星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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皇帝への道筋

 オタレッドとオタイエローとの戦いから少し経って。作戦会議とメンテナンスを終わらせ、私達は次の対戦相手を探す為に動き出していく。

 

 周りの空気としては和気あいあいとしていて、戦っている人達からメンテナンスをしている人達まで、皆それぞれの考えの元に行動をしている。その一方で、まだ目標ポイントに到達した人はいなさそう。流石に早すぎるよね、でもちょっと安心。

 

「で、お前がさっき言ってたような作戦でうまくいくのか?」

 

 タロットカードをまたポケットから取り出し、先ほどより吹っ切れたような顔をした仙道が尋ねる。タロットカードには『恋人(ラバーズ)』と書かれている、今日は逆には持ってない。

 

「それは……相手次第ね。でも大丈夫!オタレッド達みたいに完璧な連携を組めている人は居なさそうよ」

 

 会場を注意深く観察すればその理由はよくわかる。私のようになにも知らずに来た人もいるっぽいし、会場に来てから相手を探していた人達の方が多いのが予想できる。

 

 つまり、連携や作戦といった基礎が固まってないコンビが多いのが現状。即興コンビが私達だけじゃないのなら……ならまだ勝算はある、仙道と組めて一番によかったのがお互いの戦いのスタイルや癖を知っていること。今回はそれを利点に作戦が立てられる、これは短所であると同時に大きな長所にもなるとも思う。

 

 改めてルールを整理すると、これは時間内にどれだけ効率よく勝ち星を取りに行くかの勝負だ。つまりこの大会――。

 

「スピード勝負、どうやって効率よく相手を追い詰めて行けるかが鍵になる……さっきも言った通りに動けばかなり通用すると思うのよ」

 

「なるほど、ちゃんと考えているんだな」

 

 カードをしまい、やる気になったのか声色が上を向いた気がした。

 

「あなたの機動力に掛かってる、背中は任せて」

 

 仙道は二枚目のタロットカードを引いて、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「『塔(タワー)』の逆位置……まあいいだろう。お望みとあらば今日だけは従うまでさ」

 

 なにが言いたいかがイマイチ分からないけど、とりあえずわかったって事でいいのかしら?……本人はどこか満足そうに見えるし、まあ良しとしましょうか。

 

「おいまさか……仙道ダイキか!?」

 

 騒がしい会場に響く聞き慣れない声に顔を向ける、そこに立っていたのは見知らぬ青年だった。だいたい仙道と同じくらいの年、何処かの学生服であるブレザーを身に纏ったこれといった特徴の無さ……私は初めてみる顔だと思う。

 

 だけど仙道を知っているような口ぶり、でも名指しされた本人はちらりと彼の顔を見て、何事もなかったかのようにすぐにそっぽを向いた。

 

「えと……仙道のファンの人?そうなんだ、あんたにもちゃんと慕ってくれる人が居たのね」

 

「んな訳ないだろ女」

 

「お、女ぁ!?」

 

 こいつ、初めましての相手になんて酷いことを……。

 

「誰だ、お前」

 

 取り繕うことも無く、純粋な疑問を口にするように青年に語りかけた。仙道から放たれたたった一言に、顔を強張らせ信じられないと言いたげに口を開けて固まった。忙しない……用があるならとっとと言って、時間がもったいないのに。

 

「お、オレを忘れるたぁ……オレは万田。ここであったが百年目!今こそ、あの日の雪辱を晴らしてやる!」

 

 なんかカッコつけた青年は万田と名乗り、ポケットからサラマンダーを取り出し時代劇の印籠を見せびらかすように自慢げに掲げた。

 

 忘れたとは言わせない、そんな堂々とした態度に記憶に留めていない仙道。他人事のように意識を逸らしてしまった、ひとりでまだ騒いでいる万田を放置してとりあえず聞いてみた。

 

「ねぇ……本当に知らないの?すごい恨まれてるじゃない、絶対なんかあったでしょ」

 

「さぁな、多分前にどっかで戦った奴だろう」

 

 仙道にとって、因縁だと言って戦いを挑まれるのは珍しくもなんともないのだろう、世間話でもするかのように軽い口調で答えていた。

 

