星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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※原作と比べ過度な
・解釈違い
・独自解釈

が発生しています、ご注意下さい


塔の未練

 仙道の突然の自白から少し離れた場所へ、作業スペースのメンテナンスエリアを借りていた。急な仙道の自白に戸惑いつつも、呼吸を整え話を切り出した。一体何故?あんなに一緒に勝ってきたのにどうして?そんな言葉をまずは飲み込んで。

 

「ねぇ、さっきの続き聞いてもいい?」

 

 暗い顔のままの仙道はナイトメアを取り出し、胸部のパーツを外し私の方へ振り返り言葉を続けた。

 

「すぐに分かる、少し離れて見てろよ」

 

 コアパーツが格納されている場所を開けると、仙道が眉を寄せ深いため息を零す。

 

「想像はしていたが、かなり膨らんでいる。どうしたもんか……」

 

 ナイトメアの心臓部を開き、その異常なまでの光景に言葉を詰まらせ固まってしまう。そこには異様に膨らんだバッテリーと黒く変色して焦げたモーターが目に入った。今にも爆発してもおかしくはない状態を目の前にして、情けなく言葉が詰まった。最悪バトルの最中に破裂でもしようものなら……。

 

 こんな状況になってでも仙道は何も言ってはこなかったし、そんな素振りすら見せなかった。やはりと言っているあたり予兆があったのだろう。LBXのトラブルには慣れているようだが、一言なにか相談してくれてもよかったんじゃないの?

 

「モーターの過熱が原因だろう。伝導でバッテリー内にガス発生したかなにかで連鎖的な膨張……よりによって今起こるとはな」

 

 冷静な自己判断をしている反面声のトーンは徐々に下がって、目の奥の光が消えていく。今までの余裕綽々で傲慢な『あの』仙道が焦りを見せているのに、なんて声を掛けていいか分からず息を潜めて見ていた。

 

「とりあえず、騙し騙しで動かせるか……いや、ナイトメアの性能にデメリットをかけてまでバッテリーに圧はかけられない。かといってモーターもバッテリーも替えが利かない……相手はよりにもよってだ」

 

「ねぇ……仙道?」

 

「とりあえずコアスケルトンは無事だ、摩耗が激しいが動かないわけじゃない。なんとか誤魔化してでも戦えないだろうか、いやそれは危険か。ならば……」

 

 繰り返し独り言を漏らし、ピンセットの先を微かに震えさせながら慎重に風船のようになったバッテリーを抜き取った。

 

 いつもなら余裕そうに皮肉のひとつでも言いそうな筈なのに、今の仙道は誰も見ようともしないまま。ただピンセットまで伝わる程に指先を震わせ、ナイトメアを睨んでいる。

 

 余裕のなさそうな彼の様子に、私はなんて声を掛けるべきかわからない。いつも通りの気が利いて薄っぺらい言葉がいいのか、声援のような背中を押す言葉がいいのか。情けない話だけど、どうしていいかわからないまま。後悔に蹲る背中を眺めていることしか出来なかった。

 

「リチウムが原因だったか?いやそんなことは……じゃあこの前買ったモーターのトルクが……でも計算上に大きなズレは無かった。コアスケルトンに破損はないからベアリング交換やこれ以上の摩耗の心配はない。早く……早く直さないと……」

 

「ねぇ、パーツの予備とかは?」

 

「ある訳ないだろ!?あったらこんな風になるまで放っておかない。ナイトメアにしてから予備は殆ど使わなくなっていた……驕りが仇となったか、せめてモーターだけでも直すか……でもそれだと設備も時間も……」

 

 遂には頭を掻きながら寒くも無いのに体が震え始めた。声は更に小さくなり、作業台に置かれたメモ帳に何かの数式や小難しい単語を書き殴り始める。仙道の想像以上の変貌ぶりに驚きよりも先に疑問が前に来てしまう……何が仙道をそこまで動かしているのかと。

 

 出会った頃からそうだった、仙道は異常なまでに『勝利』に拘っている、初めて会った時からずっと。

 

 バンやジンのような強敵にさえ、例え卑怯な手を使っても勝とうとしていた。その異常なまでの執念を仲間になってからも崩すことなかった。

 

 アキハバラタワーで仙道にバンが「LBXが好きなんでしょ?」との問いかけに口を閉ざしたこともあった。純粋なバンの目から見えた仙道はそう映ったんだろう。

 

