星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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星と魔術師②

 仙道と久々に会ったのに、バトルして、泣いて、抱きついて……私はなにをしているんだろう。客観的に考えれば、かなり恥ずかしいことをしているのかもしれない。

 

 縺れるように展開が転がって、結果ふたりして落ち着かないまま河川敷に腰掛けて仙道に買ってもらったカフェオレを飲んで落ち着いている。

 

 ブラックで飲むより優しい甘さとクリーミーさで飲みやすい、紅茶のほうが好きなのは変わらないけど……これ美味しい。

 

「落ち着いたか?」

 

 缶コーヒーを開けた仙道が声を潜めるように隣でそう言った、躊躇いも見せずにあの苦い中身を流し込んでいく。さっきから何本も飲んでる、お腹壊さないのかしら。

 

「ありがとう、もう平気。カフェオレって美味しいのね……嫌いじゃないわ」

 

「ならよかった、今度ブラックでうまい缶コーヒー教えてやろう」

 

「気持ちだけで、大丈夫」

 

「……ガキンチョ」

 

 甘く幸せなのに、それでいて大したことのない会話と共にカフェオレを飲み干す。

 

 空になった缶を置いて、仙道から先ほど渡されたタブレットを手に取る。画面を開けば先ほど見せられた画像が出てきたので、何度かスライドして眺めていた。

 

 ネオアポロンの時に見せてくれた時から、絵を描けるのは知っていたけど……こんなプロみたいなちゃんとしたのも描けるのね。何でもひとりで出来ていいな、やっぱいつかパンドラとクノイチをいっぱい描いてほしいな。

 

「ねぇ、あんたがさっき「神谷コウスケの手伝いで描かされた」って言ってたデザイン……全部いいわね。特にこの赤いの、あんたこれお気に入りでしょ?」

 

「ん?……ああ、まぁ……そうだな。あいつにも言われたよ、そんな分かりやすいか?」

 

 私の質問に、頭を搔きながら照れくさそうにポツリと呟いて目線を逸らした。明らかに描き込みの量が違うもの、誰だってピンとくるわよ。

 

 サーカスの団長をイメージしたスタイリッシュなフレーム、脚部は華奢でジャケットのような胸部パーツは細かい装飾が多い……なんていうのかな?タキシード?のような女性っぽいドレス?のような……わからない。でもお洒落なデザインだ。

 

 シルクハットのような、それでいて王冠のような頭部で仮面をつけている。サーカスの団長と王様を足しているようなデザイン、でもLBXらしくジャケットの腰の部分にブースターがリボンっぽくついていて。仮面の装飾に混じってセンサーもついている……ジョーカーMark2の正統進化って感じ。

 

「名前は、えと……」

 

「『ソロモン』。知恵の象徴……エルサレムに最初のヤハウェ神殿を建設し、72柱の悪魔を従えたと言われる王様さ。悪魔を操るからサーカスの団長をイメージした……変か?」

 

「うーん……量産が難しそうね、これ」

 

 率直に褒めればいいのに、思ったことがつい口から出てしまった。仙道が痛いところを突かれたようで、変な声を出し「分かってる」とかなんとか言い訳して逃げた。逃げ癖はいつになっても直らないわね、私もだけど。

 

「ねぇ、どうやって戦う想定でデザインしたの?やっぱジョーカーみたいに俊敏性を意識したの?分身できる?」

 

「急に質問攻めだな……えっと——」

 

「武器のデザインはないの?専用の必殺ファンクションは?ジョーカー系統だと考えるなら近距離で小回りができるのが良いわよね、じゃあ先手必勝のスタイルにしたけどこれじゃパワーが足りなそうね。ねーどうするのー?」 

 

 気になったことが気になっただけ出てくる。仙道が口を挟む時間も与えず言葉が止まらない、横で口ごもり答えが間に合わず目が泳いでいる。

 

 いい加減やりすぎだと思って一旦続きを飲み込んで静かになる、咳払いしてタブレットを私から取り上げて鞄にしまって顔をそらされてしまった。耳がちょっと赤くなっていたのが見えた。

 

