恋
時にして、それは人の感覚を麻痺させる。
それは私も例外ではなかった。
「どうして...!私はあなたのことを───」
セレスディア王国騎士団長、アメリア。それが私という存在であり、恋という精神疾患を患った存在だった。
「わかりきってるんだろ?俺は騎士団長になりたい。それにはお前の存在が邪魔だから消すんだ。そうすればなし崩し的に俺が騎士団長になれる」
とても丁寧に、けれど私が見たくなかった現実を説明してくる。心というものは厄介だ。頭ではわかっていても、それを否定するときがある。
「...考え、直せないの?」
「アメリアは不慮の事故により転落死し、一番親しいハヤトがその意志を継いで王国騎士団長となる。我ながら完璧なシナリオだ」
マナはなくなり、剣も折れ、崖に追い詰められた。冷たい夜風が、私の終わりを告げるように私の肌を撫でる。
「じゃあな、アメリア」
そうして、私は崖から突き落とされた。
「あぁ...」
その瞬間、私は気づく。
欲望のコントロールが出来ていなかった、と。
私があの人間の傍に居たいという欲望を抱かなければ、私は彼の計画に気づけた。ハヤトの王国騎士団長になりたいという欲望をコントロールできれば、私は崖から突き落とされなかった。
結論からして、私は心に振り回されていたわけだ。
「はぁ...」
もっと早くに気づいておきたかった───否、向き合いたかった。ハヤト───開拓者たちは総じて欲が強い。良い装備が欲しいだの、一緒に寝ないかだの、自分の欲望を隠そうともしない。
「そろそろかな」
底が目視で確認できる。つくづく、現実に目を向ければよかったと思っている。
少し優しくされたから惚れて、それが原因で魔の手に気づかず殺される。我ながらちょろい人間だ。
「」ドゴォ
★
...痛い
体中の関節が軋んでいる。右足の靭帯が切れている。右腕が潰れている。
「うっ...はぁ。ここは───っ!」
脳内に電流が走り、
そして、私は情報の海にさらされた。
「これは...」
インベーダー:地球を侵略してきた宇宙文明。私が奴らの超感覚的ネットワークに侵入し、脳回路を内側から焼き切った。
「マナ...どういうことでしょうか?」
この世界の大気に含まれているマナ。正体はインベーダー型生命体の体内に存在している、
しかし、このナノマシンは私が跡形もなく消したはずの文明の産物。
一体何が起こっている?
「この世界の正体は...」
記憶が蘇った今ならわかる。開拓者たちが言っていた『ステータス』『イベント』『アイテム』『プレイヤー』。このような単語は全て、ゲームにおける単語。それらを日常的に発する彼ら彼女らがいるという事実は
この世界がゲームであることを示唆している
「...母船の次元爆発に巻き込まれたんでしょうね」
インベーダーを滅ぼしたとき、私は地球侵略用のマザーシップ内にいた。大方、その際にマザーシップの機関が暴走して次元爆発に巻き込まれたのだろう。
「...」
普通なら信じられない話だ。しかし、インベーダーはあらゆる次元を侵略する文明。それがもたらす次元爆発となれば、ゲーム世界への転移───いや、転生もあり得る。
「だとすれば...不味い状況では?」
感情のあるNPCは存在する。しかし、現実世界を認識しているNPCなど存在しない。この状況や今後の行動を監視され、運営に目を付けられた場合。
私は削除される可能性がある。
「そもそも、この
答えを知る方法は...
