早すぎる海道ジンからの演説は終わり、ざわめく人々に気にもとめず司会者は淡々と大会の説明に移っていく。こうなることを予想できていたのか、経験から来る技なのか切り替えがスムーズね。
「では、本日急きょ決まりました大会のルールを改めて説明させて頂きます……とは申し上げましても……ダブルスになったこと以外変わりはないんですけどね。あはは」
笑いを誘うためのジョークを織り交ぜ、コメディアンのようにニヤつきながら周りを見渡している。でも会場は誰もくすりとも笑わないままで、冷ややかな視線が向けられている。まあそうよね……ジンもあんなんだったせいで、会場ちょっと白けてしまった。あまり面白くもない話に愛想笑いすら返す気も起きない、逆にジンの登場で気が引き締まった……空気がピリつき始めたから笑えないのもあるけど。
気まずい空気の中を軽い咳払いで払い除け、また淡々と説明を再開していった。
「前日から公式ページにありました通り、今回はポイント制。トーナメントではございませんので対戦相手は皆さんの相談の上で決めて頂き、勝利すれば一ポイント獲得となり、合計五ポイントを獲得することが目標となります……そんでもって――」
ステージの後ろにあるモニターが点灯され、単調な言葉と共に長い説明がされる。緊張感のない退屈な言葉選びについ欠伸を誘われてしまうが、気を引き締める意味を込めて一生懸命噛み殺す。他プレイヤーからの圧と眠気を誘う喋りで頭の中がミキサーにかけられたようになる、油断すれば目が回りそう。聞いているだけだと理解が追いつかない、緊張しているのにすごく眠い。
先ほど大口を叩いていたのに、今は大口を開けて伸びをする仙道に手招きし、軽く耳打ちをする。
「ポイントの獲得ってたしかCCMに専用アプリを入れるのよね。私ダウンロードしてないんだけど……」
「ちゃんと俺の方にある、片方どちらかが持っていれば問題ないらしい」
CCMを開き例のアプリを見せてくれた、指定されたアプリが確かに入っているようで安心感に胸を撫で下ろした。自分の確認不足とはいえ、不備がないか心配でならない……でもこういうのはマメだから信頼はしている。いつ裏切られるかは分かったもんじゃないけど。
「じゃああんたに任せっきりになるのね、それはよろしく。ポイント貰い忘れないでね」
「なにを言い出すかと思えば……」
嫌味すらもう出てこなくなったのか、目を逸らし腕を組んで話を続ける。
「お前の陳腐な脳みそでも理解出来ているとは思うが、一応ルールを改めて言っておく」
余計過ぎる言葉に眠気がどこかに飛んでいき、出来る限り怒ってますアピールをするように睨んでみた。暗い中で気がつかれなかったようで、仙道の説明は続いた。
「チームの人員の入れ替えや登録しているLBX以外を使用した場合は見つかり次第失格、店を出れば試合を放棄した扱いになる。尻込みしたからって、絶対に店からは出るなよ」
司会者の長話並みの説明を要約して教えてくれた、余計な一言は添えてあるのに思うことが無いわけじゃないけど……。
「ちなみに、トイレはあっちな」
「なんで今その話?」
「入り口でビビってたろ。恐怖で漏らされても困るんでな、司会者がデカい枕語ってる間にでも済ませておけよ」
嫌味ったらしい言葉を吐き、口元を三日月のように尖らせながらそんなことを言ってきた。好きに言わせておけばいけしゃあしゃあと……あまりにもしつこいようなら、最終手段で店を無理にでも出てってやる。
精一杯睨んでいたのにやっと気がついたけど、小動物でも見るような憐れみが籠った目線を向けられた。やっぱ嫌い、絶対出し抜いてやる!
