編入先の超名門校がすさまじいカースト社会だった件www   作:かきくけこ

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20. 結論

 全身に悪霊たちがとりついて俺の足をもつれさせようとしているようだ。階段の一段一段がいつもよりもずっと大きく感じる。

 

「……真面目くん、だいじょうぶ?」

 

 顔をあげると、上の踊り場には俺のことをじっとみつめる三輪と藤森がいた。

 

「いや、ちょっと日刊政経の世論調査の結果が厳しくてね。けっこう落ちこんじゃったけどもう立ち直ったよ。」

 

 俺はにっこりと笑ってみせる。朗らかな声で返事したのにもかかわらず、三輪は心配そうに眉をひそめていた。

 

「そう? ならいいんだけどさ。」

「これから教室に残ってる同級生のみんなと話をしなきゃいけないんだ。あと投票日まで四日しかないから急がないと。」

 

 俺は残りの階段を駆けあがる。これから帰るらしい三輪たちはそのまま階段を下っていった。

 

「それじゃ、真面目くん選挙がんばってね。」

「うん、三輪もまた明日。」

 

 すれ違いざまに手を振りあって別れる。

 

 教室の扉はもうすぐそこだ、開口一番になんと言おうか。加納に騙されたと嘆いてみるか、それとも激怒して罵倒してみせるか。

 

 脳裏にかすかに加納の顔が思い浮かんで、思わず顔をしかめた。駄目だ、小野を落選させて俺が当選するためにはそんな情なんて無駄でしかない。あとすこしで勝利できるんだぞ。

 

 こんな勝利目前で諦めるだなんてそれこそ加納は望んでいない。だから、薬師院の言った通りこれで正しいんだ。

 

 教室の扉に手をかける。幸いなことに加納は今日一日休んでいた、余計な横やりを入れられる心配もない。好き勝手にあることないことを同級生たちに吹きこめる。

 

 その時、背後から階段を駆けあがる甲高い足音が聞こえた。俺を呼び止める鋭い声に、なぜか悪事を見咎められたかのように胸が跳ねる。

 

「宮下、待って!」

 

 ふりかえると、藤森が肩で息をしながら立っていた。しばらくして息を整えた藤森が決心したようにキッと口を一文字に結ぶと、大きく口を開ける。

 

「うち、なにがあっても宮下に投票するから!」

 

 藤森が心から絞り出した叫びが廊下に響いた。

 

「バンドのこと、どんな時もうちらの味方してくれた宮下のこと信じてる、絶対に小野なんかに負けるもんか!」

 

 いつも無口の藤森がらしくもなく自分の言葉をまっすぐに僕に伝えてくる。慣れないことをして恥ずかしいのか、その耳は真っ赤になっていた。

 

 ジーンと空気を震わせる余韻を、いつまでも耳がとらえて離さない。藤森の言葉は鼓膜を突き破って俺の心までまっすぐに突き刺さった。

 

 俺はなにを考えていたのだ?

 

 まるで冷水を浴びせかけられたような気分だった。すうっと澄んでいく思考が俺を我に返らせる。加納を切って捨てる、そんなふざけたこと考えることすら間違ってる。

 

「あ、あうあ……。」

 

 突然の大声になにごとかと教室から顔を出してきた生徒たちに恥ずかしくなったのか、。藤森の顔が熟れた果実のように赤く染まっていく。俺は教室から踵を返した。

 

「藤森、ありがとう。大切なことを忘れてしまうところだった。」

「え、どういたしまして?」

 

 困惑している藤森に礼を告げて俺は階段を駆け下りていく。玄関では、下駄箱に背中を預けた三輪が俺を待っていた。

 

「お、藤森もやるじゃん。さっきまで反吐の出るような顔だったけどけっこうまともになったよ、真面目くん。やっぱり真面目くんは底なしのお人好しじゃきゃ、ね。」

 

 ニヤリと笑う三輪に見送られて、俺は寮へと足を運んだ。

 

 

◆◆◆◆◆ 

 

 

 雨がじめじめと降り注ぐなか、加納の部屋の扉は固く閉ざされたままだった。

 

「加納? 俺だよ、宮下だよ。扉を開けてくれないかな、話したいことがあるんだ。」

 

 俺が扉を叩いても、部屋の中からは返事はなにも返ってこない。しかし、時折聞こえてくる加納の荒い息づかいがそこに探していた人がいることを示していた。

 

「俺は討論会のことを怒ってなんかいないし、このままむざむざと退学させられるつもりもないよ。まだ戦える、そのためには加納の力が必要なんだ。」

 

 静かな廊下に腰をおろして扉にもたれる。そして扉のむこうの加納に語りかけた。

 

「加納が声を聞かせてくれるまで、俺はここから動かないよ。」

 

 そう一方的に宣言して、まぶたを閉じる。ややあってつっかえつっかえの涙声で加納が口を開いた。

 

「もう、わたしのことなど切り捨てろ。一度のみならず二度も親友を退学の危険に晒した、しかもお前は勝利がほとんど決まっていたようなものだったのにもかかわらず、だ。」

「うん。」

「わたしはお前なんかのそばにいていい人間じゃない。わたしは役立たずで愚かで醜い、そばにいるだけで人を傷つけてしまう、そんなおぞましい人間なんだ。」

「うん。」

 

 加納が胸の内を吐露するのを相槌を打ちながら聞く。

 

「だから教室でわたしを罵れ、わたしを切り捨てろ。こんな人間のためにお前が退学になるわけにはいかない、わたしのことなど踏み台にしてボロ雑巾のように使い捨ててしまえ。」

「ごめん、それはできないや。」

 

 奇遇なことに、加納もまたかつての俺と同じことを考えていたようだった。だが、俺は加納の提案をすぐさま否定する。それではかつての俺となにも変わらない。

 

「すこし聞いてほしい話があるんだ。昔の俺のことなんだけどね。」

 

 つい先日まではあんなに気にしていたはずなのに、なぜか今は安らかな気持ちですらすらと口が勝手に動き出す。

 

 今でも昨日のように思い出せる、とある少年の罪の記憶を俺は加納に告白することにした。

 

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