「
マナを使用し次元間通信機を作成する。感情の起伏が少なく、ルーシュ生産量が少ない私でもこれぐらいはできるのだ。
「...異質ですね。NPC、生態系、全てが科学に基づいている」
現実世界のネットワークにアクセスして情報を搔き集めた結果、作者は現時点ではわかっていない。
しかし、このゲームのクオリティが飛び抜けて高いことが分かった。まず、基本的にVRMMOには感情のあるNPCや、生態系、経済システムなどは存在しない。
ここまで聞くと、ただの高クオリティなゲームに見える。しかし、ある事実を踏まえると事態は急変する。
「エネミー...動きには見覚えしかありません」
ドラゴンやゴブリンなどのエネミー。それらの一部が
「インベーダー...」
しかし、十数体ほどの群れや個体で活動するエネミーも見受けられる。おそらく、これが運営の用意した本物のエネミーだろう。結論からすると、
インベーダーの残党がこのゲームに紛れ込んでいる
ということだ。
「つまり、たまたまあった高クオリティなゲームをインベーダーが隠れ蓑に───え?」
改めて、作者を知るためのセカンドプラン───機密ファイルを見ていく。最終的に、国連の機密情報を漁っているととんでもない情報を見つけた。
『アクロスプラン』
内容は、『インベーダーへの対応策』
「人類はインベーダーを知って...?あ、レジストされてしまいました」
このゲームの名前はアクロス。そして、国連の機密情報の名前も『アクロスプラン』。
ここから導き出される答えは、このゲームを造ったのは国連という事実。
アクロスは国連主導で開発されたゲームで、その開発計画の中にある『インベーダーへの対応策』という言葉。
「と、いうことは......消されない方法がわかりました」
推測だが、このアクロスというゲームは『世界中の国が一丸となって作り上げたインベーダーへ対抗する唯一の手段』。なぜゲームなのかは分からないが、私という対インベーダーの専門家はその中にいる。
それらを踏まえ、私が運営に消されない方法を導き出すことに成功した。
その方法とは、私の正体を明かすことである。
インベーダーを滅ぼした存在がインベーダーへの対応に協力するとなれば、国連に私を消すメリットはない。
「今!」
真夜中の森、少女が虚空に話し始める。
「私は立ち上がる!」
反応はない。
「私はセレスディア王国騎士団長のアメリアではない!」
満身創痍の状態で、砕け散った岩の上から立ち上がる。
「地球防衛軍、第304アサルトフレーム大隊所属。ラピットファイア型アサルトフレーム:プレデター!」
それは、かつて瓦礫から立ち上がった人類を彷彿とさせる。
「かつて、インベーダーを滅ぼした存在だ!」
折れた剣を虚空に掲げる。
「私は再び戦う!未来ある子供たちのために!幸せな日常のために!碧き我が
それは、まだ暗い空に向いていた。
「EDF!EDF!E D F!」
NY市 国連本部
『そもそも、この世界は誰が造ったのでしょう?』
同 インベーダー対策室
「Holy shit!マジかよ!」
一人の職員が異変に気付く。そこには血を垂らしながら疑問符を浮かべる銀髪の少女がいた。
「Hey bro.どうしたんだ?」
「これを見ろ!」
『...異質ですね。NPC、生態系、全てが科学に基づいている』
「おいおい、今こいつNPCって言ったよな!プレイヤーじゃない..よなぁ!?」
「は、早く伝えねぇと!...」p,p,p,prrrrrr
ピッという軽快な音と共に、相手は電話に出る。
『なんだ?君が美女でないなら切るぞ』
「しゅ、主任!これを聞いてください!」
[インベーダー...]
[人類はインベーダーを知って...?あ、レジストされてしまいました]
『なっ───ゴンッ、あぁもう...!』
「主任!アメリアですよ!アメリアがこちら側の世界を認識して、我々の情報を覗き見したんです!おまけにインベーダも知ってる!」
『チッ..ああっクソ!今行く!』
────
「主任が到着しました!」
「一体どうなっているんだ?」
「わかりません!ただ、急にこちら側を認識している様な言動をし始めたんです。それに、この通信機を使ってこちら側のネットワークに侵入して着々と情報を吸収してます」
「何か原因は?」
「それがわからないんです!あ、しかし、十数分前に彼女が恋していたプレイヤー:ハヤトに崖から落とされました」
『『『...』』』
「どう考えてもそれが原因だろうが!もういい!モニターに現状を映し出だせ!」
『と、いうことは......消されない方法がわかりました』
モニターの中の彼女。彼女は痛みに顔を歪めることもなく、突如として
『今!』
『私は立ち上がる!』
『私はセレスディア王国騎士団長のアメリアではない!』
『地球防衛軍、第304アサルトフレーム大隊所属。ラピットファイア型アサルトフレーム:プレデター!』
『かつて、インベーダーを滅ぼした存在だ!』
『私は再び戦う!未来ある子供たちのために!幸せな日常のために!碧き我が
『EDF!EDF!E D F!』
「これは...!」
「今、地球防衛軍と言ったような...」
「間違いない!それに、第304アサルトフレーム大隊ってのは、インベーダーを滅ぼしたアトアレイターがいた部隊だ!」
「ホワイトハウスに連絡しろ!それと、各国首脳を招集して会議を行う準備をしておけ!」
大型のモニターが表示されている暗い対策室。
「はぁ....」
主任と呼ばれた男はため息を吐く。
「えらいことになりそうだ」
今回のまとめです↓
1.アメリアがインベーダーを滅ぼしたことを思い出す
2.アクロス内のエネミーの動きがインベーダーに酷似していることに気づく
3.アメリアがアクロスは国連に造られたインベーダーに対する切り札であることを知る
4.国連に自分が地球防衛軍所属であることをアピールする
5.国連とインベーダー対策室が大慌てになる