編入先の超名門校がすさまじいカースト社会だった件www 作:かきくけこ
闇夜に煌々と光を放つ学生会館から解放されたのは、ずいぶんと遅い時間だった。反省文の提出と三日間の停学を言い渡された俺たちはトボトボと夜道を歩く。
「加納まで捕まる必要はなかったでしょ。」
「お前から目を離せば今度は何をしでかすかわからんからな、絶対に離れないことにした。」
加納が俺を睨む。なぜかまったく信頼されていないことを俺が嘆いていると、誰かが道わきで俺たちを待っていることに気がついた。
「生真面目くんちゃん、昼はありがとね。」
歩み寄ってきたのは三輪だった。不思議なことに藤森も星川もいない、三輪だけだ。
「藤森と星川は文化部の寮に帰らせたわ。ちょっちあたしだけで話したいことがあってね。」
いつも通りのにこやかな笑顔をうかべながら、三輪の瞳には真剣な光が宿っている。困惑した俺と加納とは顔をみあわせた。
羽虫がたかっている電灯が無機質な白色光を投げかけるその下、ちょうどいいところにおかれた長椅子に三人は腰かける。
「もう一度いっとくけど、あたしたちのかわりに風紀委員に捕まってくれてサンキュね。あたしら今度捕まったらヤバいことになってたから、めっちゃ助かったわ。」
今までずっと俺のことを警戒していたはずの三輪の声色は柔らかい。そういえば、三輪はいつも俺を遠巻きに眺めていて、こんな風に隣りあわせで座ったことはなかったはずだ。
「真面目くんはあたしたちどこの部に入ってるか知ってる?」
「えっと、吹奏楽部じゃなかったっけ。軽音部がなくなって移籍した、みたいな。」
藤森たちに話しかける前に、俺は稲荷に頼みこんで同級生の部活動を教えてもらっていた。その記憶が正しければ藤森たちは中学生の時に軽音部から吹奏楽部に移っている。。
「よく知ってるじゃん。それじゃどうして軽音部が潰れたかも知ってる?」
「えっと……。」
「軽音部と吹奏楽部はどちらとも音楽室を活動の拠点としていたが、それを煙たがった吹奏楽部が学級委員会の多数派、『火曜会』に近づいた。その後は言わんでもわかるだろう。」
三輪の思いもかけない問いかけに俺が言葉に詰まっていると、加納が補足してくれた。
どうやら吹奏楽部は音楽室を軽音楽部と共有しなければならないことに嫌気がさしたのだという。そして、運動部と同じように『火曜会』に近づいた。
学級委員会の力を借りれば吹奏楽部が軽音部を廃部にすることなどいともたやすい。結果、軽音部の生徒はしかたなく吹奏楽部に吸収された、と。
「せいかーい、流石その時に軽音部の予算をゼロにしてくれた生真面目ちゃんじゃん。」
「……言い訳にならないのはわかっているが。生徒会長から指示があればわたしはそれに従わざるをえなかった。あの時のわたしは生徒会の下部組織、会計委員会の下っ端だ。」
三輪の嫌味たっぷりな称賛に、加納はうつむいた。
どうやら藤森たちと加納の間には確執があるらしい。もしかして加納と藤森たちをひきあわせた時、やけに星川が加納につっかかっていたのもそれが理由なのだろうか。
「ま、いいや。生真面目ちゃんには期待してないし。あたしが話をしたいのは真面目くんだけ。」
加納をつまらなさげに一瞥すると、三輪が俺にむかって身を乗り出してくる。
「真面目くんさ、あたしたちの票欲しいんでしょ。」
「……見抜かれてたんだ。」
「だっていきなり話しかけてくるなんておかしいじゃん。星川じゃないけど、真面目くんはそうとうキモかったよ。」
三輪のドストレートな悪口に心がしくしくと泣き出す。あの時の俺は切羽詰まっていたのだ、そんなに悪口を言われなくてもいいじゃないか。
「でも、これからの話次第では票をあげてもいいよ。」
落ちこんでいた俺は真剣な顔つきの三輪の言葉に顔を勢いよくあげた。
◆◆◆◆◆
「今はわかんないかもだけど昔はあたしたちバンドとかめちゃくちゃ頑張ってたんよ、それこそ青春かけるつもりでやってた。」
三輪はドラムで星川はベース、そしてリーダーの藤森はボーカルとギター。中学生のバンドとして一時は学院でかなりの人気を誇ったそうだ。
「でも、軽音部が潰されてからみんな目が死んじゃったんだよね。」
三輪の言葉が理解できずに俺は首を傾げる。部がなくなったことは悲しいだろうが、休日にバンドを続けることはできるのではないのか。
「この学院では重大な生徒指導をうけた生徒を部長が部から追放する権利が保障されている。」
加納がしごく当然のことを口にする。そりゃ未成年で煙草を吸ったりお酒を飲んだりといった生徒指導になるような悪事を働いたら部活動を禁止されてもおかしくはないだろう。
「つまりあたしたちがギターの弦の一本でも弾いた瞬間に届け出なしの部活動をしてはいけないって校則にひっかかって吹部から追い出されるってわけ。」
だが、学院は俺の想像を軽く超えてきた。
三輪によれば部員への統制を強めるために運動部が学級委員会に働きかけてそんな校則が制定されたという。そんな難癖で部活を辞めさせられるのは理不尽そのものだった。
「新しい部長さんは嫌な奴でね、あたしらをはやく『キタクブ』にしたくてしょうがないのか、いろいろと嫌がらせをしてくるんよ。ゲームセンターになぜかいた風紀委員もそう。」
学院で『キタクブ』の扱いがどれほど酷いものか、その生徒である藤森たちは嫌というほど知っている。だから藤森たちは呼吸にも等しい音楽を捨てなければならなくなった。
「それからのあたしたちはどんどん腐っていった。授業も出ないし、テストの成績も最悪。繁華街で毎日遊び惚けて暮らしてるってわけ。」
三輪が暗い瞳で語る。藤森たちはいつのまにか刹那の娯楽に身を委ねるようになって、今まででは考えもしなかったようなことにも手をつけるようになった。
「このままあたしたちは堕落してどうしようもない人間になるんだ、あたしは諦めてた。誰も信じられないし頼れないって。」
そこで言葉を区切って、三輪は俺をみつめる。そしてニカッと笑ってみせた。
「でも真面目くんは信じられた。落ちぶれたあたしたちにあんだけ寄り添ってくれたのは真面目くんだけだからね。だから、すこしだけ期待したいんだ。」
三輪が椅子から立ちあがって、俺の正面へとやってくる。そして、頭を深々とさげた。
「もしも宮下さんがもう一度あたしらに楽器をやらしてくれるんだったら、いくらでも選挙を手伝います。だから藤森と星川を助けてやってください。」