星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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薄明②

 カフェでの食事を済ませ、私達は映画館に向かうために足を運んでいく。

 

 シーカーの本拠地があった場所で、広いのは知っていたけどここまで来たことはなかったな……ゲームセンターに人の集まりができている。

 

 なんか対戦ゲームで盛り上がっているようだけど、私はその奥にあるとある機械が目に入った。昔に流行った写真を撮る機械らしい……『プリクラ』って名前だった筈。

 

 なんで写真を撮るのにゲームセンターなのかは分からないけど、ママがパパと恋人同士だった時は使ってたんだって、仙道はやりたがらなさそうだけどちょっと興味ある……お願いしてみようかな?

 

「ねえ、映画なに観るの?いい加減教えてよ」

 

 隣を歩く仙道に聞いてみると、ちょっと考えて正直に白状した。

 

「決めてない……一応なんでも使えるから好きなの選んでいいぞ」

 

「決めてないって、見たい映画とか無かったわけ?」

 

 私の言葉にちょっとだけしょげた仙道が、申し訳なさそうに続きを答えた。

 

「気を悪くするなよ……俺が見たかった映画は年齢制限が掛かっているんだ、15歳以上だって」

 

 CCMで開いたサイトはモンスターパニックもの。ゾンビがサメと戦う映画……安っぽい血の表現と表現がしにくいレベルのCG、美人な海外女優さんだけどちょっと演技が心配になるレベルのリアクションをしている。

 

 年齢制限とか以前に、観る前から面白くなさそうなのが伝わってくる。俗に言うZ級映画ってやつ?こんなの見たかったの?

 

「すごく残念だ、世間はZ級映画だと馬鹿にするがいい映画なんだ……低予算だからこそ見せれる技や技術が――」

 

 なんか色々解説してくれるけど、聞けば聞くほど面白いの?って感想しか出てこない。でもあの仙道がここまでベタ褒めするなんて……でもラブカとかみたいな深海魚好きだし、やっぱちょっと人とズレてる?

 

「……俺が好きなのは主人公が相棒の死体を使って、相棒の屁で海を越えるシーンで――」

 

「あの、これ……タイトルは?」

 

 止まらない映画愛を止めるため、とりあえず聞いてなかったタイトルを聞いてみれば興味を持ってくれたのがそんなに嬉しかったのか。仙道なのに目を輝かせながら、いつかの水族館での帰りにみた笑顔よりも嬉しそうな顔をして教えてくれた。

 

「『ゾンシャーク』シリーズだ、家にDVD全巻あるから今度見せてやろう……きっとハマるぞ!お前ならゾンシャークの良さが分かるかもな」

 

 最悪、Z級映画はしご旅がいつか訪れる危険が生まれちゃった。下手に話を広げるんじゃなかった。

 

「だが、興味を持ってもらった所悪いが……今日は別の映画だ。なにがいい?俺はなんでもいいから気にせず選べ」

 

 よかった!こいつより二個年下で!わけのわからない、しかも途中から観ることになったかもしれない、まともな感想が出てこないまま途中で寝ちゃうかも知れない。そんな地獄は回避できて……先延ばししただけだけど。

 

 気を取り直して電子時刻表やポスターを眺める。テレビでCMを見たことある映画も、有名な作品の実写版も結構やっている……選べって言われると迷っちゃうな、全部面白そうに見える。

 

「好きな俳優とか、好きな原作とかないのか?……やっぱゾンシャークが――」

 

「それは?」

 

 話をなんとか逸らそうと、目についたポスターをとりあえず指差してみた。反射的に仙道の視線が向いて語り始めようとしていた口が閉じた、話を合わせるためにまだちゃんと確認していなかった私も改めて目線を向けた。

 

 『ボロきれ魔法使いと星の少女』と題名と共に、布で出来た人形の二体が見つめ合っている。CGじゃなく本物の人形で映画を撮ったのかしら?ゾンジャーク観るよりも数百倍いい。

 

「マリオネット映画か……今どき珍しいな」

 

「えっと、ピアノ線や針金で人形を動かして、生きているように見せているのかしら?」

 

「そうだろうな。CGも技術も、LBXという小型機械も発展していての敢えてか……時間も丁度いいな。これでいいんだな」

 

 変な映画に当たるより、思い出作りにぴったりだと考えて思い切り頷いてしまう。嫌味に捉えられなきゃいいんだけど……。

 

