力不足が悔やまれます、
よしなに。
全ての運命が決まるまであと3時間ちょっと。
シーカー本部に集合した私達は準備を整え、いつなにが起きても良いように気持ちを整理していた。みんながどうかは分からない……でもこの押し寄せるような不安を鎮める為に、小さな現実逃避をしてしまう。
「大丈夫、きっとうまくいくから……帰ったらママのハンバーグが待っているもの。だから絶対に……」
静まらない胸の高鳴りを抑え込みながら、ゆっくりと息を吐いては吸ってを繰り返した。
これから先、なにが起きてもおかしくない戦場に飛び込むことを考えると……やはりどう頑張っても落ち着かない。
なにか考えようとしても、自分の身になにかある最悪の結末を考えてしまって気が滅入ってしまう。それを振り払おうとして独り悶々とするを、ずっとひとり繰り返している。
「ハンバーグ……そうね、ハンバーグの付け合わせでも考えましょう。目玉焼きとデミグラスソース、あとポテトサラダもつけて――」
「俺は大根おろしにポン酢が好きだ、そこにサラダはシーザーなら嬉しい」
「……ポンズサラダに大根おろし?って独り言に勝手に入ってこないで仙道!」
横でタロットカードをいじりつつ、いつものように構えている仙道につい声を上げてしまった。少しだけ楽になりかけていた気分を、現実ごと地面に叩き落とされた……今はそんな気分になってしまった。
私がまた絶望に落とされ胃の奥がキリキリと痛み始めているのなんか気にも留めず、仙道がお腹を空かせつつ妄想を口にしていた。
「うまそうだな、こんな中でも食いたくなる。こう……味噌汁はシンプルに豆腐とワカメにするか、敢えて麩とあおさにするか迷いどころだな」
「コーンスープ一択でしょ」
「ハンバーグには米と味噌汁だろ、まだまだおこちゃまだな」
これからのことになにも関係ないことで仙道といがみ合っていると、たまたま横で聞いていたバンが右手を大きく上げながら話に入ってきた。
「オレ、オレはチーズ乗せたい!ハンバーグの中に入れてもよし!かけてもよし!……やっぱチーズだよ」
「なんだよバン、チーズがなんだって?」
バンの声に退屈そうにしていたカズまでもやってきて、作戦を練っていた郷田とジンも不思議そうに合流した。結局いつものメンバーが全員揃ってしまった。
「ハンバーグの話だよ、みんなはハンバーグになに乗せるの?」
「おいおい、これからって時に気の抜けたことを考えるんだな……ちなみに俺はわさび醤油派」
「ど、独特だなぁ……」
バンの問いかけにカズとジンは悩み、郷田だけが呆れつつちゃっかり自分も答えている。ちょっとだけ不安をみんなで晴らすように、何気ない会話の輪を広げていった。
「独特なのか、ステーキもそうすんのに……じゃあカズはなにかけんだよ」
「普通に焼肉のたれだけど」
「普通じゃねーだろ、美味いのかよそれ。せっかくのハンバーグだぜ?もっとあんだろ他に」
なにをかけるかでカズと郷田のちょっと考えられないテイストに思うことはあれど、口を挟まず聞いていると。ジンだけが顔を暗くして下を向いたまま黙り続けている、それに気がついたバンが側に寄って行った。
「ねぇジン、ジンはハンバーグになにかけるの?」
「僕?……僕は……家ではそういうのはあまり出たことがなくてね、そういう経験は……いや、そうだな」
ジンがなにかを思い出したかのように、表情を緩ませて懐かしそうに語り出した。
「昔、トマト系のソースが掛かったハンバーグに近いものなら食べたことがある……」
「美味しかったの?」
「うん……そうだね、おじい様も喜んで召し上がっていたのが懐かしいよ」
思いにふけたジンから漏れ出た本音に気が付き、全員の顔が引き締まり。また空気が重くなった。
「……ねえジン、この戦いが終わったらさ。今度みんなでファミレスいこうよ」
「え?」
バンの思いつきな提案に、ジンだけでなく全員の視線が集まる。まさかのバンからそんな事を言い出すなんて驚いてしまった。
そんな気遣いに近い言葉がバンから出てくるなんて……いつもバトルだなんだと言って走り回っている純粋な少年そのものなバンなのに。
私以外もそう思っているのか、みんなそれぞれ複雑そうな顔をしている。それに気がついたバンは眉毛を八の字にして頬を掻きながら困ったように言葉の続きを口にする。
「いや……ジンがまだだって言うのなら、一緒に行こうよって意味だよ。ジンがこれから食べるハンバーグは、ちょっとでも美味しくなればいいし、いい思い出にしたい……それに、ちゃんとサターンを止めて……生きて帰ってこれる約束として」
