星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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おまけ
本編とはなにも関係のない自己満足クオリティ

それだけ


今宵、悪夢は君と踊る(オマケ要素)
そのいち


 呪いなどというものを信じるかどうかは、人それぞれで御座いまして。信じない者は偶然だと語り、信じる者は祟りだと騒がれます。

 

 ただ、偶然であろうと祟りであろうと、LBXに関しては大した違いはありゃしません。特にタイニーオービット社は……おや、最近の祟りには目を瞑りますぜ?仏さんを語らうには、あっしはちと青すぎるもんでさぁ。

 

 このアキハバラに、持ち主を必ず悪夢へと誘う(いざなう)アーマーフレーム『ナイトメア』があるとか。

 

 逃げようとも、投げ捨てようとも。霧のように現れ、帷を下ろしたようなその黒い悪魔のような機体が視界に入る前に主の首を刎ねてしまうだとか……。

 

 ジョーカーの後継機と囁かれるその機体は、裏模型ブルータス店の棺の中に眠ると言われます。

 

 もっとも、嘘か真か。夢の主のみが知りうる事実で御座いますがね。

 

 

 

 

 

 

 

 アキハバラキングダムとかいう、おめでたい名前の大会まで残り数日となった。あの那須家の寝ぼけた落語を聞かされて、欠伸が止まらない呪いに苛まれたまま向かったのがこの裏模型『ブルータス』という店だ。

 

 店の前にごちゃごちゃに入れられたLBXのパーツ、ジャンク品とは名ばかりの壊れかけた内蔵パーツにコアスケルトン、店の中にはマニア面した癖のある老若男女が数多く見えた。

 

 俺も度々世話になった、ガシャポンの品揃えが恐ろしくいい。沼に嵌まればそれまでだが、一回で大当たりも引きやすいのも魅力なんだが……今はそんなことはどうだっていいんだ。

 

「ここに例のLBXがあるんだったな」

 

 俺のお目当ては、タイニーオービット社が試作段階で製作していたジョーカーの後継機『ナイトメア』。その現状一体しか存在していない筈のものが、ここに流れてきているとの情報を手に入れた。

 

 那須家に色々調べさせたが、購入者は何人か居たようで未開封じゃないようだが……全員が返品をしているらしい。

 

 「呪いだ」「悪夢だ」と口を揃えてみんな返してくるのだとか……馬鹿馬鹿しい。科学が発展した現代社会に悪夢だと?魔術師と恐れられる俺だが、そんな非科学的な現象は信じていない。ただ手を焼いただけだろう?最新式のLBXに。

 

「必ず手に入れてやる……じゃないと……郷田にすら勝てなくなる」

 

 ポケットに入れた手を強く握り、誰も居ない空間に思い切り睨みを利かせた。

 

 数日前のゲームセンターでのやりとりだ。

 

 ジョーカーmk-2が大きく大鎌を振り回して関節を狙い、独自のスピードでハカイオーの攻撃を避け続けていた……圧倒していた。

 

 調子も良かった、明らかに勝利の兆しは俺に向いていると思っていた。

 

 トドメだと大鎌でハカイオーの首を狙った、でも全て読めていたんだろう。空中で宙ぶらりんになったジョーカーmk-2の胸目掛けて、ハカイオーはまさかの突きを一発お見舞いしやがった。

 

 そしてハカイオーの痛恨の一撃を喰らって、無様にブレイクオーバー……調子に乗ったのが運の尽きだった。

 

 その時奴は勝ったことが嬉しくて、口を滑らせていた。「ハカイオー絶斗なら、もっと早く決着がついたのに」……と。

 

 理解できた、絶斗とかいうふざけたネーミングだがとてもわかりやすい名前だったのもあったのだろう。奴はアキハバラキングダムに向けて、新型を用意していると。

 

 LBXの日本三大大手『プロメテウス』の御曹司だけあって、きっとハカイオーより性能を上げているんだろうな。親の金で築く勝利はさぞ誇らしいんだろうが……それよりも、俺があの脳筋昭和番長もどきに負け続ける可能性の方が大問題だ。

 

 舎弟だの言い出したのは確かに俺だ、だが負けたからって意味の分からない大会に出させられるだなんて思いもしなかった。

 

「あーあ、とっとと辞めたいねぇ。友達ごっこなんて」

 

 だからジョーカーの後継機だとかいうものを俺も手に入れて、力の差を思い知らせてやる。

 