 ちょっとだけ不満そうに「わかった」とだけ言って、チケットの券売機に行ってしまった。よかった、初デートが最悪の形にならなくて。

 

「戻ってくるまで、ポップコーンとか買っちゃおうかな?」

 

 こっちで食べ物とか買っておくよとメールを送って、私はひとりポップコーンを買うべく売店に並んだ。

 

 なにも知らない、どんな映画なのかすら分からない。でもそれは仙道も同じ……だから見終わった後には、どんな感想を言い合えるか楽しみになって浮足立ってしまう。

 

「味は……ちゃんと塩バターにしなきゃね」

 

 映画を観るだけなのに、それが仙道とだからなんだか楽しくなっちゃって。まだ映画館に入ったばかりだけど、小さな幸福感で満たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映画の半券をスタッフさんに渡し、案内されたのは映画館で一番小さなスクリーンだった。仙道曰く、席は私達だけしか埋まっていなかったらしい……なんか貸し切りって感じで嬉しい。

 

 雑談を挟みながら上映時間が来るのを待っている、予告編が流れているのを横目に仙道の話に耳を傾けている。

 

 映画館のドリンクにコーヒーが無かったから勝手にコーラにしたら「分かってるな」と上機嫌になってくれて、そこからずっと映画の小ネタや監督ネタが止まらない。

 

 名前とか出されても分からないのを知っているから、度々挟まる解説でなんとなく食らいついていけている感じ。

 

 LBXもそうだけど、映画は本当に好きなのね……前までは仙道が自分の話をすることなんて無かったのに、いっぱい教えてくれて嬉しいようなくすぐったいような感じがする。

 

 関係性の大きな変化に戸惑いながらも、幸せを噛みしめるように耳を傾けていた。

 

「……で、俺のオススメの映画監督の……はぁ」

 

「え、なんでそこで辞めちゃうのよ。今の良い所でしょ、まだ映画始まらないし続けてよ」

 

 楽しそうに語っていたと思ったら、急にため息をついて頬杖ついてしまった。映画の話とか、ましてや監督の名前すら分からないけど別につまらない話じゃなかったのに。やっぱり、ついていけなかったのが不満だったの?

 

「ご、ごめんね。あんまり話についていけなくて……もうちょっと勉強するね」

 

「違う、違うんだ……俺ばかり話していて、俺はアミの話は聞いたことがなかったんだと気がついたんだ」

 

 不貞腐れているとは違う、どこか申し訳無さそうに顔を伏せてしまい。次の後ろ向きな言葉を塞ぐようにポップコーンをひとつ口に放り込んだ。

 

「……アミは、映画好きなのか?」

 

 仙道なりに不器用な歩み寄りで、私の事を少しでも知ろうとしてくれた。いつもは自分が話したい事を話し続けているのに……分かりづらいレベルの下手くそな歩み寄りに、つい吹き出してしまいながら。私も怖がることはしたくなくて、本心をなるべく優しく伝えてあげた。

 

「毎回そうだけど、質問に突拍子がなさすぎよ。もうちょっと前ぶりはちゃんとしてよね」

 

「は?どういう意味だ」

 

「そうねぇ……仙道とならなんでも楽しく観れそうね。映画はほどほどに好きで、ミュージカル映画はちっちゃい頃よく見て、ダンスを真似してた位には好き」

 

 ドリンクを置いて、ガラ空きの、私だけが触れられるその右手に自分の手を合わせる。まだ慣れない感触を指の隙間で感じながら、ちょっと嫌味ったらしく質問の答えを返していく。

 

 言葉の意味を分かったのか、なんだか懐かしい事を思い出したのか。同じ薄暗い空間で、似たようなやり取りをまた繰り返すように、緩んだ顔のまま口を開いた。

 

「そうか、愚問だったな。じゃあゾンシャークも一緒に観ような、絶対必ず見せてやるからな」

 

 最後になんか不穏な言葉が聞こえた気がするけど、ブザー音と共に劇場内が真っ暗になって制作会社のロゴマークが映し出された。

 

 私達以外に人はいないけど、映画を観る前から騒ぐ気にはならず。手は繋いだまま画面に意識を集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

 映画の内容は子供向けの人形劇……なのに――。

 

 話としては、魔法使いの国での話で。魔法は使えるけど存在がパッとしない……ツギハギの身体を持っているから『ボロ切れ』と呼ばれる主人公。

 