「……してから。追加の変更点と致しましては、海道ジンくんと戦えるチームは三チーム、枠は早いもの勝ちとなっております。チーム内どちらかのLBXが破壊、またはバトル出来ない状況になるまでは何度でもバトル可能ですので。皆様頑張ってください」
深いお辞儀をした司会者はまた軽い咳払いをし、ポケットからなにかボタンを取り出して見せつけるように押した。するとステージ横の一番大きいモニターに時刻だけが浮かぶ、シンプルな背景に数字のみ映されていた。どうやら残り時間を測るためのものだと思う。
「制限時間は2時間、メンテナンスや作戦を立てる時間も含まれています。どうぞ、精一杯楽しんで頂けたらと思います」
他スタッフから銅鑼のような小さい円盤状の物を受け取り、胸元で構える。そんな様子をみたからか、会場の空気が一瞬で張り詰める。
いよいよ始まる……誰も口にするものは居なかったが、誰もが察した始まりの合図を今か今かと待った。
「では、ただいまより開催致します。よぉーい!ドォン!」
ゴーンと小さいながら迫力のある音を鳴らして司会者が叫ぶ、同時にモニター内の数字も減り始める。ステージに集まっていた参加者は設置されている固定式のDキューブに向かいながらそれぞれで対戦相手を話し合い、戦いに向けて歩みを進めている。
流されるほどの勢いに飲まれて仙道とはぐれないよう壁に密着するように固まりぎゅっと目を閉じる、動きが収まったのを感じ取り壁から離れ辺りを見渡すと。もう何組かはバトルに乗り出しているようだが、ほとんどのチームが作戦を立てたりLBXの調整をしていたりと動きは様々。最初は一気にバトルが始まると思っていたけど違うようね。
「楽しそうだな、そんなカエルみたいに壁に張り付いて」
またタロットカードを取り出し、じっくりと眺めながら仙道が聞いてくる。
「はぐれないようにしてただけよ!」
一応反論はしてみたものの、興味なさそうに右から左に私の言葉を流していた。タロットカードをしまい、ポケットに手を突っ込んで下を向いた。
「ほら、私達も対戦相手を探しに行きましょう。時間ないわよ」
「……その必要はない」
呆れたような気だるいような声でそう言い放つ仙道が顔を上げる。釣られてその方に目線をやり、不本意ながら顔をしかめてしまった。
「うわ……なにしてんのよ、あなた達」
目の前に腕を組んで仁王立ちをするオタレッド、その後ろで巨体を隠せていないオタイエローがちらりとこちらの様子を伺っていた。オタイエローは申し訳なさそうにもじもじと隠れているのに対し、オタレッドはマスクの上からわかる程の気迫に満ちている。
さながら正義のヒーローと悪役が対立して映画のワンシーンのようだ、本物のヒーローになりきるようにオタレッドが語りだした。
「仙道君、やはり私は納得できない。アルテミスでの時も、今日のアミたんに対しての君の行いもだ。バンくん達と行動を共にしてちょっとは改心したかと思っていたのに……」
言葉を紡ぐ度に声は震え、感情が昂っている。言葉は本心からくるものなんだろうけど、ヒーローという虚像になりきっている今の状況に酔っている感が……正直気持ち悪い。
「今こそ、君のねじ曲がった思想とその悪趣味な性格を正す時だ!さぁ己の守るべき物を賭けて決闘と行こうじゃないか!」
上半身を捻り、先客のいないDキューブを指差す。タイミングよく天井のライトがパッと灯って私達を誘っているように感じた、本当に映画みたいだなと他人事に思ってしまった。
「だとよ、どうする?」
「どうするって……うーん……」
どちらでも良いと言いたげな仙道を横目に考えてみる。
オタレッドとオタイエロー……ふざけた人達だけどLBXプレイヤーとしての実力は本物、二人ともナイトフレームで片手銃持ちの近距離から中距離を得意とした戦闘スタイル。オタレンジャーというチームで普段から活躍しているから長所や短所も理解し合っているから隙が無さそう。連携の良さではこの大会で一番とも取れる。
対してこちらは急きょ仕立てた凸凹コンビ、お互いストライダーフレームで鎌やダガーといった接近しないと攻撃できない武器。郷田のハカイオーやカズのハンターのような遠距離でも敵を狙える必殺ファンクションも持っていない……更に仙道と私じゃ連携なんかきっと取れない。レベルが違いすぎてどちらかに合わせようものならばちゃんとした戦いにすらなるかどうか……かといってそれぞれで戦っても勝算はきっとない、連携の前に倒れてしまうのがオチ。
私のたどり着いた結論は圧倒的不利、オタレッドの……ヒーローの安い挑発に乗るべきじゃない。
「無理よ、私達じゃ敵わないわ。断ったほうが身のためよ」
「はぁ……わかった」
仙道はわかってくれたようでオタレッドの前に歩き出し、CCMを取り出しながらなにか話している。断るだけにしては長いやり取りにハッとし、気づいた時にはもう手遅れだった。