 今に見てろ、郷田だけじゃない……山野バンや海道ジン!お前らの首を刎ね、LBXの頂点に立つのはこの俺様だと言うことを知らしめてやる。

 

 気合いを込めるために一枚タロットカードを引いてみた……『死神(デス)』の逆位置か、起死回生のチャンスだと言うんだな?やはりそうでなくては。

 

 店の中に入り、棚の商品がほぼLBX関係だからか、人が掘り出し物の発掘に血眼になっている横を通り過ぎて。店主の居るカウンターまで辿り着いた。

 

 Lマガを片手にコーヒーを飲んでいた小太りの中年店員は、俺が近寄ってきたことに気が付いてLマガを置いてこちらに向き直った。

 

「いらっしゃい。ああ、君は確か……アルテミスに出ていた……えっと——」

 

「仙道、仙道ダイキだ。それよりも見せてほしいものがある」

 

「ああ!あのオタレッドに負けた仙道ダイキね……それで、今日はなにを探しに来たんだい?」

 

 無神経な物言いにむかっ腹が立ちつつも、揉め事で売ってくれない未来を避けつつ本題に入った。

 

「ナイトメアという、物珍しいLBXがここにあると聞いてきた。まだ売れてないのか?」

 

「ナイトメア?……あーあれか、まあ見せるだけならいっか。よっこいしょ」

 

 コーヒーカップを机に置いて店の奥に入ってからしばらくして、小さな箱と一緒に戻ってきた。雑貨店の小さな箱を開ければ、アーマーフレームから外されてバラバラになったナイトメアと思われるものがあった。

 

「一昨日の今ぐらいの時間にね、これ買った男の子が返品しにきたの。「これを手に入れてからおかしなことが立て続けだ」「呪われたLBXだ」とか言って突っぱねてきたの」

 

「呪いだぁ?ただ運が無かっただけだろう」

 

「それがその子でもう六人目!触っただけで不幸に遭ったって子が九人居るんだって、不思議でしょう?……おい、触っちゃいかんって」

 

 店員の言葉を無視してパーツを手に取って確認してみる。細かい傷は多いものの比較的綺麗だ、数人に買われた割にまともにバトルに使われてないな……何故だ?

 

「知ったこっちゃないな、なにが呪いだ。ただのじゃじゃ馬なだけだろう?いくらだ」

 

 財布を出そうとすると、店員が慌てた様子でそれを止め。机の下から紙とペンを取り出して俺の前に差し出した。

 

「あまりにも返品が多くて、事務処理が大変なの。悪いけどタダでやるから返品不可にさせてくれ……正直そのLBXは気味が悪いし、ブルータスの評判もこれ以上悪くしたくないんだよ」

 

「ああ、そうか……ならストライダーフレーム用の新しいコアスケルトンも見たい。良いのはあるのか?」

 

「わかった。探してくるから、誓約書にサインしちゃってよ……君でも扱えなかったら処分かお祓いしておいてね」

 

 そう言って奥にまた消えていったうちにペンを手に誓約書とやらに目を通した、さらっと読んだ限りではさっき言っていたこととなにも変わらない。店主の手書きらしいそれにサインをして拇印を押した。

 

 後に戻ってきた店員とアーマーフレームの売買を終え、少しだけ得をした気分になりながらブルータスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 これを手に入れてから運が悪くなるだとか、呪いだとか随分と難癖をつけられたようだったが……俺はこれを手にしてからだいぶ兆しが良いぞ?

 

 近場のキッチンカーで昼食を買ったらおまけでドーナツを貰ったし、ガシャポンを回せば一発で欲しかったパーツを獲得できた……終いには歩けば横断歩道が全部青信号になる。

 

 他の奴らは一体何を見て、これが呪いだと宣うのか。どちらかと言えば祝いじゃないのか?