 ある日、空から落ちてきた星のように淡く輝く女の子と出会って、その女の子がもう一度空に帰れるように、もう一度笑顔に……幸せに出来るよう冒険に出る。そういうストーリーだった。

 

 映画に関しての知識はない、どうしてこんなに映像技術が発展しているのに、ピアノ線やケーブルが見えている人形を使うか。そう考えながら映画を観ていた。

 

 ストーリーは子供向けといいながら話が濃い、キャラクターは少ないのに全員が奥が深い。たった2時間の映画なのに、なんでだろう……言葉のひとつひとつが胸に刺さるのは。

 

 もうちょっとで映画が終わる。満天の星空の下で、消えかける星の少女をなにも言わずに抱きしめる魔法使い……台詞はなにもない、音楽だってシンプルなのに。

 

「どうしよう……泣いちゃう」

 

 目尻に溜まった涙を裾で拭いながら映像に集中する、星屑になって消えて。最後に空を見上げる魔法使いでスタッフロールに突入した。

 

 ハッピーエンドとは言えない、よく聞くビターエンドの分類なのかもしれないけど。それでもいい映画だった……あー早く仙道と感想言い合いたいな。

 

「面白い映画だったね、せん――」

 

 横を見てなにか言おうとしたのを停止してしまう位、横の仙道の様子に驚愕してしまった。

 

 口元を抑えて声を押し殺しているようだけど、息を吸い込む音が漏れている。滝のように溢れ出る涙をハンカチで拭っている。画面に釘付けになってなにかをブツブツ言っている。

 

 耳をすましてみても……よく聞こえない。相当良かったのかな?

 

「だ、大丈夫なの?ほらティッシュ……良い映画だったわね」

 

 受け取ったティッシュで鼻水を拭き取りながら、小刻みに頷いている。ティッシュを全て使い切った時にはスタッフロールは終わっていた。

 

 残っていたポップコーンを口に放り込み、明るくなった館内から立ち上がろうとした時。仙道に腕を掴まれた。

 

「ん?なに――」

 

「今まで、ずっと……お前には悪いことをしていた」

 

「え?」

 

 顔を上げ、赤く目を腫らして内心を話し始めた。

 

「話したいことがある……お前に、アミに話さないといけないことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トキオシアの映画館を出て、テラスのような外と通じる吹き抜けのような場所にあるベンチに腰掛け、冷たい冬の風を感じながらちょっとした休憩をしている。

 

 まだお昼位だと思っていたのに、すっかり夕暮れ時になってしまった……今日は終わるのが随分早かったな。

 

 迷惑を掛けたという口実で押し付けられた、温かい紅茶を飲み干してチラリと横を見ると。一口も飲まずに俯いたまま、既に湯気が出なくなったコーヒーを見つめていた。

 

 あまりの変わりように、なんて声を掛ければいいんだろう……映画館から出てきてからずっと魂が抜けたようになってしまった。

 

 なんで、あの映画に仙道のトラウマを刺激するシーンがあったの?どれよ、どれだったのよ。

 

 世界中を冒険するシーン?大きなお化けから逃げるシーン?サヨナラの直前?……あー、仙道の事を知らなさすぎる。

 

 ずっと隣にいたのに、恋人になったのに、結局私達はいつも通りね。なら私から話さなきゃ。

 

「アミ、あのな……」

 

 なにから話そうかと思っていたら仙道が急に口を開いて、肩がビクッと跳ねて代わりに私が口を閉ざした。大きく息を吸い込んで丸まった背中が膨らんでいるのが目に入った。

 

「俺は、あの魔法使いが羨ましく思った……」

 

 仙道がいつも話す時のように気取った感じでもなく、自信に溢れた感じでもない。水族館とか、あの告白の日に見せていた、素に近い顔と声をしていた。

 

 だから大事な話なのかなって思って自然と背筋が伸びて、力が無意識に入った手が空になったカップに凹みを作った。

 

「人に無償でなにかが出来て、見返りを求めずとも行動する……それが、俺には眩しく見えた」

 

「そうね、見ている途中からピアノ線が見えているのに見えない位。動きがリアルだったしね」

 

 ただの映画の感想だと思っていたから、それに乗っかるように私も感想を言った。でも……仙道は違ったみたいだった。

 

「あの魔法使いは、きっとお前とよく似ているんだろうな。人のために、後先の利点なんか……なにも気にしない。俺はいつまで経っても、手を引かれるままのあの星の少女と同じだな」