「仙道!あなたまた――」
「安心しろ、お前は黙って突っ立ってればそれでいい」
意地の悪い顔でこちらを見下ろし、そう答えた仙道を精一杯睨むことしかできなかった。
「仙道君、もう魔術師の脅威に屈する私ではない!覚悟したまえ!」
「知ったことか、その自惚れた台詞が二度と出てこないよう叩きのめしてやる」
「そんでもってアミたん!必ず魔の手から救い出して上げるからね」
なにかのヒーローっぽいポーズを取りながら私に右手でピースサインを出して見せてきた。名指ししないで!恥ずかしいから。
「あー、もうこれだから……負けても私のせいにしないでよね!」
パンドラを取り出し、皆でDキューブの前に集まる。ステージは『コンビナート』、廃れた廃工場をイメージした入り組んで薄暗いステージ。敵も味方も距離が測りにくく、死角が多いステージを選ばれてしまった。ああ負けた……諦めたくない気持ちは確かにある、でもこれはちょっと無謀すぎる。
開始早々出ばなをくじかれつつ、せめて仙道との連携の糸口を見つけられればと願いながら戦いに乗り出すのだった。
ナイトメアの隣にパンドラを配置し、オタレッドとイエローもビビンバードをDキューブの中にセットされていく。
埃っぽい空気と機械油の臭いをCCM越しに感じそうになる、薄暗い照明が影を長く伸ばしているのが見えた。遠くで鉄パイプが揺れてキィンと鳴る音が、これから始めるバトルの警告音に聞こえてくる。
「バトルスタート!」
画面に音声と共に開始の合図が響く。とりあえず距離をとって出方をみなきゃ……と考えていると同時に、仙道が有無を言わせずにナイトメアを突っ込ませていた。
「ちょっと、作戦くらい立てなきゃ」
「いらないな、俺だけで終わらせてやる」
苛立ちを隠せてない様子でCCMを操作しナイトメアの滑らかな影のような加速で、地面を滑るような動きでパイプの迷路をすり抜け単騎で切り込む。まるで俺ひとりで十分……そう宣言でもしているような動きだ。
地面を蹴って高く飛び上がり、オタレッドのビビンバードXの頭上目掛けナイトメアズソウルを振り下ろした。
「くたばれ鳥野郎!」
空気を裂く鈍い音が廃工場のステージに響く、かなりのダメージが入ったかのように思われた。だがナイトメアの一撃はビビンバードXには当たっていなかった。両手でナイトメアの攻撃を受け切り、オタレッドと仙道の間に割って入った機体が居たからだ。
「すごい、仙道の攻撃……受け止めちゃってる……」
「へへへ、アミたんに褒められちゃったんだな」
オタイエローが操作するビビンバードX-Ⅲ、普段の小心な彼からは想像できない勇敢なプレイを披露していた。
予想だけど機体の性能は仙道の方が上、しかしそれを連携というステータスでナイトメアを圧倒している。仙道すらも驚きで一瞬止まってしまう程の衝撃の中、高らかにオタレッドは宣言する。
ヒーローについては詳しくはないけど、偽りの安っぽい衣装なのに。目の前でCCMを構えている姿は正真正銘のヒーローのように見えてしまった。
「やはりだ、君は安かろうがどんな挑発にも乗り、単独で挑んでくるなんて予想できている。ならば我々はすべきはひとつ!」
「レッド、防御は任せて欲しいんだな」
ナイトメアズソウルの激しい突きや薙ぎ払いの攻撃を全てナックルで受け流し続け、相手の長所を封じ込めるイエローのビビンバードX-Ⅲ。すかさずビビンバードXの銃が火を噴きナイトメアにビーム弾を飛ばし、腹部の関節に的確に当てていく。
「チッ……」
仙道でも分が悪いのだろう。体勢を立て直すべくビビンバードX-Ⅲに蹴りを入れた反動で後ろに下がり距離を取った。
「ねぇ、ちょっと落ち着いて……」
「うるさい!黙ってろ!」
声をかけようにも興奮気味の仙道は聞く耳を持たず、CCMに食い入るように見ている。駄目だ、今の仙道は冷静さを失っている。相手の作戦にまんまと乗せられ、それに対する焦りと怒りでオタレッド達の掌の上だ……これでは作戦とかそういう話はできない。このままじゃ駄目、なんとかこの状況から抜け出さないと。
「お前らのような……お前らなんかのような雑魚に、負ける俺様じゃないんだよ!」
啖呵を切って素早くCCMを叩くように打ち込んだ。ナイトメアは影を残し、その場から消えてしまった。フェイントや残像といったお得意の作戦に移行するみたいだった。
「ふっ、私達には敵わないよ」
未だ余裕そうに振る舞うオタレッドは、ナイトメアを追うこともせずにCCMでなにかを入力し始めた。ビビンバードXが片手銃を構え、ステージ内のタンクめがけて何発か打ち込んでいく。するとそこから黒い油のような液体が溢れ出し、ステージ内の床を濡らしていく。
この意味がなさそうな行動がどこか引っかかる……引火させて近寄らせないようにするため?足元を悪くさせる作戦?どれも違うように思える……じゃあなぜ?
