星と魔術師   作:ワンダ・プレイア

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魔術師と塔

 高さを競うように並ぶビル群、その隙間から差し込んだ光がアスファルトに鋭い影を落とす。画面越しに排気ガスと無数の無機物の熱を感じそうだ。車は動かず人もいないのに……ここがジオラマであることをつい忘れてしまいそうになる。

 

 向こう側には、この街並みと合わないオルテガが二機。不気味さが際立って禍々しさをCCM越しに感じてしまう、まるで私達が特撮ヒーローで風間と森野のふたりが怪人……どこか最終決戦のような緊張感に胃から酸っぱいものが上がってくる。

 

 ここはゴールじゃない、スタートだ。私達が新しく歩むためにようやく立てたスタートライン、だから負けない。

 

 CCMから『バトルスタート』の音声と同時にハンマーを構え、ブースターの勢いに任せ風間のオルテガが仙道にまっすぐ突っ込んできた。

 

「喰らいやがれ!」

 

 勢いのまま地面を蹴って飛び上がり、ナイトメアにハンマーを振り下ろし急降下していく。

 

 攻撃を躱そうと後ろに下がろうとした仙道だったけど、操作の入力が遅れたのか……はたまたやはりLBXの不調なのか。ナイトメアの反応が遅れ、防御の姿勢も取れず攻撃をモロに喰らってしまった。

 

「よっしゃ!まずは一発!」

 

「ちぃ……小癪な!」

 

 ナイトメアが薙ぎ払いを試みるも風間のオルテガは後ろに下がって華麗に避ける。杖の振るうスピードだけじゃなく、パワーも劣っている……私の予想以上にナイトメアは弱くなっている。

 

 ちらりと横目で確認すれば、最初の一撃でペースを乱されたのか。仙道から焦りを感じた……普段はこれくらいなんともない筈なのに、メンタルが安定していないのも原因なのかもしれない。

 

「おいダイキどうした!?何故いつも通り戦わない!」

 

「そんなに壊されたいのなら……望み通りにしてやる!」

 

 森野がランチャーの引き金を引き、火柱を上げながら弾道ミサイルを撃ち出し、ダメージによって怯むナイトメアに向けまっすぐ飛んでいく。

 

 ナイトメアが杖で防御しようとするも後ろに回り込んでいた風間オルテガの大振りなスイングによって打ち上げられ、飛ばされた空中でミサイルと衝突した。

 

「くそ、操作がうまい具合反応しない……」

 

「今日は随分とおしとやかなんだな、そんなに壊されたいか」

 

 森野の挑発に歯を強く噛んだ音で対抗し、CCMに的確にボタンを押してナイトメアを立ち上がらせた。でもすかさず二発目が打ち出されたランチャーの弾とハンマーの攻撃の挟み撃ちになって被弾してしまう。

 

 いくらナイトメアが弱体化しているとはいえ、あの仙道を前にして連携を見せ確実に大打撃を喰らわせている。何とか踏ん張りを見せるナイトメアだったが……ゲージを見る限り消耗が激しい。このままではやられてしまう。

 

「仙道、やっぱもう無理よ。もう下がって!」

 

「邪魔すんな!ガキ!」

 

 ナイトメアの逃げ道を作ろうと風間のオルテガの背後に回ったが、それすら読まれていたようでオルテガのハンマーによる薙ぎ払いを大きく喰らってしまった。

 

 防御を取ることも出来なかったパンドラは勢いよく吹っ飛ばされ、そのままビルの壁に打ち付けられた。

 

「パンドラ!」

 

「相手にするな風間、所詮あの子は脅威にならない。獲物は……ダイキただひとりだ」

 

 もう勝った気でいるのか、余裕そうにニヤつく森野はランチャーをナイトメアに向ける。風間のオルテガも余裕そうにハンマーを肩に乗せ、本人も目をギラつかせて笑い声を漏らしていた。

 

 ふたりの表情を見れば、風間はにやにやとして、森野も落ち着いて振舞おうとしているものの表情が緩んでいる。もう勝ちを確信している……いや、してしまっている。

 