 でもずっと違和感が残っている。好きなだけなら、どうしてそこまで勝利に拘るのか。なぜジョーカーを三機同時に操ったり、ジョーカーMk-2のような高性能なカスタマイズを成し遂げたり等の領域まで行けたのか。好きなだけでは説明がつかないその熱意と執着は、仙道のなにを駆り立てているのか。私はなにも知らない。

 

 そうだ、私なにも知らないんだ……だから今の仙道の焦りや絶望が『理解出来ない』だけ。仙道にまだある壁の正体はきっとこれだ、なら次にするべきことはひとつしかない。

 

「仙道」

 

 肩を落として小さくなってしまい、この世の終わりだと言いたげな顔でこちらを見る。憔悴しきったその目は暗く、オタレッド達に負けた時以上に絶望しきった顔だった。

 

 魔術師の仮面が剥がれ落ち、何となく素の仙道ダイキの……ひとりの人間の、深い場所を覗いてしまうのではと一瞬たじろいでしまう。でも、ここまで来たんだ。仙道のように知識はない、経験はもっとないけど……私はそれ以上にこの大会で勝ちたい!諦める訳にはいかない!だから、ちゃんと歩み寄らなければいけない。

 

 大丈夫、さっきも上手くいった。だからきっと今だって上手くいく。

 

「私になにか出来ることはない?手伝うわ」

 

 丁寧に言葉を選び、傷を与えないよう優しい口調で話しかける。事実なにか行動を起こせば結果は少しでも良くなる、なにも出来ないままでは終わりたくない。肩から鞄の紐を取って、作業台の上に鞄の中身をひっくり返した。細かい物が机の上に散らばり、空っぽになった鞄は横に置いて、とりあえずなにか役に立つものがないか探し出す。

 

「細かいことはよくわからないけど、バッテリーの膨張を抑えればいいのよね?なら、なにか使えそうなものがあれば使って」

 

 ハンカチ、リップクリーム、LBX用のメンテナンス一式セット、お財布に電車の定期券……駄目だ、何ひとつ使えそうなものが出てこない。どうすればいい?少なくとも今の状況を打破する為には。

 

「どうして、そこまでするんだ」

 

 隣から聞こえた、今にも掠れるような声に思わず手を止める。横を見るとこちらとは目を合わせずまだ俯いたままだけど、もう諦めてしまったようにナイトメアをぼんやり眺めていた仙道だった。

 

「どうしてって……一緒に勝ちたいからよ、それ以外に理由は無いわ。あんただってそうでしょ?あんな好き勝手に言われて戦わない選択肢がないもの」

 

 自分の中の思いをつい勢いに任せてぶつけて、ハッとして口を押さえる。落ち込んでいる人には逆効果だって……似たようなことしてカズを責めてしまった前科があるのに、またやってしまった。

 

 私の意気込みを聞いても変わらず。仙道はついに両手で顔を覆ってしまい、丸めた背中がいつもより頼りなく見えた。

 

「もう無理だ、モーターもバッテリーも替えがなければどちらにせよナイトメアは戦えない。俺が……俺が――」

 

「だから!まだ終わってない、きっとなにか出来る筈。あんたは駄目だって思ってるかもだけど、私は最後の1秒がまだあるなら諦めたくない!」

 

 らしくない弱気な仙道に、らしくない程声を張り上げ一喝してしまう。

 

 その瞬間、顔を少し上げた仙道と目があった。いつも嫌味を溢し誰も彼も極端に避け、いつも誰かと壁を作っていた仙道。その仙道が今まで誰にも見せたことのない取り繕うことを辞める程。脆い内面をさらけ出しているようで、次の言葉がつい詰まってしまった。

 

「もういい加減に……ん?」

 

 諦めの言葉でも言いかけたのか、こちらを睨もうと首を動かしかけた仙道だったが、何かを見つけたようで拾い上げた。

 

「おい、これお前のクノイチだろ。何故ここにあるんだ」

 

 片手で抓み上げるように拾い上げたのは、ピンク色に塗装されて力なくダランと項垂れている私のクノイチだった。

 

「あ、あった!忘れてきたのかと思っちゃった」

 

 クノイチを受け取り胸部のアーマーフレームを開け、コアパーツ部に手をかけネジを外す。

 

 確かあった気がする……これが最後の希望だ、後は可能性に賭けるだけと願いを込めてネジを外し切る。

 