「……もうちょっと練り直す、正直そこまで考えが回ってなかった」

 

「えーもうちょっと見せてよ」

 

「中途半端なんだよ、まだ見せるんじゃなかった」

 

 顔は合わせてくれなくて、ついには背中を向けられてしまった。変じゃないのに……すごいデザインばっかなのに。

 

「でも意外ね、あの神谷コウスケと仲良くなってるなんて」

 

「全くだ、いくら振り払っても嗅ぎ付けてきやがる。どっかの誰かさんといい勝負だな」

 

「それって私?……無理よ、正直諦めてたもん。あんたとまたこうやって話すこと」

 

 仙道とのやりとりを重ねていく内に溢れた本音に、また気が重くなって下を向いてしまう。

 

 仙道は自分が酷いことをした、そう言っていたけどこうやって会いに来てくれた。忙しかった合間を縫って……でも私は待ってばかりだった。

 

 言い訳を重ねて勝手に仙道がヘソを曲げてると決めつけて。でも私のほうが言い訳ばかりして、仙道から逃げていた……ちゃんと謝らなきゃ、逃げていたことに。

 

「仙道……」

 

「なんだよ、もうあれで最後だ。また今度新作見せてやるから――」

 

「違う!……あの……ずっと、連絡しなくてごめん。意地張ってばっかで、私……」

 

 続きが言えない、変な緊張でスカートを強く握って顔が赤くなる。あとはごめんって言うだけなのに、硬くなった顎が動かない。

 

 どうしよう気まずい、やっぱ全部仙道が悪いことにしたい!でも逃げないの私!ほらちゃんと言って!

 

「なにを言い出すのかと思えば……それなら俺だって同罪だ」

 

 特に照れる様子もなく、ポケットからタロットカードを一枚取り出して私に差し出してきた。それを受け取り絵柄を確認すれば、仙道がいつも私に託してくれた『(スター)』のカードだった。

 

「星は、空の上にずっとあるが。時間帯によっては見え隠れするもんだ……一時的に見えなくなるが、永遠に消えることはない」

 

「急にポエム?ダッサ」

 

「例え話だ!……お前はずっとそうだった。俺がいくら姿を晦まそうとも、小さな手がかりを辿って必ず現れてくれた。それが嬉しかった……だから俺はここに居る」

 

 もう一枚カードを取り出し、絵柄を確認してまたすぐ戻して目を合わせてきた。夕日が沈みかけ、人々の足音が遠くに聞こえる。

 

 代わりに星の小さな灯火が見え始めた……それがほんの一瞬の出来事なのに、強く記憶に刻まれたような気がして。時が止まったんじゃないかってくらい、一瞬の出来事には思えなかった。

 

「手を引いてくれてありがとう、導いてくれたのがお前だったから。俺はまた、お前に会うことができた」

 

 着飾った言葉を捨て、魔術師という偽りの仮面を脱ぎ去った。普通の少年のような……ただひとりの男の子が照れくさそうにそう言っていた。

 

 それがとても嬉しくて、恥ずかしくて……だからどうしても言わなきゃいけないことが私からもある。

 

 不思議とこの言葉は、今ならすんなりでてくる……きっととか、もしかしてもあるかもしれない。だとしても、伝えたかった。

 

 ゆっくりと息を吸って、顔から火が出そうになるのを抑えつつ。なるべく笑顔を貼り付けて言ってやった。

 

「……おかえり、仙道」

 

 

 

 

 

 私が家に、仙道が駅に向かう道すがら、外はもうすっかり暗くなってしまった。

 

 街灯が灯り風が冷たく感じる道を、仙道から借りたジャケットを着て横並びになって歩いている。あの時頑張って直したジャケットだ、ちゃんと使ってくれていたその事実に気がついて浮足立った気持ちで歩く。不思議と足取りが軽いし、鼻づまりな声で歌ってしまいたくなりそうだ。

 

「ご機嫌だな、川村アミ」

 

 とかいつも通り棘のある口調で差してくるものの、仙道もどこか肩の荷が下りたように見える。

 

「まーね……ねぇ、ずっと思ってたんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

 足を止めくるりと振り返り、だらしなくニヤつく口元を隠しもせずに仙道にお願いの体で言ってみることにした。

 

