぼズルみたいな三機同時操作……あとアルテミスで仲間討ち……いっぱいあんだろ、なに言ってんだよ。お前も見てただろ?」

 

「そんなこともあったね、アミちゃん。やっぱ関わるの危ないんじゃない?」

 

 カズの正論とリュウの追い打ちにぐうの音も出ない、たしかにそうだった。最近妙に仲良くなった?からすっかり頭から抜けていた……そうだ、あいつ性格が最大級に終わってたんだ。

 

 昨日聞いたでしょう川村アミ!仙道のせいで風間や森野、そしてミソラ一中の皆さんがヒドイ目に遭ったって。

 

「……ちょっと肩を持ちすぎたわ、でも仙道はそれだけじゃない。話せば……いい奴よ、うん」

 

 歯切れの悪い言葉で、なんとか仙道の威厳を守ろうとしてはみたけど。思い出すのはあの悪いニヤつきで他者を見下し、タロットカードを使って色々な人に煽りまくっていた仙道が横切るのみ。

 

 なんであいつの良いところを言語化出来ないのよ!いっぱい話してきたじゃない、もっとこう……カズやリュウにも伝わる仙道の良さが絶対ある!LBX関連以外で。思い出すのよ!頑張って私!

 

「えっと……その……えと、あれよ……うーん」

 

 捻り出そうにも、やはり出てくるのはいつもの悪い顔。ああ、もっとよく見ておけばよかった。あいつの良いところ。

 

「ほら見たことか、やっぱ仙道に良いところなんてないんだよ」

 

 頭を抱え、煙が湧き立つ程に沸騰させてもなにも言葉にできない。そんな私に、呆れたカズが機械を停止させるように割って入ってきた。

 

「あいつ、アルテミスやアキハバラキングダム……それにこの前のネオアポロンだって酷かっただろ?ああいう素行の悪い嘘つき野郎なんか放っておいていいんじゃねーの?」

 

「……仙道が、嘘つき?」

 

 カズが放った言葉が一瞬で、沸き上がった頭を冷静にさせた。自分でも分かるほど、ただ一般論を語っているだけの筈のカズに向けて、沸々と怒りに似た感情が体の深い場所から溢れてきた。

 

 そんな私の様子に気にもとめず、カズは話し続けた。

 

「正直、俺は苦手なんだよね。大きな努力もしてない、きっと持って生まれた環境もすごく恵まれた奴でさ。苦労なんてしてないって余裕そうで羨ましいぜ」

 

 カズから溢れ出る偏見を否定したいけど、出てくる不満を止める言葉を私は見つけられない……そんな私に気にも留めず、カズは話を続けていた。

 

「いいよなぁ、自分に自信があって。だからって仲間を裏切ることは肯定できないけど……そんな奴だからさ、アミだっていつか仙道にヒドイ目に遭わされるかもしれないんだぜ?やめとけよ、ああいうのにちょっかい出すなんて。らしくないぜ?」

 

 カズの言葉が、心に重く突き刺さった。怒りなのか悔しさなのかすら判断できない感情で、唇を強く噛みつつ考えてしまう。

 

 らしくない……そうね、きっと少し前の私なら。仙道の態度にムカついて、鋭い言葉に被せるように更に鋭い言葉を投げつけて。傲慢気取ったあいつの振る舞いを「痛いやつだ」と遠くから笑っていただけかもしれない。

 

 でも今は違う、仙道のLBXはコアスケルトンやアーマーフレームを稼働ギリギリまで削って軽量化して、モーターやバッテリーの故障寸前まで使って絶対に諦めない。LBXでどんな負けがあろうとも折れないし、勝利に強かでいつも真剣だと言うこと。

 

 タイニーオービット社襲撃事件の時、前線で命がけで戦って。ペットボトルの蓋が開けられない位に弱ってしまう、あの姿をすぐ横で見て知った。

 

