奴隷商の下働き、炎に炙られて魔術の才が開花する 〜というのは嘘で、実はヤンデレ竜人奴隷の仕込み。天邪鬼な上位種の独占欲はいつでも強火!〜   作:ガイアの目覚め

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4話

 

 ――スラムの朝は、いつもどこか淀んだ臭いがする。

 

 朝日が昇ると同時に動き出す子どもたちは、前日吞んだくれた大人が小銭でも落としてないかと探しに行く。オレは崩れかけた建物の中で、外を走るいくつもの小さな足音を聞いて、ちょっと懐かしい気持ちになった。

 

 通りから外れたこの場所は、スラムでも特にボロボロな廃屋が立ち並んでて、親のいない子どもくらいしか居着いてない。だから……お尋ね者であるオレが隠れるには都合がいいんだ。

 

 でも。

 

「……ごめん、ドラ子。君はなんにも悪くないのにこんなところで」

 

 オレはそう、建物の奥で床に横たわって寝るドラ子に言う。

 

 ほんとに申し訳ないって思ってるんだ。オレはもう慣れたものだけど、こんなところで、ドラ子の牢からひっつかんで来た襤褸みたいな毛布一枚で寝かせて。

 

 絶対ドラ子を元いた場所に返してみせるから、もうちょっとだけ辛抱して……と。そう心に誓う、ちょっとアンニュイな朝。

 

 それを破ったのは、オレをそんな気分にした張本人だった。

 

 オレが見つめる先で、真っ赤な髪の下から二つの瞳がパッチリ開く。

 

「――なんじゃ、朝から辛気臭い……。寝ておるわらわを前にして意気地のない謝罪だけなぞ、お主それでもオスかっ?」

 

「うわっ。起きてたの? ドラ子!」

 

「お主がわらわをじっと見とるから目覚めにくかったのじゃっ。もっと気を遣わんか、無神経なやつじゃなまったく……!」

 

「ご、ごめんごめん」

 

 起き抜けに元気だね……。

 

 ドラ子はその縦に割れた瞳孔でオレを睨んでさっさと起き上がる。そして言い放った。

 

「――腹が減ったぞ、レックス」

 

「そうだよねえ。オレたちお金も食べ物も持ってないから」

 

 まだ給料日には遠かったからお金を持ってなかった。商館からなにか持ってこようにも、大抵のものがガゴットさんに回収されるか灰になってるかだし。

 

「……よし。それじゃあ」

 

 だから、実はドラ子が寝てる間も考えてたんだよね。今のオレたちが多少なり食料と金を手に入れる方法。

 

 ガゴットさんに雇われる前、よくやってたんだ――

 

「――蛇。いっぱい取れるとこ知ってるから……!」

 

 意外と美味しいんだよ。ネズミとかより食べるとこ多いし、毒があったら売ってお金にもできるし。

 

 大丈夫、ドラ子は後ろで見てるだけでいいからね! オレ得意だから見ててよ、と。意気揚々と提案したのに、ドラ子はしらーっとした目でオレを見て言うのだ。

 

「……どうせお主、気づいておらぬのじゃろうな。竜に対する最上級の侮蔑じゃぞ、蛇なぞ。あまつさえそれを食わそうとは……」

 

「え。あ、種族柄タブーだった……? ごめん、オレ知らなくって……!」

 

「じゃろうの。よいわ、はなからお主にそういう機微を期待してなどおらん」

 

「そ、そっか……。ごめん、次から気をつけるね」

 

「うむ。……お主以外に言われれば、八つ裂きにして食らっていたところじゃ」

 

「あはは。お腹空いてるもんね」

 

「やかましい! 冗談で言っておるわけではないのじゃぞっ?」

 

 またそんなこと言って。ドラ子みたいな優しい子がそんなことするわけないのに。

 

 でもそっか、蛇はダメかあ。じゃあ他は……――

 

「――ああ、もうよい。お主の提案はろくなものではないじゃろ。そんなことよりわらわに考えがある」

 

「え、ドラ子に?」

 

「うむ。きっとお主もこれを聞けばわらわを崇めること間違いなしの、天才的考えじゃ……!」

 

 ほんとに? でもドラ子、けっこう世間離れしてるからなあ。竜人って世俗と離れて暮らしてるらしいからしょうがないんだろうけど。

 

