編入先の超名門校がすさまじいカースト社会だった件www 作:かきくけこ
ここ数日、俺は教室にいっていない。学院には俺が体調不良ということにして藤森たちとずっと遊んでいた。
べつに初心を忘れたわけではなく、ただ票を頼もうにもその瞬間ががまったくといっていいほど訪れなかったのだ。
藤森たちと俺は仲が良くなったと自分は思っている。しかし、いくらなんでも票のためだけに友達を利用して、確約がとれたらもう遊ばないというのは許されないことだろう。
それに、三輪だけは俺に気を許していないように感じた。いつだって気がつくと三輪の鋭い瞳が俺を観察するようにジロジロと眺めていて、下心がないか疑われている。
とにかく、今は藤森たちの信頼をもっと手に入れなければならなかった。
こんなことを残りの二十人ほどにもしなければならないと考えるだけで気が重くなる。前途多難な選挙活動に頭が痛くなりながら制靴につま先をさし入れたそのときだった。
「おい、宮下! いったいどこにいく!」
聞き馴染みのある声が下足室にいる俺の後ろから聞こえてくる。恐る恐る振り返ると、目を怒らせた加納が佇んでいた。
「いや、ちょっと遊びに出かけようかな、なんて。」
「しらばっくれても無駄だ。高熱を出して寝こんでいるはずのお前が駅前のゲームセンターで遊び惚けていることぐらい調べがついている。」
どうやら加納はここ数日の俺がなにをしているか知っているらしい。そのまま加納は姑のようにグチグチと小言を俺にこぼし始めた。
「不良とつるみ遊蕩に耽るぐらいなら、今すぐ選挙管理委員会にむかって土下座をしてでも立候補をとり消してもらえ。もう投票日まで時間がないんだ、諦めもついただろう。」
「俺はまだ後悔してないし、選挙には出るよ。それじゃ、また教室で。」
まだまだ続きそうな加納の話をさえぎって、俺は寮を飛び出す。背後からは加納の怒号が聞こえてきた。
◆◆◆◆◆
「それで、こうやって真面目くんは生真面目ちゃんに捕まったのでしたとさ、ってわけ? 真面目くんもヘマ踏んじゃったね。」
首根っこを加納に掴まれている俺を三輪がじろじろとみつめる。星川は加納から俺を奪還しようと腕をひっぱり、藤森は興味なさげにスマホをいじっていた。
ちなみに三輪は加納を生真面目ちゃんと呼ぶことにしたらしい。真面目くんの俺よりももっと口うるさいからとのことだ。
「今のこいつはなんとかして退学処分から逃れる手だてを考えなければならない。わかるか、お前らの道楽につきあっている暇はないのだ。」
「っ、言ってくれるじゃねえかよ。この横領野郎が、みやっちに触れるんじゃねえ!」
加納のとげとげしい言い草にかっとなった星川がとびかかる。横領という言葉に歯ぎしりした加納も手を緩めるつもりはないらしく、取っ組みあいを始めた。
「わ、わ、ふたりともやめてよ!」
放り出された俺が間に飛びこむ。楽しげに笑っていた三輪の助けも借りて俺はなんとか二人をひき離すことに成功した。
荒い息の星川と加納は互いに互いを睨みあっている。どうしたものかと頭を悩ませる俺のかわりに三輪がとんでもない提案をした。
「じゃあ、生真面目ちゃんもついてこればいいじゃん? 真面目くんもなんか考えがあるんでしょ、あたしらと遊んでるのをみて時間の無駄かどうか決めればいいじゃん。」
◆◆◆◆◆
まるで数日先の俺をみているようだった。加納は自動扉のむこうから押し寄せてくる光と音の怒涛に身動きがとれないように固まっている。そんな加納をみてまた三輪が大笑いしていた。
「な、なんだこれは。」
三輪にうながされるまま、クレーンゲームの筐体にたたされる。そしてこれまたかつての俺のように百円玉を湯水のように溶かしていた。
「っ、この、この、この!」
何度も何度もクレーンが景品を落とす。結局は加納も藤森の手を借りていた。
「どうしてわたしがこんなくだらない遊びなどを……。」
