『エターナルサイクラー取り戻しに行くつもりだろう……俺がこれまで集めた情報だ。使ってくれ』
たったそれだけのメッセージと添えられたゴライアスの侵入ルートが記された地図。それだけの内容だった。
レックスが俺たちと希望を繋いでくれた、この情報さえあればゴライアス攻略も、エターナルサイクラーの奪還も叶うかもしれない!
だが、俺たちの前に立ち塞がったのは意外な人物だった。
「仙道、どういうこった……なぜ俺たちの邪魔をする!」
郷田に襟首を掴まれ、顔の真ん前で凄まれているのに。涼しい顔を一切崩さず、面倒くさい……早くこいつをなんとかしろと目で俺たちに訴えている仙道。今にも破裂しそうなふたりの中に割り込めないアミとただ見ている俺がいる。
ことの始まりは仙道だ。すぐに行動しようとした俺達を止めに入ってきたんだ、でもあいつは言い方が悪い。だから郷田がキレて殴り合いの一歩手前にまで発展してしまった。
すぐカッとなる郷田も郷田だけど、今回は仙道の言い方が悪い。どっちかが譲歩すればいいのに、毎回ぶつかって喧嘩して……こんな時にまで勘弁してくれよ。
「おい能無し無鉄砲、よく聞け。こんな立派な情報があるのなら、一度シーカーに戻るべきだと言ったんだ……一刻を争うんだろう?なら尚更冷静に判断しやがれ。別に邪魔したいわけじゃない、引き返せと説得してやってんだ」
言葉の選び方が「面倒くさい」と言いたい気持ちだけは隠しつつ、仙道なりの言葉で説得に掛かっている。それは俺にも伝わってくる……色々思うことはあるけど。
今まで力で他者を従わせようとしていた仙道が、言葉で説得にかかっているんだ。正直驚いている……ちゃんとあいつなりに俺たちに寄り添っている証明なんだとよく分かる。
でもそれは、レックスを俺たち以上に尊敬し、心酔している郷田には逆効果だという問題点を除けば。興奮が醒めないまま、初めて出会った時の荒々しさを思い出す口調で仙道に反論した。
「元舎弟が分かった口ばかり利きやがって!イノベーターが1分1秒でもあれば動き出す連中だぞ、のこのこ戻って作戦会議なんてしてみろ……死人が出るかもしれない。俺はそれだけは御免なんだ!」
「だとしてもタイミングがおかしい、こんな都合よく情報が入ってくるか?……それに一番の疑念はあのレックスだ。あんな胡散臭い男の話を信じられるなんて、お前は本当にお気楽だな」
「なんだと……レックスがどれだけシーカーに貢献してたかも知らないで、新参者がしゃしゃり出てくるなんざ百年早いんだよ!お前は黙って俺たちに力貸せばいいんだ!」
互いに正論をぶつけ合い、ヒートアップが留まることを知らない。
正直、仙道の言い分も分からないわけじゃない。情報の共有はとても大事だ、これさえあれば大人たちの重い腰を上げることができる決定打になるかもしれない。その出所がレックスだとわかったのなら、拓也さんだって首を縦に振ってくれるだろうから……だけど、正直俺は郷田の意見に賛成だったりする。
さっき見た拓也さんの大人としての慎重さと臆病さがまだ記憶に新しい、そこにポンと情報を渡して「よし、行こう!」なんて未来が見えない。きっとまた何日も話し合って、いざ突入してみればもうエターナルサイクラーはどこにもない……そんな可能性だってある。
エンジェルスターの時も、海道邸にバンのお父さんを救出しに行った時も、十分な支度をしていようがしていまいが。全部うまくいくとは限らない……ならば情報が新しいうちに動きたいと俺は思う。
「……頭に血が上って話し合いにならないな。川村アミ、お前はどう思う?」
郷田に愛想を尽かし、沈黙を貫いていたアミに質問を投げていた。
アミは顔を上げ驚いたような、困ったような表情で仙道と目を合わせていた。少し……仙道がアミの名前を呼ぶ時、言い方が優しかった気がする。それに気が付いてしまい、ちょっとだけ眉を潜めてしまった。
「わ、私!?」
「青島カズヤの元に送られたレックスからのメッセージ、これに従って潜入するべきか。一度引き返して協力を仰ぐべきか……お前ならどうする?」
「え、えと……」
まさかアミに質問が飛んでくるなんて……アミは答えがすぐ出なくて困ってるし。郷田は拍子抜けしたのか、ちょっと落ち着きを取り戻していた。
「聡明なお前なら、正しい答えが聞けると思うんだが……お前はどうしたい?」