「アミって呼んでよ、フルネームじゃ……嫌だし」

 

 急な発言に体が強張って、なんで今それなんだと言いたげに顔の皺が寄った。全身から嫌そうなオーラが出ているがお構いなしに両手を顔の前で合わせ小首を傾げてみた、前は効かなかったけど……今ならこのあざとさが通るのかもしれない。

 

「また今度な」

 

 ちらりと仙道を見ると大層面倒くさそうに目を細め、ため息を零し食い気味に答えた。こちらに顔を見られないよう先へ行こうとするその腕を掴み、逃がすまいと力を込める。振り返って私の顔を見た仙道は、昔は鬼みたいだったのに、今はリンゴのように真っ赤だった。

 

「もう!そんな意地悪しないで!ねぇお願い、お願いお願いおねがーい!」

 

「いつぞやみたいな駄々こねやがって……たまに、たまになら――」

 

「ずっと!ずぅっと呼んで!仙道、好き!大好き!ちょー好き!」

 

「クソッ!恥じらいをどこに捨てて来やがった!分かった、呼んでやるよ!だから離せアミ!」

 

 帰り道でなにやってんだろう……頭は冷静なのに、今は外に出る心と内側があべこべになってしまったみたいだ。勢いで好き好きーって……そんな子供みたいにはしゃいで、後で絶対思い出したくない記憶だ。

 

「よろしい、ちゃーんと呼んでね。ダイキ」

 

「俺はいい……仙道がいい」

 

 掴んでいた腕を抜け出し、私からちょっとだけ前に出てしまった。ちらりと見えた横顔は、かなり赤くなっていて白い肌だから余計目立っていた。

 

「子供ねー」

 

 からかってあげてもそっぽを向いたまま、でも小さく反撃の声が聞こえた気がしたけどなんて言っているか分からなかった。

 

「なぁ……かわ……アミ」

 

 まだ向こうを見つめたまま足を止め名前を呼ばれたので釣られて歩くのをやめた、不思議がっているとゆっくりと赤面しつつ少し下を向いて振り返った。なにか言いたげにしつつもモゴモゴと口を開こうとしない、仕方がないから助け舟を出して上げた。

 

「なに、仙道」

 

「えと……その……なんでも――」

 

「なにもないわけ無いでしょ?ほら、話して」

 

 ポケットに手を入れようとするのを邪魔をするように握ってあげる。体温が低いのに、外は寒いのにその手はやけに熱を帯びていて、指先が霜焼けなのかなんなのか赤くなっていた。

 

 細く長い指を握り、体温を盗むように両手で包む……おっきいな、大きさ以外だと形が女性っぽい。爪もちゃんと切ってある、でも骨ばった感じとかちゃんと男の人なんだなってなる。

 

「そんないいか?俺の手なんかが」

 

「え?……うん、落ち着く」

 

 不満なのか嬉しさなのか、小さく仙道から綻びが溢れたような「そうか」が聞こえた。でも顔はいつもの余裕そうなすまし顔とは程遠い、逃げたくても逃げられない……そんな声が聞こえて来そうなただ顔を真っ赤にした少年の顔だった。

 

 今まで見たことがない、だから愛おしく思えてしまった。つい吹き出してしまったら思い切り睨まれてしまった……ちゃんといつものしかめっ面だ、やっぱ仙道はそうでなきゃ。

 

「ご、ごめん……まるで……恋人みたいだなって……そんなことないのにね……フフッ」

 

 弁明しつつあまりにも可笑しくて声を抑えつつ、でも手を離したくないからちょっと膝を折って声を殺した。

 

 あーいけない、せっかくいい雰囲気なのに……はしゃいじゃって、また怒らせたかな?とりあえず適当に誤魔化してしまおう。

 

「ごめ……やっぱ今の――」

 

「じゃあ、なればいいだろ」

 

「……え?」

 

 今、なんて言ったの?理解が追い付かなくて顔を上げれば。さっきまで目を逸らして顔を真っ赤にしていた癖に、真っすぐ私と目を合わせ、手を握り返してきた。

 

「あ……あんた、かの……彼女とか……その……」

 

「居ると思うか?俺なんかに……彼女にするとしたら、俺はお前が……アミがいい」

 

 仙道のくせに柔らかい声で、いつもはしない優しい顔で、ずっと夢見ていた続きを見せてくる……どうしよう。夢じゃないよね?