「くそ……ふざけた真似を」
ナイトメアの仕掛けた先手がうまく決まらず、更に好きなように煽られた。仙道はペースを乱されたせいでかなり苛立ってしまっている、自分ごとじゃなくてもこれは怒りを露わにしてしまう気持ちはわかる……でも今の彼は冷静じゃない。私がちゃんとしないと。
「とりあえず連携さえ崩せれば勝利は見えてくる筈、どっちかでもいいからまずは倒さなきゃ」
オタレッドは移動しながらタンクに穴を開け油の水たまりを増やしていく、Dキューブのステージ内の地形を変形させる程に。しかし、こんなにベトベトにして……嫌だなぁ、パンドラが汚れちゃう。
私だったらこんな油まみれの中は歩きたくないな、汚いから……つまり行動範囲の制限の為に油をばら撒いたの?
油に反射したどこかの明かりが揺らいでいたのを見ながらぼんやりと考えていた瞬間、頭が冴え渡るようにスッキリと謎が解明していく。
「まさか、これが狙いだったのね!」
その真実に気づいた時にはもう遅かった、すぐ後ろに迫っていたビビンバードX-Ⅲのアッパーによってパンドラは空中に打ち上げられてしまっていた。
「しまった!」
慌てて画面をみるとLPは半分近く削れている。体勢を立て直そうにも、操作の手がもたついてコマンドが間に合わない。
「ああ、もう!この――」
「ごめんねアミたん、ポイントはぼく達が頂くんだな」
逃げることもままならない内にビビンバードX-Ⅲの重たい連撃により、あっという間にパンドラは青い光を放ち、ブレイクオーバーとなってしまった……私、まだなにもしてないのに。
「だから黙って見てろって言ってんだ!足手まといだったんだよ」
荒い手つきでCCMに打ちつけるようにナイトメアに指示をだし、ナイトメアはその場から高く飛び立ち。黒い竜巻の予兆がステージ内に覆い被さっていく。
「仙道待って!これはオタレッド達の罠よ!」
「魔術師を怒らせたらどうなるか、その身に刻んでやる……必殺ファンクション!」
赤黒い目を光らせ、ナイトメアが杖を構えた。風が集まり、最悪の予兆だと言いたげに、特大の魔法を見せつけるかのように回転し始める。
その瞬間を、その勝機をヒーローは見逃さなかった。
「言っただろう?私『達』には敵わないって」
ダァン!とつんざくようななにかが破裂した音がステージ内に響き渡る、なにが起こったか分からない。ただ空中に浮かんでいたナイトメアはバランスを崩し、体は仰け反って空を見つめている。
「レッド!今だ!」
ビビンバードX-Ⅲの装備していたらしい、ライフルの銃口から狼煙が上がっている。気がつけばナイトメアの更に上空にビビンバードXが現れ、片手銃を向け。オタレッドはここで決めると言わんばかりの大声で叫んだ。
「必殺ファンクション!」
片手に収まるような小さな銃から想像もできない程の銃弾の雨を降らせ、確実に命中させてきた。アルテミスでみた、ビビンバードXが最も得意とする必殺ファンクション「レインバレット」だ。
ナイトメアは成す術もないまま銃弾の大雨に打たれ、地面に着くよりも先に青白い光を放っていく。ブレイクオーバー……私達は完璧な連携の前になにも出来ないまま終わってしまった。
「正義は此処に極まれり!ヒーローに死角はないのだ!」
「い、いえーい……なんだな」
誰に向けたか分からないピースサインを披露し、オタレッドとオタイエローは勝利を高らかに宣言した。
負けてしまった……こんな即興で作ったコンビなんかじゃ到底届かない連携の前に、相手の次の一手を確実に潰しにくる気迫。気がつけば無意識に拍手がでてしまう程、完敗だった事を理解した。
「すごいわね、まさか鏡面の原理を利用して私達の居場所を特定したなんて……」
「おお流石アミたん!ふふん、地の利を生かして戦うのも我が師匠の教えのひとつなんだよ!」
タンクから漏れ出した油……あれには着火させる意図も地形の変化の意図もない、複雑なステージをどうにか工夫して手に入れられる情報を増やす作戦だった。
水たまりに周りの景色がぼんやり浮かぶのと同じ現象で、微かな光でも吸収しやすい黒い油は真っ赤なパンドラやナイトメアの白いパーツ部分を写し、死角を減らす鏡の役割をしていた。もっと早く気づけていれば、勝敗は違ったのかもしれない……今思えばステージを選んだのもオタレッド……してやられたわ。