 そっと蓋を持ち上げ中身を確認して覗き込む、不思議そうに見守る仙道を横目にほっと胸を撫で下ろした。目的のものがバッチリあったからだ。

 

「よかった、中身はそのままで」

 

「なぜ持ってきた。あったとしてももう使わないだろう」

 

「お守りの代わりよ、パンドラになにかあったらってことで念のため連れてきているの」

 

 クノイチを掬うように持ち上げて、ナイトメアの隣にそっと置いて上げた。

 

「ちょっと型は古いかもだけど、このモーターとバッテリーをナイトメアに使えないかしら?LBXを変えることは禁止だったけど、コアパーツはカスタマイズの範囲内だからセーフよきっと」

 

 希望が見えたことではしゃぐ私とは対照的に、肩を落としたままの仙道は。自らのCCMを開いてクノイチのモーターやバッテリーの性能を検索し、またメモ帳に何か書き出す。

 

 しばらく何かを書き終えて納得はしたのか、今までの不安げな気持ちを振り払うようにペンを持っていない右手で口元を抑えた。

 

「性能は劣るだろうが……一応使えるだろう」

 

 次にクノイチを手に乗せてコアパーツの状態を確認し、問題はなさそうかまじまじと見ている。真剣に観察する横顔はいつも通りで、ちょっとだけ調子が戻っていたようだった。

 

「それならよかった、使えそうならとっとと準備しましょう。あのふたりやジンにも勝たなきゃいけないんだからね!」

 

 ナイトメアが試合に出られない……そんな危機から紙一重で抜け出せた。一時はどうなるかと冷や冷やしたけど、最悪の事態は免れたことに胸を撫で下ろした。後は仙道がナイトメアの調整が済めば――。

 

「……聞かせて欲しい」

 

 冷たい声に喜んでいた私の動きが止まった。振り返るとクノイチから丁寧にモーターを取り出している。冷静を装いながら、どこか落ち着きがなく、まるで尋問を始めるように話しかけてきた。

 

「お前はなぜ、勝ちたいと思う。お前はなぜイノベーターのような凶悪な組織に立ち向かえる。お前を動かすその『動機』とはなんだ?」

 

 仙道から出てくると思わなかった単語に、心臓が大きく跳ね上がった。

 

「……なんで、あんたがイノベーターのこと……知っているの?」

 

 考えた言葉がそのまま口から出てきてしまう、それくらい仙道はイノベーターとは無縁な立場だと思ってたから。興味があるどころか名前すら知っているのが意外だった、いつ聞いたんだろう。

 

「少し前に郷田から聞いた、シーカーに入れと言われてな。一応協力するとは答えた……だが」

 

 作業の手は止めず、ひとつひとつの言葉をゆっくりと紡いでいく。先ほどは焦りで剥がれそうになった虚勢の仮面だったけど、今の仙道は自分の意思で外して、私に問いかけているように思えた。

 

「山野バンや海道ジンなら話は別だ、あいつらには戦う理由が明確だからな」

 

 ナイトメアから溶け出したモーターを抜き取り、新しいモーターを入れていく。ちらりと見えた先で、少しピンの先が震えていた。

 

「だが、お前は違う。何かの因縁があるだとか、大義の為にだとかでもない……どちらかと言えば守られるべき立場にある」

 

 バッテリーを配置し終え、コアパーツに蓋を被せネジを嵌めてドライバーを握りしめた。

 

「じゃあどうして、何をそんなにお前は戦える。危険な目にあえる……お前は、普通の――」

 

「仙道って意外と馬鹿なのね」

 

 アーマーフレームを元に戻し終えた手が止まり、眉間に皺を寄せてこちらを見た。あまりにも弱音を吐き続ける仙道に、ちょっと思うことがあって咄嗟に文句を溢してしまった。

 

 突然の私の暴言に驚いたのか、言葉が声になっていない。硬直したままなのを良い事に勝手に話を続けた。

 

「ほんと馬鹿よ、ただ守りたいものがあるってだけなのに。なんでそんな堅っ苦しいことなんて考えるの?……郷田以上の大馬鹿よ」

 

「馬鹿何回言うんだ……俺は真剣に――」

 

「そうよ、みんな守りたいものの為に真剣にやっている。それだけなのよ。誰もそれ以上の理由はないわ、適材適所よ。私達のLBXの実力が世界の平和に繋がるから頑張っているのよ」

 