「なんでそんな適当なのよ、ちゃんと覚えててあげないの?」

 

「お前は今まで食ってきたパンなんか数える趣味でもあるのか?俺は無い」

 

 例え話をし、また意識を逸らし他のプレイヤーを眺めている。強くて有名になれば万田のようなのが絡んでくるのね……大変そう。

 

「あらマンちゃん、どうかしたの?」

 

「ん……げぇ!?」

 

 何処かで聞いたようなオネエ口調の主に顔を見て思わず声が出た。バレエダンサーのようなデザインの謎の服に花冠……ピンキーって名前だった筈。なんでよりにもよって!まさか、万田のパートナーって――。

 

「仙道ダイキ、どうせ対戦相手を探している所なんだろ?ならオレ達とやろうぜ」

 

 万田は挑発を兼ねてこちらに対戦を申し出てCCMを取り出す、ピンキーだけが訳がわからない様子できょとんとしている。見た感じ急きょコンビになった組なのね……でも正直イロモノがすぎる、普通の大会の筈なのになんでこんな濃い人達が集まってるのよ。

 

「なぜ俺様が雑魚なんかと戦わなきゃいけない、お断りだね」

 

 仙道は汚物でも見るかのような目線を向け、軽蔑の言葉と共に万田とピンキーから去ろうとする。慌てて会釈をして仙道に付いていこうとした、しかし万田は荒げた口調そのままに私達の足を止めようと必死に叫んだ。

 

「待て!いいか聞け魔術師。俺はあの日、ゲームセンターで無様に負けた時と違う……」

 

 真っ赤になって震えながら右手を顔の前で握り、力を込めながら急に語り口調で心情を聞かせてきた。急に怖い、時間がないのになんで付き合わされるのよ。

 

「リベンジだ、ステージはお前らが決めろ。生まれ変わったオレと戦え!」

 

「えー、コイツらと僕のカトリーヌとで戦えっての?」

 

「うっせぇなオネエ野郎!うだうだ言ってないで従えよ!」

 

 今度はマイペースを崩さないピンキーに吠え始めた、驚くこともなく対応しているピンキーに思うことはあれどふたりの様子を確認する。

 

 今日初めて組む相手とはいえ調和が取れていない……敵だけど心配になる仲の悪さね、余り物同士組まなきゃいけなかったと考えてしまう。仙道と組めたことは、ある意味ラッキーだったのかも。私もあっち側になった可能性もあるし、騙した恨みは消えないけどありがとう仙道。言葉には出さないけど一応感謝しておく……一応。

 

「相当ご立腹だから相手してあげたら?私は構わないけど」

 

「はぁ……安請け合いはしてないんだけどねぇ」

 

 嫌々CCMを取り出し「とっととしろ」と万田に言う、勝負を受けてくれたことがそんなに嬉しいのか顔をパッと明るくさせ。浮かれ気味にCCMを操作して、手続きを済ませた。

 

「峡谷ステージが空いている。そこでいいだろう」

 

「おう、目にもの見せて必ず勝ってやる!」

 

 張り切る万田の後を慌てたピンキーは小さな歩幅でついて行く。

 

「おい、わかってると思うが。しくじるなよ」

 

「ちょうどいいじゃない?腕試しと行きましょう」

 

 なにも知らないふたり相手に実戦と行こう。まるで悪戯を企む子供同士のように目を合わせ笑い、ジンへ続く階段に第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 ステージは『峡谷』、風が砂を巻き上げるこのステージの特徴はなんと言っても幅が狭い。切り立った崖が深淵まで誘うかのように深く、会場に設置されたステージで高低差が最もある。死角も多いので敵どころか味方の位置も把握しにくいステージ、オタレッド戦以上に連携が大事になる……だからこそ、あの作戦がうまく行けばいいけど。

 

 ガトリングを装備したサラマンダー、クナイを持ったクノイチ……一見遠近で役割が分かれているようにみえるが。万田は仙道、ピンキーは自らのLBXに意識がズレている……これは最も注目すべき点だ。読みが正しければ連携なんて取れないふたりを手玉にできる、絶対勝ってやる!