 まあ、聞くだけ聞いてみようかなって。そんなことを考えるオレに、なんだか釈然としなさそうな表情を向けて、ドラ子は言うのだ。

 

「お主、これで上手くいけば後で頭を下げさせるからの。……まあよい、それでわらわの考えじゃが――――」

 

 

 

 と、そうして。

 

 ドラ子の提案を聞いてやってきた先は。

 

「…………うちは見せもんじゃねえぞ、ガキども」

 

 どこか後ろ暗い空気を漂わせる、スラムのとある路地裏。そこにはいくつもの露店が並んでて、陳列された商品もどことなく怪しくって。

 

 そう、ここは――

 

「――闇市、ですもんね。大丈夫、分かってますよ」

 

「だといいがな。お前ら、金もブツも持ってるようにゃ見えねえ」

 

 そう吐き捨てる露店の主人に、通りがかりの客が言葉を投げる。

 

「ギャハハ! こんな店、スラムの薄汚えガキがお似合いってな!」

 

「……あんだと?」

 

「おいおい、冗談だろ! ほらガキ、てめえらも言ってやれよ。ミルクはいくらですか、ってな!」

 

 そんなことを言って、近くを冷やかしながら去っていく男。

 

 その言葉に、隣で襤褸をかぶって頭を隠しているドラ子は燃えるような視線を向ける。

 

「……――あやつ、いまのは宣戦布告か? よいじゃろう、その間抜け面と蛮勇に免じて一瞬で終わらせてやる。遺言は不要じゃな――?」

 

「ちょっと、ドラ子……あんなしょうもない喧嘩に乗らないの。ここじゃあれは挨拶みたいなものなんだから!」

 

「ずいぶんと狂った挨拶じゃ。わらわは下等なニンゲンの思い上がりが一番腹が立つ……!」

 

「ど、どうどう」

 

 ちょっと気が短すぎるよ。バカにされたら殺すって、どこの戦闘民族かな? ほら、露店のおじさんも迷惑そうにしてるし……。

 

「ガキども。取引できるもんを持ってるならどんなやつでも客として扱ってやるが、そうでないならさっきのアホと同じだぞ。さあ、まともな用件があるならさっさと告げろ。ないなら失せろ」

 

「こやつも愚か者か? せっかくわらわの慈悲で懐を潤してやろうと言うに、その機会を自ら棒に振るとは――」

 

「――あ、ストップストップ! ややこしくなりそうだから、ドラ子はちょっとその……! 交渉はオレがやるから」

 

「っ……。ふん、好きにするがよいわ。……ただ一つ、忘れるでないぞ。わらわはな、鈍臭いお主のことを思って代わりに言ってやっておったのじゃ。そういう恩を仇で返すことは……」

 

「そっか、ごめんね。ドラ子なりに心配してくれてたんだね? でも大丈夫。オレ、こう見えても闇市たまに使ってたんだ。だから、勝手は分かってるから」

 

「ふんっ。よいわ、よいわ、もう。勝手にやっておれっ」

 

 あらら、拗ねちゃった。ドラ子、意外と子どもっぽいところあるんだよね。……首尾通りお金が手に入ったら、機嫌直してもらえるようなものでも買ってあげなくっちゃ。

 

 だからまずは、ドラ子のお腹と機嫌の元手を……と。オレは一歩前に出て、胡散臭そうにオレを見る店主に言った。

 

「すみません。オレ、ここで売りたい物があって来たんです」

 

「……何を売りに? 言っておくが、スラムのガキが集めるガラクタなんぞ持ってこられても金にはできんぞ」

 

「それなら大丈夫です。これ、ガラクタなんかじゃないですから。……たぶん、見る人が見れば金貨にもなるようなもの」

 

 そう言って、懐に手を入れて。オレはそれを店主に差し出して見せた。

 

 

 

「――――世にも珍しい、竜の鱗です。……ね? ガラクタなんかじゃないでしょう?」

 

 

 




竜にとって剥がれた鱗は垢みたいな感覚で、人に見せるのは恥ずかしいらしいです。ただしかし、ほとんど伝説みたいな生き物の鱗だからとんでもない貴重品で、軽々に扱うと騒ぎは必至……。
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