オタクロスって、ただのオタクのお爺ちゃんってだけじゃなくてちゃんと教えることは教えてるのね。倶楽部ってよりセミナーなイメージなのかしら。
「レッド、そろそろ次の相手探そうよ。同じ相手からはもうポイント貰えないからね」
「そうだねイエロー。じゃ、また後で会おうじゃないか。海道ジン君に共に挑めるといいね」
後味の悪い結果となったのに、オタレッドとは気持ちの良い挨拶を残し、まだ見ぬ次の相手の元へ旅立った。
軽く手を振り返し、改めて仙道の方を見る。あまり今は話しかけたくないが、そんなことも言ってられない。
仙道はCCMを握りしめたまま固まって、額からでた汗が頬を伝い、目は見開いたまま動かない。なにが起きたか理解できていない……違う、理解したくないという心の声が聞こえてきそうだった。
「ほら、私達も次の相手探すわよ」
先ほどの大口を叩いていた勢いは何処へ行ったのやら……とりあえずDキューブの前から撤退し、反省も込めてさっきの戦いを思い出す。
完璧な連携と地の利を生かし、明らかにLBXのスペックが上の私達をいとも簡単に退けた……やはりこの大会ではバラバラに戦うべきじゃない。
私達は勝ちに来ているんだ、仙道はもう乗り気じゃないかもだけど……やっぱり私は勝ちたい!ジンと戦いたい!そしてジンにも勝ちたい!……でも今のままじゃ無理だ、だからそのためにはまずやるべきことがある。
「仙道、よく聞いて」
まだ心ここにあらずな仙道は、目線だけをこちらに向けた。相当ショックを受けたようだ、アルテミスの時とおなじ様な負け方をした……彼の富士山並みに高いプライドがもうボロボロだろう。だからこそ、今の私の言葉はきっと届く。そんな気がする。
「今日一回だけ負けたくらいでくよくよしないで、まだこれからなんだから……だけど今のままじゃ駄目、きっとジンにも届かないわ」
心を捻り出すように、自分の思いを言葉として口にする。これが有効打なんて思わない、仙道に届くかは分からない。でも歩み寄らなきゃ始まらないなら……私は。
「私は勝ちたい。だから力を貸して!あなたの……仙道の力が必要なの」
先ほどと同じように右手を差し出す。さっきの嫌味を込めた手じゃない、本心から勝ちたいと願った思いを込めた手だ。仙道は握り返してくれるかは分からない……それでも、この試合中だけでも。私達はパートナーなんだから……。
仙道の目線が私の顔から差し出された右手へと降りていき、じぃっと手を見つめていた。騒がしいはずの会場と対照的に、私達の間に生まれた沈黙が。時の流れを遅くしたように感じた。
「はぁ……やっぱ組むべき相手を間違えたな」
やはり駄目だった。精一杯の思いを伝えたつもりだったが、吐き捨てるような言葉で拒絶の意思を示されてしまった。昂ぶっていた鼓動が遅くなり不意に顔が下に向いて、今日を恨むように唇を噛んだ。
「……悪かったよ」
「え?」
らしくない言葉に顔を上げ、仙道と目が合った。なにかから吹っ切れたように目線を落としたかと思えばCCMをしまい、右手を私の右手に重ね優しく握った。先ほどは冷たいと感じた掌の温度は、今はすこしだけ温かかった。
「そこまで言われてしまえば、逃げ出すなんざ魔術師の名が廃れるな……いいだろう、元から俺も勝ちに行くつもりさ」
「仙道……そうね!私達ならできる!ジンだってギャフンと言わせられるわ!」
「ふ……当たり前だ、なんせお前のパートナーはこの俺様だからな」
思いが届いた!その事実に涙が出そうになるほど、嬉しくなり周りの目を気にすることもなく飛び跳ねる。仙道は相変わらず呆れたように見るものの、受け入れるように温かく見守るようだった。
ちょっとだけ気持ちが通じ合った実感で緊張が溶けていく、まだお互いに壁を感じるものの。ふたりを取り巻く空気が軽くなったのがわかった。
「で、どうする?なにかいい案でもあるのか。策士川村アミ様には」
「もっちろん、たくさんね!これからはちゃーんと従ってもらうからね!」
「……お手柔らかにな」
仙道の表情も和らぎ、私も決心を固めた。ここから始まる、ぎこちない二人だからこそ成し遂げられる。打倒皇帝への道筋が、ようやく幕を上げて開かれた。