 

 両者のLBXをセットし、バトルスタートの音声が流れる。最初に飛び出したのは万田のサラマンダーだった。

 

「いくぜ、俺が一番だ!」

 

 銃口を仙道に向け、火花を散らしながら大量の弾丸を飛ばす。やはり仙道を狙ってきた、ここまでは予想通り。

 

「面白みもクソもない……」

 

 無策で突っ込んできたサラマンダーの攻撃をナイトメアは難なく避け、後ろに下がる。その後を逃がすまいと追っていき視界から消えた、手はず通り。

 

「グラン・ジュデ」

 

 ねっとりとした発音と共にクノイチが脚を180度開いたまま大ジャンプしてクナイを振り上げてこちらに掛かってきた、すぐさま後ろに下がりギリギリで躱すことに成功する。

 

「僕達の美しい動きの前に、君は手も足も出ないよ……ピルエット」

 

 今度はつま先立ちをしたクノイチは高速スピンでこちらに迫ってくる。アングラビシダスではフィギュアスケートで今はバレエってことね、相手が着飾るのならそれを利用するまでよ!

 

「美しいだけじゃ、私達には勝てないわ……よ!」

 

 パンドラが地面を蹴り上げ、砂煙を巻き上げる。美しく回転していたクノイチの全身に見事に砂が被り若干色がついてしまう。

 

「キャー!僕のカトリーヌになんてことを!?」

 

「ふふん、悔しかったらついてきなさい」

 

 砂を被せただけで悶えたクノイチに背を向け、峡谷の影に逃げていく。なにか叫びながらピンキーはパンドラを追いかけてきた。

 

 よかった、その場で留まられていたら作戦を変更しなきゃいけなかったから……後は仙道に上手く合わせることができればいいんだけど。

 

 ちらりと隣の仙道の方をみれば、向こうも心配だったのか目があった。私に気がついた仙道は意地の悪そうなしたり顔で軽く頷き、私も言葉にせずとも返事を返すようにウインクをした。

 

 舞台は整った、後は獲物が網に掛かるのを待つだけ。

 

「……どこ行きやがった?」

 

 ボソリと呟いたつもりだったのだろう、騒がしい会場内でも聞こえるくらい万田は苛立った声が響いた。ピンキーも同様に興奮と怒りのあまりパンドラを探すのに血眼のようだった。

 

「もう怒ったわ……アングラビシダスの時も、僕のカトリーヌに酷い目を合わせたあの子を――」

 

「舐めやがって……あの時の俺の名誉に泥を塗ったあいつを――」

 

「「絶対に許さない!」」

 

 先に動いたのは万田だった、峡谷の影からなにか見えたのかもしれない。興奮のあまりナイトメアだと錯覚して、確認もしないまま引き金を引いた……引いてしまった。すると会場内に響く程大きくて甲高い悲鳴が聞こえた。

 

「イヤァアアア!カトリーヌ!なにするのよマンちゃん!」

 

「え、あれ?」

 

 銃弾の的となり、ダメージを負ったのはナイトメアでもパンドラでもない。蜂の巣になったのはピンキーのクノイチだった。

 

 相当数の弾丸を近距離で浴びてしまったからか、いつブレイクオーバーしてもおかしくない程に満身創痍となってしまった。作戦通り、死角を利用した仲間割れ……オタレッド達とは逆転の発想だけど綺麗に決まった。勝敗はまだついていないのに、喜びで小さくガッツポーズを取ってしまう。

 

 そして美味しい副産物、怒ったピンキーが味方である筈の万田を攻撃し始めた。

 

「ちょ、なにすんだよ!敵は俺じゃねえって!」

 

「うるさい!僕のカトリーヌになんて酷いことを……許さない!」

 

 さっきのバレエの美しさは何処へ行ったのやら、ただクナイをがむしゃらに振り回し。有り難い事に強靭なサラマンダーにダメージを蓄積してくれている、攻撃し返したいだろう万田だがピンキーは一応味方。成すすべもないままガトリングで攻撃を受け流すのに必死になっている。

 

 なんとも可哀想な程に仲間割れを起こしてくれたものね、予想以上に上手く行った作戦に思わず仙道のようなどす黒い感情が湧き出てくる。

 