ジンにだけ語りかけていたつもりだったのだろうけど、それが全員に広まるように優しく、そして重いバンの決意に力が入る。
カズが照れくさそうに鼻の頭を擦りつつバンの言葉に続いた。
「へへっ、そうだな。終わったらドリンクバーもあって美味いファミレスも、カラオケとかゲーセンにも行こうぜ!ジン」
「ゲーセンといえば、ミソラ商店街のはミソラ一中のナワバリだからな。そこの番長の許可が出なきゃ厳しいんじゃねーのか……で、許可してくれんのか?」
仙道の隣まで歩き、肩に腕を回しつつ挑発的な言葉を投げつける郷田。過度なスキンシップに眉間に皺を寄せて、面倒くさそうに「勝手にどうぞ」といって腕を払いそっぽを向いた。
今後の予定を楽しそうに四人で会話を続けているのを横目に、仙道はまた輪の外側に向かうよう距離を置き始めた。すかさずその腕に手を伸ばし、つい引き留めてしまった。
「なんだ、話に混ざらなくてもいいのか?」
またすぐに皮肉を口にする仙道だったけど、どこか不満そうに睨んで不貞腐れている。多分会話を乗っ取られたのが気に入らないんだろう、そういう所はやっぱ子供なのね。
「……仙道、耳貸して」
「取り外し機能は取り扱っておりま――」
「しゃがんで!」
眉の間に皺を寄せつつ、言った通りに膝を曲げて私よりも目線が下に来た。なるべく仙道にだけ聞こえるように声を潜めつつ耳元で囁いた。
「今度、作ってあげるね……ハンバーグ。大根おろしとポン酢もつけちゃう」
「……そうかよ」
「だから、無事に帰って来ようね。あんたと映画とかも観に行きたいし」
「そうだな……期待しておいてやる」
私が軽めの口約束をすると目を細め、鼻を鳴らし構われたことの嬉しさを隠そうともしなくなった仙道。タロットカードを取り出して、また更に上機嫌になって前を向いていた。
最近とても思う……仙道のコミュニケーション能力の低さと人間関係の薄さから、仲良くなった相手に心を許してしまえば、変な所で無防備になる。いつか詐欺や危ないセミナーに勧誘されないかすごく心配。もっと友達作って欲しい。
「待たせてすまない……これより、サターン発射阻止に向けての作戦の最終確認を行う」
拓也さんの呼びかけにより、空気が一気に引き締まった気がした。
全て終わった後の予定を立てて盛り上がっていたバン達も前を向き、仙道も姿勢を正して珍しく真面目に聞く姿勢に入っていた。私も背筋を伸ばし、ゆっくりと息を吸ってお腹に力を入れて決意を込めた言葉を呟いた。
「大丈夫、きっと上手くいく」
こうして私達シーカーが挑む、最後の戦いが始まった。
サターン発射まで残り30分を切った、警備が厳しいイノベーター研究所において。発射時間手前に従業員が避難する、その警備の薄さを逆手にとって指令室を目指す。そういった作戦だった。
メンバーは拓也さん、バン、カズ、私……そして内部事情に詳しい里奈さんとジンで向かうことになった。前線に立てないと悔しがっていた郷田と、どこか心配そうに私を見ていた仙道に見守られながらここまで来た。そういう流れだったんだけど……。
「本当にこんな所に、研究所なんかあるのかよ……」
カズのぼやきの通り、今私達の目の前には森の中に大きな存在感を放っている湖。その近くに既に使われなくなった鉱山用のトロッコっぽい乗り物が、役目を終えて線路から外されているだけだった。
拓也さんや、元々イノベーターにいた里奈さんの話だと。この辺りに入り口があるらしい、なにかのスイッチがあるのかしら?海道邸に忍び込んだ時の、グレーズヒルズの噴水みたいに。
「この湖全てが、ホログラムなのよ」
「立体映像で水面を作り、施設を隠している……だから、触っても濡れることはない」
ジンが前に出て、躊躇うこともなく湖の中へ歩き出した。大胆な行動にバンと共に止めようとするも、腰まで湖に浸かったジンが振り返り濡れていないことをアピールした。
「では俺達も続こう、時間がないぞ」
「はい!」
拓也さんに続き、私達も足をつけてみた。一瞬冷たさに身構えるも感覚はなく安心する。その先に進むにつれ顔の高さまで水が来るような気がして若干の抵抗を感じつつそのまま進んだ。
ホログラムの底に沈めばなだらかな坂が下に続き、その先にSF映画のセットのような膨大な設備が広がって。サターン発射に向けてのアナウンスが、誰もいない広い空間に寂しく木霊していた。