藤森たちに教えてもらったコツで手に入れた景品のコーヒー缶を加納に手渡す。手持ちの金を吸いとっていった筐体を忌々しげに加納は睨んでいた。
「どう、上手かったでしょ。」
俺が自慢げに胸をはっていると、加納にジトッとした目でみつめられる。
「とにかく、お前はこんなところで貴重な時間を無為に過ごせるほど気楽ではいられないはずだ。新聞部の日刊政経に載った学級の世論調査は知っているだろう。」
加納が嫌な現実を思い出させてくる。確かに俺は稲荷から一部だけ買って世論調査のところを読んでいた。
あいかわらず結果はさんざんで、小野が常に二十九人ほどの支持があるのに俺は二人だ。しかもその内訳もだいたい予想がついていて、たぶん俺本人と加納なのだろう。
「うん。」
うつむいて返事をした俺に加納が唇を噛む。俺のことを心の底から案じている加納の切実な瞳をみつめる度胸を俺は持ちあわせていなかった。
◆◆◆◆◆
「ふせろ。」
いきなり加納が俺の頭を掴んでゲーム機の裏に隠れさせた。驚いて目を白黒させている俺に加納がなにかを指さす。
その白い指の先には学院の制服に身をつつんだ二人の学生たちがいた。風紀と縫いつけられた蛍光色の腕章が目に入る。
「風紀委員会の連中がいったいどうしてこんなところにいるんだ。とにかく隠れたままでやり過ごすぞ、捕まれば生徒指導の面倒ごとが待っている。」
舌打ちまじりに加納が悪態をついた。
風紀委員会というのは校則に反する学生を捕まえて罰を与える生徒会の下にある組織だ。かつては教師の役目であったはずの生徒指導は学級委員会に権限を奪われてひさしかった。
風紀委員たちは鋭い目つきでゲームセンターの中を見回しながら話しあっている。授業をサボって遊んでいる校則違反者の俺たちがみつかればどんな目にあうかわからなかった。
「通報によれば不良生徒三名が授業をサボタージュしてここにいるはずなのだが、おかしいな。」
「もっと奥にいるのかもしれん。とり逃がさないよう、ゆっくりといくぞ。」
恐らく三人の不良とは藤森たちのことだろう。いったいどこの誰が風紀委員に告発したのかわからないが、助けなければ。
加納の制止をふりきり、風紀委員たちの後ろをつけていく。すると、格闘ゲームのポップアップの裏に隠れた藤森たちと目があった。幸いなことにまだ気づかれていない。
風紀委員がゲームセンターのさらに奥へと姿を消していくのを確認して俺が合図する。藤森たちは慎重にゲーム機の裏に隠れながらゲームセンターの入口ににじりよっていった。
だが運の悪いことに風紀委員はすぐにひき返してくる。しかも偶然にも藤森たちの隠れるクレーンゲーム機にむかってまっすぐに、だ。
もう逃げることはできない、絶対に風紀委員にみつかってしまう。絶体絶命の窮地に陥った藤森たちに、俺は覚悟を決めた。
「加納、すぐに俺から離れて出口から逃げてくれ。」
「まて、なにをするつもりだ。」
加納の問いかけを無視して俺はゲーム機の影から飛び出した。なにをしようとしているのか理解したらしい藤森が俺を止めようとして後ろの三輪に羽交い絞めにされている。
「いたぞ! あっちのクレーンゲームの裏だ!」
風紀委員の鋭い怒声が平日の閑散としたゲームセンターに響いた。俺は風紀委員たちを藤森たちからひき離せるようできるだけ入口から遠いほうへと走っていく。
「まて、止まれ! ……捕まえたぞ!」
後ろから駆け寄ってきた風紀委員たちにとり押えられながら、俺は自動ドアをくぐって外に逃げていく藤森たちの背中をちらりと目にした。
よかった、なんとか藤森たちを助けることができた。友達の危機を自分の犠牲で防ぐことができたのだから、きっと成功だろう。
……そういえば、加納はいったいどうしたのだろうか。入口の扉をくぐっていった人影は三つだけしか目にしていない気がする。
「もうひとりいたぞ。三人のうち二人だけでも捕まえられただけで吉とすべきだろう。」
風紀委員にひきずられて加納が姿を現す。唖然としている俺の顔をみて、加納がふんと鼻を鳴らした。