「そろそろ、フィナーレといこうか」

 

 『死神(デス)』と書かれたタロットカードを取り出し、私に合図する。コクリと頷き峡谷の上で見物していたナイトメアと共にパンドラを接近させる。

 

 内輪揉めの結果、お互いがボロボロになってもまだ続けるふたりの背後まで迫ってそれぞれ武器を構えた。

 

「な!?おいピンキー、敵が――」

 

「味方を信じられなかったあなた達の負けよ!覚悟しなさい!」

 

 力強い踏み込みで一気に距離を詰めていく、万田は事態の異常さに気付いていたようだけど逃げるにはもう遅かった。

 

 仙道とほぼ同時に斬り掛かった。仲間割れしたふたりはすぐに反応できず、大振りの一撃を食らい二機諸共青い光を放ってブレイクオーバーになってしまった。

 

 ようやく現状を理解し、CCMを落とすほどに崩れ落ちる万田と。Dキューブ内から自分のクノイチを救い出しメソメソするピンキー。相手としては物足りなかったけど、初勝利を飾らせてくれた事には感謝しなきゃね。

 

「やったわね!まずは一勝、この調子で行きましょう」

 

「あまりにも上手くいってつまらなかったが……まあいいだろう。とっとと次だ」

 

 ポイントの獲得を済ませ、万田達から離れる仙道を追って私もその横を歩く。最初はすごく心配だったけど、上手く行きそう……この調子ならジンにだって。

 

 気持ちが上向きになった私とは対照的に。どこか落ち着きがなく、焦りを見せ始めた仙道に気がついたのは……もっと後になってからだった。

 

 

 

 

 

 あれから勢いづいた私達は勝利を重ねていった。

 

 二戦目、三戦目は万田達と似た即席コンビを崩し、四戦目では逆に連携を読まれかけながらも、仙道の機動力と私の誘導で辛うじて勝ちを拾った。そして――。

 

 現在最後のポイントを獲得する為に、カブトとムシャの和風コンビと戦闘を繰り広げている、棍棒や太刀と言ったゴリゴリの力技をナイトメアとパンドラのスピードで追い詰めている。

 

「観念しやがれ、いくぞ川村アミ」

 

「オッケー、任せなさい!」

 

 壁際に追い詰めた敵にナイトメアと斬りかかる。ナイトメアが杖を振り上げカブトの脳天に直撃させ、パンドラも負けじとムシャに連続でダガーで切りつけた。

 

 二機が同時にブレイクオーバーとなり、私達は最後の勝利を勝ち取った。

 

「やったぁ!これで五勝目!」

 

 思わず声を出してその場で飛び跳ねた、隣で仙道もほっと肩を撫で下ろしているのが見えた。

 

 これで目標ポイントまで到達できた。ゴールに到達した……訳じゃないけど、ここまでこれた苦労を労う意味も込めてはしゃいでもいいだろう。

 

 対戦相手に感謝の言葉を送り、傍らで仙道がCCMを確認する。するとみるみる顔が暗くなっていき、画面を見せながら悔しそうに言った。

 

「どうやら遅かったようだ……」

 

「なにが?」

 

 画面には会場内でポイントを管理するアプリのとある一文を見せてきた、CCMの画面上には大きくメッセージが表示されていた。

 

「えっと……『規定ペアの数に到達しましたので』……『制限時間は残っておりますが、予選は』……予選は終了しました!?」

 

「チッ……してやられたな」

 

 戦車(チャリオット)と書かれたタロットカードを逆さまに取り出し、悔しそうに顔をしかめている。気持ちは有頂天からどん底へ、それと同時にステージに設置されたモニターも残り時間からアプリ内と同じメッセージが表示される。

 

 ああ、あんなに頑張ったのに駄目になってしまった。精一杯頑張ったから結果が必ず報われる訳じゃない、だけどこの悲しい現実に肩を落とすことしかできなかった。

 

「そうだ!枠内に入ってましたってオチは?」

 

「そうだったら、ちゃんと表記が変わる。俺達は……」

 

 言葉の続きを飲み込み、顔を逸らす仙道の姿をみて次の言葉が分かってしまった。

 

「そんな……じゃあ私達は……」

 

