空中に漂う悪魔の腹の中、レックスと山野バンが戦っているであろうその裏で……俺が、俺なんかのぽっと出のプレイヤーの運命を分かつ最後の戦いが始まっていた。
力強く踏み込んで駆け出したナイトメアが最初の一発を狙いダガーを構えた。正直慣れたいつもの武器じゃない、だからといってどうということはないが……なんだか調子がでないのも事実だ。
軽く右へ左へステップを踏むように、トロイの照準をかく乱させながら距離を詰めていく。ルシファーに慣れ切ったせいで、重量系の機体操作の若干のもたつきを感じ取れた。あいつはまだトロイを完全に使いこなしていない……ならば先手必勝。
「チンタラ動いてんじゃねーよ!お坊ちゃん!」
重いガトリング砲を構える動きが一瞬もたついた、その隙を狙ってがら空きになった腹に思い切り踏み込んで一気に距離を詰めて握りしめたホープエッジで思い切り斬りつけた。
確かな手ごたえはあったが傷は浅く、脇腹に小さな傷が出来ただけだった。
すかさずその腕をナイトメアに振りかざそうとしたが、ナイトメアは霧のように姿を眩ませなんとか距離を取れた。
「あと数回繰り返せば、ダメージが入るな」
「美しくない稚拙な攻撃だね……その程度で僕に挑もうとは、本当に哀れだね。仙道ダイキ君」
CCMを操作してトロイの銃口を遠くのナイトメアに向けさせ、ガトリングを回し始め確実に避けるために大きく迂回するように走り出す。
弾丸の軌道を見る限りこの距離ならナイトメアのスピードで走り続けていれば当たらない……タイミングを見極めて仕掛け続ければ時間は稼げる。つい目で郷田を確認してしまった、その視線の先を理解したのか神谷コウスケの顔が一瞬上がった。
「……甘いね、君が考えていることなんかお見通しだよ」
不敵に微笑んだ神谷コウスケがCCMを操作してナイトメアから照準を逸らし別の場所を撃った、なにも無策に攻撃したんじゃないのはわかる……だが狙いはなんだ?なぜ上を狙った?
トロイの意識がズレたことには変わりはない、だからさっきと同様にまた踏み出そうと構えて一瞬止まった。それと同時に上層部から大きな爆発音が響き、土煙と共に無数の瓦礫が降ってきた。
それに気を取られていた隙に前方からブースターを全開にして、大きな要塞のようなトロイが一気にナイトメアに距離を詰めてくる。
「さぁ、君はどう切り抜ける。仙道ダイキ!」
頭上の瓦礫と前方のトロイ……しっかりと対応できるのは片方だけだ、俺が後ろに引いて瓦礫にトロイを当てることも正直可能なのかも知れない。だが――。
その後方に息を潜めて神谷コウスケににじり寄っている郷田が見えた、このまま引けば生身の郷田にトロイの攻撃が当たる可能性がある……守る手段のない郷田はあの戦車のような攻撃を防げない。最悪、あいつは……。
それを狙って俺を逃がさないようにしてるってわけか。俺も言えた立場じゃないが性格が悪いな、俺以上に歪んでやがる。
「畜生、この肝っ玉の白い悪魔め……」
つい零した悪態に、神谷コウスケは更に嬉しそうに二ヤケ面を披露し。まるでこの場を支配する魔王のように踏ん反りかえりながら続きを言いやがった。
「フフフ……その間抜け面の次の候補は何かな?」
完全に勝った気でいやがる……さてどうする。どう仕掛ける、このままじゃチェックメイト……なんて言葉に似合わない程、重いバッドエンドになってしまう。
ナイトメアの装甲ではどっちの攻撃を同時に凌いでも無傷では済まされない、また手厳しい戦いが続くことになる。このままじゃ……。
死んでもいい、その言葉に嘘はない。でもそれは俺だけがそうあるべきだ!帰る場所のある郷田や、俺より才能があって優れている神谷コウスケがそうなるべきじゃない。
どうする、このままナイトメアがやられてしまえば全て終わってしまう……嫌だ、それだけは。
