春風のキミに   作:SLUM-AS

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4話

「良い天気ね、ここならゆっくり話せるわ」

 

「風はちょっと強いけど、海が綺麗だ」

 

 僕達は狭い部室を出て海辺の公園に移動してきていた。アニキの提案にしては珍しくまともで、何か悪いものでも食べたのかと心配したが、どうやら本当に変なものを食べたらしい。今はお腹が痛いと言ってお手洗いに離席している。心から安心した。今は四人で横並びに座り、海を眺めながら軽く会話をしている。

 

「それじゃあ二人とも、自己紹介をお願いできる?」

 

真井悠仁(まないゆうじ)っす。ゲームが好きで、ちょっとだけ得意っす」

 

奥田恋葉(おくだれんは)です。趣味はあまりないですけど、昔からお菓子作りとかお料理が好きです」

 

「アタシは汐凪花音よ」

 

「僕は風桜想夜。一応このサークルの副部長ってことになってる」

 

 二人の自己紹介に僕と花音も軽く返して、遠くの景色を眺める。しばらく緊張と沈黙が続いていると、腹痛から解放されたアニキが戻ってきた。

 

「おまたせみんな!俺は鳴海隼斗!よろしくな!」

 

「本当にうるさいわね。二人が怖がっちゃうじゃない」

 

 自然と花音の隣に座ったアニキに対して、少し嫌そうな顔をしながら距離を取る花音。そんな花音にアニキは手を伸ばし、雑に頭を撫で始める。花音も必死に抵抗しているが、なかなか振り払えずにいる。するとその様子を見ていた奥田さんが何かを言いたげにしている。

 

「奥田さん、どうかした?」

 

「あの、おふたりは付き合ってるんですか?」

 

「おう!」

 

「そんなわけないでしょ!これ以上変なこと言ったらぶっ飛ばすわよ!」

 

 花音はアニキの腕に爪を立てながら何故か僕を睨みつけてくる。きっと手伝えと言いたいのだろうが、今は可愛い後輩を歓迎するので忙しい。とりあえず二人の痴話喧嘩は無視して放置。真井さんと奥田さんを連れてその場を離脱する。三人で公園をのんびりと歩きながら会話の続きを始めようと口を開く。

 

「ごめんね、あいつら騒がしいでしょ。嫌になってない?」

 

「全然、むしろ賑やかで楽しいです」

 

「普段は恋葉としか話さないから、なんだか新鮮かも」

 

 二人の優しさに救われる。普通なら今頃入部を取り下げて逃げられていてもおかしくないと思う。いずれにしても、これから関係を構築していくのだから、今のうちにありのままを見てもらっておいた方がいいのかもしれない。

 

「そういえば二人は一緒に入部ってことだけど、付き合いは長いの?」

 

「幼馴染なんす。家も隣で、子供の頃からよく遊んだりしてました」

 

 なるほど、ずっと距離感が近いなと感じていたが、幼馴染なら納得だ。そう思って真井さんの言葉に頷いていると、奥田さんは少し怒っている様子。

 

「もう、悠仁くんったら。私達付き合ってるんだから、ちゃんと恋人ですって答えなきゃでしょ?」

 

「え、それじゃあ幼馴染で恋人なんだ」

 

 奥田さんに軽く小突かれて、少し頬を染めながら照れている真井さん。その姿に思わず笑ってしまった僕を見て、真井さんが恥ずかしそうに質問してくる。

 

「想夜さんは彼女さんいないんですか?」

 

「あ、それ私も気になります」

 

「彼女はいないかな。好きな人はいるけどね」

 

 質問してきた真井さんより奥田さんの方が興味津々といった感じの反応を示してくる。一旦話題を逸らそうと考え、近くにあった自販機でカルピスを買って手渡すが、残念ながら思い通りにはならなかった。二人は美味しそうに飲みながら更に深堀してくる。

 

「その人とはお友達なんすか?同級生とか?」

 

「きっと年下なんじゃないかな。想夜先輩は雰囲気も落ち着いてるので、後輩から人気ありそうですよね」

 

「まぁ僕の話は別にいいじゃん?今は二人の話を……」

 

 ダメだ。あまりの熱い視線から目を逸らそうとするが、どうしても逃がしてはくれない。諦めて少しだけ話すことにしよう。ため息をついてから話しだす。

 

「その人は中学生の頃からずっと一緒にいるんだ。初めて会った瞬間に一目惚れして、それからずっと」

 

 奥田さんは黄色い声を上げて、真井さんは柔らかく微笑みながら、二人して目を合わせる。そしてもう一度こちらを見て一緒に同じ言葉をかけてくれる。

 

「想いが届きますように」

 

 呆気にとられていると、更に続けて話してくれる。

 

「俺達も付き合うまで長かったので」

 

「今となっては綺麗な思い出だけどね。あの頃は本当に色々なことがあって、たくさん泣いて、たくさん悩んで、やっと今の関係になれたから。きっと想夜先輩もそうなれます」

 

「そっか……ありがとう」

 

 今日出会ったばかりの二人にこんなことを言われるとは。何よりこんなにも心が温まるとは思わなかった。

 確かにそうだよな。凛咲との関係や距離に悩み、夜になるとベッドに隠れて泣いて。そしてそれを凛咲に見つかったりして、凛咲のことで泣いてたはずなのに、凛咲の言葉に安心して笑顔を貰った。時間をかけてお互いを知って、信頼を築きながら今は二人で暮らしてる。いつかはちゃんと想いを伝えて、新しい関係になれるだろうか。不安はたくさんあるけれど、きっと大丈夫。これからも僕はこの想いを優しく抱きしめて生きていくのだから。

 普段は自分のことを話す必要なんてないと思っていたけど、たまになら悪くないかもしれない。おかげでちょっとくらいは仲良くなれた気がする。優しい気持ちのまま、僕は二人に何気ない質問をすることにした。

 

「二人とも、アイス好き?」

 

「好きですけど、どうしてですか?」

 

「めっちゃ好きっす。もしかして今から買いに行くんすか?」

 

 話しているうちに時間も経ち、気がつけば夕日が海を照らしとても綺麗なオレンジを演出している。僕は優しく笑いながらスマホを手に取り、メッセージで凛咲に場所を伝える。しばらくすれば迎えに来てくれるだろう。頼んでおいた大きなクーラーボックスを持ってだが。よく見ると少し遠くの方から、腕の引っ掻き傷を見せつけるアニキと、せっかく整えていた髪を乱れさせた花音がこちらに歩いてきている。僕は全員が揃ってからみんなを見てしっかりと宣言した。

 

「今日からうちのサークルはこの五人で活動していく。はじめてのサークル活動はアイスを買ってみんなで食べること。もちろん僕の奢りね」

 

「アイスを買うのがサークル活動なんすか?」

 

「本当に青春を謳歌してるって感じの活動内容ですね」

 

「あら、想夜が自分から奢りなんて珍しいじゃない」

 

「俺いつものやつな!」

 

 こうして青春謳歌サークルは二人のメンバーを迎え入れ、新しいスタートを切った。これからどうなるかなんて誰にも分からない。それはサークルだけじゃなく、想いの行方にも保証なんてないけど。それでもいつか全部幸せだったと思えるように。笑顔、涙も惜しみなく、青春と呼べる今を謳歌していく。笑顔で迎えに来てくれた凛咲に手を振り、僕達は車に乗り込んだ。

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