「ここが……イノベーターの研究所、広いわね」
「すごいな、まるでゲームの中だぜ」
「見入っている所悪いが、先を急ぐぞ」
スケールの大きさに圧倒される私達に注意を入れて先陣を切って拓也さんが歩き出す、はぐれないよう私達もその背中を追って歩き出した。
大きなビルのような建物が見える通路を進み、里奈さんがロックを解除して、私達が警備用LBXと戦いながら奥へ奥へと進んでいく。
そしてある場所まで進んだ私達は、目標にしていたものを見つける。
「これが……サターン」
「でかいな、今地下の三階だぜ?これがもし打ち上げられたのなら……」
ガラス張りの向こう側に、見上げても一番上すら目に入らない程に巨大なミサイル……サターンを見つけた。これがもし、予定通りタイラントプレイスと衝突すればひとたまりもないのが、ただの中学生である私にさえ分かってしまい、不意に全身に悪寒が走った。
「だから僕達で止めなければいけない、これ以上の悲劇を生み出さない為にも」
ジンの言葉に頷き、拓也さんの後を再び追った。
避難を急かされる研究員の人達の目を搔い潜りつつ、指令室のある地下60階まで降りることのできる……目標地点のエレベーターまで辿りついた。
「これで一気に降りられるわ……みんな、ここまでお疲れ様」
「だが気は抜くなよ、エレベーターが到着したらすぐ乗り込むぞ」
「つまり、ちょっと休憩ってことだな……はぁ、しんどいな」
カズが力の抜けたような溜息を漏らしたのを合図に、緊張が緩んで力が抜ける。
警戒を解いてしまうつもりはないけど、背負いきれないプレッシャーとタイムリミットのせいでなにをしていても胸に気持ちわるい感覚を覚え、恐怖心に追い詰められる気分になった。本当に生きた心地がしなかった……今後なにがあってもいいように息をつく時間があってもいいだろう。
ふと、ポケットにしまっていたものを取り出し見つめてしまう。ぺらりと薄いけど、今の環境でもっとも力をくれるそれを持ちつつ、つい話しかけてしまった。
「『
イノベーター研究所に向かう際に、「俺は同行できないから」と仙道に渡されたタロットカード。
声援の代わりに意味だけを伝えて、郷田と共にエクリプスに向かったその背中を思い出してしまう。行ってらっしゃいとか、頑張ってとか浅い励ましも送ることもなく、カードの意味だけ渡すなんて……ほんと馬鹿。
「無事でいてくらい言ってよ……もう、帰ったら文句言ってやる」
「なあ、アミ」
カズの声に反射的に咄嗟にタロットカードを隠してしまった。恥ずかしい写真を見ていたわけじゃないのに……カズに今のが見られて、独り言を聞かれたかもしれない。その疑いがあるだけで顔から火が出るほど赤くなり、恥ずかしさでわなわなと体中が震え始め嫌な汗が溢れ出した。
「な、なぁに?……あんたも不安なのね、私もよ……その、みんなでファミレス行くの楽しみね……うん」
なんとも白々しい言葉を言ってしまった、もっと他に言いようがあったでしょ私。これならまだなにも言わない方がよかったんじゃないの?
カズとの間になんとも言えない空気が漂い始めた、お願いエレベーター早くついて!タイムリミットも近いし、気まずさからの脱出も兼ねて。早く!
「アミ、それ……仙道のタロットカードだよな。それに今分かった、鞄に付けていたマンタのキーホルダー……仙道のCCMについてたメンダコのとお揃いなんだろ?」
「な、なな……なんのこと――」
「とぼけんなよ、別に……責めたいわけじゃないから。真実を知りたいだけだ」
カズと目を合わせられず、手汗でカードが滑り落ちそうになるのを必死に指で挟む。心臓が破裂しそうになるほど痛み出し、息が苦しくなる。
最終決戦前の緊張感とは違う、私に個人的に降りかかるプレッシャーにこの場から消えてしまいそうになる。重い沈黙の果てに、意を決したカズの口がようやく開いた。
「アミって仙道のこと、好きなんだろ?」
カズの言葉に、ついに私の中の、一番大事ななにかに繋がっていた糸がバチンと大きな音を立ててはち切れた。
それを合図に顔が沸騰して、心臓が胸を突き破って外に出てくるんじゃないかという位に痛みが増して、呼吸すらまともにできなくなって足元がふらついた。
違う!とかそんなんじゃない!と否定の言葉が喉を通るたびに掠れて声にならずに空中に溶ける、首を振ろうにも筋肉が硬くなって横に動かない。どうしよう……ずっとひたむきに抑えていたのに。一体どこでバレたの!?