「必殺ファンクション!」
不安の中に響きわたった、もう聞けないと思っていたあの声が聞こえた。
真っ赤な影と共に現れたそれが杖を構え、赤く目を光らせて回転しながらエネルギーを溜めて一気にトロイに向かって撃ち放った。
一瞬怯んで動きが止まった隙に瓦礫を避けつつ撤退する、何とか無傷に近い状態で危機を打破できた。それに安堵しつつ、後ろから聞き慣れた靴の音がする。だがCCMから目を離さないままに尋ねてしまった。
「……なんで来やがった、足手まといだから置いて来たのに」
「その割に、追い詰められてたんじゃないの?仙道」
俺の隣に腰を据え、CCMを構えた川村アミがいた。最後に見た不機嫌な態度よりも更に虫の居所が悪そうなほど苛立っている。黙ってエクリプスに帰っていればよかったものを……。
「ねえカズ……私達、もう終わりなんだね」
避難を誘導するサイレンやサターンの廊下に灯った非常用のライトの下、もう役目を終えてエクリプスに戻る最中の事だった。
カズの後を追いつつぽつりと零れた本音、自分でも見てみぬふりをしていた後悔……そんな心境を遂に言葉にしてしまった。
カズが足を止めたみたいだったけど、視線が下に落ちているせいで表情は見えなかった。呆れているのかな?世界の危機になんでそんな事を考えるのかって……。
分かってる、そんな暇はないって。でも私にとっては世界の危機以上に大事だから。
「アミ……ああそうだな、ようやく終われる。帰ったらみんなでファミレス行く約束が守れそうでよかったぜ」
カラっとした態度で答えてくれる、いつも通りのカズのまま……カズが気をつかって答えてくれたのに、そんな優しさ貰ってもと考えてしまった自分がいた。
明らかにこちらの聞き方が悪い、なのにカズの気遣いが見当違いで更に気が滅入りそうになる。
言葉にするにはあまりにも歪で、濁っているこの気持ちの答えを知りたい。その思いが言葉にできずにむず痒さが募る一方だ……諦めはついている、その気持ちはきっと嘘じゃない。じゃあなんでこんなに悔しいの?なんで苦しいの?
ひとりでずっと考え込んでしまう、私はなにを間違えたっていうの?そんな不安さえ滲み出ないように必死に堪えてぎこちないままに答えて歩き出そうとした。
「そうね、帰りましょう……」
もう私に出来ることはない、だから邪魔にならないように帰ろう。歩き出そうとした時、ポケットから一枚のタロットカードが落ちてしまった……慌てて拾い上げようと屈む。その時、ふと蓋をしていたものからひとつ疑問が出てきた。
「……本当に仙道に嫌われているのなら、そんな相手に自分が大事にしてるものなんか託すものかしら?」
客観的に考えればすぐに思いつく疑問、なんで今まで気が付かなかったんだろうか……それに、仙道自身も色々知ってほしくてたくさんのことを教えてくれていた。そんな、今まで過ごしてきた結果があったのに、たった一回置いて行かれたくらいで勝手に結論づけて悲劇のヒロインを気取って……私は。
消えたはずの何かに今、体の中で火が付き。色々なものを巻き込んで燃え上がっていくのを感じる。
落ちたカードを拾い上げ、私が歩き出すのを待つカズにどうしても答えを聞きたくて、声を掛けてしまった。
「ねぇカズ」
「んー?」
もうかなり前に見たあの偽りの夢の答えが、現実ではなかったと確認するように、あの質問を目の前のカズに聞いてみた。
「……その約束の中に、仙道もいるのよね」
私の質問は突拍子がなかったとは思う、だから不思議そうにしながらも考えていたカズは、吹き出したように息を吐き出してしまっていた。そしてちょっとだけからかいつつも、いつものからかいをするように答えてくれた。
「あったり前だろ、仙道も仲間だよ……だからアミがずっと手を引いてたいんだろ?」
