星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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未明②

 ナイトメアの杖をパンドラが、パンドラのダガーをナイトメアが。武器をあべこべに持ちながら強敵フェアリーに向けて駆け出す。

 

 正直、ハンマー系の武器なんか使ったことないのに。こんな土壇場で使うことになるなんて……それにダガー系の武器と違って当たり前だけどすごく重たい、動くだけでも重心が全部武器に持ってかれそうになる。

 

 下手に振り回そうものならば、他のLBXより力のないストライダーフレームのほうが負けてしまう……重心を意識して戦わないといけないの。すごく面倒くさそう、ちゃんと戦えるかしら?

 

「さぁ、ショータイムだ!」

 

 なぜか急にイキイキとし始めた仙道が画面越しに見えた。面倒そうだったさっきの様子とは打って変わって、まるで好物でも見つけた子供のように、今まで見たどの瞬間よりも楽しそうにフェアリーに果敢に挑んでいた。

 

 パンドラと同じ武器なのに、同じようなヒットアンドアウェイな戦略なのに、その戦い方はまるで違った。

 

 フェアリーから拳が飛んでくれば、刃先で逸らして腹部に刃を突き刺しひざ蹴りで更に深く傷をつけ。姿勢が崩れた頭に拳骨を落とすように殴り地面に叩きつけた。

 

 トリッキーな攻撃を好む仙道っぽくないような、直感で拳を振るう姿に混乱しつつ、パンドラも負けじと杖を振るった。

 

 重さで上手く扱えない……下手に動けば体ごと持っていかれるリスクがある、それならば逆手に取って振るうまで!

 

 地面に叩きつけられて怯んだフェアリーに振り上げた杖を思い切り振り下ろす、力任せで打ち付けられた脚部はビスケットのように簡単に砕け散った。

 

 更にゴルフのクラブを振るうかのようにフェアリーに向かって思い切りフルスイングをした、体勢制御を失ったフェアリーはただ打ち上がるしかなかった。

 

 あまり気持ちの良くない鈍い音を響かせながら、空中に打ち出されたフェアリーに向かってナイトメアが思い切り跳ね上がった。人工知能の考えで理解する前に、ナイトメアの斬撃が漂うフェアリーを真っ二つにした。

 

「やった……通じた……」

 

 武器を取り替えた、たったこれだけのことでいとも簡単にフェアリーを倒した。ステルス攻撃はしてこなかったとはいえ、それでもこの攻略は通じた。ちょっとだけフェアリーへの対策の道が見えた気がしてつい頬が緩んでしまう。

 

 着地したナイトメアと、無惨な姿になったまま地面に打ち付けられたフェアリーを見ながら。画面に見えた仙道に笑いかけた。

 

「よし、これでオッケーね。じゃあ先を行きましょう」

 

「そうだな……待て、なにか来るぞ!」

 

 仙道の言葉に操作の手を止め、前方に再び警戒した。私のほうからはなにも見えない、でも微かに銃弾のような音が聞こえた。未だ重さに慣れないナイトメアソウルズを構え画面の隅々まで目を凝らした。

 

 すると前方に三機のフェアリーがステルスを解除して現れた……でも様子がおかしい。三機ともこちらに背中を向けたまま、私達と同じ方向を見てなにかを警戒していた。

 

 暗闇の中で確認しにくかったけど、それぞれのフェアリーの機体は腕や羽根が欠けてヒビ割れた体から電気が漏れ出していた。なにか強敵と戦って逃げてきた……さっきの仙道と同じように。

 

「……なにを見ているの?」

 

「さぁな、仲間割れならいいな」

 

 なるべく気配を殺して、動かないようにしていれば。前方から何か大きな影が現れた。

 

「なんだ……あれ?……LBX……なのか?」

 

 予想外の物が出てきた事に困惑している仙道が、つい疑問を言葉にしていた。今私達の前に姿を見せたその機体は、私達が大好きなLBXとは似ても似つかないものだった。

 

 人型の輪郭だけを残して、両腕にガトリング砲を備えた城砦のような出で立ち。ゆったりとした動きでこちらに歩み寄りながら、赤い目を動かして標的を探しているようだった。

 

 圧と蹂躙だけを目的にしたような、戦いの為だけに存在するようなデザイン。背中を駆け巡った悪寒のせいで、操作する手を動かすことが出来なかった。プレッシャーというにはあまりにも重いなにかが私達に降りかかってきた。

 

 こいつはなに?なんでこんな所にいるの?どうしておなじイノベーターのLBXのフェアリーと戦っているの?

