編入先の超名門校がすさまじいカースト社会だった件www   作:かきくけこ

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12. 作戦会議

 三日間の停学処分の間、俺たちの姿は学生会館の資料室にあった。

 

 学院の生徒ならたとえ『キタクブ』であっても自由に閲覧できるここには過去から現在に至る全ての校則に加えて、その運用についての書類がまとめられている。

 

 まさに学級委員会と学院の歩みがこと細かに記された今も生き続ける歴史であった。

 

「加納、なにかいい解決策はみつかった?」

「……駄目だ、この判例集は未成年飲酒や薬物乱用といった順当な活動停止の事例しか載せられておらん。まったくもって役立たずだ。」

 

 今、俺たちはなんとかして藤森たちを苦しめる無許可での部活動を禁止している校則をなんとかできないか頭を絞っていた。

 

 三輪から助けを求められたあの晩、俺は加納に土下座をして頼みこんだ。かつて生徒会で会計とはいえ仕事をしていた加納の俺よりもはるかに豊富な校則の知識が必要だったのだ。

 

 そんな加納が考え出したのは、校則の穴をつくことであった。

 

「さしもの学級委員会といえども完璧な校則をつくることはできん。」

 

 かつて運動部にロッカールームの改修の補助金を与える校則ができた時、競技かるた部が定義の曖昧さを利用して運動部と名乗り和室の畳の新調に予算を出させたことがあったという。

 

「詭弁をもちいて適用を逃れることは不可能ではないはずだ。」

 

 あまりにも多くの書類をつめこんだのか表紙がたわんでいる綴じこみと加納は格闘する。その隣で俺はみみずがのたくったような崩し字を懸命に解読していた。

 

 窓の外がだんだんと暗くなっていく。今日もまたなんの成果もなしに資料室から退散しなければいけなくなりそうだった。

 

 眉をひそめて加納が悪態をつく。

 

「そもそも届け出なしの部活動というのがいくらでも解釈ができてしまうのだ。放課後、ボウリング場で週に数回遊んだだけで指導が入っているなど異常だろう。」

「……やっぱり厳しいかな。」

 

 俺ごときが思いつく屁理屈はすべて先回りして潰している問題の校則に俺はすでにお手上げだった。ここ数日ずっと埃くさい本棚にかじりついていたせいか鬱屈がたまっている。

 

「いっそのこと吹奏楽部の練習中にギターを弾いてみたらどうかな? 吹奏楽の練習をしているだけですって言い張って。」

 

 吹奏楽部の活動をしていることにすれば、なんの問題もないはずである。そんなことができるかどうかは別として。

 

 疲れきった俺はなんの気なしにそんな冗談を口にした。加納が冷たく切って捨てる。

 

「それはそうだ、吹奏楽部の活動としてバンドをしてしまえば極論なんの問題もない、そんなことを吹奏楽部の部長が許すのならばこんなことに悩んでおらん。」

 

 加納の言葉にそれはそうだと苦笑いしつつも俺の頭になにかひっかかるものがあった。藤森たちが部活動の一環としてバンドをすることを吹奏楽部に認めさせられないだろうか。

 

 顎に手をあてて考えてみる。

 

「そういえば、藤森さんたちってどれぐらい人気があったんだろう。」

「わたしは興味をもったことはないが、一時は数百人もの観客を集めて演奏をしていたはずだ。」

 

 それはすごい。一学年の生徒の数は二百五十人ほどであるから、かなり名の売れたバンドだったようだ。

 

「軽音部が廃部になった時も数人が学生会館で抗議をしていたな。まあ、学級委員たちが部長らに働きかけて部からの追放をちらつかせればその声を潰えてしまったが。」

 

 それは残念だ。だが、学級委員たちに表だって声をあげることはなくとも藤森たちの復活を待ち望んでいる生徒がたくさんいるということだけでも価値があるのではないか。

 

 俺は考えが形になっていくのを感じて顔をあげた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 ぼそりと頭の中の考えを口にする。

 

「それだけ人気なんだったら、吹奏楽部が藤森たちの活動を許したって噂を耳にしらみんな喜ぶよね。」

「それはどうだろうか。軽音部の解散経緯を知っている者にとってみれば半信半疑だろうな。」

 

 加納の指摘もきちんと考えに入れている。

 

「でも、実際に吹奏楽部の舞台で演奏しているのを目にしたらバンドの復活を信じるよね? そしたら喜ぶんじゃないかな。」

「それはそうだろう。」

 

 加納がつまらなさそうに相槌を打つ。そんなことをしてなにが起こるのかと言わんばかりだった。

 

「そうなると生徒たちは最近吹奏楽部の部長になったっていう人を称賛するよね。」

「そもそも許可されないという点に目を瞑ればそうだろうな。……まて、まさかお前。」

 

 俺の言葉を妄想とばかりに聞き流していた加納がその裏の意図を読みとって目を見開く。

 

「たとえ最初の噂が嘘だったとしてももう部長はそれを否定できない、そんな状況に追いこむことができれば俺たちの目的は叶うんじゃないか。」

 

 俺の考えはこうである。

 

 まず、とても人気だった藤森たちのバンドが新しい部長のおかげで復活するという話を流布する。そして実際に吹奏楽部の発表に乱入して藤森たちに演奏をしてもらうのだ。

 

 当然生徒たちは大喜びして部長を讃えるだろう。そんななかで部長が噂を否定できるとは俺には思えなかった。

 