いつも通りの能天気だけど、曇りのない答えが嬉しくて、悪い憑き物が全部落ちたように頬が緩んでしまう。
だからこそ、本来私がすべきことが見えてきた。顔を上げ前を向いた時、何もかもを察したようにカズが呆れつつも嬉しそうに背中を押してくれた。
「……うまい言い訳は思いつかないから、ちゃんと謝罪の言葉考えておけよ」
「ありがとう……いってくる」
カズに背中を向け、来た道を全速力で駆け出した。こんな危険な場所で、後回しにも出来たはずなのに……浮いた気持ちは沈むことがなく足を動かし鼓動を早めていく。
顔を見たらまた酷い言葉を言ってしまうのかもしれない、声を聞いたらまた腹を立ててしまうのかもしれない……でもそれ以上に――。
「まだ手を引いていたい、この気持ちにはもう嘘がつけない……」
それだけで仙道の元へ駆けつける理由になってしまう、ああどうしよう……顔を合わせたらなんて言ってやろう。置いていったことへの文句も言わなきゃ、よそよそしかったこともいじってやらなきゃ。
戦場という異質な場所で、それ以上の異質な足取りで駆けていった。
CCMを構えた川村アミを横目で確認しながら、滅茶苦茶になった頭の中を整理する暇も与えず戦いに集中する……だが出来ない。
なんで来やがった……お前はこんな前線で戦うべき人間じゃない。これ以上巻き込むべきじゃない……だから無理やりにでも引き剥がしたってのに、なんで……なんでまだ俺の隣に立ってるんだよ。
俺がどんな思いをしてまで、お前のことだけを考えて考えて……なにを間違えた、どこで間違えた。
「お仲間がひとり増えてよかったね、でも……それで僕に勝てるかな?」
神谷コウスケの煽り文句が、皮肉にも思考の海から引きずり出してくれた、気をしっかり保ち直し目の前のトロイを観察する。
最初に入れた腹部の傷以外は大きな外傷はない、武器腕の大きな特徴でもあるガトリング砲は弾切れのリスクも少ない。しかし神谷コウスケ自身の不調やルシファーの不在……それも重なって前回の方が圧倒的に強かった、だからゴライアスで戦った時よりも勝てる可能性はある。
横目で川村アミをつい癖で確認する、俺の視線に気が付いた彼女と目が合ってしまい気まずさからすぐに顔を背けてしまった……作戦会議とかもしなければいけないのに、俺もまだまだ青く未熟だ。
「今度はこちらからいくよ……さぁ!君臨せよ、トロイ!」
重量機から出力される最大級のブースターを出力させて一気に距離を詰めてきた。
「トロイに正面から挑むな、二手に分かれるぞ!」
「わかった!」
振り上げたガトリング砲を左右にそれぞれ分かれ攻撃を躱す、ワンテンポ遅れて地面に片腕が打ち付けられた。
トロイを中心に大きくひび割れを作った、地形が変形を起こすほどの威力に隣から小さな悲鳴が聞こえた。体をビクつかせ、衝動的に身構えたのに気にしないふりを続けた。
「彼女に用はない……僕の相手は君だ!仙道ダイキ君」
「だからって、よそ見はご法度よ!」
トロイがナイトメアを目視していた隙をついて、ナイトメアソウルズで背中を狙ったパンドラの薙ぎ払いが背中に直撃する。攻撃を喰らって軽くよろめいたトロイの右腕目掛けて今度は振り上げた杖で潰しに掛かった。
「この……ネズミ風情が――」
「足元を掬われたな、よりによって川村アミに」
死角から忍び寄ったナイトメアが先ほど傷をつけた箇所目掛けて武器で更に傷をつけた、トロイが動くよりも素早く顔面に蹴りを入れ、パンドラを引っ掴みつつ大きく後ろに下がった。
「な、なんなんだお前ら。さっきまで……僕のほうが――」
「なんだったかな神谷コウスケ……仲間が増えたくらいで、だったな」
