奴隷商の下働き、炎に炙られて魔術の才が開花する 〜というのは嘘で、実はヤンデレ竜人奴隷の仕込み。天邪鬼な上位種の独占欲はいつでも強火!〜   作:ガイアの目覚め

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商館の外で出待ちしてる騎士視点。
後半で主人公たち登場して、次話からまたしばらく主人公視点です。


3話

 

 スラムの中でも市民街との境界近くに居を構えるガゴット商会。

 

 市民街のそれと比べても立派だろう商館だが、今その館は――――轟々と燃え上がる炎に包まれ、辺りに熱気と煤を撒き散らしている。

 

 ……そして、そんな商館を付かず離れずの位置から鋭い視線で監視するのは――

 

「――小隊長。やつは、ガゴットは……未だ、外に出てくる気配がありません……!」

 

「あぁ、そうだな……。中で焼け死んでいるなら、その罪を正式に償わせることが出来なかったと悔いるところだが。……まさか、自ら火を放っておいてそんな間抜けは晒すまい」

 

「ではやはり?」

 

「ああ。隠し通路か何かですでに逃亡しているのだろう。スラムとはいえ、市民街からも商会のシンボルが見える場所――自己顕示欲が透けて見えるわりに、ずいぶんと用意周到なことだ」

 

 燃える商館の傍で、物々しく鎧に身を包んだ者たちが四人。周囲の衛兵たちからも敬われる彼らは――王国一の戦闘集団、騎士団の一員だ。

 

 部下から小隊長と呼ばれた壮年の男は、己の不甲斐なさに顔を顰めて呟く。

 

「忙しさにかまけて事前準備を怠った俺のミスだ。逃げたガゴットは必ず責任を持って捕えるが………………しかし、問題は」

 

「ええ。……炎の中に取り残されてしまった二人の奴隷……ですね」

 

 その言葉に、小隊長はいっそう渋面を酷くする。市民を守るべき騎士たる身分で、こうして燃え盛る炎を見つめるしかできない無力感たるや。

 

「逃げてきた他の奴隷の話では、二人ともまだ年若いというじゃないですか。……ここに魔術師がいればと、叶わないことを願わずにはいられません」

 

「竜人の少女に……――ガゴットに強制労働させられていたスラムの少年、か。保護された奴隷たちからは特に、少年を助けてほしいと強く請われていたな」

 

「ええ。その少年はガゴットに弱みを握られていたようで、昼夜問わずこき使われ、暴力も日常茶飯事だったようですが……そんな劣悪な労働環境で、いつも奴隷たちの待遇を良くしようと懸命に動いていたそうです。代わりに、自身がどれだけ酷く折檻されることになろうとも」

 

「それは……このような環境で、子どもがそれを……ッ。しかも他の奴隷たちを逃がすために身を張った結果がこれではやりきれんッ。……く、やはり今から俺だけでも――」

 

「いけません、小隊長……! いくらあなたでも、この業火の中では! それにもう、きっとその少年はすでに……」

 

 商館に視線を向けると、立ち上る火柱はどうみても生物の生存を許さない。部下の言う通り、これでは今から助けに行ったとて……。

 

 小隊長は唇を噛み、呟く。

 

「……ッ俺は、苦しむ者を救うために騎士になったと言うのに。憎いよ……力不足の自分が」

 

「小隊長……」

 

 佇む二人の耳に、燃え上がる炎の音に紛れて聞こえてくる。

 

 保護され、この場で衛兵に応急手当てを受けている奴隷たちが、泣きながら商館に向かって叫ぶ声が。奴隷たちを助けて犠牲になった、英雄たる少年の名が。

 

 小隊長は心に刻む。今日ここで命を捧げた少年、彼のような存在を一人でも減らすと。己は最後まで正義に殉じてみせると。

 

 そしてせめて、同胞を救い命を落とした尊き少年の名を、ずっと忘れない。その名は――

 

「――レックス、と言ったな。君の思いは必ず……」

 

 そう、小隊長が呟いたその時だった。

 

 ――ドクン、と。

 

 まるで何か巨大な生物の鼓動のように。強大な力の波動が、辺り一帯をビリビリと揺らした。

 

 ドクン、ドクン、ドクンと、連続して、次第に間隔が短く。

 

「ッ小隊長? これは……!」

 

「力の中心は……商館の中か!? 何が――」

 

 あの中に残っているのは、もう命を落としただろう奴隷二人だけのはず。ガゴットは逃げ、その他の商会職員は商品を捨て置き外へ逃げてきたところを捕縛済みだ。

 

 ではいったいあれは誰が?