「案外呆気なかったが、まあいいだろう。風間!」

 

「ああ。ダイキ、お前の気取った言葉を借りるとするならば――」

 

「「フィナーレといこうか!」」

 

 二機のオルテガがナイトメアにだけ意識を向けた、風間はハンマーを手に走り出し。森野はランチャーを構えその引き金を引いた、放たれた弾は確実に仙道のナイトメアに向かっていく。

 

 パンドラを向かわせようにも、CCMの操作がうまくいかない。手が嫌な汗で湿る程に絶望的な状況下、考えれば考える程に思考が鈍って。目の前のナイトメアへ、一歩が踏み出すことが出来ない。

 

 私が頑張らなきゃいけない、だからこそ……焦るな、私。

 

 ランチャーの弾道はナイトメアを貫き辺りに噴煙を撒き散らした、噴煙が失態を隠すように辺りに広がりだす。

 

 辺りを見渡すと。ナイトメアにハンマーを振りかざす風間のオルテガが見えた、ナイトメアはピクリとも動かず。刑が執行されるのをただ待つ囚人のようにぐったりとしていた。

 

「おれ達の前に跪け、ダイキ!」

 

 風間のオルテガが振り上げたハンマーをナイトメアの脳天目掛けて振り下ろした。

 

「全く、だからお前らは駄目なんだ」

 

 深いため息が聞こえる、操作する手を止め。まるで預言者のような口ぶりの中、いつの間にか取り出した『女教皇(ハイプリエステス)』のタロットカードを逆さまに指に挟んで、ふたりを心底軽蔑した言葉を吐き捨てた。

 

「俺以外に見向きもしない節穴がよぉ……今だ!」

 

「まかせて!」

 

 がら空きになった横腹を目掛けてパンドラの飛び膝蹴りが炸裂する、すぐに反応できなかったオルテガは。大きく吹っ飛ばされてかなりのダメージを喰らって床に叩きつけられた。

 

「風間!この野郎――」

 

「黙って指でも咥えておけ」

 

 ランチャーの銃口をパンドラに向け一瞬でも意識がズレた森野の元に、ナイトメアがヒートグレネードを投げ当てた。無事直撃した森野のオルテガはオーバーヒート状態に陥り、動きが鈍っていく。

 

「これで集中できる、仙道の作戦通りね」

 

「ああ、間抜けの言葉を借りるとするならば。案外呆気なかったな」

 

 形勢逆転の事実に信じられないと口を開けて固まる風間、悔しそうに歯を軋ませ恨めしそうに仙道をただ睨む森野。仙道が言っていた通りに事が運んだ、ここまでは予想通りだ。

 

 

 

 

 

「えぇ!?仙道が……囮になるって、どうして?」

 

 すこし遡って試合前の作戦会議中、仙道から聞かされた内容があまりにもシンプルで大きな声が出てしまった。

 

会場が騒がしかったのが幸いして目立つことは無かったにせよ、ちょっと恥ずかしく周りを確認してしまう。

 

「単純だ、奴らは俺しか見えていない。しかもさっきの話ぶりからしてお前の事は殆ど知らないと言っても過言じゃない……ならば」

 

 さっきまでなにかを書いていたメモ帳を裏返し何かの絵を描き始めた、その様子を黙って見守り次の言葉を待つ。

 

「あいつ等は俺が絶対的な脅威だと思っているだろう、実際そうだ」

 

「それ、自分で言っちゃうんだ……」

 

 横槍を入れてしまって癪に障った仙道に睨まれてしまう、すぐ思ったことを口に出してしまった私も悪いので軽く謝り続きを催促した。

 

「だから狙うのはナイトメア一択だろう、実力が見えている相手だからこそ真っ先に排除にかかる筈だ」

 

 メモ帳にオルテガ二機がナイトメアを攻撃する絵を描き上げる、デフォルメされているが結構上手。こんな所で披露しなくてもとは思ってしまうけど……今度色々なLBXを書いてもらおうかな。

 

「対してお前の実力はわからない、だが観察力のある森野はきっと気づくだろう。お前が山野バンとアルテミスに出ていた事を、それを逆手にとって欺く」

 