「……運がなかったな」

 

 折角ここまでふたりで頑張ってきた、目の前まで届きそうだったものが消えてしまった。作戦を練って一緒に歩んできたのに、残酷な結果になったことに胸が苦しくなる。

 

「ごめんなさい……私がもっと……もっと……」

 

 声が裏返り、掠れて涙が溢れてくる。情けない、あの時ああしていればとタラレバな後悔が涙になり溜まる。袖でいくら拭おうが悔しさが止まらず溢れて落ちる。謝らなきゃ、一緒になって頑張ってきた仙道に……ちゃんと。

 

「おい……」

 

 仙道がなにか言いかけた時、軽快な音に続いて会場内にアナウンスがなり響いた。

 

「仙道、川村ペア様。至急ステージ前までお越しください……繰り返します……」

 

 涙でぐちゃぐちゃの顔を上げ、アナウンスに耳を傾けた。何故私達が……。

 

「……どうやら天は俺達をまだ見捨てた訳じゃなさそうだ」

 

 ポケットティッシュを差し出しながら、あんなに落ち込んでいた仙道はいつものニヤけた顔に戻っていた。

 

「いくぞ、まだ終わっていないかもしれない。そうだろ?」

 

「うん……そうね」

 

 涙の後を拭き取り、最後に見えた一筋の光を目指して。ステージに向かった。

 

 

 

 

 

「つまり……枠を賭けて戦えってことですか?」

 

 アナウンスに誘われ絶望の底から救いあげたのはまさかの申し出だった。

 

 どうやらほぼ僅差で決まったようだったけど、相手があの仙道ダイキがいるのならばとジンへの挑戦権を賭けて戦いたいと言ってくれたらしい。盛り上がるのならそうしたいが、勝手には決められないから承諾が欲しいとの説明を受けた……なんという幸運!これは受けるしかないじゃない。

 

「仙道やったわね!チャンスよ、これは逃しちゃいけないわ!絶対勝ちましょ……仙道?」

 

 はしゃぐ私とは対照的に、仙道は睨みを効かせながらどこか一点を見ていた。不思議がりながら目線の先を辿ると、多分対戦相手だと思われる男子ふたり組がニヤニヤとこちらの反応を伺っていた。

 

 ひとりは薄紫のシャツに黒髪で男子にしては少々小柄な体格、対してもうひとりはがっちりとした体型で緑色のジャンパーに青いリストバンド。仙道と同じくらいの年齢なのかな、でもその顔にイマイチピンと来ていない。仙道の知り合いか因縁の相手なのかな?明らかに万田の時と態度が違う。

 

「風間……森野……」

 

 名前を呼ばれたふたりはしたり顔でこちらに歩み寄ってきた、ライトに照らされ顔が見えた瞬間に私も思い出した。たしかアルテミスで仙道とチームを組んでいたオルテガ使いの……でも、なぜここに?

 

「よおダイキ、まさかおれ達に先を越されるとは。ミソラ中一の番長が聞いて呆れるぜ?そんなガキ引き連れて、可哀想になぁ」

 

 最初に言葉を発したのは、風間と呼ばれた薄紫のシャツの青年だった。両方の掌を上に向けて、やれやれと言ったジェスチャーと共に首を振って煽るような言葉選びで話しかけてくる。

 

「その子が組んでくれたのか、騙して引き連れているのか……どちらにせよよくここまで稼いで来たな」

 

 森野と呼ばれたリストバンドの青年は腕を組んで様子を見つつ、仙道の顔色を伺っているように思えた。

 

「へぇ、アルテミスにどうしても出たいって土下座までしてたお前らだったのか。どこから嗅ぎつけた負け犬ども」

 

「な……させたのはテメェだろ!調子乗ってんじゃねーぞ!」

 

 煽った筈の仙道からのカウンターに乗せられ、風間が声を上げながらこちら側に来ようと身を乗り出す。興奮する風間の肩を掴み、森野が冷静に話を続ける。

 

「今はそんな事はどうでもいい、運営から説明は受けただろ?俺達は別に海道ジンと戦いたい訳じゃない」

 