 自分の心を感情のままに口にしてしまった。なにか話そうとする仙道の言葉を遮り、溢れ出る感情を言葉として吐き出す。

 

「それにね、イノベーターに私達が負ければ……またLBXは危険なものになっちゃう。私は嫌よ?クノイチやパンドラと一緒にいれないなんて……だから私は好きを守る為に戦って強くなりたいの!」

 

「好きを……守るためって、それだけの為に?今まで命を懸けたってわけか?そんな馬鹿な」

 

「私の強さの秘密の原動力はたったこれだけ……そしてね、この大会にイノベーターは関係ない。それでも勝ちたいって思えるのは、大好きなLBXを諦めたくないから……あなたは違うの?」

 

 その問いかけに対しての後ろめたさか、深く息を吸い込んで目線が泳ぎ、なにかを言い淀んでいた。長い沈黙の末、仙道なりの結論を話し始めた。

 

「俺はただ……認めたくないから、勝ちたい」

 

「認めたくないって?」

 

 私が繰り返した言葉に一瞬ビクついたかと思えばドライバーを机に置いて、腕が不安を拭うようにジャケットのポケットをまさぐった。仙道の癖なのか、不安なことがあるとタロットカードを触っている気がする。

 

「俺が俺だと証明できるまで。この『手段』があり続けるまで、勝たないといけない……ただそれだけだ」

 

 震える手でタロットカードの『世界(ワールド)』を取り出し、自分を安心させるように眺めている。

 

「仙道、あなた――」

 

 言いかけた時、アナウンスが5分前だと告げる。急いでナイトメアを手に取り、椅子から立ち上がる。その顔はまた分厚い仮面を被ったいつもの仙道の顔に戻っている。

 

「時間がない、手短に説明しておく」

 

 冷静に振舞おうと淡々と話し始めたが、言葉は尻すぼみに小さくなり視線が下がっているせいで猫背になってしまっている。あの自白の意味をもっと聞きたがったけど、きっと今じゃない。今は話に集中しなきゃ。

 

「今のナイトメアは分身ができない、スピードも従来より大分劣る。必殺ファンクションすらまともに打てるかどうかだ……」

 

 書きなぐったメモを読み上げながら最悪な状況をひとつずつ語りだす。

 

「先ほどまでは余裕だったろう、だがこれからは違う。バトルの途中で止まる心配はないにせよ、俺の得意分野が殆ど使えなくなった今。戦況は大きく向こうに傾き絶望的だ、このままだと勝ち目は無い」

 

「そう、それで?」

 

 意を決したように、メモを片付け道具をしまい。改めて私の方にまっすぐ向き直った仙道の口が開いた。

 

「作戦の変更だ、どちらにせよ今までの小細工が通じる相手じゃない。それで、ひとつ提案がある」

 

 話す度に言葉がはっきりと、声色が上向きになっていく。慣れない言葉を口にしているからか腕を組み目を閉じて一呼吸してから最後の言葉を話し始めた。

 

「この作戦はお前のパンドラに全て掛かっている、任せたぞ」

 

 ポケットから一枚のタロットカードを差し出して、私の方に差し出してきた。戸惑いながらも受け取り絵柄を確認すると、そこには煌めく大きな星と白いパンドラが描かれていた。

 

「タロットの意味はよく分からないけど、それで勝機が見いだせるなら。やりましょう!」

 

 ふたりで念入りに作戦内容を確認し、風間森野ペアが待つであろうステージに向かう。

 

 緊張で体が重い、顔が熱くなり心拍数が上がる……しかも仙道は満足に戦えない、準備が万全にできなかった不安からいつものような強気な態度を見せていない。

 

 だから私がやるんだ、もう横でサポートに専念するだけじゃ駄目。前に力強く踏み出す勇気を、そのための呪文を口に出す。

 

「大丈夫、きっと上手くいく」

 

 小さな希望と共に、仙道から託されたタロットカードをポケットに忍ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 ステージ前まで向かうと、参加者が開始を今か今かと待ちわびて集まっている。イレギュラーな戦いだろうがいい余興として楽しみにする人、早く海道ジンを観たい気持ちで待つ人等でガヤガヤと騒がしい。来たことをスタッフに伝え、案内されるまま森野達が待っているステージに上がった。

 

 私達に気がついた風間が 準備万端だと言いたげにポケットに手を入れニヤリと笑い、森野は組んでいた腕を解いてこちらに向き直った。

 

「遅かったじゃないか、逃げ出しても良かったのに。なぁ森野」

 