 

「ずっと考えてたんだ、仲間のままでいいかって……いくら考えても気持ちの整理がつかなかった。それと同時に、ずっと手を取っていたいという気持ちばかりが募った」

 

「そ、そう……私も……ずっと思ってた……仲間のままじゃ、嫌だって」

 

「ならよかった、俺の独りよがりではなさそうで」

 

 お腹の奥が熱い、心臓が破裂しそうなくらいうるさい、エクリプスのあの時よりも何倍何十倍も緊張する。

 

 握った手が汗ばんですり抜けそうになったのを、仙道の指が指の隙間に絡まってくる。冷たい指先と骨ばった感触、あの時の記憶が蘇って背筋がざわざわした。

 

「アミ……顔上げて」

 

 どうしても見続けることができなくて必死に手に集中していたのに、しかもさっきお願いした名前呼びもして……ほんと、仙道はズルい。

 

「ごめん……恥ずかしい」

 

「じゃあ聞くだけでいい、動くなよ」

 

 頭のてっぺんと耳の中間辺りに仙道の顔が近づいた、今日ほどイヤーマフラーをしてて良かったと思える日は訪れないだろう……仙道の声は毒だ。直接聞いてしまえば死んでしまうかもしれないから、だけどその声は囁くように小さかったのに、ちゃんと聞こえた。

 

「アミ、俺の彼女になってください」

 

 声も、手の感触も、目の前にいるのも全部仙道だってわかるのに。変に真面目ぶってカッコつけることもしないで……頭真っ白になるし、喉が乾燥して声がへばりついたように出てこないし、視線が定まらず握る力を若干強めてしまう。

 

 どうしよう、なんて答えよう、こんな時の気の利いた言葉なんか知らない!分からない……なにが正解なの?

 

「アミ、大丈夫か?」

 

 労るような声が聞こえる、まだ顔を見ることはできないけど。それでもここまで本音で話してくれた仙道とちゃんと向き合いたい、いつも逃げてばかりだったのに。だから私も本音を伝えたい、それだけはやらなきゃいけない。

 

「……わ、私……私ね……あのね……」

 

「ゆっくりでいい、話してくれ」

 

 目元が熱くなって、情けなく震える声を堪えようとして下唇を噛んでしまう。でも閉ざしてばかりじゃだめ……大きく息を吸って、少しずつでも形にできるよう続けていった。

 

「私……全然素直じゃないし、可愛げもない、理屈っぽくて意地張っちゃうし……LBXは、負けたくないし……正直面倒くさいと、思ってる」

 

「そうだな……よく分かっているな」

 

「そんなだけど……ちょっとずつ直していくね、仙道の手を引くのは……私だけだから。他の子に、絶対させたくはないから」

 

 これが返事になっているか分からない、はいもイエスも言っていない。ゆっくりと顔を上げれば、これ以上ないほど満足そうに赤面しながらニヤけている仙道がいた。その顔をみて、全てを理解して、私は続きを願ってしまった。

 

「……ずっと黙ってるつもりなの?まさかこれ以上言わせる気なの?」

 

「じゃあ、どうしてほしい?」

 

 この期に及んで悪戯っぽくからかってくる、もう……私だって消えたいくらい恥ずかしいのに。

 

「目、瞑ってもいい?」

 

「いいよ」

 

 目を閉じて視界が真っ暗になる、不意に離れた左手の熱が今度は頬に感じた。期待して気持ちが前のめりになったつもりはなかったのに、踵を少し地面から離してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとつ、分かったことがある……やっぱ仙道はまつ毛が長い。まつ毛オバケめ、私以外に誰にも教えないでね。

 

 




真ハッピーエンドおめでとう……
よくここまで辿り着いたね、でももうちょっとだけ続くよ。頑張れ
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