 新しいメモ帳に変え、パンドラがオルテガ二機をやっつける絵を描いた。

 

「山野バンに隠れて実力を十分に見せていない、あいつらの性格を考えるとお前は後回しにされる筈だ。だからこれらを纏めると……シンプルな戦略が大きく刺さる」

 

 ナイトメアとパンドラが、目をバッテンにして倒れるオルテガ二機の上でハイタッチしている絵を描き上げた。絵の上手さに引っ張られそうになりつつも冷静に作戦会議に思考を戻す。

 

「そう……なのかしら?彼らだってそこまで単純じゃないだろうし、ちょっと無理があるんじゃないの?」

 

「だから戦いが始まる前、そして始まってからもお前はなるべく喋るな。執着を利用して俺にヘイトを向けさせる。心理戦は戦う前から始まっているからな」

 

 肩をすくめてにやりと笑い強気な姿勢を見せている、ちょっと調子が戻った仙道を見て胸を撫で下ろした。

 

「それにな、孫氏に面白い言葉がある。『能にしてこれを不能を示し、用にしてこれを用いざるを示す。』」

 

「能力があるのにあえて無能に振舞う、敵を欺き判断を誤らせるって意味でしょ?」

 

「知っていたか。なら話が早い……」

 

 一呼吸置いて、とても単純かつシンプルに作戦を纏めた。

 

「意識が俺に集中し、ふたりが勝利に酔いしれた時に仕掛けろ。俺がサポートしてやる」

 

 

 

 

 

 あの言葉があったから私も仙道を信じて良かった、あいつの……人を一切信じなかった魔術師の言葉を。

 

「森野のサポートが無くたって、おれひとりで戦える!」

 

 態勢を立て直しハンマーを構え直す風間、今度は勝てそうなパンドラにハンマーを振り上げ突っ込んでくる。その単調な力業は冷静な森野のサポートが無ければ怖くはない。

 

「そこ!甘い!」

 

 ハンマーを乱雑に振り回し始めた風間のオルテガ、大振りな攻撃の合間にダガーで反撃してダメージを蓄積させて一歩引いてを繰り返す。小さくとも確実なダメージが積み重なり、みるみるオルテガのLPが減っていく。

 

「風間!相手のペースに乗るな、もうすぐ……あと少しでオーバーヒートが――」

 

 CCMで状態異常の有無を確認していた森野、その一瞬の隙を仙道は見逃さなかった。

 

「予言しただろう?お前らは驕りによって、俺『達』に跪くと」

 

 森野のオルテガの後ろに忍び寄っていたナイトメアが腹部にナイトメアズソウルを貫通させていた、森野がオーバーヒートの解除が終わる前にオルテガが青白い光を放ってしまい。森野の奮闘虚しくブレイクオーバーとなってしまう。

 

「嘘……だろ?」

 

「森野!」

 

 反射的に森野を見たせいで、風間のオルテガの動きが止まった。その一瞬を見逃さないパンドラが武器を構えた。

 

「よそ見したわね、あんたの負けよ。必殺ファンクション!」

 

 パンドラのダガーにエネルギーが集まり淡い光を放ち始める、姿勢を低く構え一気にオルテガの間合いに入る。右ストレートが顔面に決まれば連続ラッシュがオルテガに降り注ぐ。

 

「ここで決める、いっけぇー!」

 

 右アッパーから放たれたエネルギーの刃が、風間のオルテガに直撃。パンドラの『旋風』が決まった。

 

 オルテガは空中に身を投げ出され、青白い光を放ってブレイクオーバーとなってしまった。

 

 あっという間の出来事に会場が静まる、一瞬の逆転劇に思考が追いついていないのが分かった……それは私達だって一緒。ジオラマで倒れるオルテガが、本当なのかどうなのか。高鳴る心臓と荒い呼吸音を聞きながらなんとか考える……勝ったの?私達が。

 

 その静寂を破ったのは、冷静にジャッジを告げる司会者の言葉だった。

 