 

 謎が謎を呼ぶような恐怖の空間から早く逃げ出したくて、仙道につい声を潜めて次の手の提案をしてしまった。相手には聞こえないのに……それでも怖くなって。

 

「仙道、どうする?ここは撤退したほうがいいと思うんだけど」

 

「だろうな、一先ず他の奴らと――」

 

 ブツンと大きな音を立てて仙道の声が途絶えた、先ほどまでパンドラを通して見えていた視界がシャットダウンされてしまい。緊急用の灯りがコントロールポッド内を照らし始めた。

 

「え、なに?なんで?パンドラ!」

 

 レバーをガチャガチャ動かしても、近くのパネルをいくら触ってもなにも反応しなかった。

 

 動かない事実に呼吸がどんどん荒くなり、現状が理解できないことで小さなパニックに包まれてしまった。なんとか動かないかとひとり、色々な操作をして、試行錯誤しているとコントロールポッドの蓋がゆっくりと開いていった。

 

 ポッド内に柔らかい光が差し込んでくる、それを人の手で更にこじ開けて隙間から顔を覗かせた人物がいた。かなり焦った様子の拓也さんだった。

 

「アミ、大丈夫か?」

 

 拓也さんを視界に入れた時、感情が溢れ混乱する頭でなんとか現状を伝えなきゃと口を動かし声を上げた。

 

「た、拓也さん……どうしよう、パンドラが!ナイトメアが!わ、私……どうしよう、あのLBXにやられちゃう……」

 

「大丈夫だ、パンドラも他のLBXも無事だ……それより、一旦深呼吸をするといい。落ち着くぞ」

 

 声のトーンを落としつつ、言い聞かせるような拓也さんの言葉を聞いて大きく深呼吸をしてみた。頭に血が昇って焦る気持ちがゆっくりと落ち着いてくる、それでも不安が無くなったわけではないけど。現状を知るために拓也さんの言葉を聞く姿勢を取った。

 

「あの、拓也さん……なにがあったんですか?」

 

「制御室はバンとジンが制圧した。だが檜山にしてやられた……高密度のプラズマ磁場が発生している状況だ。これではコントロールポッドが使えない」

 

「スパークブロード通信が遮断できるほどの……じゃあこれからどうしましょう」

 

「それに備えて、改めて作戦会議だ。一旦集まってくれ。立てるか?」

 

「大丈夫です、行きましょう」

 

 拓也さんに言われるがままに席を立ち、みんなが集まる輪の中へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 バンを始めまだ機体が残っている六人と、拓也さん含めた指令塔がエクリプスの制御室に集まった。シーカーの大人達を集めて今後の動きを再確認をこれからするようだった。

 

「サターンの乗組員に通信を試みたが、やはりこちらの話は聞いてもらえなかった……」

 

 俯きつつどこか悲しそうに現状を語り始めた八神さん、元仲間だからといって素直にこちらの話は聞いてくれなかった……その事実が痛いほど伝わってくる。一瞬だけ表情を曇らせて、感情を切り替えつつ次の話に切り替えた。

 

「諸君、これより直接艦内に潜入し制圧。その後サターンの進路を変更させる、イノベーターも抵抗することが予測されるだろう……」

 

 目線を拓也さんに向け、言葉にせずともなにかを確認するように頷き。今度は私達に顔を向け、叱りつけるような口調のまま指示を切り出した。

 

「よって……バンを含めたLBX降下部隊はこの場で待機を命じる」

 

 八神さんの指示にバンや他のみんなは多少はたじろいていたけど、不思議と驚かない自分がいた。

 

 大人として……責任者として、これ以上危ない場所に行かせたくない。なにが起きてもおかしくないから、私達を向かわせたくない。八神さん達大人がそう言いたいのがわかったから、それでも――。

 

「嫌です……世界の危機なのに、オレは……オレは黙って見ているなんてしたくはない!」

 

 真っ先に声を上げ、立ち上がったのはやはりバンだった。

 

「八神さん、オレも連れてってください!レックスを止めるんだ!」

 

「僕も行きます!これ以上、僕の家族を……おじい様の侮辱を続けるような真似はさせたくないから」

 

 バンに続いてジンも声を上げた、横にいたカズも鼻の下を指で擦りながらどこか嬉しそうに頷く。

 

「だよなぁ、この手でレックスをブン殴って。「俺が悪かった」と言わせて連れ戻さねーと気がすまねぇってもんですよ!」

 