 

 そう言うと、冷え切ったコーヒーにようやく口をつけて飲み干した。一気に流し込んで一息ついて、また話を続ける。

 

「なあアミ……俺は、ずっと思っていた。お前の隣に立つには、俺は随分と未熟だと」

 

「そ、そんなことないわよ!あんたは立派よ。シーカーとして、世界の危機に立ち上がったじゃない!」

 

 仙道が言いたい事はこの先にある、だから本題に入る前の意味のない言葉なんだろうけど。あまりの自己肯定感の低さに食い気味に反論してしまった。

 

 LBXを触っている時は自信に溢れて、ふんぞり返るくらい胸を張っているのに、素の仙道は今にも消えてしまいそうな位に心が弱ってしまう。

 

 LBXが仙道の自信に繋がっているからなんだろうけど……私はその自分を下に見る仙道の癖は、正直あんまり好きじゃない。

 

 だから話の腰を折ってでも否定したかった、あんたじゃなきゃサターンの神谷コウスケは止められなかったのよって。

 

 小さく「ありがとう」と仙道が呟いてベンチから立ち上がり、少し上を向いていた。もうすぐ夕日が沈んで星が見え始める時間だ、黒く染まっていく空に小さな星がキラリと光っていた。

 

「だから自分を変えたくて……神谷コウスケからの誘いに、参加しようと決めた」

 

「え?それって、ずっとデザイン描いていたあれを。本格的に作っていくの?」

 

 背中を向けたまま、気まずそうに肯定する返事が返ってきた。なぜ仙道が暗い顔をしているのかは

 

まだ分からないけど、夢に一歩近づいたという事実に自分の事のように嬉しくなって。勢いをつけて立ち上がって、無防備な背中に抱きついてしまった。

 

「おめでとう、仙道!これから本格的にLBXの勉強が出来るのね!いつから?どの時期までやるの?」

 

 無邪気に仙道の腰に手を回し、嬉しさが溢れ出て質問を投げ続けてしまう。ずっと、ひたむきにLBXに向き合っていた結果が報われる……だから素直に嬉しかったのに、仙道はそうじゃなさそうだった。

 

「……んだ」

 

「ん?」

 

「A国に行くんだ、来週から……半年間」

 

 回していた左手に仙道の手が重なる、コーヒーで暖を取っていた割には冷たくなった指先のせいで寒気がした。でもこの寒気は、言葉の続きを分かってしまったからかもしれない。

 

「置いていってしまうことになる……せっかくお前と恋人になれたのに、あの魔法使いのように……お前を……独りで……」

 

 見上げても顔は見えない、でも段々と震える声と握る力が強くなっていくだけで。仙道がどんな顔をしているか察しがついてしまう。

 

「最初は断っていた、そこまでの熱量は俺にはないと思っていたから……でも、お前と恋人になって。アミの隣に立つのなら中途半端じゃいけないって思って……でも、俺はずっと自分勝手なままで……」

 

 握る力が強くなって、声に嗚咽が混ざり始める。言葉がどんどん出なくなる程の後悔が溢れ出ている、仙道がここまで本音を言ってくれるのが嬉しい反面。正直――。

 

「なんで、そんな今生の別れみたいになってるのよ。あんた戦場にでも行くの?」

 

 声がピタッと止んで、鼻を啜る音だけが残った。とりあえず抱きしめる力を嫌がらせの意味も込めて少し強める、仙道から苦しそうな声が聞こえた気がした。

 

「ねえ、エターナルサイクラーってなんで私達の手元に。シーカーに最終的に戻ってきたと思う?」

 

「なんで、いや……えと……レックスが海道義光のアンドロイドを使って手回ししたんだろう。イノベーターのお偉いさんに、これ以上悪用されないために」

 

「そうでしょうね、レックスの最終目的が「人類はもう一度考えるべき」っていうのなら……考える時間を放棄する連中に。そんな力は残しておきたくないって思うでしょう」

 

 考えることで冷静になってきたのか、声がいつも通りに戻りつつあった。だから続けた。

 

「きっとサターンがNシティに落下して、世界がエネルギー問題や貧困で大きく混乱しても。必ず拓也さん達は、人類のリーダーになってくれる……レックスは落下後の希望を、あの時託してくれたんだと今なら思うの」

 