 自分が風邪を引くリスクがあってもジャケットを貸してくれて、文句を言いつつもずっとLBXバトルに付き合ってくれて。私なんかの隣を歩いてくれていた、あの仙道を……あの優しさを私だけが知ってしまったから。

 

「でも、あのアルテミスのジョーカーのカスタマイズ。おれは結構好きだぜ?かっちょいいしよ」

 

「まぁ……カスタマイズの腕前はすごいよなー。そこだけは尊敬したいな」

 

 リュウのフォローを聞いても、カズの考えはあまり変わらない。そのままふたりで話し始めてしまった。これ以上なにを言っても、きっとカズが仙道に抱く偏見は変わらない……なら、私がやるべきことはひとつ。

 

 無言のまま自分の机の中から、Dキューブとパンドラを取り出してひとり廊下まで出る。Dキューブを起動させ、投げれば無事に展開された。

 

「アミちゃん、どうしたの?」

 

 様子がおかしかったのに気がついたのか、慌てた様子でリュウとカズが廊下に飛び出してきた。ふたりに声を掛けることもなく、CCMを操作してパンドラをセットした。

 

「……ごめんね、私。仙道をなんで気にかけるか、うまく言葉にできない……だってあいつ、傲慢で中二病で面倒くさくて……良いところを思い出そうとしても無理だった」

 

「それなら、なんでDキューブなんか。別に俺達は――」

 

「だからね、仙道はカズが思ってるような酷い人じゃないよって、その証明をしたい。それができるのは……『LBX(これ)』しか思いつかなかった」

 

 振り返ってふたりを見る、リュウは口元を手で押さえ軽く震えていて。カズは目を見開いて少し後ずさっている。

 

 今、自分がどういう表情をしているか鏡があれば見てみたい……きっとふたりが驚くような、酷い顔しているんだろうな。

 

「さぁ、戦って。仙道のこと、教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 思っていたより、ずっと呆気なく決着はついた。

 

 いつか戦った時のカズとリュウが呆気なく、がむしゃらに仙道に勝ちたかったあの頃よりも。

 

「あわわ……アミちゃん、前戦った時よりも滅茶苦茶つえーよ」

 

「俺の射撃をあんな動きで避けるなんて、アミ……お前まるで――」

 

 CCMを操作してパンドラを回収し、青白い光を放ってブレイクオーバーして動かないブルド改とフェンリルを見つめた。

 

 ふたりだって決して弱いわけじゃない、だけど……今の私には負けるなんて可能性はなかった。

 

「まるで仙道みたい……そう思ったでしょ?色々教えてもらってるのよ、これでも」

 

 手の中に握られたパンドラを見つめ、仙道と共に戦った日々を振り返る。口には決して出さなくても、アドバイスらしいアドバイスはメンテナンスのことだけ……でも仙道はいつも見せてくれていた。

 

 ストライダーフレームが、圧倒的なパワーの前になにをすればいいか。ライフルのような遠距離の攻撃にどう対処すればいいのか……ずっと私の横で、時には正面から。圧倒的な実力をひけらかし、腹の立つ言い方をしていても。LBXにだけは正直であった仙道が見せてくれていた技を、ただ私なりに噛み砕いて自分の力にしただけ。

 

「あいつ、口は悪いけど。LBXには真面目なのよ……だからそこだけは信頼しているの。私は……そんな仙道だから知りたいってだけ」

 

 カズがフェンリルを取り出しながら、やはり納得していないように目線を落としている。次の言葉を探し、指先に力を込めているのが遠くからでも分かってしまう。

 

「へぇーそうなんだ。じゃあアミちゃんは仙道のこと、師匠みたいに思ってるんだね。すげぇなーどんどん強くなって!もうおれのブルドの追尾機能じゃ追いつけねーぜ!」

 