「ただいまの試合……勝者。仙道川村ペア!」

 

 試合の結果を見届けた観客から一斉に喝采が上がり、海道ジンに向けての最高の余興であったことを証明しているように盛り上がった。

 

「よかった……ちゃんと勝てたんだ。ふぅ」

 

 ナイトメアの不調、風間森野ペアという強敵。その絶望的な状況下で泥臭いながらもちゃんと勝利を収めた事実に力が抜け膝を付いてしまう。仙道も同じだったのか、首筋の汗を拭い目線を落とし安心から肩を撫で下ろしていた。

 

「どうして、今日までお前に勝つことだけを目標にしてきたおれ達が……」

 

 向こう側を見れば、現状を受け入れられず固まる風間と。仙道に心の底からの軽蔑の目を向け、苦い表情をする森野がいた。

 

「ダイキ……お前……」

 

 森野はそれ以上言葉を口にすることもなく下を向き現実を受け入れたようだった。

 

 技術や連携ではなく、自らを過信したことによる戦略的な完敗であることを悟ったのか。それ以上何も話そうとしなかった。

 

 本当は煽られて言いたい放題だったから、彼らに嫌味のひとつでも返しても良いかもしれない。

 

 だけど敢えて私は何も言わず頭を下げ、まっすぐな気持ちをそのまま伝えた。

 

「戦ってくれて、ありがとうございました」

 

 私達を讃える声に耳を傾けて、顔を上げて唖然とする森野達を真っすぐ見る。そしてそれ以上は何も言わずステージを降りていった。

 

 しばらく風間と森野を眺めていた仙道は、もう関心がないのか私に続いてステージから降りて来る。

 

「なにも言わなくて良かったのか?」

 

 ゆっくりと落ち着いた足取りでどこかを見つめながらも、あまり興味がなさそうなのに聞いてきた。

 

 仙道にとってはどうでもいいことなんだろうけど……私はそう思わない、だから正直に答えた。

 

「いいのよ、所詮通過点でしかない。本当の戦いはここからよ」

 

「そうか……お前がいいなら俺はどうだっていい」

 

 相変わらずのすまし顔だ、でもいつもより表情が柔らかく感じた。不調でもちゃんと勝てたことが嬉しいのね……でも、労いの言葉くらいくれても良くない?私頑張ったのに。

 

「仙道君、アミさん、お疲れ様。とても興味深い戦いを見せて貰った」

 

 状況が落ち着いて一息ついた私達に真っすぐ向かってきた、聞きなれた声に目を向けると。まさかのジンが顔を見せにやってきた。

 

「おやおや皇帝陛下、わざわざご足労頂いて……ご機嫌はいかがかな?」

 

 対抗心を隠す気などさらさらない仙道の挑発には見向きもせず、ジンは淡々と話を続ける。

 

「参加者リストで君達が居るのは知っていた……だが手を組むのは意外だったよ」

 

「やっぱりそうよね、そこは私も同意見よ」

 

 無言で私達を睨む仙道には目もくれず、ジンの話に耳を傾ける。

 

「それ以上に、ここまで辿り着けた事にも驚いている」

 

 表情はそのまま、でも言葉には期待が込められている。そこがバンと一緒でLBXに賭ける情熱は同じ、執着はそれ以上だ。

 

「アミさんはサポートに強い、だが単機で活躍できる能力はない。冷静に物事を判断する一方で思い切りに欠けている……そこが君の欠点だ」

 

 正確な解析を挟んで痛い所を突かれた、恥ずかしさと情けなさで顔を伏せてしまう。

 

「へぇ、知った口を」

 

「……対し問題は君だ、仙道君」

 

 そしてこの冷静な解析は、仙道にも同等に向けられた。

 

「君はアミさんとは真逆だ。単機でも圧倒出来る実力、プロにも劣らないカスタマイズ技術、どれを取っても一流と言っても過言ではないだろう……ある一点を除けば」

 

 すまし顔でジンを見ている仙道が顔をしかめた、次に言われる言葉がきっと予測出来たに違いない。

 