「なんだよ、正解かよ……まあ勘づかないほど俺も鈍くねぇし。気づいてないのバンくらいだろうしな」
無言を肯定と捉えたカズはやっぱりそうかと首の後ろに手を回し、暗い顔のままため息を零した。
「そうなの!?……うぅ、恥ずかしい」
赤みがかった顔に両手を当てて冷やそうとしてみる、触れば沸騰したヤカンくらい熱くなっていて中々冷えそうにない。
ほんとやだ、これから大事な任務なのに……カズの一言で乱されるなんて。
「それでさ……あの、こんなこと聞いて悪いんだけど」
カズが後頭部を掻きつつ、頬を赤らめながら言いにくそうに次の言葉を話し始めた。
「どうして、仙道だったんだ?……あの、あんまり話せなかったけど。仙道は思ったより悪い奴じゃないってわかった」
「そ、そう……ならよかった」
ずっとカズは仙道は危険な奴だって言い続けてきたから、少しでも誤解が解けたようで嬉しくて。ちょっとだけ心臓の音が落ち着いた気がした。
「でも、奴の過去は変わらない。俺達に敵意を向けなくたって、誰かに向ける……それを側で見ることにもなるし、いつか同罪だって指をさされるかもしれない……アミは、仙道がまたそんな、他人を陥れるような真似をしても。大丈夫なのか?」
カズの言葉にはっとして、顔を見てしまった。真剣に私を心配し、あるかもしれない未来を見据えて私を引き戻そうとしている。それがエゴでも我儘でもない……カズが本気で私を心配して、傷つかないように手を差し伸べている。お前が傷つくことはないって、そう言っている。
「あんまり……考えないようにしていたけど、そうかもね」
「俺は……正直、仙道が苦手だ。口は悪いし、強さを鼻に掛けてすぐ威張るし、なにより思いやりがない奴だよ」
うん、毎度のことながら本当にカズの言う通り。ぐうの音も出ないほど仙道は酷い性格ね。
「アミが言った通り、仙道はLBXには正直だった……だから誤解を生みやすいとも思った。いつか、本当にあるかもしれないいつかで。アミが仙道のせいで傷つくのなら……俺は我慢ならないよ、友達として」
真剣に言葉を選びつつ、私の仙道への思いを尊重しながら、カズなりの言葉で問いただしてくれている。
「なあアミ……アミは、それでも仙道のことを気にかけるのか?側にいてやれるのか?」
顔を伏せ、これから大きな戦いだっていうのに。自分の気持ちに正直になったせいで泣きそうになって……それを隠す為に自分の腕を掴んで、服の上からつねっているのが分かった。
カズが、必死に自分を顧みずに伝えてくれた言葉にしっかりと応えるように。私も自然と口が開いた。
「うん……好きとかそういうのの前に、私達仲間だもん」
「え、それだけ?」
「うん!それだけ……まあ、また誰かに危害を加えようとしたら。また背中を引っ張って戻して、教えてあげればいい。あいつは知らないだけだから……仲間ってのがなにかをね」
私の曇りない答えにカズが顔をしかめ、まだなにか隠しているんじゃないかって疑いの目を向けている。
まあそうよね、端からみたら恋愛感情って思われて、くっつくとかどうこうって問題になると考えてしまう。
でもやっぱ、仙道の特別に……私がなれないことは変わらない。それが覆らないとしても私は……仙道の手を引いていたい。それは恋人や好きな人の枠じゃなくて、仲間として。
「なんだよ……なんで好きって認めたのに……素直になればいいのに」
「なってる!これでもね。いいの、私は仙道の特別にはなれないんだから」
会話を強制的に終わらせたベルの音が聞こえた、エレベーターが到着したようだった。
「行きましょうカズ、無事に帰るために」
「ああ……わかったよ」
全員が乗り込み、拓也さんが開閉ボタンを押して扉が閉まった。
静かな箱の中で覚悟を決める、必ず帰って……また仙道とLBXや色んなことをしたい。だから――。
「絶対に帰るからね、仙道」
いつも最新話まで並行して読んでくれているニキ達、いつもありがとう。
でもごめんさい、マイペースに進んでいきます、もっと良いものを書けるよう精進します。
うっすがんばりまーす。