 あんなに凹んでいた郷田でさえやる気を見せている。みんながそれぞれ共に行くという決意を示し、士気が上がっていくのがよく分かる。私だって同じ、まだ戦えるのなら立ち上がりたい。LBXを、私の友達を兵器になんかさせない為に。

 

 不意に気になってちらりと仙道をみると、当の本人は心ここにあらずな状態で考えに耽っていた。顔を伏せ、なにかを思い出そうとして目を閉じていた。

 

 話を聞いていないというより、別のことで頭がいっぱいなのだろうか……いつも通りに斜に構えているというよりも、不安がっているか疑問に考えを巡らせているかのどちらかだろう。

 

 それともさっきのLBXのことを考えているのかしら?試しにジャケットを軽く引っ張ると、驚いて目を丸くしたままこちらを見たので、声を潜めながら仙道に話しかけた。

 

「今の話、ちゃんと聞いてたの?」

 

「ああ……まあ」

 

 曖昧な回答、これから気を張らないといけないのに本人がそれどころじゃない様子。なにかをずっと考えているような……本当に大丈夫なの?

 

 私達の本気の覚悟に八神さんは唸り必死に答えを出そうとしていた、それが長い時間に思えて掌にじんわり汗を感じるほどだった。

 

「……正直に白状しよう」

 

 ようやく八神さんから放たれた声はひどく掠れていた、機械の電子音に今にもかき消されそうな弱々しい声で。それでも責任を背負う者として強く噛みしめるように語りだした。

 

「この先、なにがあるかは分からない。誰が命を落としたって不思議じゃない、それが戦いというものだからだ。だとしても……君達は夜明けを望むのか?」

 

 あまりにも重く、そして守るべき立場として本来隠している弱さを見せたとしても、私達自身の覚悟を尊重してくれている。

 

 八神さんのその優しさに反したような、突き放されるくらいの現実の厳しさや最悪の出来事を知ったとしても、止まる理由にはならなかった。

 

「はい……行きましょう、希望を掴むために」

 

 バンの返答に仙道を除いた全員が頷いていた。多分この流れを右から左に流していた仙道も、返事はしない癖にしっかりと俯くように頷いた。

 

「いいだろう、君達の活躍を期待している」

 

 私達の覚悟を拾い上げ、今後の作戦を羅列し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 サターンとの距離を一定に保ったエクリプスから、突撃用連絡通路『ハープーン』をというものを打ち込んで。作り上がった道なりを進んで遂にサターンに乗り込んだ。

 

「この階段の先に……」

 

 続く言葉を不安と共に飲み込んだ、まるで巨大な怪物の胃袋に続く長い長い階段。微かに湿っぽく、熱の籠もった風が舞い上がってくるのだから、更に生き物に思えてしょうがない。だからその一歩を踏み出すのには、少し躊躇してしまいそうになった。

 

「さっすが戦闘機、ハープーン?……っていうシステムも備えてるなんて。くぅー……カッケー」

 

「おいカズ!前見て歩け、転んじまうぞ」

 

「分かってるって郷田、でもやっぱ戦闘機は男のロマンだなぁ……エクリプスはビームとかも撃てんのかな?」

 

「弾道ミサイルのほうが現実的だろ。ハカイオーで知っているが、ビームってのはエネルギー結構持ってかれるんだよ……実用向きじゃねーよ」

 

 私の前でそんな雑談を挟むカズと郷田に、喉元から真面目にしなさいと言葉が出そうになってなんとか飲み込んで堪えた。カズだって郷田だってきっと怖いんだ、関係ないことでも喋ってないと正気を保てないのかも知れない……下手に叱って重い空気にするべきじゃない。少しだけでも肩の力を抜いた方が良いのかも。

 

 現実を帯び始めた死への恐怖を振り払うべく、ついポケットに入れたままのタロットカードに触れてしまう。

 

「大丈夫……必ずうまくいくから」

 

 階段に足を踏み入れ、手すりに掴まりながら先頭を進む八神さんや拓也さんに続いて降りていく。少し後ろの方でまだ思考の海に沈んでいる、そんな仙道の重たい足音を聞きながら一歩ずつ飲まれていく。

 

「ここだ……この先が、サターンの中になる。みんな、どうか武運を」

 

 八神さんが階段の先へ降り、私達に合図を送る。そのまま飛び出すようにバン、ジンが駆け出していった。

 

 後ろの方で銃声のような音が聞こえる……八神さん達がLBXで対抗しているのだろうか、火薬の破裂音が背中越しに聞こえ始めて、つい走る速度を上げてしまう。

 