遮蔽物から顔を覗かせ今の神谷コウスケの面を見てやる。目を見開き顔を歪め、今起きている事実に信じられないと言いたげに困惑して軽いパニック状態に陥っていやがる。
なんてことだ、あんな孤高に登りつめたと思い至っている野郎が崩れ落ちる様を眺めていると、どうも面白おかしく壊してしまいたくなる……だからタロットカードを取り出しつつ、わざと大声で聞かせてやった。
「神谷コウスケ!ここにニーチェがいたのなら、お前の無様で滑稽な姿をこう仰るだろうな。『神は死んだ』と!」
取り出した『
隣で俺を睨む川村アミがなにか言いたそうにしていたので、悪戯を思いついた子供のように口元に人差し指を立て「静かに」のジェスチャーをしてやる。なんとか口を挟むことなく黙ってくれた……変に怒られなくてよかった。
「この……凡人共が……僕は、神に選ばれて……」
思わぬ援軍の登場で戦況が大きくひっくり返ったからか、混乱を隠そうともしなくなった神谷コウスケの魘された声が制御室に木霊する。そして遂に冷静な判断が出来なくなったトロイが、あいつの射程範囲に入ったのが見えた。
「信念は、真実にとって嘘よりも危険な敵とはよく言ったもんだな……郷田!」
「応っ!必殺ファンクション!」
壁に埋まって動けないハカイオー絶斗が、最後の力を振り絞って全てのエネルギーをトロイに向かって放った。
電気を漏らしながらも狙いを定められ、強大な機体目掛けて一直線に飛んだ『
「やったぜ!仙道、俺やってやったぜ!」
神谷コウスケのすぐ近くで息を潜めていたのに、馬鹿でかい声を上げて注目を一気に集めやがった。郷田の詰めの甘さに俺と川村アミは軽く頭を抱えてしまった……せっかくここまでヘイトを稼いでやったのに、あの脳筋野郎。
「まだだ……まだトロイは負けていない!」
乱暴にボタンを押す音が響きトロイが照準をハカイオー絶斗に向け、既に戦えないはずの機体に攻撃を仕掛けた。追い打ちとしては残酷な数の弾幕を浴びせていく、ハカイオー絶斗が耐えられるわけも無く哀れにもスクラップになっていった。
「は、ハカイ――」
「目障りな男だ、君は僕に直接殺されるのがご所望のようだね。仙道ダイキ!」
銃口から煙が止む暇もないまま、前方のナイトメアに怒りの矛先を向ける。
頭部が大きく大破していて、いつ動かなくなってもおかしくはないとは思うんだがな……神谷コウスケもトロイも限界はとうの昔に過ぎている。執念とは思っていた以上に厄介な代物なのかもしれない。
「ねえ……仙道」
俺の袖を指先でひっぱる川村アミ、俺の注意を向かせ耳を貸せと手招きしてきた。この先の戦いに不安を隠せなくなったか?それともなにかいい案でも閃いたか?
軽く眉をひそませつつ、しょうがないから頭を下げてやると小さく心地がいい声で話を切り出した。
「あのね、成功するか分からないんだけど……」
川村アミが考えていた作戦を伝えてくる、何回も聞いてきたはずの声が今、俺の耳に直接流れ込んでくる。
俺はあんな罪を犯したのに……こんなにもいつも通りに川村アミは接してくれるもんなんだろうか。
共に戦いに身を置く今だけの出来事だとしても、こうしていられることが幸せだと実感してしまう。話半分なのを勘づかれて頬を抓られそうになったが、その指をガードしつつ作戦を聞き終えた。
「……難易度が高いな」
「でも出来ないわけじゃない、私達ならね」
「失敗しても、俺を責めるなよ……あと成功報酬でなんか奢れよ、牛カツかメンチのカツサンドがいいな」
「わかった、嫌だって泣き叫んでもお腹いっぱい食べさせてあげる……だから」
隣で、ずっと隣で見てきたいつも通りの無邪気な笑顔で、俺の心を滅茶苦茶にかき乱してくる。ずっとを願ってしまわずにはいられない川村アミという存在が、不可能に近い勝機へ導いてくれる気がする……だからお前もここに来てしまった。そうだろ?
