春風のキミに   作:SLUM-AS

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今回もどうにか間に合いました
隔週投稿をあと何度守れるのか
頑張ります


3話

「やってくれたなアニキ……」

 

 舞台袖に入ってすぐ男子用の更衣室として準備された空き教室に案内され、アニキに手渡された紙袋から衣装を取り出した僕は、顔から血の気が引いていくのを感じていた。見慣れたメイド服を手に冷や汗が額を伝う。実家の使用人たちが着用していたものだが、どうやらわざわざ僕のサイズに合わせてあるようだ。つまりアニキは今日のために凛咲を通してこの衣装を用意させ、しかも今日の日程をわざと黙っていたということになる。

 

「こうなったら最後まで付き合ってやるよ。全部終わったらアニキの好きなアイスの在庫、この辺の店から全部買い占めてやる」

 

 そんな恨み言を口にしながら手短に着替えて更衣室を後にする。廊下に出ると先に着替え終えていた花音がケラケラと笑うアニキを正座させて文句を言っていた。

 

「お、想夜も似合ってるじゃないか!」

 

「アニキ、覚悟してろよ」

 

「本当になんでアタシがこんな格好しなきゃなのよ……」

 

 アニキを軽く睨んでから花音に目を向けると、胸元が強調されるような小さめサイズのシャツに際どい短さのミニスカートというテニスウェア姿だった。しかも猫耳まで付けている。状況的にはいつも通りといえばその通りだが、アニキに遊ばれている現状に納得いかないのはふたりとも同じようだ。僕は花音を手招きして耳打ちする。

 

「任せろ花音、絶対にやり返すから」

 

「何か考えがあるのね、分かったわ」

 

 僕の提案に素直に応じてくれた花音に感謝しながらアニキを鋭い目つきで睨んでから不敵に笑って見せると、流石にやりすぎたと感じたのか肩を組みながら謝ってくる。その言葉に耳を貸すことなく、照明が眩しいステージに向かい真っ直ぐ歩く。

 

「新入生のみなさん、御入学おめでとうございます。僕達のサークルは名前を口にするのも恥ずかしいのですが、青春謳歌部といいます」

 

 ステージに立って最初の言葉がこれだった。まるで檻に入れられた動物の気分。会場全体が僕と花音の格好を物珍しそうに見ていた。視線新入生に限らず同級生や先輩方、果ては先生方までもが少し大きめの笑いに包まれる。なんとも居た堪れない気持ちになりながらも、花音が言葉を紡いでくれる。

 

「青春謳歌部は明確な目的を持たず、活動内容の殆どはこのステージに立っていない部長が何となく決めた場所にみんなで集まり、適当にどこかへ行ったりして遊んだりする心の底からふざけたものとなっています」

 

 会場の困惑にも似たざわめきの中で、それでも僕は胸を張って言う。

 

「活動内容はふざけていますが、時には地域の子供達と交流したり、思い出したようにボランティアや人助けをしたり、そういう自由の中に青春を見つけようというのがこのサークルの本質です。って部長が言ってました」

 

「やりたいことが決まってないけどサークルで楽しく活動して大学生っぽさを味わいたい人はぜひ、うちのサークルでお友達になりましょう?いつでも待ってるわ」

 

 会場は笑い声だけではなくしっかりとした拍手に包まれた。所々からあの先輩可愛いねと花音を褒める声と、あの先輩面白いねとギリギリ褒められているか怪しい僕への言葉が聞こえてくるが、それもまたひとつの評価だと思えばあまり気にならなかった。やれるだけの事はやったのだから、あとは新入生次第。入りたいと思ってくれる子がひとりでも居てくれたら嬉しいなと思う。妙な達成感と少しの期待を一度隠して舞台袖に捌ける。親指を立てながら迎えてくれたアニキの腹に軽くグーパンを入れてから花音とハイタッチをした。こんな小さなやり取りも青春の一幕だと思えば、楽しくて仕方がない。この後は本題のサークル活動だ。三人で肩を並べて部室に移動を始めた。

 

「相変わらず素晴らしいスピーチでしたよ想夜さん。花音さんもなんかこう、とても良かったです」

 

「その話し方もなんかキモいからやめろ」

 

「ちょっと!アタシの褒め方が適当過ぎるわよ!もっと褒めなさい?」

 

 やれるだけのスピーチをアドリブで終わらせた僕と花音は部室に着いてからアニキに煽てられていた。道中で奢らせたジュースを飲みながら床に膝をつくアニキを椅子に座り眺める。こんな趣味は無かったはずだが、普段から見上げている相手を見下ろすというのは新鮮で面白いものだ。どうせこれからも何かしらに巻き込まれるのは確定しているので、たまにこうして正座させるのも悪くないかもしれない。

 

「あんな紹介で新入生が来てくれるのか不安だなぁ」

 

「そこはもう期待して待つしかないわね」

 

「お前らのスピーチ面白かったし大丈夫だろ」

 

 許可もしてないのにいつの間にか立ち上がっていたアニキが椅子を持ってきて僕の隣に座っている。自然と伸ばしてきた腕を自分でも驚くほど華麗に止めて拒否していると、どこか楽しそうなアニキに気づいた花音が質問する。

 

「また何か思いついたの?」

 

「賭けをしよう!題して!未だ見ぬ新たなメンバーは男子?女子?外した奴は今度の飯奢りゲーム!」

 

「いいね、やろう」

 

 三人で雑談しながら各々が自分の予想を発表していく。

 

「俺は女子かな。やっぱかわいいい女子がいい」

 

「なによその不純な理由。でも私も女の子がいいわ。凛咲がいない時は私だけだからすこし寂しいのよ」

 

「僕は男子にする。どっちでも嬉しいけどゲームとか一緒にできたら楽しそう」

 

 予想というより願望が強く出てしまっていることに気づき、三人で顔を見合わせ笑っていると、部室のドアがノックされる。思っていたよりも早い来訪者に驚いている中、誰よりも速く反応し入室を許可したのは花音だった。

 

「はい、どうぞ」

 

 少し裏返ってしまっている花音の声が面白くて笑いそうになるのを必死で堪えているアニキの姿に我慢できなかったのは僕だった。花音に睨まれながらも、ドアの向こうの人に失礼だなと思い一度落ち着こうと深呼吸する。

 

「失礼します。こちら青春謳歌部さんの部室で合ってますか?」

 

 ゆっくりと開いたドアの向こうに立っていたのはとても可愛らしい清楚な印象を受ける優しい声をした女子。アニキが勝ち誇った顔でこちらを見てくるのが鬱陶しいがこればかりは仕方ない。負けを認めて歓迎の言葉をかけることにしようとした次の瞬間。

 

「失礼します、二人なんすけど」

 

 その女子の斜め後ろからちょっとだけ眠たそうな、そして無口そうな男子が現れる。そう、今年の入部希望は男子と女子の二人。僕達の賭けは無効試合として幕を閉じたのだった。




自分の作品は話の進みが遅いなと常々痛感します
あと二話くらいはこんな感じの話が続く予定です
それを乗り越えればある程度テンポ良く進むはずなんです

ということで、また次のお話でお会いしましょう
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