なんでメールを貰った俺じゃなく、アミに聞くんだよ……まあこの中で一番中立で、頭がいいアミに聞くのはわかるけど。なんか……いややっぱり、アミにだけ話しかける仙道の顔が……俺たちに声を掛ける顔と。明らかに違う。
「わ、私は……」
自分なりに答えを考えながら、口籠るアミに向けるその視線は。なんでだろう……俺はすごく怖いと思ってしまった。
睨みつけるようにとか、軽蔑するかのようにとかじゃない。とても穏やかで優しいような……そして、俺はそれを見たことがある。映画とか、漫画とか。俺の家ですらたまに見る。
まるで、愛する人を見つめる……大袈裟かもしれないけど、そのままのもののようだった。
だからその正体が分かってしまった気がして……仙道がアミに向ける感情が俺は理解してしまったように感じて。
無意識に、本当に無意識に。俺は考えうる最も酷いことを、ふたりに考えていた。
「確かに……仙道の意見もわかる。多分確実に安全で、本来私たちがやるべきことなんだと思う……」
どうしよう、アミの言葉が一切耳に入らない……ちゃんと会話を聞かないといけないのに。たった一言でさえ理解できなくなった。
「それでも……なにが正しいかよりも私は、私たちが立ち上がりたい!LBXを強化ダンボールの中へ戻す戦いは、私たちにしかできないだろうから」
アミの決意ある言葉に郷田は頷き、仙道から手を離した。仙道自身もなにも言わず目を閉じて肯定の意思を示しているようだった。
「よし!なら今すぐ行こうぜ」
「えぇ、絶対その方がいいわ……カズ、どうしたの?」
なにも考えてなかった俺の視界にアミの顔が迫り、驚きのあまり一歩仰け反って急いで顔を逸らした。アミのまつ毛の一本まではっきり見える近さに心臓が跳ね上がったが……あっぶない、別のこと考えてるのがバレる所だったぜ。
ゆっくり息を整え、とりあえず適当な返事を返しておく。アミと郷田は前を歩き、未だ見ぬゴライアスに向けて作戦を練っていた。対する俺は仙道の顔をまじまじと見ていたことが本人にバレ、睨まれてそっぽを向かれた。
「なんだよ、お前ばっか格好つけやがって……」
これからのことに関係のない筈なのに、俺の頭の中は仙道に対する嫉妬心と対抗心でいっぱいになっていた。
もうすぐ電車が来ると急かす郷田の声に誘われるように、俺も足を進めた。この密かに芽生えた仙道への……言い訳できないほど大きな嫉妬心のせいで。大きな地獄を見るとは思わずに。
俺たち四人は電車に乗り、ゴライアスに向かう隙間時間。アミと郷田は潜入ルートの確認を。仙道はそれを聞きながら意見を言って盛り上がっている中、少し遠くにいる感覚に見舞われつつアミの横顔を見つめていた。
あの、スラムで聞いたアミと思われる女子生徒の独白。仙道がアミに向ける眼差し……これで気が付かない程に俺も馬鹿じゃない。
きっと俺が知らない所で、俺が理解できないやりとりをして……俺が辿り着けない場所にアミを連れ去ってしまう。その逃げ場が塞がれた真実に、目を少しだけ逸らしてしまった。
アミ……俺とバンの前から居なくなるのかな、仙道に変な影響されて。アミがタロットとか厨二病発言し出すのかな……そしてなにより。アミが、仙道のような――。
「カズ……カズ!聞いてたの?」
ハッと我に返るようなアミの声に顔を上げ、つい考えに耽っていたことを後悔する。
そうだ、今からゴライアスに潜入するって大事な時に俺は自分のことばかり……アミが入れてくれた言葉で目が覚め、申し訳なさそうにもう一度聞く体制に入った。
「わ、悪い……ちょっと考え事してて。なんて言ったんだ?」
「んもーしっかりしてよね!……レックスから届いたルートで、万が一警備用LBXが出現した場合のチーム分けをするって話よ。とりあえずカズと私が先陣切って敵を倒して、後方は郷田と仙道でカバーする流れでどうかって話よ」
「えぇ……郷田と仙道一緒にして大丈夫かよ。揉めないのか?」
「……本人を前にして、随分と肝の据わったこと言いやがるんだな。青島カズヤ」
仙道の冷たい目線と言葉選びに、背筋にゾワゾワと嫌な感触が走った。思わず漏らした本音なのに、そんなガン飛ばさなくてもいいんじゃないか?……それに郷田より俺に対しての当たりが強い気がする。俺って郷田以上に嫌われてる?
