奴隷商の下働き、炎に炙られて魔術の才が開花する 〜というのは嘘で、実はヤンデレ竜人奴隷の仕込み。天邪鬼な上位種の独占欲はいつでも強火!〜 作:ガイアの目覚め
「――レアとは、誰じゃ……。ほかのメスか――?」
目の前で、地面に向かって傾いていく少年を見て。彼が最後こぼした言葉に、嫉妬の炎で視界が真っ赤に染まる。
だがしかし。このままではレックスが地面にと、竜の少女は慌てて動いた。
隠していた本来の力をもってすれば檻など容易く捻じ曲げられたものを、レックスの頑張りを否定することになりそうで、わざわざ彼が開けた出口から檻の外に出て。
そして。レックスを腕の中に優しく抱き留めて気づく。――その命の灯が消えかけていることに、呆然とする。
「な、……ぁ、なぜ? ほ、ほんとうにこの程度で……?」
ドラコは竜人などというまがい物ではなく竜である。その生命力からすれば、レックスたちニンゲンのそれは指先で消し飛ぶほどに矮小。たかが火に炙られ、煙に巻かれた程度で。
だが、しかし。ドラコが生まれて初めて愛してしまったのは、そんなか弱いニンゲン――
「――ッだ、ダメじゃ、ダメじゃダメじゃダメじゃ! 死んではならぬレックス……! ぉお主、いつか言っておったではないか! わらわと一緒に行きたい場所、食べたい物、会わせたい者がおると……! それを、わ、わらわのせいでッ!? ダメじゃレックス!!」
他者など、すべては自身に必要ないものだと思っていた。己を害するものでしかない、と。
だがしかし、レックスだけは違ったのだ。
彼はいつでも誠実であった。とある理由で大きな傷を負いニンゲンに捕まってしまったドラコを、懸命に気遣い手当してくれた。
己との違いは、檻の中にいるか外にいるかくらいしかない境遇だろうに。ときおり消えていなくなりそうなくらいの、ひどい儚さを見せるくせに。それでも彼は寝食を惜しんで世話を焼いてくれた。
他者など、己を傷つけるか、恐れるか、陥れるか……そんな存在だと思っていたところに与えられた光は、まるでタチの悪い薬のように染み込んで。ドラコの心を熱い炎で灼いて、灼いて、灼き尽くしてしまったから。
だから。……治癒魔術など使えないドラコは、もはやこうするしかないのだ。
「あぁ、あぁ……レックス……っ。待っておれ、すぐに……!」
体にみなぎる莫大な魔力を集め、固める。物理的な熱を発するほどのそれは、しかし神秘の力により想い人だけは傷つけず、圧力だけで部屋に広がる炎を押しのけていく。
ドラコは生来、細かな魔力制御は苦手であった。ちまちまとした技術など、生まれながらの強者には不要と切って捨てていた。
それを今日ほど後悔したことがあろうか。
「ダメじゃ、与えすぎては……っ。脆いニンゲンの体なぞ簡単に弾けてしまう。ダメじゃ、レックスがそんなっ、それはぜったい……!」
考える。一番細かく調整できる方法は? レックスが耐えうる限界を見極め、確実にその量に抑えた魔力放出を為せるのは?
そうして、思いつく。……レックス以外の相手には、選択肢にも上がらぬはずの方法を。
……――あるではないか。うってつけのところが……と。
ドラコはほんの少しのためらいもなく、溜めた魔力を体内で移動させる。その行先は、体を上り、首を通り過ぎ、頭の上――二本の角の片方に。
そうして、角に柔らかな赤い光が灯ったのを確認して。ドラコはレックスを優しく優しく、宝物を扱うように床へ横たえると、自身の頭を彼の頭へと近づけていき。
――――わずかに開いた彼の口へ、ゆっくりと光る角を挿し入れる。
直後。……敏感な角に走る、えも言われぬ感覚。
「……んっ、ぁ……」
思わず口から声が漏れる。
本来なら他者に触れさせることすら許さない角を、舌でなぶられたようなものなのだ。それが……憎からず思っている相手にとなれば、腰も震えようもの。
恥ずかしい、とてつもない背徳感だが。しかし、そんなことにかかずらっている場合ではない。今はこうすることが最適解なのだ。
かつて出会ったニンゲンのようにレックスから恐れを向けられるのが怖くて、これまでがずっと力がないフリをしていたが。
――力が必要な場面になれば、ドラコの力を譲ったレックスに解決してもらえばいいのだ。
そうして。ドラコは角の先からレックスの体へとゆっくり魔力を注ぎ込んでいく。彼の許容量を神経質に見極めながら、人生でこれほど集中したことはないというほど慎重に。
注ぐ、注ぐ、注ぐ、注ぐ………………止める。
さあ。どうだ、これで……?
「――角は、竜族にとって神聖なものなのじゃからな……。目が覚めたら分かっておろうな?」
ああ。どうか、目を覚まして欲しい。もしも失敗していれば、己はレックスとともに命を断つだろう。
ドラコはそんな重すぎる想いを抱えつつ、レックスの頭を膝にのせて待つ。
さあ早く、起きるのだ。起きろ。起きて……。
「頼むのじゃ……。のう……? ――――わらわの愛しい、旦那さまぁ」