「よし、ここからは作戦通り……俺達は管制室、バン達はそれぞれコックピットを目指す」

 

 走りながら私達に任務の確認をしつつ走り続ける拓也さん、いつもの落ち着いた声色とは程遠い。憤る気持ちが強い語気にでているのを感じた。

 

「直接操作してサターンの行き先を変更する、ですね」

 

「ああ!コックピットはお前達に任せた。LBXを回収したら直ちに向かうように」

 

「了解!」

 

 管制室を目指すため、拓也さん達と私達は別々の道に進んでいった。

 

 いつもの六人になってサターンの奥地へと進んでいく。迷路のような、生き物の体内のような道を迷わないように確実に道を選んで走っていく。

 

 CCMで行き先を確認して、イノベーターの戦闘員に見つからないよう隠れて、時には警備用LBXから隠れながら。第一目標にしていた分かれ道まで無事に辿り着くことが出来た。

 

「ここからは僕とバン君、カズヤ君と郷田君、アミさんと仙道君の三チームに分かれての行動になる」

 

「よっしゃ!誰が一番に辿り着けるか競争だぜ」

 

 ジンが冷静な態度のまま場の指揮を取っているのに、カズは緊張感のないような提案をする。こうでもしないと怖い……それはわかるけど悪ふざけが過ぎると思ってしまい、カズを無言で睨んだ。

 

「みんな、後で会おうね」

 

「バン、アミも気をつけてな……それから一応仙道もな」

 

 時間がない中でバンと郷田は簡単な言葉だけを残し、それぞれ道なりに進んで見えなくなってしまう。

 

 私達も行こう、と言おうとして仙道を見るけど……やはりここまで来ても上の空のまま。今まで見てきたどの仙道も、こういう時はしっかりしててよく周りを観察している。口は悪いし、核心を突く言葉を相手にすぐ刺してくるけど。

 

 でも今の仙道はまるで別人のよう、特別不安がっているわけではなさそう……だけど今のままじゃ急なことに対しての対応が遅れてしまうかもしれない、一応聞いておきたいな。不安なら支えてあげたいから。

 

「仙道、さっきから黙り込んで……心配な事があればちゃんと話して」

 

「いや、大したことじゃ――」

 

「大したことじゃないから、さっきから黙り込んでるんでしょ?……話して」

 

 滑らかに悪態をつく仙道の口が硬く動かない、なにかを躊躇うかのように目線が落ちて顔が青くなった。数秒だけ考えて、決心がついたように語り始めた。

 

「思い出したんだ……」

 

「なにを?」

 

「あのフェアリーを退けていたLBX、とある日の神谷重工の内覧会で現れたらしい機体。『トロイ』だと思う……制式な発表もない、データもない、どういう機体かもわからない……一種の都市伝説だと思っていたが、あまりにも内容が一致する」

 

 頭の片隅で雲のように散らばった記憶の欠片が輪郭を持った、それを言葉にして実感出来たのが嬉しくなってきたのだろう。

 

 あんなに暗く不安そうな表情をしていた仙道の顔が、ゆっくりと血の気が戻って口角が上がって白い歯を覗かせ、いつも通りにニヤついた仙道の顔をしていた。

 

「あんなのとやりあえるなんて……ククク、退屈しないで済みそうだ」

 

「……あ、あーそうなの。そんな……都市伝説が……へぇ」

 

 さっきのコントロールポッドの気まずさを引き摺って、ずっとそれを考えていたわけじゃなく。未知との遭遇にうつつを抜かしていた……多分脳内シミュレーションとか、戦略を練っていただけだった。良かったというべきか、呆れたと言うべきか。

 

「ま、それが叶うかどうかは別だがな……あのタイミングでの通信遮断だ。まずはLBXが無事であるかどうかだな」

 

「確かにそうね……私達も早く向かいましょう」

 

 ようやく気持ちが整理できた仙道と共に、私達のLBXが待つ場所へ向かう。

 

 私が先を歩いていたつもりだったのに、今は仙道が「行くぞ」と声を掛けて前に出て駆け出していた。なんとか置いていかれないように走りだすけど……本当に、本当になんとなく。ふたりの間に歪みが生まれた気がした。

 

 ひたすらに前を向くその背中を、私にはずっと遠くにあるように思えてしまう。決戦に向けて駆け出した仙道に声を掛けることもなく、私の中にまだこびりつくなにかを抱えながら走り出した。

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