 ブルド改をしまいながら、純粋な評価をくれたリュウ。両手を上に伸ばし、バンザイをするかのように大げさなリアクションをして……正直、ふたりには否定されてしまうと思っていたけど。リュウがそう言ってくれて少し胸のつっかえが取れた気がした。今の私をバンも見ていたのなら、おんなじ風に喜んでくれたのかな。

 

「こんなん、アミの戦い方じゃねーよ」

 

 ボソリと吐き捨てるような言葉を零し、意を決したカズが私に説得の言葉を投げかけた。

 

「なあ、本当にあんな奴の所にいくのか?おかしいって。あいつの悪行の数々を知ってるだろ俺達……放っておけよ、どうせ勝手にまたついてくるんだから」

 

「なにムキになってんだよ、アミちゃんが強くなることが嫌なのかよ」

 

「嫌じゃねぇって!でも……アミが……なんか、俺の知らない場所へ行ってしまいそうで……」

 

 肩が段々と震えてきて、声が小さく途切れ始めた。感情を押し殺すようにゆっくりとひと言ずつ口にしている。

 

「それに、やっぱアミがなんと言おうと……俺やっぱ仙道を信用できない。あいつは……あいつは……」

 

「そう、仙道は信用できないわ。だけど、仲間なことには変わりないの。だから、誰かがあの馬鹿を引っ張ってあげなきゃいけないのよ」

 

 黙ってしまったカズの言葉に被せるように、自分の思いを吐き出した。カズはきっと、私が仙道に感化されて、酷いプレイヤーになってしまうんじゃないかって……バンとリュウとミカ、みんなが当たり前にいる日常にもう帰って来ないんじゃないかって不安があるんだろう。

 

 カズは臆病でヘタレだけど、人との関わりを本当に大事にしている。自分のLBXを破壊されるかもしれないのに郷田に立ち向かった時も、総理暗殺計画の時の活躍も……人を心から思いやれるカズだから立ち向かえた。なんだかんだ言いつつひとりで立ち上がり、再び戦いに身を置く力がある……私はカズのそういう所が好き。

 

 でも仙道はそうはいかない、あいつは格好つけて外側だけが立派だけど。なにかあればすぐに中身の脆い部分が溢れてくる弱い奴、誰にも支えてもらえずに。ひとりでずっとその傷を隠して余裕そうに振る舞っている。

 

 人を遠ざけて自分に嘘をついてまで、誰かから伸ばされた手を払い退けても、その傷と弱さを認めようとしない。

 

 もう誰も手を伸ばさないのなら……せめて私が、私だけでも伸ばしていたい。

 

 だって、独りきりの仙道は本当に辛そうなんだもの。本当は助けてって言いたいようにしか見えないの。

 

 箱を開けるのを用心しろ?そんなの端から覚悟はできている、今更言われたってなんともない!そのプライドと虚勢で塗り固めた頑丈な壁にドリルでもなんでも使ってこじ開けてやる!そしてちゃんと受け止めたい、その中身がなんであろうとも……だから絶対に行ってまた会いたい。

 

 もう私から溢れ続ける、この思いを止めたくはない。

 

「じゃあ、私行ってくる。仙道の手を引いてあげるんだ、それが私のできる唯一の恩返しだから!」

 

「待てよ、アミ――」

 

「今度!仙道も含めてみんなで遊びに行きましょうよ。大丈夫、きっとカズとも打ち解け合えるから!」

 

 鞄にパンドラとDキューブを詰め込んで肩にかけ、まだなにか言いたげなカズとキョトンとしているリュウに「いってきます」とだけ伝えて背を向けて歩き出した。

 

「無事、来ていればいいんだけどね……」

 

 小さな不安を漏らすも、すぐに振り切って歩く速さを上げる。時間には全然余裕がある、それでも前のめりな気持ちは踏ん張りがきかず急かすような気持ちにさせてくる。

 

 どうなるかはわからない、でも今日こそは会える気がして。校門を出てからは走って駅へと向かった。

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