「じゃあ青島カズヤ、お前ならどうする?……話し合いに参加せず、なにか考え込んでいたようだったからな。さぞ、いい案をお持ちなのだろうよ」
「あ……えと……その……」
仙道からしてみれば、今から命がけでエターナルサイクラーを取り返すのに。得体の知れない、話も聞いていない、しかも弱そうのフルコンボが揃っているであろう俺に対して、軽蔑に近い評価をしていてもおかしくないのかもしれない。
仙道に言われっぱなしだと、言われてもしょうがないとはいえ、俺でもちょっとムッとしてしまう。だから速攻で頭を回転させて、とりあえず意見を口にしてみることにした。
「……話くらい聞いてたらどうだ?」
「ま、待てって焦んなって……じゃあ!俺と仙道でやろうぜ!仙道の目にも留まらぬ速さと俺の射撃!前衛に置いたら結構……いやかなり!バランスがいいと思うんだけど!」
「連携もなにも、お前と共に戦うなんざ初めてなのに……なにかあれば――」
「だから、後方をパワーの郷田と周りをよく見るアミにして。なにかあれば意見貰えばいいと思う!……初めてなのは、そうなんだけど。想定されるリスクとか、避けやすい組み合わせだと……思う。うんバランスもきっといい!は、筈だからな……い、以上……です」
思いつきだとはいえ、ここまで口が回るものかと感心してしまう。でも自信の無さがどんどん滲んできて語尾が萎むように声が掠れてしまった。
目を丸くした郷田と意外そうなアミを横目に、俺の言葉になにかを考える仙道の答えを待った。
電車が揺れ、景色がある程度の所まで変わってしまう位の長い沈黙の先。ようやく仙道の口が開いた。
「いいんじゃないか、郷田なんかと組まされるより数倍マシだ……こいつに足を引っ張られる心配がないのならな」
「……珍しく意見が合ったな、俺もカズの案に賛成だ」
な、なんとか誤魔化せた……。仙道の事だからいちゃもん紛いな事を言われて詰られると思っていたのに、頭の中で反論の言葉なんか考えてなかったから危なかったぜ。
「そうと決まれば、カズの案で行きましょう……カズ、仙道。前衛は頼んだわよ」
アミの力強い励ましにアドリブとはいえ、上手くいった事実に心が救われた気がした。ほら見たことか仙道め!俺だってやるときはやれる男なんだぜ!
そんなやりとりを終えれば、目的の駅まで辿り着いた。電車を出て、まるでRPGのパーティのように移動していく。
いくら命がけで人類の運命を分かつとはいえ、やっぱこの冒険のような展開はワクワクする。在り来たりで寄せ集めだけど、これがゲームなら結構いいパーティかもしれない。
スピードと攻防のバランスのいいアミ、タンク兼一撃必殺の郷田、魔導士としての幻影で敵を翻弄する仙道、そして俺……俺は何だろう?スナイパーは……うーん、遊び人?盗賊?ちょっと特殊だけど使い方によれば面白いタイプだよな。現実逃避には変わりないかもだけど、ちょっとの息抜きにはちょうどいいよな。
このパーティで今から魔王城に向かって、伝説の武器……じゃない。エターナルサイクラーを取り戻すんだよな、きっと魔王や悪魔が俺たちに立ちはだかる筈だ、気をしっかり持たないと……。
「みて、あれがゴライアスよ」
先頭のアミが前方に見える景色を指さした。まるで本当に魔王城な見た目の、本当に工場かどうか疑いたくなる要塞だよな。
ピラミッド状の建物をよく見れば、隙間なくライトで照らされている。遠くから見ているだけでも警備の数が尋常ではないのが分かる。
ここが神谷重工で……いや、イノベーターにとっても最も大事な施設なんだという証明となっている。やはり拓也さんが調べた通り……ここにエターナルサイクラーがあるのだろう。
「レックスの情報だと、隠し通路があるんだったよな」
「そうだな、海道とツルんでる連中だからいざって時の備えなんだろう。もっかい見るか?」
レックスから送られた地図を開き、郷田に見せる。レックスが命がけで俺たちに繋いだバトン、それを無駄にしないために。
「レックスのくれた情報によれば……あっちに隠しスイッチがあって、それを押せって」
「なるほど……悪者であろうが、用意周到なんだな」
「悪者だからだろ?やましい事があれば、後ろめたさから逃走経路なんて考えになるんだろうな……こっちからしてみればありがたい事だけどな」
海道なんかに関心を向けた郷田に思うことはあれど、おんなじことを思ってしまった俺もいる。もしかしたら思考回路の根本は、俺と郷田は似ているのかもしれない……だから俺、仙道に嫌われたのか?
ちらりと仙道の顔色を横目で観察すれば、アミとなにやら話しているのが聞こえた。
「お……あの……は……」
「もって……だから……ない……」
よく聞き取れないが作戦会議でもしてんのか?
ふとCCMを取り出した仙道の、さっきまで気が付かなかった異変が目に留まった。
「メンダコ?なんでよりによって……ダッセェ」
厨二病チックな趣味の筈なのに、らしくないのっぺりとしたメンダコが似合っていない。そんな小洒落たイメージの仙道が……という意外さが笑いを誘って鼻が鳴った。
でもなんでだろう、違和感が拭えないのは……やはり仙道は謎ばかりだ。
「おーいアミ!仙道!いくぞー!」
ふたりに声を掛け、とりあえず指定された場所を目指して歩き始めた。