 

 そんな疑問とともに、全員の視線が燃える館へと向いて。

 

「…………願わくば。レックス、君が――」

 

 その呟きは、期せずして事態を正しく捉えていた。正確には、竜の力を譲渡された少年の目覚め……それがこの――

 

「――見てください! 炎が!?」

 

 部下が叫んだ直後。

 

 天に伸びる炎が、不自然に揺らめく。巨大な炎の全体が、まるで何かに操られるよう同期を取って、まるで生物のように揺らめいて。

 

 その様はまるで。

 

「――竜の、頭?」

 

 そう、誰かが呟いたか瞬間だった。

 

 

 

 空に首を伸ばす炎の竜はその顎を開き――――あまりにも巨大な火線を吐き出した。

 

 

 

「なッ!?」

 

 それは暴力的な炎。膨大な熱量を集めて、圧縮して、もはや火というより光線というようなほどの。

 

 最強生物である竜の吐息(ブレス)がまさにあんな感じだろうかと思わされる、それほどの炎だった。

 

 空に向かい雲を貫く熱線はビリビリと空気を揺らし、離れたここにまで鋭い熱を伝えてくるようで。この場の全員が呆気に取られ、言葉を失っている。

 

 そうして。

 

 その、まるで永遠に続くと思えた竜の咆哮は…………次第に細くなり、やがて。

 

「――……止まっ、た?」

 

 そう、小隊長が呟いた直後。

 

 天井が抜けた商館から飛び出す人影が――

 

 

 

「――――まさか、初めてでドラゴンブレスとはの。……よもやレックス、お主知っておったのか? オスの竜がメスの前で空にブレスを放つ、その意味を……っ」

 

「え、なんのこと? 知らない……ッというかちょっと、名前呼ばないで! ほら見て、騎士たちがあんなにいるんだから……!」

 

「…………」

 

「いたッ! なんでつねるの! ほら、ドラ子のこと落としちゃうからやめてッ」

 

「……やかましいわ! 騎士がなんじゃ、あんなもんブレスで焼き払えばよいわっ。このあほうがっ」

 

 

 

 少女を抱えた少年が、商館から大きく跳躍して外に着地する。

 

 くすんだ灰色の髪の少年、まさにいま耳に届いたその名前は!

 

「――君が、レックスかッ!」

 

 名を呼ぶとビクリと肩を震わせる。小隊長の方を向くこともせず、まるで何かに怯えるように下を向いて。

 

 その様子は気になるものの……その前に、彼が腕に抱くその少女は――赤い髪の下から覗く角。まさに、世にも珍しき竜人の特徴である。

 

「よかッッッた!! 生きていてくれたのか……ッ!」

 

 とにかく今は、諦めていた命が失われていなかったことが嬉しい。他の騎士も、衛兵も、そして先に助けられた奴隷たちも、その全てが歓声をあげている。

 

「なんじゃこやつら? やかましいわ……」

 

「なんだろうね? ……みんなを苦しめてたオレを血祭りに上げられるって喜んでる?」

 

「はぁ? なわけなかろ…………っいやまあ、そう思っておれ。…………その方がわらわには都合がよい。お主に他のメスは……いらぬ」

 

 何やら二人で言葉を交わしている。見たところ大きな怪我は無さそうだが、とにかく保護を……と。

 

 そう、彼らに声をかけようとしたその時だった。ハッキリと聞こえた彼、レックスの声は――

 

「――――ごめんなさい。オレはまだ捕まるわけにはいかないんです。責任を、果たすまでは」

 

「は?」

 

 どういうことかと、そう問いかける前に。

 

 なにか、まるで大きな罪悪感に苦しむように顔を歪めた少年は、真っ直ぐに小隊長を見つめて言った。

 

「全部が終わったその時には――――潔く、この首を差し出します。でも今はまだ」

 

 な、なんのことだ? と。なにかとてつもないすれ違いが起きている予感に大きく混乱しているうちに。

 

 少女を抱えた少年がぐっと身を屈めて――――目にも止まらぬ速さで跳躍……そして。

 

「なッ! き、君、一体どこへ!?」

 

 野次馬含め多くの人間が集まるこの場所で、驚異的な身体能力を発揮して囲いを突破して。ちらりとこちらを見たのち、付近の建物の屋根を経由しあっという間に去っていく背中。

 

 最後、ほんのわずかに耳へ届いた言葉は。

 

 

 

「――――……これは、わらわのじゃ」

 

 

 

「それは……いったい、どういう……?」

 

 呆然とする騎士に、衛兵に、奴隷たち。そして、依然火の粉を散らして燃え上がる商館。

 

 この場にいる誰もが、この衝撃的な時間のことを脳裏に刻みつけられた。

 

 少年たちのあの謎の行動も、きっとまた卑劣なガゴットの命令によるものでは……と。

 

 しかしのちに、この場にいた唯一の女性騎士はだけはそれに異を唱えたという。

 

 曰く。

 

 「あの行動の裏にあるのは、きっと全部――女の独占欲ですよ。間違い無いです……女の勘ですけど」と。

 

 

 

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