「それじゃ面白くない、俺達はダイキに一矢報いなきゃいけない……だろ?」

 

 ふたりのもう勝ったと言うような態度にまず切って入ったのは仙道だった。

 

「なんだ、お前らこそ尻尾を巻いてトンズラしなくて良かったのか?逃げる時間なら腐るほどあっただろう。ほら、丁度いいから逃げたらどうだ?」

 

 『(ムーン)』と書かれたタロットカードを取り出しながら、いつも通りに仙道は煽る。その言葉に真っ先に反応したのは……血の気が多い風間だった。

 

「その腹立つ二ヤケ面を、おれ達の前で二度と出来ないよう叩きのめす!」

 

 鼻の穴を膨らませ、真っ赤になった顔で必死に堪えながら小さな反撃の言葉を吐き捨てたが、森野が制止に入っていた。

 

「安い挑発に乗るな、どうせただの強がりだ……それにダイキの隣の女、思い出したぞ。アルテミスで優勝したあの山野バンと共に参加していたプレイヤーだったな」

 

 憐れむような目線を私に向け、ため息を零しながら話を続ける。

 

「名前はなんだったか、印象の薄いそんなおまけ程度の奴しか組んでくれなかったとは……」

 

 言葉を選んで私には傷をつけないようにしているだろうが、かなり高火力に飛び火している。アルテミスで確かにはっきりとした活躍はしなかったけど、そんな印象薄くないし。

 

「随分としょうもない遺言だな、魔術師に切り刻まれたくてたまらないんだろう?とっとと始めようぜ」

 

 挑発的な言葉を敢えて選ぶかのように、仙道がふたりを煽りナイトメアを取り出した。

 

「ケッ……ステージはこっちが決めさせて貰ったぜ」

 

 風間がポケットからDキューブを取り出し、ボタンを押し投げる。展開されたステージは『現代都市』……アルテミスで仙道が仲間を捨て駒にし、奇しくもオタレッドに敗れ去った因縁のあるステージだ。

 

 開始を待ちわびていた人々から歓声があがり、会場のボルテージは一気に上がった。

 

「リベンジマッチだ、おれ達に懺悔しやがれ」

 

 風間と森野はそれぞれのLBXを取り出す。ふたりともオルテガのようだが風間はハンマー、森野はランチャーを装備してる。オルテガはテクニカルな操作性が必要な反面、高性能な攻撃力を誇る。骸骨を想像させるその見た目でファンが多い機体のひとつだ。

 

 仙道がアルテミスに連れくる程の実力者なのは間違いない、緊張で力が入っているのが分かる。覚悟しなくては、ここで負ける訳にはいかないのだから。

 

「そうだな、戦いの前にひとつ予言をしておこう……」

 

 いつの間にタロットカードの『吊し男(ハングドマン)』を逆さまに取り出しながら、未来を見据えているかのように語り出す。

 

「お前らは自らの『驕り』により破綻する。自らの策に溺れ俺達の前に跪くだろう……と」

 

 相手を心の底から見下すような冷たい目線と中二病チックな小洒落た言い回し、傍からみればみんなが知っている仙道なんだろうけど……私はそうは思わない。

 

 今の仙道はかなり無理をしている、横に並んだ仙道の首筋が薄っすらと汗ばんでタロットカードを持つ手は小さく震えていた。きっと平常心を保つために虚勢を張るので手一杯なのかもしれない。作戦とはいえ、辛そうにしか見えない。

 

 ふと、仙道の発したあの不可思議な言葉を思い出す。

 

「俺は……認めたくないから、勝ちたい」

 

 仙道はなにに怯え、なにが『仙道ダイキ』を作り上げているのか。気になる反面、一個だけ分かる。

 

 今の仙道の勝ちたい気持ちは私と同じ、いやそれ以上だってこと。私ができることは、それに答えること……大丈夫よ、私達は必ず勝つ。勝ってジンに辿り着く。

 

 パンドラを設置し、全てのプレイヤーの準備が整った。

 

「お待たせ致しました。ただいまより、海道ジン戦の最後の挑戦権を賭けて。風間森野ペア、仙道川村ペアの試合を開始したいと思います」

 

 司会者がマイクを握り話し始め、会場の目線と熱狂が私達に降り注ぐ。じっとりとした空気とあまりにも重いプレッシャーの中、CCMに『バトルスタート』の音声が鳴り響いた。

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