「必ず帰ろう!仙道」
「その言葉、忘れるなよ?アミ」
改めて握り直したCCMに力が入る、潰えたはずの未来が欠片程度でも存在するのが嬉しくて。だらしなく緩んだ口元かららしくない言葉が漏れた。
「大丈夫、きっと……うまくいくべきだ」
制御室の外側から見える星空が赤く色づきつつある、星が姿を晦まし太陽から逃げるように光が弱まっていく。既に日の出が近い……『オペレーション・デイブレイク』の終わりも迫っている。
ルシファーに引き続きトロイが弾幕をばら撒いたせいでただでさえボロボロな制御室が見るも無惨になっている、今にも崩れそうな部屋の中心に佇む男が俺達を見下ろしている。
足元に壊れかけた兵器が赤い目を点滅させながら、最後までその役目を果たそうと踏ん張っている。
CCM越しに奴らの様子を改めて目に入れておく、半分近く装甲を失ってまで立つトロイも、操作している神谷コウスケも立っているのがやっとのようだ。
さっきまで大声を出していた郷田もハカイオー絶斗の完全な再起不能を目撃したからなのか、やらかしたショックでしょげながらも息を潜めるよう隠れている……暫くなにもしないままでいて欲しいもんだ。
「仙道……準備はいい?」
いつもより少しだけ掠れた声で川村アミが話しかけてきた。時間もチャンスも俺達には残されていない……必ずこの一回で成功させなければ、明日は訪れない。
覚悟を決める為に、ポケットからいつも通り取り出したそれを胸に当てる。絵柄は敢えて見ないようにした、未来を確定させないようにしたかったから。
それが何の意味もないことなんて理解している、これから起こる未来への覚悟も決まりやしない。だけど……ほんの少しだけ呼吸が楽になっていく、その隙に大きく息を吸って目を開いた。
「ああ、いくぞ」
CCMのボタンに親指を強く叩きつけ、ナイトメアとパンドラが力強く踏み出す。ひび割れた足場を避けながら、トロイに向けて距離を縮めていく。
神谷コウスケは歯を軋ませつつも何とか立っている、だが頭を押さえていたハンカチから溢れ出てきた血液が頬を伝い始めた、それでも食い下がるようにCCMに指を置いてガトリング砲を回し続ける。
腹の底を揺らす地鳴らしのような爆音を響かせて弾幕を放つ、底の尽きない弾丸は破裂音と共に閃光が生まれ続ける。
コンマ数秒に満たない隙間に機体をねじ込むように操作していく。上半身を捻るように、今まで培ってきた直観だけを頼りに理解するよりも先に、辿り着く場所を見極めダメージを最小限に抑えていく。
「この……凡人がちょこまかと」
目視で確認が遅れ、俺達にすら照準を合わせられなくなっている。神谷コウスケの操作がもたついているのもあるだろうが、それ以上に俺の操作が異常なまでに研ぎ澄まされているからだろう。特殊能力だとかそんな特別な力ではない、ただ極度の緊張感と異常なプレッシャーだけで指が動く……不思議だ、向こうがなにをやろうが負ける気がしない。
だから、もう怖くない。
「今だ……やれ、アミ!」
「了解っ!お願い、パンドラ!」
トロイの死角手前に配置したパンドラが大きく振りかぶったナイトメアソウルズを、トロイの頭部目掛けて投げ飛ばす。空中を切り裂くように回転しながら一直線に向かっていく……でも大打撃を与える勢いじゃない。気が付いたトロイが目を向け、杖を片腕ではじき返した。