「君は誰かと戦うことをしない。他者を寄せ付けず、己を高め続けた結果が仇となってね。だから大会のルールが変更になったと聞いて君とは戦わないだろうと思っていた」

 

「詰まる話、俺達にそんな説教を垂れるためだけに来た訳か?」

 

 図星で耳の痛い話が続いたからか、苛立ちを隠そうともせず結論を急かした。

 

「そう、君の持つ圧倒的な自信もこの大会じゃきっと足枷でしかなかっただろう……でもそれは大きな間違いだった」

 

 少し目線を下げ、考えるように目線が泳ぐ。自分の中でまとめ上げた結論を、ジンなりの言葉で紡がれる。

 

「僕のこの予想は大きく外れた。君達はお互いの欠点を補いあい、意外なことにここまで登りつめた。どうやったかは知らない、なにを話したかもわからない……でも結果として君達は間違いなくこの大会で一番強いふたりになった」

 

 無表情だったジンは一瞬だけ口角をあげ、バンのような子供っぽい笑顔を見せた。

 

「だから僕は期待している、君達と手合わせ出来ることをね」

 

 ジンはそれだけを伝えると私達に背を向け、控え室に消えていった。その背中は落ち着いたただの少年なのに、今の私には偉大な皇帝の背中が見えた。

 

「言いたいことだけ言って消えやがった、相変わらずだな」

 

「あなたも同じよ、でもジンの方がまだ嫌味がないわ」

 

 眉間に皺をよせて顔をしかめつつ小さく舌打ちをする。機嫌が悪くなると出る癖なのか、今回も目線を他所に逸らした。風間と森野ペアとの戦いで自信を取り戻したのは良いけど、やっぱ面倒くさい。もうちょっとへこんでて欲しかったな。

 

「それで、ジンと戦うのって何時になるの?」

 

「自分で調べろ」

 

「あんたのアプリじゃないと確認出来ないから聞いてるのよ!……悪いけど教えて」

 

 面倒くさそうにため息を零しながらCCMで時間を確認してもらい、返答を待った。仙道の目が動く度に長い下まつげが動くのが目につく……いいな、顔整っていて。

 

「長いとは言えんが、休憩時間が挟まるようだ」

 

「よかった、じゃあちょっと一息つけるのね」

 

 ほっと胸を撫で下ろす、正直バトル続きで気を張ってばかりだったから意識するとどっと疲れが溢れてきた。

 

「ちゃんと休めよ。さて……少しひとりにしてくれ」

 

 私の傍から離れようとして背中を見せた仙道のジャケットからちょっとでているパーカー部分を咄嗟に掴んで止めた。

 

「ねえ、ひとりにしないで」

 

 自分でも意外だった、でも本音はこの見知らぬ場所でひとりきりが怖い、だからせめて誰かと一緒に過ごしたいと気持ちが前に出てしまった。私自身も咄嗟のことにちょっと驚いてしまう。

 

「ただのメンテナンスに行くだけだ、出来る限り最高の状態にしておきたくてね……それともなんだ、俺と離れたくないのか?今日だけで随分と懐かれたもんだな」

 

 腕を組み目を細め呆れたように、でも何故か嬉しそうに眉を上げ喋りだす。なんか浮ついた仙道……ちょっとないな。いつものしかめっ面がいい。

 

「そんなんじゃないけど……じゃあ私も行く、パンドラも調整しなきゃだしね」

 

「ほう、それなら俺がいつもやっているメンテナンス方法を伝授してやろう。有難く覚えろよ」

 

「素直に気になる……じゃあお言葉に甘えて」

 

 一時的な休息の時、仙道との何気ない会話に心地よさを感じる。気を抜いてはいけない、もう少しでジンとの戦いが始まる……だけど。

 

 今流れるこの時間、中身のない会話。そして仙道と対等に横で笑いあえるこの瞬間。それが何故か愛おしく、ずっと続けばと儚げな夢を見そうになる。

 

「いけない、ちゃんと集中しなきゃ」

 

 これから起こりうる事があんなに不安だったのに、それ以上に大きくなった違和感に私は気が付かないふりを続けた。

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