 ゆっくりと腕を解いて、仙道から数歩離れる。なにかを感じ取ったのか仙道が振り返って目を合わせてきた、最近は仙道の泣き顔ばかり見ている気がする……弱さを見せても大丈夫と思ってくれているのかな?だったら嬉しいな。

 

「これはあくまで私の考察に過ぎない、でもそうだと信じられるのは。レックスがそういう人だって知っているから……それは仙道、あなたにも言えること。私は信じてる、だから行ってらっしゃいって背中を押して上げる」

 

「アミ……」

 

「大丈夫、前にも言ったでしょ?私は過程も誇らしくありたいって!……でも、早く帰ってきてね……じゃないと、許さないから」

 

 本当は笑顔で最後まで言ってあげたかったのに、つい漏れた本音のせいで目尻が熱くなって涙が溜まっていく。

 

 急いで拭おうにも止まらない涙を袖で拭き取り、しゃくりあげた呼吸を整えようと深呼吸しようとしても上手くいかない。

 

 大丈夫だよ、いってらっしゃい。それだけを言いたいのに、その言葉に嘘はないのに……それに隠したつもりの「行かないで」がどう頑張っても流れ出てきてしまう。夢のために頑張る仙道を、応援したいのに。

 

 今度は私の方が泣いてしまったのを、仙道はなにも言わずに抱き寄せて静かな宣言を告げた。

 

「早く戻る……必ず帰るよ」

 

 たまに見せていた着飾った格好良さはない、優しい声でそう言ってくれた。その誠実さが嬉しくて、つい抱きしめる力を強くして仙道の体温を感じてしまう。

 

 また、こうして会える日が来ればいいな。

 

「……でも、ギリギリまで言わなかった責任は取って」

 

「どうやって?」

 

 涙を拭い、思いついた我が儘にニヤリとしながらポカンとしている仙道を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

「写真撮るだけで500クレジット……ぼったくりじゃないのか?」

 

「昔はデートの定番だったのよ?ほらもうちょっとそっち行って」

 

 先ほどのゲームセンターに戻り、狭い箱の中に仙道を押し込んで分厚いカーテンをくぐっていた。グリーンバックの空間にタッチパネルとカメラがあるだけ、外からゲーム機の騒がしい音が聞こえてくるけど……ここだけ隔離された別空間みたい。

 

「プリントクラブねぇ……俺達の爺さん婆さん世代のものがまだ残っているなんて。ゲームセンターってのは儲からないんだな」

 

「一応、これ最新式なのよ?まだ需要はあるのよきっと。CCMみたいな持ち運びが出来るカメラだけが良いってわけじゃないのよ……ほら、お金入れて」

 

「……証明写真を撮るもんだと思えば安いか」

 

 ブツクサ文句を言いながらお財布からお金を取り出し、機械に滑らせる。

 

 画面が操作可能になると可愛らしい声でアナウンスが流れた。その声に、まるで汚物を見るような目で機械を睨みだした仙道をどけて、私が可愛いと思ったフレームやらポーズやらを勝手に選択していく。

 

 隣から「おい、それは嫌だ」とか、「こんなポーズ誰が考えたんだよ、恥ずかしい」とか文句が聞こえてきたのに。すかさず「天罰よ!」とだけ言って黙らせた。

 

 全てを選択し終えて、撮影の合図を待つ間に。なにがそんなに納得がいってないのか、への字口になっている仙道の無防備な手を握ってしまった。

 

 ちょっと驚いてこちらを見た仙道の、この何気ないやり取りが何度でも訪れるように。

 

「ダイキ、好き……だーいすき」

 

 不意打ちなのは分かってる、でもどうしても名前で呼びたくて口に出してしまった。

 

 面食らった仙道が顔を強張らせ、一気に顔を赤くしていた。なにか言おうとまごまごしている間に、シャッター音が鳴った。

 

「は……お、おい!今のはノーカンだろ、やりなお――」

 

「ほら、次のポーズいくわよ!はい両手でハート作る」

 

「時代遅れも良い所だ!畜生!」

 

 とかなんとか言いつつ、最後まで写真を撮り終えて。仙道におねだりしてらくがき画面でパンドラとナイトメアを描いて貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなあっという間に、初めてのデートは終わり。その一週間後、仙道はA国に旅立っていった。

 

 

 

 




次回、ホントのホントに最終話。
ここまで読んでくれてありがとう。死に際はもう少し、ここまで読んだんだろ?
介抱ぐらい付き合ってれよ
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