 

「どっちだっていいさ、お前だって俺のような強者に出会うために雑魚共を蹴落としていただけなんだろう?」

 

 適当なベンチに腰掛けながら案外気に入った味のカツサンドを食べ終えて、コーヒーを飲んで膝の上に置かれたナイトメアを見る。

 

 ジョーカーの後継機との話は聞いていた通りだ、基礎的な部分には通ずる構造が素人目にも分かり易い。しかし頭のカタチ、マントがついてる等の変更点も多いのも印象的だ。

 

 ジョーカーはピエロのようだったが、こちらはファンタジー映画に登場する魔術師そのものだな。帽子を被ったような頭部デザイン、胴体は排熱用の構造だろうか?素早く動き回った後の熱が籠る問題をカバーしたいと見て取れる。

 

 それにこの武器、ジョーカーは基本的に大鎌だったが。こいつは中心の薄紫の宝玉を囲むようなデザインをした杖だ、ハンマー系統の武器には違いないが、今までの機械的なデザインとは大きく逸れている。

 

 ウォーリアやムシャのような王道も嫌いじゃないが、やはり俺が使いたいと思うのはスピードは勿論。デザイン的な美しさに見惚れてしまうものを使いたい……まさにこのナイトメアは俺の夢見ていたデザインと性能を両方持っている。

 

「帰ったら調整を加えなきゃな……まずはそのままの性能を見ることもしたいな、戦えそうな相手はいない。なら独りでいいや」

 

 ポケットからDキューブを取り出して投げて展開させた。ステージは『峡谷』、高低差があって機動力が確認しやすい……確認にはうってつけだな。

 

 CCMを操作して、ナイトメアの電源を入れる。起動が確認できればDキューブの中に投入する。

 

「本当に呪いだと言うならば、その力を俺に示せ……ナイトメア」

 

 機体名を呼べば、答えるように目が光って武器を構えた。これが本物ならば、俺は絶対的な勝者で居続けられる。そう疑うことを知らないまま、興奮して震える指がボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんであっしの元へいらっしゃってるんですか?」

 

 間抜けそうな顔で続きを催促しながら、椅子にだらしなく座って目を擦っている那須家にそう返されてしまった。

 

「聞いてなかったのか?呪いは本当にある……信じがたいが、本当に」

 

「毎日誰かに見張られている、謎の電話が掛かってくる、帰り道で自分にずっとついてくる足音が聞こえる……とな。兄貴、そりゃ寝不足ってぇ不治の病でさぁ。立ったままいびきをかかれる前に、今日は帰って枕とでも相談なさる方が宜しいかと」

 

 人が真面目に相談しているのにこの慇懃無礼(いんぎんぶれい)は調子のいいことばかり。この呪いをお前にも体験して欲しいもんだな。

 

 時は遡り、ナイトメアを手に入れた当初は調子が良かった。

 

 峡谷のジオラマの高低差をものともしない力強い走り、パワフルなスイング、そしてジョーカーmk-2が到達できなかったほぼ誤差無しの残像攻撃まで可能になった。

 

 これができた瞬間に俺は確信した、俺は理想の機体を手に入れた!と。

 

 しかし、中々に思い通りには行かないもので、頂点から底まで堕ちるのは早かった。

 

「もう一度言う、数日前だ。郷田と都合が合わなかったからそこら辺の雑魚で憂さ晴らししていた」

 

「へい、ナイトメアの初陣でいらっしゃることも記憶に新しいですな」

 

「そこからだ、ナイトメアの性能を確信して一応は出し惜しみしていたんだが。ずっと、どこにいても、誰かの目線を感じるようになった」

 

「帰路につけばずっとつけられる……と?およしなさんな、そんな冗談じゃ座布団どころか畳まで逃げちまいますぜ?ひゃーひゃっひゃ」

 

 人の不幸を愉快だと言わんばかりに腹を抱えて笑い転げ、本当の意味で椅子から転げ落ちた……ザマーミロ。

 

「いっつぅ……にしても、呪いだなんだはあっしの管轄外。ガレージにいる霊媒師の元へお急ぎなさんな」

 

「霊媒師を紹介してほしいんじゃない、幽霊だの呪いだのは人間が都合よく考えたまやかしだ。俺がお前のような慇懃無礼に頭を下げてやってまで頼みたいのは、別のことだ」

 

 そう言って予め入力しておいたメールを那須家宛に送信する、通知が来てメールに目を通した那須家はぎょっとしながら棚を物色して自身のLBXを取り出した。

 

 『キマイラ』と本人は言っているが、要は頭部がデグーなのは固定の寄せ集めパーツで構成されたデタラメな機体。毎度売れ残ったパーツでカスタマイズしているらしい……毎度見る度にパーツが変わっているのが気にはなるが、まあいい。

 

 今日はナズーの両腕、アマゾネスの胴体パーツをつけている、脚部がまたついてないようだ。

 