「確かに、それならば認可外の部活をしていることにはならないわけか。藤森たちは吹奏楽部の活動をしているわけだからな。」

「うん、どうかな。」

 

 手に持っていた書類の綴じこみを投げ捨て、加納が考えこむ。

 

「……かなり、いい考えだ。だが初めの噂はそれこそかなり広めなければ意味がないぞ。演奏に駆けつけた生徒の数が少なければなし崩しにされてしまう。」

 

 加納の指摘に、俺はある同級生の姿を思い浮かべた。

 

「大丈夫、知りあいに手伝ってくれそうな人がいるよ。」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 次の日の朝、停学から解放された俺たちは久しぶりに藤森たちと顔をあわせていた。

 

「みやっち、マジすまんかった! 俺たち、『キタクブ』になりたくなかったばかりに身代わりでパクられたみやっちを見捨てちまった!」

「いや、そんなに謝られることはないよ。」

 

 頭を深々と下げる星川の勢いに、俺は気圧される。星川の後ろでは気まずげに藤森がちらちらと俺を覗きみていた。

 

「いや、それじゃ俺たちの気がすまねえ、なんでもいいから償わせて……。」

「ほう、ならばひとつばかり頼みごとをお願いしようか。」

 

 口を挟んだ加納を星川は睨んだ。藤森は困惑したように加納をみつめている。

 

「横領野郎には聞いてねえよ、みやっちに話しかけてるんだよ。」

「いや、加納の頼みは僕もお願いしたいんだ。」

 

 あいかわらず加納にはけんか腰の星川は、俺の言葉に驚いたようにふりむいた。藤森はなにか嫌な予感がしたのか顔をしかめる。

 

「藤森さんたちに、今度の吹奏楽部の発表会に乱入して演奏してほしい。」

 

 俺は藤森の顔をまっすぐにみつめて頼みごとを口にした。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「そんなこと、できるはずがない。それこそうちらが『キタクブ』になってしまう。」

 

 固い声で藤森は俺の頼みを断る。その冷たい瞳に俺がたじたじになっていると、今まで黙っていた三輪が口を開いた。

 

「あたしはいいと思うけどな。真面目くんと話してたんだけど吹部の発表会なら部活動の範疇だから文句出ないんじゃないって。」

「そんな詭弁、通用するはずがない。部長がそれは吹部の活動じゃないって宣言すればもううまくいかなくなるじゃん。それどころか吹部にいられるかも怪しいし。」

 

 長年の友人である三輪が俺に賛成したことで不意をつかれたのか、藤森の語気は弱まる。だが、それでも藤森は首を縦に振る様子はなかった。

 

「そもそもリスクがリターンと釣りあってない。たった一回の演奏のためだけに『キタクブ』になるかもしれないなんて危険は冒せない。」

「あ、実は考えがあって……。」

 

 俺は加納と話しあっていたことを藤森に説明する。だが、藤森はずっと腕組みをしたまま俺を睨むばかりで、まったく説得できている様子はなかった。

 

「そんな博打みたいなことのためにうちらを危険にさらすつもりだったなんて、サイテーだわ。そもそもその噂を広められるぐらいの友達なんて『キタクブ』のあんたにないでしょ。」

「そこは考えてることがある。噂というか、ほとんど事実みたいなかたちで藤森たちのバンドの復活を流布できる手はずは整えてるよ。」

 

 なにを言っても藤森は首を振るばかりである。

 

 確かに編入してきたばかりで赤の他人の俺がいきなりこんなことを口にしても信用しないのは自然だった。そう考えて俺は唇を噛む。

 

 しかも、失敗の代償は友達が『キタクブ』になることだとしたら、頷けるはずがない。

 

 言葉につまった俺のかわりに三輪がまた口を開いた。

 

「藤森はさ、それでいいの。このままズルズルこれからの三年間をほんとはやりたくもない遊びで潰していって、それでいいの。」

「っ、そんなことは言ってないじゃん! でも『キタクブ』になるかもしれないんよ、そんなこと認めるわけない!」

 

 藤森は三輪を睨みつける。三輪も一歩もひかずに藤森につめよった。

 

 胃がキリキリと絞めつけられるような緊迫に俺は口を挟むことができない。そんな危うい均衡に星川が一石を投じた。

 

「いいよ、やろうや。」

「星川! なにを言って……。」

 

 三輪に続いて星川まで、といわんばかりに藤森が叫んだ。

 

「ふじっちもさ、このままじゃマズいって心のどこかで思ってるっしょ。みやっちがせっかくお膳だてしてくれたんだから乗っかってみようや。」

 

 図星をつかれたのか、藤森が黙りこむ。星川が俺の顔をじっとみつめてきた。

 

「みやっちはほんとに俺たちが『キタクブ』にならずに、しかもバンドを続けられるように頑張ってくれるんでしょ?」

「うん、もしうまくいかなかったら全部俺のせいにしていい。退学でもなんでもうけつけるよ。」

 

 星川の問いかけに頷く。

 

 藤森たちが『キタクブ』になる危険を冒すのだ、万が一失敗したなら俺がすべての責任を負って退学でもなんでもしてやる。どうせ数か月後には学院にいるかも怪しいし。

 

「なら、それを信じるべ。みやっちと俺は友達だしな。」

「っ、わかったから。やればいいんでしょ。」

 

 星川がぐしゃぐしゃと俺の頭をなで、藤森が舌打ちをしながらも許してくれる。藤森たちが俺のことを信じて託してくれたことに気が引き締まる。

 

 あとは俺の頑張り次第だ。

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