だろうな、俺もお前の立場ならそっちを対処してしまう……だってそうだろ?ナイトメアを確実に仕留めたいもんなぁ!邪魔な外野には退場願いたいもんだからな。
「あんなに情けなく縮こまっていた女が……美しくない戦いばかり!」
「こっちを見たわね、やっぱ予想通り」
トロイは城壁のようにデカい、だからこそ死角が出来れば反応しにくいのでは……川村アミの考察は大きく当たった。
ハカイオー絶斗の『
人の何倍も血の滲む努力を重ね、誰よりもLBXに向き合っているエゴが思考の底にあるから。考えるよりも先に動いてしまう、だから――。
「だから殺し甲斐があるんだよ!神谷コウスケ!」
霧のように消え、陰のように這い出たナイトメアがトロイの足元に忍び寄った。油断していたその腹部目掛けて力の限りホープエッジの刃を入れていく。ずっと小さくつけていた傷を、分厚い装甲にできてしまった誤差程度のもの目掛けて。
ホープエッジが肉に食い込む包丁のように深く沈んでいく。漏れ出した電流を確認すれば結果は上々、もう片方のホープエッジもおまけに左腕の関節部の隙間を狙って刃を忍ばせる。
小さな破裂音と共に、血管のように繋がっていた導線が千切れつつ左腕ごとトロイから分離することに成功した。これでご自慢のガトリングはもう右腕しか残っていない、しかもさっきのパンドラの一撃でまともに撃てるかどうか……まさに万事休すといった所か。
「そんな、トロイが……神谷重工の……傑作が」
まるで仕込まれていたように綺麗にトロイが解体される様を眺めることしかできない神谷コウスケに、決着をつけるべくトロイを踏み台にして空高く飛び上がった。
その先で空中に再度投げ出されていたナイトメアソウルズを受け取る、トロイがナイトメアに意識がずれた一瞬を狙って、パンドラが回収しこちらに投げていた。
一瞬でも、どれかがタイミングがズレてしまえば起こり得なかった。まるで魔術のような、奇跡の連続。だが、ここまで出来たのは奇跡でも偶然でもなんでもない……俺の横にいるのが、馬鹿な俺を引っ張り上げ続けた川村アミだったから出来たんだ。
「さぁ、本当のフィナーレといこうか!神谷コウスケ!」
空中で態勢を整えつつ、遥か頭上に構えた杖を力の限り振り上げて、トロイの脳天目掛けて思い切り振り下ろした。剥き出しになった頭部に会心の一撃が面白いくらいにめり込んでいく。
「負けない……僕は……必ず!」
往生際が悪く、トドメに差し掛かっているナイトメアのガラ空きになった胴体にガトリング砲を構えて引き金を引いてしまった。
その瞬間、一瞬にしてトロイとナイトメアを中心に大きな爆発が起こった。
トロイが自爆したのか、ナイトメアの一撃でなにかに火がついたのか……現状が理解出来ないなりに俺が取った行動は、隣の川村アミに被害が及ばないように覆いかぶさり、守ることだった。
他人の事で頭がいっぱいになるなんて……俺も丸くなったもんだ。
だからこそ珍しく神に祈ったね、俺はどうにでもしてくれ。だが彼女は無事に返してやってくれ……って。鼓膜が破れるような激しい爆発音の中、ささやかな願いが叶うように息を潜めた。
風圧でどこかに飛んでいったタロットカードが、やけにゆっくりと視界を横切った。裏返っていたはずのそれが、白い閃光と爆風の中でその姿を見せた。
「『
不敵に微笑むジョーカーと目が合ったのを最後に、意識が途切れた。