「兄貴も考えましたね、御自身を餌にされるなど……キマイラのキマちゃ〜ん。お仕事ですよぉ〜」

 

 気色悪い声を出しながら、キマイラの脚部パーツをクイーンに変更して素早い手つきで調整を終えた。そして小型カメラを持たせ、CCMを操作してキマイラのキマちゃんことキメラLBXは、脚部のホバーを起動させて扉から出ていってしまった。

 

 椅子を直して座りつつ、ボロボロのノートパソコンを引っ張り出して起動した……LANケーブルが繋いである。俺達が生まれる前に消えたものじゃないか、本当に頭がおかしい奴だな。もはや恐怖が勝ちそうだ。

 

「さっきキマちゃんに持たせたカメラと接続します……兄貴の夢物語が史実であるならいいのですが」

 

「事実だと言っているだろう……おい、まだ繋がらないのか?」

 

「オンボロでして……えへ」

 

 頭に手を置いて両目を瞑ったこの阿呆を睨みつけているとようやく繋がったようで、パソコンに映し出されたのは黒い服にサングラスの男……明らかに疑ってくれと言ってる恰好をしている。

 

「兄貴の、お知り合いで?」

 

「流石の俺でもこんな明らかなのと関わりがあると思うか?」

 

「でしょうね、とにかく呪いでは無さそうですね……兄貴、ちょっと窓の方に体を出してみて下さい。動きがあるかもしれやせんぜ?」

 

 こいつの言う通りは癪だが、窓の近くまで寄って鍵を開けた。生ぬるい風が部屋に入って心地いい感覚のまま、頭の先を窓に突き出した。

 

 遠くのグラウンドで体育会系の部活動の声や動きが見える、野球にサッカーにテニス……LBXをやっている奴は少ない。

 

 俺が郷田のように目につく命知らずを無差別に壊しに行くと、本気で思っている馬鹿が多いようで。今更俺がLBXを持っている奴に目を光らせていると思っているらしい……そこまで暇じゃないっつうの。

 

「動きました……背中向けちゃってますね。やっぱし当たりのようで」

 

「メールの通りだったろ?「近場に怪しいのを探せ」。間抜けめ、深淵を覗く時はなんとやらだな」

 

「口頭でも宜しかったのでは?盗聴器なぞ無さそうでありますぜ」

 

「念のためだ、黙って録画してろ!」

 

 気の抜けた返事を返しつつ、雑な変装と監視を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくすると、サングラス男は飽きたのかどこかへ行ってしばらく帰って来なかった。結局目的は不明だが、ある程度予想は出来た。

 

「ナイトメア……アーマーフレーム……値段っと、出やした。コレクターからの買い取り宣言がずらりと!天下のタイニーオービットの未発売の新作となりゃ、皆々様が喉から手が生えるようで」

 

「値段は?……おぉ、立派なプロジェクターが買えそうだ」 

 

「LBXで!しかもアーマーフレームにこんなに払うのですかい!?へぇーよほど銭がお嫌いなお方が居たもんだ。商いは飽きないっつう落語がはやりそうで」

 

 顔を真っ青にして頬を抑え、ムンクの『叫び』のような姿になった那須家と同様。俺も画面の向こうの光景に開いた口が塞がらなかった。

 

 なにを考えているか分からんが、画面の向こうの連中は存在すら怪しいもんに中学生じゃ考えられない金額を出すと騒いでいる……出会ったことはないが、「コレクター」と呼ばれるマニア達なんだろう。

 

 注目だという一番上の書き込みに「ブルータスで仙道ダイキというLBXプレイヤーが購入した」と書かれ、俺が店から出た時とアキハバラで戦っている時の写真が添えられていて寒気が止まらなかった。

 

「あ、兄貴……呪いじゃなくて良かったですね」

 

「呪いより質が悪い!クソッ、今更手放せるかよこんな高性能アーマーフレーム」

 

 呪いの正体が解明したのは良かった。しかしなぜこれを買ったのに手放した人間が居たのかは不明なままだし、触っただけで呪われたという発言も疑問点が残る。

 

 まあいいさ、ひとりとっ捕まえれば真実が分かるだろう。分からなかったで終わろうが、俺は知ったことではない。

 

「さて、俺様の平穏に無知に踏み込んだ愚か者に制裁を加えねばな」

 

 ポケットから『審判(ジャッジメント)』のカードを取り出して、もうなにも映らないカメラの向こう側に睨みを利かせた。

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