 挑発に乗らず、肩で息をする風間と違い。場の状況を見て行動し、言葉の端々から大人びた様子が伺えた。

 

「お前を撃ち負かせるなら、こんな権利なんか犬にでもくれてやれる……だが、お前は違う。そうだろ?」

 

 森野はまるで仙道の性格を見透かしたような挑発、風間以上に強く深い恨みを込めているのが分かった。

 

 万田とは違う、根の深い恨みを前にしても相変わらずな仙道に事情を聞いてみた。

 

「仙道、そもそも彼らとの関係性は?アルテミス以外にもなんかトラブルあったでしょ」

 

「まあな、中学が一緒なんだ。俺を倒して番長の称号が欲しいからと執着されているんだ……面倒ばかりで参っちまうな」

 

 気怠そうな顔で予想通りの適当な返事。他人に興味なさすぎじゃない?それで今まで大丈夫だったのかしら。

 

「今どき番長って、郷田もそうだけど拘りすぎね」

 

「だよな、俺もそう思う……ともかく、奴らはミソラ中一の中じゃ結構な実力者だ。俺よりは弱いが手加減するなよ」

 

 最後の仙道の煽りが効いたのか、別の理由があるかはわからないが。我慢の限界で顔を真っ赤にした風間が森野の制止を振り切って仙道に向かって一直線に向かっていくのが目につき、咄嗟に体が動いてしまってふたりの間を遮るように入ってしまった。

 

「おい、なんだガキ……痛い目に遭いたいか?」

 

 風間の手に力が入り、私を見る目に怒気が籠った。一歩前に踏み込んだのを見て、仙道が殴られる!なんて思ってしまったのでなにも考えていない。でも仙道に酷い目に遭って欲しくない……じゃあなんて言えば。焦りと緊張から上手く回らない頭を精一杯動かして考えた答えをそのまま口にだした。

 

「ぼ……暴力はダメ!ちゃんと!正々堂々戦いましょう。元々その予定だったでしょ!?」

 

「あ?」

 

 足が震えて心臓が早鐘を打っている……でもここで引くわけにはいかない。恐怖に挫けそうになりつつも風間を真っ直ぐに見据え、思い切り言い放った。

 

「もんく……文句があるならLBXで決着つけてって言ってるの!そんなんだから仙道に勝てないのよこの無鉄砲!」

 

 精一杯に慣れない言葉を吐き出して風間を見ると、茹でダコのように真っ赤になって今にも拳を振りかざして来そうな勢いだった。恐怖で今度は私が固まってしまった。

 

「テメェ……この……んぐぅ!?」

 

 風間がなにか言う前に森野が持っていたハンカチで猿轡(さるぐつわ)のように風間の口に押し当て強制的に黙らせた。興奮する風間の抵抗は虚しく、体格の良い森野の腕の中に収まった。

 

「友が失礼をした、こちらとしてはリベンジの機会は失いたくない……ダイキを止めるべく、この大会に訪れた甲斐があった」

 

 腕の中ですっかりおとなしくなった風間を下ろし、私達に頭を下げた。仙道と同い年だと思っていた彼は、風間と仙道のふたりと違って大人びている。

 

「改めて、お前達に戦いを申し込む。受けてはくれないだろうか」 

 

「私は受けたいけど……仙道は?」

 

 ひとりでは決めるべきじゃないと振り返ると、少しだけ歯切れが悪く「好きにしろ」と呟き背中を向けた。

 

「決まりだな、じゃあ15分後。ここに集まってくれ……遅れないように頼むぞ」

 

「ぜってーぶっ壊してやる!足を洗ってまっとけよ!」

 

「風間、首だ」

 

 捨て台詞のような言葉を投げつけ、奥に引っ込んでいった。

 

 絶望の中に蜘蛛の糸のような救いが現れた。しかし、登るのは簡単じゃない。無鉄砲な風間に冷静な森野……このふたりの妨害をくぐり抜けなければその先にはいけない……なんとしても勝たなければ。

 

「川村アミ……」

 

 どこか暗い声色に振り返ると、顔面蒼白な仙道が冷や汗を垂らしながら、静かに絶望的な事実を告げた。

 

「少し……話がある。俺は次のバトルに出れないかもしれない」

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